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芳田司が素晴らしい内股「一本」で優勝決める、松本薫は世界王者シウバに苦杯で入賞ならず・グランドスラム東京57kg級レポート

(2016年1月17日)

※ eJudoメルマガ版1月17日掲載記事より転載・編集しています。
芳田司が素晴らしい内股「一本」で優勝決める、松本薫は世界王者シウバに苦杯で入賞ならず
グランドスラム東京57kg級レポート
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2回戦の世界王者対決、ラファエラ・シウバが松本薫を腕挫十字固「一本」に仕留める

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アスタナ世界選手権で完璧なまでの強さを見せつけた王者・松本薫(ベネシード)が2回戦敗退の波乱。曲者ラファエラ・シウバ(ブラジル)を相手に大内刈「有効」に「指導」2つと圧倒的にリードしながら1分59秒奇襲の「跳び十字」を食って一本負け。会場は騒然となった。

シウバは13年リオ世界選手権で金メダルを獲得している実力者だが、アスタナでの松本の出来と今年度中盤以降のシウバのパフォーマンスの悪さを考えればアップセットの可能性は薄いと考えるのが事前評としては当然。まさしく番狂わせのこの事態から引き出すべき評価は以下2つ。

1つはシウバの危険さ。シウバは一言で言って情緒不安定な選手で、天才的な技の冴えを見せるかと思えば、精神的な幼さから自滅してまったく成績を残せないことも多々。弾けるような小外刈で強豪を次々撃破するかと思えば、初めて人前に引きずり出された動物のように視点定まらずそもそも試合に集中していない姿を晒すことも当たり前、野から拾われてきたばかりのような選手だ。戴冠後2年間のワールドツアーでこれぞという出来を見せたのは15年2月のグランプリ・デュッセルドルフ1大会のみ(ただし本当に素晴らしい出来であった)、以後特に酷いパフォーマンス続きで今大会直前のグランプリ済州も2敗を喫して5位。いかに地元の五輪を控えるとはいえもはや上がり目を期待するのは難しいかに思われたが、やはりこの人は只者ではない。シウバは次戦でエレン・ルスヴォ(フランス)を相手に浮落「技有」を得ながらわずか15秒後に内股「技有」を失い結果序盤に貰った「指導1」差で優勢負け、3位決定戦もドルジスレン・スミヤ(モンゴル)の機関車ラッシュを止める集中力がなく左背負投で「技有」を失い優勢負け、噛み合わない試合が気に食わなかったのかドルジスレンが求めた握手をあっさり拒否するなどムラ気ぶりは相変わらず。しかし敗者復活戦で見せた片手絞「一本」など柔術道場出身のこの選手らしい危険さも垣間見せた。決して規律に厳しいわけではないブラジルチームがこの選手に短時間で「確実に勝てる」ような精神性を得させることは難しいかと思うが、その爆発力はやはり階級最大の不確定要素だ。

もう1つは松本の評価。この一番を以て評価が下がることは全くなく、むしろ五輪に向けて「なるべく手の内を晒すべきではない」時期に入った今大会、アスタナで新しい方法論を駆使して勝利しその戦いのスタイル自体が徹底観察される運命にあった松本が早い段階で畳から降りることができたのは一面喜ばしいこと、かつ相手がもと世界王者で誰もがその強さを認める大会最大のジョーカー・シウバであったことで、傷を最小限に実利を得たという評価が為されてもおかしくない「結果オーライ」の大会ですらあった。ただし巷間すでに散々言われている通り、その敗退の形が14年チェリャビンスク大会と同様「立ち→寝」の際を狙われたものであることは真摯に反省されるべきだろう。松本の戦術や能力云々でなく、他選手が対松本戦においてこのポイントを再び狙ってくる可能性が高いこと、ここはしっかり呑み込んで以後の戦いを考えるべきだ。

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2回戦、第1シードのドルジスレン・スミヤが石川慈を攻める

