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講道館杯全日本柔道体重別選手権・最終日女子4階級レポート

(2015年11月19日)

※ eJudoメルマガ版11月19日掲載記事より転載・編集しています。
最終日女子4階級(48kg級、52kg級、57kg級、63kg級)レポート
講道館杯全日本柔道体重別選手権
■ 48kg級・渡名喜風南が初優勝、課題の安定感クリアし今年もグランドスラム東京進出決める
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2回戦を戦う渡名喜風南

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準決勝、山﨑珠美が森﨑由理江から小外掛「一本」

【決勝】

渡名喜風南(帝京大2年)〇優勢[有効・小内刈]△山﨑珠美(山梨学院大4年)

決勝に進んだのはともに初優勝を目指す渡名喜風南(帝京大2年)と山﨑珠美(山梨学院大4年)の2名。

世界ジュニアを制したばかりの渡名喜は第1シード。2回戦で安達沙緒里(東海大3年)を「指導1」の優勢、準々決勝では高校カテゴリの覇者坂上綾(夙川学院高3年)を横四方固「一本」(3:40)で下し、準決勝は13年ワールドマスターズ王者遠藤宏美(ALSOK)を「指導1」の優勢で退けて、昨年に続く決勝進出決定。

もと全日本ジュニア王者(2011年、2013年)の山﨑は4年ぶりの決勝進出。この日は1回戦で日下部敦美(関西大倉高3年)を横四方固「一本」(0:36)、2回戦は前戦で蓬田智佳(JR東日本)を破っている藤原実果(筑波大3年)を小内刈と上四方固の合技「一本」(1:28)で一蹴、準々決勝は今季の学生王者小山亜利沙(帝京大2年)を小内刈「有効」で下し、一昨年の覇者森﨑由理江(鑪建築設計事務所)との準決勝は得意の小外掛「一本」(3:04)で突破。4戦して3つの一本勝ちという充実の勝ち上がりをテコに悲願の初優勝を狙う。

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決勝、山﨑が渡名喜を小外掛で攻める

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渡名喜が左小内巻込、体ごと押し込んで回旋を呉れ「有効」

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決勝は左相四つ。山﨑気合十分に抱きつきながらの左小外刈、さらに渡名喜の大外刈の起こりを捻り倒すように左大外刈に変換、55秒には一本背負投の形に腕を抱えた右小内刈と取り味のある技を連発してグイグイ試合を引っ張る。

しかし渡名喜は粘り強く山﨑の前進を抑え、1分23秒には左大内刈で山﨑に尻餅をつかせ、さらにその直後、山﨑が奥襟を叩きに来たところを右背負投で深く背に載せる場面を作り出す。あわやポイントというこの技2つで主導権を掴み返すと、対照的に山﨑は左払腰で自ら潰れるなどペースダウン。渡名喜は左大内刈から左体落と的確に技を撃ち込み快走。

2分36秒、渡名喜が組み際に鋭い左小内巻込。山﨑半ば透かして抱き抱えるが、その体勢の崩れを見てとった渡名喜は脚を高く揚げ、自ら体を投げ出して回旋を呉れる。山﨑の体を乗り越えるように制したこの一撃は「有効」となる。リードした渡名喜は攻撃の手を緩めずに抱きつきながら座り込みの左大内刈を放ち、直後の2分58秒山﨑に「指導1」。

山﨑は得意のパワーファイトに打って出、奥襟に背中と深い位置を叩いて接近を試みる。しかし具体的な技は決して多くはなく、残り40秒で放った左大外刈は空振り、捌いた渡名喜が自身の大内刈に変換して攻勢のアドバンテージも消滅。山﨑は背中を叩いて圧力を掛けるが渡名喜が敢えて動き少なく耐え続けると、残り22秒で山﨑に同側を握り続けたとの咎で2つ目の「指導」が宣告される。

