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ワールドマスターズ・ラバト男子レポート②81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級

(2015年6月18日)

※ eJudoメルマガ版6月18日掲載記事より転載・編集しています。
男子レポート②81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級
ワールドマスターズ・ラバト
■ 81kg級・永瀬貴規が見事優勝、あらためて頂点狙う力見せつける
【入賞者】 エントリー16名
2.NIFONTOV, Ivan(RUS)
3.TCHRIKISHVILI, Avtandili(GEO)
3.TOMA, Sergiu(UAE)
5.MOUSTOPOULOS, Roman(GRE)
5.VALOIS-FORTIER, Antoine(CAN)
7.KHUBETSOV, Alan(RUS)
7.MAGOMEDOV, Sirazhudin(RUS)

第1シードのチェリャビンスク世界選選手権王者アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)、第2シードに置かれた2013年リオ世界選手権覇者ロイック・ピエトリ(フランス)、そして第4シードには2009年ロッテルダム世界選手権王者のイワン・ニフォントフ(ロシア)と世界チャンピオンが実に3人名を連ねた豪華なトーナメントを、日本の永瀬貴規が堂々勝ち抜いて優勝。

1回戦では2週間前にグランドスラム・バクーを制して好調の21歳、カサン・カルモルゼフ(ロシア)を相手に「指導2」をリードされるも、残り30秒で左小外掛「有効」を奪って逆転勝利。やや先行き不安な出だしだったが、続く準々決勝は第3シードのアントワーヌ・ヴァロアフォルティエ(カナダ)から右大内刈「技有」、右大外刈「一本」と連取して圧勝。準決勝はグランドスラム東京決勝で下したセルジュ・トマ(UAE)をGS延長戦の末に3つ目の「指導」を獲得して振り切り、迎えた決勝はニフォントフを右内股と支釣込足で崩し続けてペースを握ると、支釣込足で転がした相手を横三角に捉えて最後は腕緘で肘を極めながらの横四方固「一本」でフィニッシュ。これまで主役級の大物をことごとく倒しながらなかなか国外のビッグタイトルに恵まれなかった永瀬だが、ついに最高権威大会であるワールドマスターズ制覇という素晴らしい戦果を挙げることとなった。

永瀬の勝ち振りは見事であった。特に「飛ばない」しぶとさを売りにワールドツアーを渡り歩く強者ヴァロアフォルティエを二回完璧に投げ飛ばした準々決勝、もと世界王者のニフォントフを相手にしながら傍目には不可解なほど落ち着き払って淡々と「一本」まで歩を進めた決勝の戦いは圧巻であった。世界選手権、五輪でも頂点に届く力があると理解して間違いない内容と結果と断じて良いだろう。

ただし、鮮やかな投げを決めた前述2戦の対戦相手がいずれも右組み、「指導」で食い下がられて接戦を演じてしまった残り3試合が全て左組みであったことでわかる通り、かつての永瀬の弱点であったケンカ四つの対応に課題を残した大会でもあった。グランプリ・デュッセルドルフで左組み変則ファイターのアレクサンドル・スタシアシェンカ(ベラルーシ)の奇襲技2発に沈んだ記憶ゆえかこの大会は左組み相手に殊更慎重であった印象だが、苦手意識が自らに根付く前、周囲に印象づけられてしまう前に、その疑念を払拭するような試合を一度見せておく必要があるのではないだろうか。世界選手権制覇に向け、次回訪れる「対左」の試合に注目。

【準々決勝】

イワン・ニフォントフ(ロシア)〇合技[小内刈・足車]△ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)
アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)〇反則[指導4](4:40)△シラズディン・マゴメドフ(ロシア)
セルジュ・トマ(UAE)〇優勢[技有・大内刈]△アラン・クベトソフ(ロシア)
永瀬貴規〇大外刈(2:34)△アントワーヌ・ヴァロワ フォルティエ(カナダ)