14年チェリャビンスク世界選手権王者宇高菜絵(コマツ)も2回戦でヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)に「指導2」対「指導1」の反則累積差で敗戦。得意の大外刈を相手が警戒して返し技を狙い、しかし宇高もそれを理解するがゆえに刀を鞘に矯めに矯めたまま結果攻撃が遅くなるという典型的な「嵌りパターン」。大外刈一択で勝ち抜くのであればゴリゴリ仕掛けることで相手を嫌がらせるしか道がない、しかしメンタルコントロールを誤るといともたやすく「仕掛けてこない選手」に転落するという宇高の柔道の戦術的な閉塞感がまたもや顔を出してしまった、高く評価することの難しい試合であった。

石川慈(コマツ)も2回戦で第1シード選手ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)に敗れたが、日本勢は残る1人の芳田司(コマツ)が見事決勝進出。大荒れブロックを制したルスヴォと決勝を争うことになった。

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1回戦、芳田司はジェシカ・クリムカイトを圧倒

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準決勝、エレン・ルスヴォがヘドウィグ・カラカスから袈裟固「一本」

芳田は1回戦でジェシカ・クリムカイト(カナダ)を内股「有効」、内股「技有」と立て続けに投げた末に縦四方固に抑え込んで合技「一本」(3:44)、2回戦はサブリナ・フィルツモザー(オーストリア)を内股「有効」、準々決勝は前戦でシード選手マーティ・マロイ(アメリカ)に「技有」優勢で勝利したキム・ミンジュ(韓国)を大外刈と後袈裟固の合技で退け、この日最大の勝負どころとなった準決勝はドルジスレン・スミヤを「指導1」の優勢で下し決勝進出決定。

一方のルスヴォは1回戦でシード選手のレン・チェンリン(台湾)を大内刈「技有」、2回戦はノラ・ジャコヴァ(コソボ)を「指導1」優勢、準々決勝は前戦で松本薫を破ったラファエラ・シウバを「技有」を取り合った末の「指導1」優勢で下し、準決勝ではコリナ・カプリオリウ(ルーマニア)と宇高菜絵が消えた激戦ブロックを勝ち上がって来たヘドゥィグ・カラカス(ハンガリー)を袈裟固「一本」で破り決勝進出決定。

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決勝、芳田の鮮やかな内股「一本」

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決勝は芳田が左、ルスヴォが右組みのケンカ四つ。
ルスヴォは長い手足を生かして両奥襟を握り潰してのブロッキングに片手の右内股と極めて戦術的に試合を展開。組めるとみれば圧を掛け、芳田が良い形になれば逆に間合いを取って試合を流すという手で戦い続けたが、序盤の圧を耐えきった芳田が徐々に形を整え始める。

試合時間1分20秒を過ぎたところで、ルスヴォの奥襟をずらした芳田は左小外刈で形を整えると、左足を相手の股中に進めるなり追い足を鋭く突っ込み飛び込みの左内股。

回りすぎたルスヴォの体を引き手で引き上げる「残身」までしっかり決めた素晴らしい一撃は文句なしの「一本」。IJFの関係者が「羽賀龍之介の内股と並んで大会のベスト一本では」と唸ったこの一発で見事グランドスラム東京初制覇を決めた。

芳田は5月のチュメン大会に続き今季グランドスラム大会2つ目の優勝。大会が荒れて決勝の相手は実力実績に劣るルスヴォであったが、世界選手権覇者3人が参加したスーパーハイレベル大会で、それもフィルツモザーとドルジスレンという強豪2人を直接対決で破って、なおかつ大会史上に残る鮮やかな投技「一本」で優勝を決めてみせたインパクトは大きい。形上、松本以外では唯一「候補者」の権利を保持したまま、欧州遠征ステージへと駒を進めることに成功したと言っていいだろう。松本薫が現役世界王者として君臨する階級にあって現実的には芳田の活躍は「東京五輪に向けて次代のエースとして名乗りを挙げた」というところまでに収めるのが正当な評ではあると思われるが、日本の57kg級に明るい兆しが見えた1日であった。

幼少時代から各カテゴリで着実に実績を残して来た芳田であったが、近い世代にスター選手が揃ったこの階級にあっては決して、常に世代のトップランナーと見なされ続けてきたわけではない。それが今や階級二番手にして次代のエース候補ナンバーワンに成長、特に高校卒業以降の伸びには目を見張らされるものがある。実業団の雄・コマツの育成力は改めて高く評価さるるべきだろう。