このまま試合は終了。結果「有効」優勢を以て渡名喜の初優勝が決まった。

決勝は山﨑のパワーファイトを落ち着いて捌いた渡名喜の冷静さとあくまで退かない強気が光った。将来を嘱望され、強化陣からも明らかに期待を受けながらなかなか続けて結果を残すことが出来なかったが、世界ジュニアに続いての2大会連続優勝、それも講道館杯というビッグタイトルの獲得はこれまでの殻を打ち破るもの。4試合のうち「指導1」の優勢という僅少差の勝利が2試合あったが、結果を出すこと自体が最大の課題であった今回の渡名喜としては内容よりもミッションの達成それ自体を高く評価すべきだろう。鋭い動きに支えられた貪欲な連続攻撃、そして何より勝利への渇望と使命感は、チャンピオンの座を得るにふさわしいものであった。

一方の山﨑は高校3年時に決勝進出という成果を挙げながら、ついに大学4年間で学生体重別、講道館杯ともに優勝を飾ることは出来ず。力で捻じ伏せようとしながら具体的な手立てに欠けた決勝は、抱きつきながらの表裏の大技と逆方向への立ち背負いという最軽量級らしからぬパワーファイトを持ち込んで勝ち進んだ4年前の決勝進出時とは好対照。同年3位入賞した岡本理帆ともども軽量級の戦い方に新たなトレンドすら作るのではと期待されたあの鮮烈な「面白さ」の延長線として、この決勝は少々寂しいものがある。大学在籍4年間で得たものは何なのか、育成は何を与え、どう育てようと企図したのか。思わず考え込んでしまう、大学生・山﨑の無冠劇であった。

3位には森﨑由理江と遠藤宏美が入賞。

注目された高校カテゴリの強者2名、坂上綾と常見海琴(埼玉栄高3年)はともに準々決勝でトーナメントから脱落。

坂上は初戦で橘薗舞(国士舘大4年)を「指導2」対「指導3」、2回戦では十田美里(自衛隊体育学校)を「指導2」対「指導1」で下す大仕事をやってのけたが、前述の通り準々決勝で渡名喜に敗退。敗者復活戦は笠原歩美(JR東日本)を巴投「一本」(2:43)で下して周囲を唸らせたが、3位決定戦で森﨑に敗れ最終成績は5位だった。

常見は1回戦で久々大舞台に姿を見せた近藤香(日本生命)とマッチアップ。「指導2」対「指導1」の優勢で勝利し、2回戦は梅北眞衣(夙川学院高2年)を大内刈「一本」で退け準々決勝進出するがここで森﨑由理江に大内返「有効」で敗退。学生王者小山亜里沙との敗者復活戦は「足取り」によるダイレクト反則負けを喫し、7位に終わった。

常見に初戦で敗れた近藤香は帝京大学在学中の2009年と2010年にグランドスラム東京で連続2位、日本勢が表彰台を独占した2010年ワールドマスターズでも2位に入賞している強者。大学卒業後「心身ともに疲れ果て」(本人談)、体調不良もあって一線を離れたがやはり柔道しかないと考えて決意の復帰とのこと。現在26歳、来期以降の動向が注目される。

全日本ジュニア44kg級を制した光永采世(帝京大2年)は渡辺愛実(仙台大2年)に上四方固「一本」で敗れ初戦敗退。渡名喜の高校の1年後輩で積年のライバルである高橋瑠衣(環太平洋大1年)は直前で大会を欠場した。

グランドスラム東京にはアドバンテージのあった浅見八瑠奈、近藤亜美のほか、この日決勝を争った渡名喜と山﨑が選出された。渡名喜は昨年に続く選出、さらなる躍進が期待される。

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初優勝の渡名喜風南

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48kg級入賞者。左から山﨑、渡名喜、森﨑、遠藤。

【入賞者】

優 勝:渡名喜風南(帝京大2年)
準優勝:山﨑珠美(山梨学院大4年)
第三位:森﨑由理江(鑪建築設計事務所)、遠藤宏美(ALSOK)

渡名喜風南選手のコメント
「初優勝は素直にうれしいです。決勝は思い切りやるしかない、自分の力を出そうと考えて臨みました。技を受けずに、自分が先に掛けることを徹底しました。まだまだ課題は一杯ですが、早く上の選手に追いつけるように頑張ります」

【準々決勝】

渡名喜風南(帝京大2年)〇横四方固(3:40)△坂上綾(夙川学院高3年)
遠藤宏美(ALSOK)〇優勢[指導3]△笠原歩美(JR東日本)
森﨑由理江(鑪建築設計事務所)〇優勢[有効・大内返]△常見海琴(埼玉栄高3年)
山﨑珠美(山梨学院大4年)〇優勢[有効・小内刈]△小山亜里沙(帝京大2年)

