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【eJudo’s EYE】キャリア出色のハイパフォーマンス、ゆえに久々「確定」なった浅見の立ち位置・アスタナ世界柔道選手権48kg級「評」

(2015年8月25日)

※ eJudoメルマガ版8月25日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】キャリア出色のハイパフォーマンス、ゆえに久々「確定」なった浅見の立ち位置
アスタナ世界柔道選手権48kg級「評」
浅見八瑠奈の仕上がりと出来は文句なく素晴らしかった。準決勝までの勝ち上がりをあらためて簡単に振り返ると、2回戦でサラ・リショニー(イスラエル)を引き出し回すような右内股「一本」、事実上の決勝と目された3回戦では積年の仇敵ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)との息の抜けない4分間をエンジンを切らずに攻め続け、展開上唯一のチャンスと思われた1分24秒から1分50秒までのシークエンスに的確に勝負技を集中「指導1」を奪って勝ち抜け。準々決勝のマリア・チェルニアク(ウクライナ)戦は開始早々に左袖釣込腰で「有効」を奪い、2分過ぎには右体落で足首同士を引っ掛け「有効」を追加して横四方固「一本」。準決勝では右相四つのナタリア・ブリヒダ(ブラジル)が自ら左を切った瞬間に対角線の右足に鋭い右小内刈を撃ち込んで「技有」奪取、そのまま抑え込んで合技の一本勝ち。

率直に言って、浅見の優勝は動かないかと思われた。ムンクバット戦で見せた異常な集中力の高さとスピードは出色と呼ぶほかはないものであったし、リショニー戦とチェルニアク戦で決めた投げでは想像以上の「力」が浅見の肉体にチャージされていることが垣間見えた。遠間から回しこむだけでリショニーが吹っ飛んだ右内股、さして深く入ったわけでないのにチェルニアクが先に吹っ飛んでしまった左袖釣込腰、同じく浅く足首を引っ掛けただけなのに相手が異常なまでに大きく崩れた右体落。こちらが前提条件として腹に呑みこんでいる浅見の「力」と目の前の体捌きを掛け算して得られるはずの、絵がまったく違う。まるで着ている柔道衣がパワードスーツとして機能し、力が増幅されて伝えられているような印象を受けた。
ブリヒダ戦で見せた右小内刈も出色、というよりもはや異質だった。ブリヒダが左を切り離した瞬間に動作的に死角となる対角線を同じタイミングで斬り落としたこの技は、良い意味で浅見らしからぬもの。浅見の手持ちの投げ技はどちらかというと手堅く状況を積んで「わかっているけど倒れてしまう」、ちょっとニュアンスは違うが無意識的な「嫌倒れ」を強いるもので、この技のような閃く意外性と瞬発力を伴うものではなかったはずだ。
スピード、フィジィカルコンディション、それに本来引き出しにないほどの鋭く異質な技を一発決めるだけの集中力。本人がどう言うかはともかく、傍目にはこの日の浅見はちょっと記憶にないほどの出来と感じた。優勝間違いなしと評したとしても、これは責められるにはあたるまい。

しかし浅見は決勝でパウラ・パレト(アルゼンチン)に完敗。1分過ぎまでは完全にペースを握って「指導1」リード、以後も中盤までは大枠危なげなく試合を進めていたが、背負投を掛けさせることを許すうちにパレトが調子づく。昭和の軽量級柔道よろしく釣り手で片襟を差して大きく振りあおり、坂道を走り降りるように体を思い切り捨てる右背負投を2度、3度。さらに右組みのパレトが放った「左」の大内刈、ここで「指導1」を受けると浅見に今大会初めて迷いが生じる。自らパレトに寄ると明らかに表情を変えてバックステップ、相手を一歩前に引き寄せて組もうとする駆け引きの組み手を選択した。ここから潮目はわかりやすく変わり、初戦から一貫して前に出続けた浅見の迷いに付け入るようにパレトは背負投を仕掛け捲って2つ目の「指導」を獲得。そのまま4分間を終えるに至った。

残念な試合ではあった。パレトに「掛けさせ過ぎた」ことは否めない。相手を強者として規定し何があっても動じなかったムンクバット戦に比べ、自身を格上と規定するがゆえ意外な苦戦に迷いが生じたというのも確かだろう。この日一貫して審判団が「偽装攻撃」の反則をほとんど取らない(なぜ世界選手権のたびにワールドツアーで1年間培ってきた流れを壊すようなことを仕組むのかまったくもって理解に苦しむが)ゆえ、ファンスニック戦で本来なら掛け潰れの「指導」累積で敗れても良いところを命拾いしたパレトが、浅見の迷いの一方まったく躊躇なく担ぎ技を仕掛け続けたというバックグランドの影響も大きい。

だが今回もっとも大事なのは極めて局所的な分析に留まるであろうこの敗因を喋々することではなく、「ハイコンディションに仕上がった浅見」が、それでもなお敗れたという評価の良しあしを越えた「貴重な事実」だ。2014年の復帰以後浅見のパフォーマンスは常に「復活の途上にある」というエクスキューズに晒され、その最高到達点の想定は常に世界選手権2連覇時の幻影に実像をゆらめかせられてきた。27歳となった浅見の来年の五輪は「ある」のか「ない」のか、その力は戦える水準点にあり続けられるのか、周囲との相対的な力関係はどの位相にあるのか。

浅見はいまだ強い。しっかり調整さえできれば十分世界と戦うことが可能。しかし北京-ロンドン期に日本勢が作り上げたような「出れば勝ち」という力関係はいかなハイコンディションにおいてももはや難しく、この日のムンクバット戦で見せたような「相手を格上と考えて挑む」試合を複数以上想定せねば勝ち抜けない。
これ全て、浅見がハイコンディションに仕上げて、これ以上ないくらいに巻き上がって来たからこそ得られた国際大会における「現時点での立ち位置」という貴重かつリアルな事実である。五輪に向けた大戦略立案において、優勝という果実の甘さに酔うこともなく、「これ以上がある」という想像に目くらましを食うこともなく、極めて乾き切った、リアルに得られた、これからの戦いの立脚点。浅見の健闘はまったく無駄ではない。後年この大会を照射し直し、あのアスタナこそが勝利の直接の因であったと堂々語れるような、浅見の今後の活躍に期待したい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

※ eJudoメルマガ版8月25日掲載記事より転載・編集しています。

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