【敗者復活戦】

ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)〇優勢[有効・内股]△シラズディン・マゴメドフ(ロシア)
アントワーヌ・ヴァロワ フォルティエ(カナダ)〇優勢[指導3]△アラン・クベトソフ(ロシア)

【準決勝】

イワン・ニフォントフ(ロシア)〇優勢[技有・谷落]△アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)
永瀬貴規〇GS指導3(GS0:44)△セルジュ・トマ(アラブ首長国連邦)

【3位決定戦】

セルジュ・トマ(アラブ首長国連邦)〇優勢[技有・内股]△ロマン・モウストポウロス(ギリシャ)
アヴタンディル・チリキシビリ(ジョージア)〇優勢[有効・払巻込]△アントワーヌ・ヴァロワ フォルティエ(カナダ)

【決勝】

永瀬貴規〇横四方固(4:24)△イワン・ニフォントフ(ロシア)


【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:永瀬貴規(筑波大4年)
成績:優勝

[1回戦]

永瀬貴規〇優勢[有効・小外掛]△カサン・カルモルゼフ(ロシア)

永瀬が右、カルモルゼフ左組みのケンカ四つ。双方に「取り組まない」咎で「指導」、さらに永瀬にのみ消極的との判断で「指導2」が与えられる。残り30秒までリードを許すが、小外掛で「有効」を獲得して逆転。頭を下げてしまい3つ目の「指導」を失うも、逃げ切る。

[準々決勝]

永瀬貴規〇大外刈(2:34)△アントワーヌ・ヴァロワ フォルティエ(カナダ)

右相四つ。大内刈を差し入れ、ケンケンで緩やかに、しかし長い距離を追い切って46秒「技有」獲得。さらに左大外刈を決めて「一本」。しぶといフォルティエを一蹴。

[準決勝]

永瀬貴規〇GS指導3(GS0:44)△セルジュ・トマ(UAE)

ケンカ四つ。頭の下がった永瀬に「極端な防御姿勢」の判断で「指導1」、トマに片襟の「指導1」、双方に消極的との咎で「指導2」が与えられたところで本戦が終了。永瀬ギアを一段上げて山場を作り、GS44秒トマに3つ目の「指導」

[決勝]

永瀬貴規〇横四方固(4:24)△イワン・ニフォントフ(ロシア)

右相四つ。開始早々、永瀬下がるニフォントフの引き手を捕まえるなりノーステップの右内股で投げ飛ばす。あまりの威力にニフォントフの体は畳上をバウンド、「有効」相当かと思われたがこれはノーポイント。ニフォントフいったん展開を持ち直すが、永瀬が片襟の支釣込足でニフォントフを転がした3分過ぎから永瀬が再び主導権を掌握。終盤にはケンカ四つクロスの形の右内股で相手を崩し、叩き返して来た相手の右釣り手をなかば極めながら支釣込足で転がして得意の横三角に移行。最後は相手の右腕を極め伸ばしながら横四方固「一本」。終始落ち着き、為すべきことを為したという体の静かな戦いぶりに、かえって永瀬の強さ際立つ。

■ 90kg級・グヴィニアシビリ圧勝V、決勝は絶好調吉田優也を豪快「一本」
【入賞者】 エントリー16名
1.GVINIASHVILI, Beka(GEO)
2.YOSHIDA, Yuya(JPN)
3.GONZALEZ, Asley(CUB)
3.VAN T END, Noel(NED)
5.DENISOV, Kirill(RUS)
5.IDDIR, Alexandre(FRA)
7.ILIADIS, Ilias(GRE)
7.VOPROSOV, Kirill(RUS)

昨年またもや世界選手権を制した「柔道小僧」イリアス・イリアディス(ギリシャ)、2013年リオ世界選手権王者アスレイ・ゴンザレス(キューバ)と揃ったチャンピオン2人に加えてヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)ら階級を代表する選手が一同に会した、まさしくワールドマスターズの名に相応しい豪華なトーナメント。
準世界選手権と呼んで差し支えないこのハイレベル大会にあって、これらスター選手を差し置いて決勝に進出したのはこの日ともに素晴らしい勝ち上がりを見せた吉田優也とベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)の2人。