【敗者復活戦】

笠原歩美〇巴投(2:43)△坂上綾
小山亜里沙〇反則(2:43)△常見海琴
※「足取り」によるダイレクト反則負け

【準決勝】

渡名喜風南〇優勢[指導1]△遠藤宏美
山﨑珠美〇小外掛(3:04)△森﨑由理江

【3位決定戦】

森﨑由理江〇横四方固(1:26)△坂上綾
遠藤宏美〇GS背負投(GS2:06)△小山亜里沙

【決勝】

渡名喜風南〇優勢[有効・小内刈]△山﨑珠美

■ 52kg級・「結果に拘った」西田優香が手堅く連覇決める
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勝負どころの準決勝、黒木美晴戦を戦う西田優香(左)

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準決勝、垣田恵利が富沢佳奈に大内刈、抱き返そうとした富沢に体を預けて転がし「一本」

【決勝】

西田優香(了徳寺学園職)〇優勢[指導2]△垣田恵利(兵庫県警)

決勝に進出したのは西田優香(了徳寺学園職)と垣田恵利(兵庫県警)の2名。

大会2連覇を狙う西田は初戦で中村くるみ(帝京科学大2年)から背負投で2つの「有効」を挙げて優勢勝ち。2回戦は高田知穂(自衛隊体育学校)を背負投「有効」、体落「一本」(1:20)と連取して一蹴。準々決勝では前戦でジュニア王者渡邉貴子(帝京大2年)を体落「有効」奪取の末にダイレクト反則(足取り)で下した古川榛花(東大阪大敬愛高3年)を「指導1」の優勢、最大の勝負どころと目された準々決勝の黒木美晴(環太平洋大4年)戦は「指導2」の優勢で乗り切って決勝進出決定。

一方今季の警察王者、初優勝を狙う垣田は1回戦で太田成美(アールはっとり鍼灸接骨院)を大外刈「一本」(2:12)、2回戦は黒木七都美(大成高3年)を縦四方固「一本」(1:41)、準々決勝は五味奈津美(JR東日本)を大外刈「一本」(1:30)で下し、準決勝は前戦で第2シードに入った学生王者内尾真子(筑波大2年)を下した世界カデ王者富沢佳奈(埼玉栄高1年)に大内刈「一本」(2:39)で貫禄を見せつけ、キャリア初の講道館杯決勝の畳へとたどり着いた。警察大会優勝時の「今年は優勝を狙う」との気合の入ったコメントを証明する形で、ここまで4試合全てを一本勝ちという出色の出来。

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決勝、攻め続ける西田がひときわ深く左背負投

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垣田は体を入れ替えて尻もち、ノーポイントで回避に成功

決勝は西田が左、垣田が右組みのケンカ四つ。西田は巴投で先制攻撃、垣田が放った両襟の右内股を左背負投に切り返し、さらに左小外刈、左背負投と技を積む。いずれもポイントの可能性が高い技ではなかったが、続いて右へ「韓国背負い」を放つと主審は西田の攻勢を認め垣田に「指導1」を宣告する。経過時間は1分26秒、残り時間は2分34秒。

直後西田が一段深く左背負投。入り込まれた垣田はしかし押し込まれながら体を入れ替え、尻もちで回避して「待て」。
劣勢に奮起した垣田が脇を差しての接近戦を挑むと西田は潰れ、ここに感触を得た垣田は西田の小内刈から左背負投の連絡技を右内股に切り返すと、再び脇を差して前へ。西田は内股で状況を流そうとするが空回りして潰れてしまい、主審は西田に偽装攻撃の「指導」を宣告。ここでスコアはタイとなる。経過時間は2分32秒、残り時間は1分28秒。

西田ここで一段ギアを上げ、左小内刈に低い左背負投と取り味のある技を連発。さらに相手の力の圏外から足を差し入れて左体落、これは潰れてしまったが直後の3分24秒主審は垣田に「指導2」を宣告する。

