PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

【eJudo’s EYE】緩やかな陣地割譲の末の破綻、得るもの少ない高市賢悟の初戦敗退・アスタナ世界柔道選手権66kg級「評」

(2015年9月3日)

※ eJudoメルマガ版9月3日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】緩やかな陣地割譲の末の破綻、得るもの少ない高市賢悟の初戦敗退
アスタナ世界柔道選手権66kg級「評」
高市賢悟は初戦敗退。残念ながら今回の高市の戦いぶりに評価する点を見出すことは難しい。それくらい、やってはいけないことを重ねてしまい、やらねばならないことを為さなかった試合だった。

相手は31歳の大ベテラン、スゴイ・ウリアルテ(スペイン)。現在のウリアルテは細身の戦術派で決して物凄いパワーがあるわけではなく、最初の数合刀を合わせた段階で高市の有利は明らか。体の力で勝り、技の威力も上、かつ返されにくい担ぎ技が主戦武器であり、今季の欧州ツアー最大のハイレベル大会であるグランプリ・デュセルドルフを制している高市が負ける要素はほぼ全くないと見受けられた。ちなみにウリアルテの今季の成績はグランドスラム・バクー3位が唯一の表彰台で、あとは7位1回と、初戦敗退2つを含む予選ラウンド敗退が4回である。

ここで、劣勢明らかとなったウリアルテの側に立って作戦を立ててみる。

・力関係は相手が明らかに上。よって真っ向勝負で投げつけるのは難しい。特に相手に落ち着きがあり互いに体力がある早い時間帯で投げるのは力関係的に厳しい。
・自分が懐に呑む奇襲攻撃で投げるにしてもそこで試合を終わらせてしまわないと逆転される可能性が高い。勝負は残り時間が少なくなってから、あるいはGS。
・「指導」はある程度取られるだろうからこちらも取り返してタイで試合を進めなければならない。
・ただし何十秒か攻勢を続けなければならない「消極的」の「指導」を取ることは難しい。偽装攻撃、首抜き、クロス、絞込みなど1回のアクションで与えられるテクニカルな反則に相手を嵌めなければならない。
・勝負カードの奇襲はギリギリまで取り置く。半端に見せない。

力関係に劣る試合を勝ち抜くための、戦術派としてはきわめてまっとうな、しかし非常に狭い一本道が描かれる。相手が早い段階で勝負に来る、有無を言わさぬ連続攻撃であっという間に大量の「指導」を失ってしまう、組み止められることで地力の差をダイレクトに出されてしまう、とにかくどこかの分かれ道で1つでも蓋をされてしまえば成りたたない厳しい戦いだ。

しかし高市はいいようにこれをやらせてしまった。ウリアルテが採った策は、釣り手を「肩越しのクロス」と「外側の脇下」で往復させるというもの。前者は腕を抱えて引込返に払巻込と一方的な形を演出することが可能で、かつ相手を潰しての反則、あるいは奥襟との往復を絡めて「首抜き」を狙うことが可能。後者は長い自分のリーチを生かして膠着を演出することが出来る。

高市は、地力の高さゆえにこの状況を一種「流した」。いつでも取れるだろうという順行運転で相手のシナリオにつきあってしまったと言ってもいい。しかもウリアルテが初めてクロスに釣り手を入れた場面では、「指導1」失陥は仕方がないとばかりにあっさり膝を屈してしまう。主審は即座に偽装攻撃の「指導」を宣告、ここで高市の行動と審判の「偽装攻撃を取る」姿勢をウリアルテは伏線としてブックマーク。「指導2」対「指導1」の高市リードで迎えた残り10秒には再びクロスに釣り手を入れて高市を潰し偽装攻撃の「指導2」確保、迎えたGS延長戦では右小内巻込で大きく高市を崩して焦らせると、本戦ではおそらく1度しか見せていない左への背負投で高市の股中に潜り込み、なんと「一本」を奪って試合を終わらせてしまった。

ウリアルテが採った具体的手立てとしての「クロスと脇下の往復」という組み立て、そして作戦遂行能力の高さには非凡なものがあったが、この狭い一本道をスンナリ渡らせてしまったのは試合力の高さが売りのはずの高市としては少々情けない。どの分かれ道で蓋をされても決して勝利には届かない狭い一本道、どこかにたった一つでも関所を置くことが出来れば試合の様相は全く違ったはずだ。生命線のクロスを二度とやって来れないような危険な罠を張ってもいい、早い段階で2つ3つと山場を作って、その後に必ずある奇襲攻撃を待ち構えて良い形で得意の寝技に持ち込んでもいい。高市の戦闘能力と手持ちの技術を考えれば早い段階で「一つだけ」蓋をすることはそれほど難しいことであったとは思えない。

最初の「偽装攻撃」失陥の判断自体は、その時点であればこれはミスとは呼べない。「悪い形を無理やり続けて一発食うよりは、この力関係であれば「指導」1つを失ってもやり直せばいい」、「昨日の審判傾向を見る限り、審判は偽装攻撃を取らない傾向にある」これは正しい。ただし、それは以後の返済を前提とした戦術的な負債であるはずだ。本戦4分に一貫したこの手の緩やかな、しかし一方的な陣地割譲の連続が最後の崩落を呼んだことは、否定しようがないだろう。

勝負とは思考量の戦いでもある。高市は大枠の優位に、言葉は悪いが「いつでも取れる」あるいは「順行運転でも反則累積で勝ててしまう」ことを腹に呑んで戦って思考停止に陥っていたのではないか。戦術派の超ベテランに終盤に戦いを持ち込ませてしまうことの危うさに無自覚だったのではないだろうか。ここは、勝てるシナリオの多さに寄りかかってかえって順行運転に陥った高市と、逆に戦慄走るほどのシナリオの少なさ、道幅の狭さに切迫感を持って試合を組み立てたウリアルテ、その投下した思考量と真摯さの違いが勝敗を分けたという見立てを提示したい。

蛇足ながら、団体戦にあっても高市はこの失敗を繰り返してしまった。明らかに格下のセバスチャン・ザイドル(ドイツ)相手に「指導2」をリードしながら相手に掛けさせるうちにリズムを掴まれ、残り31秒で左腰車を食って「技有」失陥の逆転負け。個人戦で失敗した選手が姿勢を立て直し、次につながる戦いを見せることが定番となりつつある団体戦でのこの敗戦は、もはや気の毒なほどであった。

長くなったが、世界選手権に2度目の出場で初戦敗退、それも勝てる力関係の相手に一種試合を流した末に食われた事実は重い。ウリアルテが描いた狭い一本道とその渡りっぷりは見事であったが、仮にも日本代表の立場にある選手が、力関係に劣るものが持ち込んでくる「持たざるもののシナリオ」に警戒線を張らぬまま最後までやりたいようにやらせてしまったというその内容は厳しく評価されるべきだろう。

他有望階級を捨てての「2枠目」行使の果てが初戦敗退、しかも精神的にも肉体的にも勤勉さを欠いたと批判されても仕方のないこの敗戦は、選んだ首脳陣の責任まで問われても仕方がない、「悪い負け」であった。エクスキューズは、見出し難い。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版9月3日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る




supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.