海外勢ではレンとカプオリウが初戦敗退、マロイが2回戦敗退という相変わらずの混戦階級っぷりに加え、前述の通り凹凸激しいシウバのエッジの鋭さ、ドルジスレンの安定感が目立った大会であった。

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優勝の芳田司

【入賞者】
(エントリー30名)
1.YOSHIDA, Tsukasa(JPN)
2.RECEVEAUX, Helene(FRA)
3.DORJSUREN, Sumiya(MGL)
3.KARAKAS, Hedvig(HUN)
5.ROPER, Miryam(GER)
5.SILVA, Rafaela(BRA)
7.KIM, Minju(KOR)
7.OJEDA, Aliuska(CUB)

芳田司選手のコメント
「プレッシャーに弱いし自信がなかなか持てないタイプですが(笑)、優勝は狙っていました。素直にうれしいです。上背がないので力で押さえつけられることが多く、これまでは先に『指導』を取られることが多かったのですが、そこを考えて、頭を上げて柔道することで先に『指導』が取れた。これが良かったのだと思います。目の前の大会で結果も内容も求めて、これからも頑張りたい」

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57kg級入賞者。左からルスヴォ、芳田、カラカス、ドルジスレン。


【日本代表選手成績】

芳田司(コマツ):優勝
松本薫(ベネシード):2回戦敗退
宇髙菜絵(コマツ):2回戦敗退
石川慈(コマツ):2回戦敗退

【準々決勝】

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)○送襟絞(1:37)△ミリアム・ローパー(ドイツ)
芳田司〇合技[大外刈・後袈裟固](1:29)△キム・ミンジュ(韓国)
ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)○優勢[技有・小外掛]△アリアスカ・オヘダ(キューバ)
エレン・ルスヴォ(フランス)○優勢[指導1]△ラファエラ・シウバ(ブラジル)

【敗者復活戦】

ミリアム・ローパー(ドイツ)○優勢[技有・浮落]△キム・ミンジュ(韓国)
ラファエラ・シウバ(ブラジル)○片手絞(1:06)△アリアスカ・オヘダ(キューバ)

【準決勝】

エレン・ルスヴォ(フランス)〇袈裟固(4:00)△ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)
芳田司〇優勢[指導1]△ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)

【3位決定戦】

ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)〇合技[大腰・横四方固](0:26)△ミリアム・ローパー(ドイツ)
ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇優勢[有効・背負投]△ラファエラ・シウバ(ブラジル)

【決勝】

芳田司〇内股(1:31)△エレン・ルスヴォ(フランス)

【日本代表選手勝ち上がり】

芳田司(コマツ)
成績:優勝

[1回戦]
芳田司〇合技[内股・縦四方固](3:44)△ジェシカ・クリムカイト(カナダ)

[2回戦]
芳田司〇優勢[有効・内股]△サブリナ・フィルツモザー(オーストリア)

[準々決勝]
芳田司〇合技[大外刈・後袈裟固](1:29)△キム・ミンジュ(韓国)

[準決勝]
芳田司〇優勢[指導1]△ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)

[決勝]
芳田司〇内股(1:31)△エレン・ルスヴォ(フランス)

宇高菜絵(コマツ)
成績:2回戦敗退

[1回戦]
宇高菜絵○優勢[有効・大外刈]△ヴィオラ・ベヒター(ドイツ)

[2回戦]
宇高菜絵△GS指導2(GS1:06)△ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)

松本薫(ベネシード)
成績:2回戦敗退

[1回戦]
松本薫〇腕挫十字固(1:38)△ニ カデク・アニー パンディニ(インドネシア)

[2回戦]
松本薫△腕挫十字固(1:59)△ラファエラ・シウバ(ブラジル)

石川慈(コマツ)
成績:2回戦敗退

[1回戦]
石川慈〇巴投(1:22)△ハイオネ・エクソアイン(スペイン)

[2回戦]
石川慈△優勢[有効・払巻込]〇ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)

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