垣田は釣り手で背中、引き手で襟を持つ積極的な組み手で最後の勝負を挑むが、前に腰を切るのみで具体的な技には至らず。西田がこの形を左背負投でクリアした残り21秒の時点で勝負はほぼ決した感あり。

西田は片手の出足払で相手をいなしながら残り時間を消費。垣田は残り6秒で右内股を見せるが、ケンケンを試みたその一歩目で潰れてしまい「待て」。

そのまま試合は終了。西田が「指導2」対「指導1」の優勢で勝利し、講道館杯2連覇を達成した。

この日の西田は5戦して一本勝ちが1つ、「有効」優勢による勝利が1つで、残りの3戦はいずれも「指導」累積による勝利。キャリア屈指の出来であった昨年大会に比べると一抹物足りなさは残るが、優勝以外にグランドスラム東京の進出権がないという状況の中、しっかり結果を残したのはさすが。決勝は絶好調の垣田を前に勝負どころを弁え、アクシデントの起こりようがない手堅い試合ぶりであった。

昨年はこの大会直後に派遣されたグランプリ青島でアンドレア・キトゥの理不尽な反則攻撃で肘を破壊され、キャリアを狂わせてしまった西田。今年も青島、東京と連戦が控えているが、無事に、少なくとも実力を以てライバル達と雌雄を喫する機会が得られることを期待したい。

3位には富沢佳奈と黒木美晴が入賞。

今季の世界カデ王者富沢は大健闘。初戦で田中佐和(金沢学院大4年)を払腰「有効」、2回戦でマッチアップした全国中学大会王者・阿部詩(夙川学院中3年)には計3つの「指導」を失うも大外刈で「有効」「技有」と奪って捻じ伏せ、そして準々決勝では優勝候補の内尾真子をGS延長戦3分26秒の激戦の末「指導2」で下す殊勲。メダル奪取はその活躍に比して妥当な結果だった。

前田千島(三井住友海上)は2回戦で森由芽香(帝京大2年)に払腰「有効」で敗退。立川莉奈(福岡大1年)も初戦で黒木美晴に横四方固「一本」(3:46)で敗れ、カデ時代に世代を牽引した2人には厳しい1日となった。

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2連覇を達成した西田優香

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52kg級入賞者。左から垣田、西田、富沢、黒木。

【入賞者】

優 勝:西田優香(了徳寺学園職)
準優勝:垣田恵利(兵庫県警)
第三位:富沢佳奈(埼玉栄高1年)、黒木美晴(環太平洋大4年)

西田優香選手のコメント
「ホッとしています。トップの3人が出ていない中で勝つのは当たり前だと思われていて、その中で結果を出せたことは良かったです。若手のように将来性を評価してもらうわけにはいかないので、出る試合で結果を出し続けなければいけない。内容よりも結果、今回は『指導』でもなんでも良いので勝とうと思っていました。繋がった、というよりもこの先を自分でしっかり手繰り寄せていきたい。ロンドン五輪で引退するつもりだったので、リオが最後のチャンス。ひとつひとつ頑張ります」

【準々決勝】

西田優香(了徳寺学園職)〇優勢[指導1]△古川榛花(東大阪大敬愛高3年)
黒木美晴(環太平洋大4年)〇優勢[有効・大内返]△森由芽香(帝京大2年)
富沢佳奈(埼玉栄高1年)〇GS指導2(GS3:26)△内尾真子(筑波大2年)
垣田恵利(兵庫県警)〇大外刈(1:30)△五味奈津美(JR東日本)

【敗者復活戦】

古川榛花〇後袈裟固(GS1:53)△森由芽香
五味奈津美〇優勢[有効・払腰返]△内尾真子

【準決勝】

西田優香〇優勢[指導2]△黒木美晴
垣田恵利〇大内刈(2:39)△富沢佳奈

【3位決定戦】

富沢佳奈〇優勢[指導1]△古川榛花
黒木美晴〇合技[小外掛・横四方固](0:55)△五味奈津美

【決勝】

西田優香〇優勢[指導2]△垣田恵利

■ 57kg級・石川慈が2度目の優勝、直接対決で強敵2人に完勝
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準決勝、山本杏が大友真貴子から内股透「有効」

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2回戦を戦う石川慈

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準決勝、石川慈が出口クリスタに横四方固で一本勝ち

【決勝】

石川慈(コマツ)〇横四方固(3:25)△山本杏(国士舘大3年)

人材豊富、特に若手の突き上げが激しい階級。その中からベスト4には山本杏(国士舘大3年)、大友真貴子(コマツ)、出口クリスタ(山梨学院大2年)、石川慈(コマツ)の強豪4名が勝ち残り、決勝には山本と石川の優勝経験者2名が進出することとなった。

アスタナ世界選手権で団体戦代表を務めた山本は2回戦で萩野美咲(帝京大1年)に「指導2」優勢で勝利、準々決勝は月野珠里(山梨学院大2年)をGS延長戦「指導1」(GS2:10)で下し、準決勝は大友真貴子を相手に1分30秒に挙げた内股透「有効」を守り切って優勢勝ち。3年ぶりの優勝を狙って決勝の畳に臨む。

一方の石川は1回戦で廣木あすか(環太平洋大2年)からあっという間に4つの「指導」を奪う完勝(1:46)で大会を滑り出す。2回戦は今季の学生王者臼井杏(淑徳大3年)を腰車と横四方固の合技「一本」(1:22)で一蹴し、準々決勝は前戦で渡辺華奈(JR東日本)を倒した工藤千佳(仙台大4年)を横四方固「一本」(2:56)。勝負どころの準決勝は出口クリスタに大内刈「有効」をリードされたが、そのまま引き込んで立たせず横四方固「一本」(1:13)で逆転勝ち。こちらはこの決勝に4年ぶりの優勝を掛ける。

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決勝、石川の巴投を山本手を畳について回避

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山本が左袖釣込腰「有効」を先制

決勝は山本が左、石川が右組みのケンカ四つ。

山本が左背負投のフェイントを入れた小内刈、さらに「横巴」で先制攻撃するが効なく、試合は長身の石川が圧を掛けて前進し、山本が捌く展開となる。

20秒過ぎ、石川が奥襟を確保して前に出ると山本は下がって潰れ、石川は横三角に横返しと寝技で攻めて「待て」。圧が効くと見た石川は両襟でプレッシャーを掛けて、山本はまたもや下がる。
1分30秒過ぎ、石川組み手を左にスイッチして綺麗に「横巴」に滑り込む。山本の体は弾かれたように宙を舞うが決めには至らず、山本が畳に手をついて逃れてこれはノーポイント。続くシークエンスでも石川は敢えて左組みを受け入れながらチャンスを伺うが、ここに山本が鋭く左袖釣込腰。石川背筋を伸ばして離れ捌くものの、股の中に潜られてしまった初動の遅れが響いて山本の押し込みを止められず。山本引き手の牽引を効かせて決め切りこれは「有効」となる。経過時間は1分56秒、残り時間は2分6秒。

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石川が山本を下からめくり返し、横四方固「一本」

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奮起した石川、釣り手で奥襟を引っ掴んで前へ。山本圧に抗せず潰れ、石川は「国士舘返し」で攻めるが相手を載せきれず「待て」。続く展開、石川は右腰車の大技に打って出るが腰が砕けてしまい、崩れた石川に山本が腕挫十字固を狙ったところで「待て」。残り時間は1分27秒。

石川奥襟を掴んで圧を掛けると山本またもやあっさり潰れ、しかし石川寝勝負で獲り切れず「待て」。石川が展開上の優位をなかなか具体的なスコアに繋げられないという趨勢の中、残り時間は1分9秒。

再開直後、山本が右の背負投を掛けて潰れる。いったん横から山本の体を制した石川は背中、さらに相手の下へと位置を変えながら今度こそはと「国士舘返し」で横にめくり返し、絡んだ山本の脚を抜いて横四方固。山本は動けず、主審は3分25秒「一本」を宣告。ここに逆転劇完成、石川の4年ぶり2度目の講道館杯制覇が決定した。

石川はこの日の全試合一本勝ち。後半戦では出口クリスタ、そして世界選手権代表経験のある山本杏という若手の有望選手2名を連破するという、まさしく表彰台の真ん中に立つにふさわしいスコアでの戴冠劇だった。

決勝は山本の「瞬間芸」の前に「有効」をリードされたが、明らかに地力で勝っており最終的な結果は妥当なもの。ビハインド自体は頂けないミスだが、試合全体を通じてみれば「圧を掛け、耐えかねた相手の掛け潰れを狙って獲り切る」という、寝技ファイターの組み立てとしては申し分ない戦いぶりであった。

対する山本は一本勝ちがゼロ、準決勝までに挙げた投技のポイントは後の先の技である内股透による「有効」1つというスタッツが示す通り初戦から動きが重く、明らかに出来が良くなかった。決勝は端的に言って潰れ過ぎで、ワールドツアーであれば偽装攻撃だけで「指導」が3つ、4つと与えられてもおかしくない展開。コンディション不良がその弱点である線の細さをクローズアップしてしまったという印象で、強化陣へのアピールはならず。

グランドスラム東京代表には既にアドバンテージのあった松本薫、宇高菜絵、芳田司のほか、この日優勝した石川が順当に選出された。

世界選手権で団体戦代表を務めた山本はそもそもアドバンテージが与えられなかったこと、あるいはグランドスラムパリに派遣されなかったことについて、その妥当性に意見の分かれるところがあったはずだが、残念ながらこの日のパフォーマンスはその評価を覆すものではなかった。ここまでの出来はともかく「結果」が残せるチャンスであった決勝、山本の長所である勝負強さと一瞬の技の切れをアピールできるはずだった「有効」をリードしたまさしくその場面で、世界選手権団体戦で課題として浮上していたはずの圧への脆さを再び見せてしまった事実は重い。失意の大会であった。

3位には準決勝に勝ち残っていた出口クリスタと大友真貴子が入賞。この日のパフォーマンスを見る限り、両者の表彰台獲得は妥当なところ。

第2シードの玉置桃(三井住友海上)は1回戦で武井嘉恵(山形市役所)に開始早々内股「有効」を失い、2分11秒には隅落「一本」(2:11)を喫するという完敗で入賞に絡めず。

今季全日本カデ、インターハイ、全日本ジュニア、そして世界ジュニアを制した舟久保遥香(富士学苑高2年)も1回戦敗退。難波実里(帝京科学大4年)を相手に「指導2」をリードした1分52秒に袖釣込腰で「技有」失陥。以後は猛攻に次ぐ猛攻、2分42秒に内股「有効」を奪い返し、3分20秒には3つ目の「指導」を奪取。なぜ4つ目の「指導」が宣告されないか不思議なほど一方的に攻め続けたが主審はあくまで動かず、結果「技有」優勢でトーナメント脱落。入賞に絡むことなく姿を消すこととなった。

昨年のインターハイと今春の高校選手権の覇者谷川美歩(藤枝順心高3年)は1回戦で月野珠里に敗れた。開始37秒に引込返「有効」をリードしたが月野の巧い試合運びに嵌り、組み手のミスで立て続けに3つの「指導」を失う。最後は状況を踏まえた月野の圧に屈し「極端な防御姿勢」で4つ目の「指導」失陥。こちらも入賞争いに絡むことは出来なかった。

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2回戦、金子瑛美が小野彰子から大内返「有効」

全日本実業個人を圧倒的な内容で制した小野彰子(ベネシード)は、この日は全くの別人。最大公約数の地力に頼った柔道には同大会で見せた覇気も膠着から抜け出す思い切りの良さも感じられず、1回戦の阿部菜那(秋田大3年)戦は「指導4」(3:39)で勝利したものの2回戦で金子瑛美(自衛隊体育学校)に大内返「有効」を食って敗れた。本来の実力を発揮したとは到底考えられず、どちらかというと自滅の感あり。狙える位置に立ったがゆえに却って力を発揮することが難しくなる、「狙って勝つ」ことの難しさをあらためて感じさせる2試合だった。

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2度目の優勝を果たした石川慈

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57kg級入賞者。左から山本、石川、出口、大友。

【入賞者】

優 勝:石川慈(コマツ)
準優勝:山本杏(国士舘大3年)
第三位:大友真貴子(コマツ)、出口クリスタ(山梨学院大2年)

石川慈選手のコメント
「優勝出来たのも、所属の皆様の力強い応援のおかげです。ありがとうございます。ポイントを取られてもチャンスは必ずあると思って、必死に攻めた結果だと思います。徹底して寝技をやろうと思っていました。嬉しいです。今後も1つ1つ、目の前の大会と試合を全力でやり切りたいと思います。」

【準々決勝】

山本杏(国士舘大3年)〇GS指導1(GS2:10)△月野珠里(山梨学院大2年)
大友真貴子(コマツ)〇優勢[優勢・背負投]△金子瑛美(自衛隊体育学校)
出口クリスタ(山梨学院大2年)〇合技[大外刈・崩袈裟固](0:22)△小川寧々(環太平洋大1年)
石川慈(コマツ)〇横四方固(2:56)△工藤千佳(仙台大4年)

【敗者復活戦】

金子瑛美〇GS有効・一本背負投(GS4:00)△月野珠里
小川寧々〇優勢[有効・小内巻込]△工藤千佳

【準決勝】

山本杏〇優勢[有効・内股透]△大友真貴子
石川慈〇横四方固(1:13)△出口クリスタ

【3位決定戦】

出口クリスタ〇GS一本背負投(GS4:00)△金子瑛美
大友真貴子〇優勢[指導2]△小川寧々

【決勝】

石川慈〇横四方固(3:25)△山本杏

■ 63kg級・ダークホース能智亜衣美がビッグタイトル獲得、決勝で鍋倉那美を破る
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63kg級準決勝、鍋倉那美が貝沼麻衣子の内股を股中で回し「有効」

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準決勝、能智亜衣美が塩瀬絢子を袈裟固に抑え込む

【決勝】

能智亜衣美(筑波大2年)〇優勢[指導1]△鍋倉那美(大成高3年)

決勝に進んだのは鍋倉那美(大成高3年)と能智亜衣美(筑波大2年)の2名。

世界ジュニアを制したばかりの鍋倉は優勝候補筆頭格。2回戦は名村友薫(金沢学院大4年)をGS延長戦「指導1」で下し、準々決勝は前戦で片桐夏海(オージー技研)を「指導2」対「指導3」で破った飯野鈴々(鹿屋体育大1年)を内股透と横四方固の合技「一本」(1:56)で早々に退ける。準決勝では前戦で第1シード選手津金恵(筑波大2年)をGS延長戦「指導2」で破った貝沼麻衣子(JR東日本)と対戦。1分4秒に「極端な防御姿勢」で「指導1」を失うが、2分0秒に内股透「有効」を奪い逆転。以降2分26秒、3分40秒とさらに2つの「指導」を失ったが試合をまとめて優勢勝ち、結果的には順当に決勝進出決定。

一方の能智は1回戦で小島愛子(自衛隊体育学校)を内股巻込と袈裟固の合技「一本」(0:58)、2回戦は大住有加(JR東日本)を「指導1」対「指導2」で下す殊勲の勝利を挙げ、準々決勝はもと世界選手権銀メダリスト田中美衣(了徳寺学園職)を「指導4」の反則(3:26)で下す。準決勝は混戦ブロックを勝ち上がって来た塩瀬絢子(三井住友海上)を内股「有効」から袈裟固に抑え込んで一本勝ち(2:14)。初の講道館杯決勝の畳に臨むこととなった。

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決勝、能智が小外刈で先制攻撃

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能智が左内股。鍋倉落ち着いて捌くが直後「指導1」が宣告される。

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鍋倉逆転を狙っての右大外刈、しかし上半身をコントロール出来ず効なし。

決勝は鍋倉が右、能智が左組みのケンカ四つ。9月の全日本ジュニア決勝では鍋倉が上四方固「一本」で勝利しているカード。

鍋倉は釣り手を下から入れ、能智はその上に肘を載せて対峙する形で試合がスタート。能智は左小外刈に打って出、鍋倉が伏せて「待て」。鍋倉展開に乗り遅れまいと崩し技である「ケンカ四つクロス」の右内股を入れてひとまず展開を留保。以降は引き手争いが続く。

50秒、鍋倉は巴投を試みるが得点の可能性は薄く「待て」。鍋倉がこれまで巴投を打ち出した場面を考えるに、地力に勝るはずのこの試合、早い段階でのこの選択は少々良くない卦。1分20秒過ぎから鍋倉の技が止まり、1分30秒には能智が小外刈崩れの支釣込足で鍋倉を転がし伏せさせ、続いて組みついて来た鍋倉に思い切った左内股を試みる。鍋倉表情を変えずに腕を跨いで捌くが、主審は能智の攻勢を認め、1分53秒鍋倉に「指導1」を宣告。

奮起した鍋倉は飛びつきながらの右小外刈に打って出るが、能智は透かして被り返して崩れず。鍋倉は逃がすまいと接近戦を志向、帯を握って隅返に打って出るが心得た能智はことごとく回避、巧みに再び引き手争いのステージに試合を振り戻す。

鍋倉は組み立てを変えて右大外刈で相手の裏側に進出することに成功するが上半身を拘束する理がなく背筋を伸ばして抜かれ、獲り切れず。ならばと繰り出した隅返も捌かれ、残り30秒では能智が引き手争いから抜け出し内股を2連発。鍋倉食いついて裏投に切り返すがポイントを挙げられず、この時点で勝負は決した感あり。

鍋倉片手の右内股を放ちながら前進するが、能智は下がり、あるいは抱き込んでと距離を出し入れしながら冷静にリスク管理。そのままタイムアップとなり、「指導1」の優勢を以てダークホース・能智の初優勝が決まった。

決勝は能智のインサイドワークが鍋倉を封じた形。高校時代から好選手との評価を得続けながらなかなかタイトルに恵まれなかった能智が、苦労人らしい冷静さと勤勉さでスター鍋倉を完封し、ビッグタイトルを得たいかにも講道館杯らしい一番であった。

鍋倉は意外な敗戦。投技、特に右内股の切れ味が何よりの武器である鍋倉だが、決勝は積年の課題でもあるケンカ四つの相手を「嵌める」ルートの不足を感じさせた。地力の底上げがこの課題を覆い隠しつつあった矢先であったが、シニアで戦っていくためには戦術的なバリエーションも必要。持ち前の投げの鋭さを生かすべく来期以降の成長に期待したい。

3位には塩瀬絢子と、米澤夏帆(龍谷大1年)の2人が入賞。

第1シードの津金恵は前述の通り準々決勝で敗れ本戦トーナメント脱落。敗者復活戦では飯野鈴々(鹿屋体育大1年)に終盤小外刈「有効」、裏投「技有」、横四方固「技有」と立て続けに食って敗戦。今大会も輝きを取り戻すことが出来なかった。

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初優勝の能智亜衣美

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63kg級入賞者。左から鍋倉、能智、塩瀬、米澤。

【入賞者】

優 勝:能智亜衣美(筑波大2年)
準優勝:鍋倉那美(大成高3年)
第三位:塩瀬絢子(三井住友海上)、米澤夏帆(龍谷大1年)

能智亜衣美選手のコメント
「今までも1回も1番になったことがなくて、やっと表彰台の真ん中でメダルを貰えてすごくうれしいです。決勝は内容も全然良くなく、勝った時間はありませんが結果が出て良かったです。東京オリンピックを目指して頑張ります」

【準々決勝】

貝沼麻衣子(JR東日本)〇GS指導2(GS2:01)△津金恵(筑波大2年)
鍋倉那美(大成高3年)〇合技[内股透・横四方固](1:56)△飯野鈴々(鹿屋体育大1年)
能智亜衣美(筑波大2年)〇反則[指導4](3:25)△田中美衣(了徳寺学園職)
塩瀬絢子(三井住友海上)〇優勢[有効・小内刈]△米澤夏帆(龍谷大1年)

【敗者復活戦】

飯野鈴々〇合技[裏投・横四方固](4:00)△津金恵
米澤夏帆〇優勢[有効・隅落]△田中美衣

【準決勝】

鍋倉那美〇優勢[有効・内股透]△貝沼麻衣子
能智亜衣美〇袈裟固(2:14)△塩瀬絢子

【3位決定戦】

塩瀬絢子〇横四方固(0:36)△飯野鈴々
米澤夏帆〇優勢[指導3]△貝沼麻衣子

【決勝】

能智亜衣美〇優勢[指導1]△鍋倉那美

※ eJudoメルマガ版11月19日掲載記事より転載・編集しています。

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