吉田は1回戦でイマド・アブデラオウイ(モロッコ)から右内股「有効」、内股透「一本」と連取して上々のスタート、2回戦では前戦でリパルテリアニを下した強豪アレクサンドル・イディー(フランス)を右大内刈「一本」で一蹴。そして準決勝では世界選手権で3度表表彰台に上がっているキリル・デニソフ(ロシア)を相手に大熱戦。組み際の低い体落で「有効」を先制するが、左小内刈で「技有」を奪われビハインド。しかし投げには投げとばかりに3分35秒に豪快な右内股を決め再逆転「一本」。吉田らしい素晴らしい技の切れ味をこの大舞台でも如何なく発揮しての決勝進出。

一方のグヴィニアシビリの1回戦はケンカ四つのアレクサンダー・クコル(セルビア)を右大腰で投げつけ「技有」を獲得すると、負傷したかクコルが棄権を申し出てこの時点で勝利決定。準々決勝では王者イリアディスを相手にガップリ組み合っての正面勝負を挑み、右外巻込の大技で投げつけ「技有」を奪って優勢勝ち、会場の喝采を浴びる。準決勝のゴンザレス戦は右相四つの相手の大腰を捌いて押し倒し隅落「有効」を奪ってこれも快勝、世界チャンピオン2人を立て続けに下して堂々決勝進出を果たした。

決勝は吉田、グヴィニアシビリともに右組みの相四つ。明らかに好調の吉田は動きに切れがあり、鋭い出足払に巴投、さらに大内刈から巴投の連携に右大外刈と取り味のある技を立て続けに放つ。グヴィニアシビリは売りであるパワーを生かすべく間合いを詰めたいところだが、吉田がその意図を読んでここぞというきっかけで過たず技を仕掛け、先手を打ち続けるという構図が続く。しかし中盤、グヴィニアシビリが吉田の奥襟を掴んでジワリと接近、吉田が釣り手を奥襟に持ち替えると即座に袖を掴んでいた左引き手を離し、その左手で脇を差して組み手とは逆の左大腰。まともに食った吉田抗う術なく背中から激しく畳に落ちて「一本」。19歳のグヴィニアシビリが絶好調吉田を力で捻り潰し、見事ワールドマスターズ初優勝を成し遂げることとなった。

グヴィニアシビリの国際大会出場は、3月に地元ジョージアで行われたグランプリ・トビリシ以来。この時グヴィニアシビリは決勝で地元の英雄ヴァーラム・リパルテリアニと戦い、一本勝ちを果たして優勝を浚っている。ここ2年の世界選手権で銀メダルと銅メダルを立て続けに獲得した「階級の顔」というべき強者リパルテリアニを、それも追い詰めに追い詰めた挙句の「一本」という文句なしの形で倒したこの衝撃的な試合でジョージアの世代交代は予想より早まるのではという観測があったが、この試合を受けた大事な「次の大会」で、それも同時出場したリパルテリアニが初戦で敗れる中、しかも世界選手権王者2人を立て続けに下して優勝したことの意味はまことに大きい。もはやジョージアの五輪代表候補一番手はこのグヴィニアシビリと考えておいて良いのではないだろうか。

昨年世界選手権で銀メダルを獲得した21歳のクリスチャン・トート(ハンガリー)、そして19歳のグヴィニアシビリと、五輪を来年に控える中で90kg級は若手の台頭が激しい。この中に20歳の若き日本代表ベイカー茉秋が割って入れるかどうか。アスタナ世界選手権はこの点にも注目。

【準々決勝】

吉田優也〇大内刈(2:12)△アレクサンドル・イディー(フランス)
キリル・デニソフ(ロシア)〇腕挫手固(1:26)△キリル・ヴォプロソフ(ロシア)
アスレイ・ゴンザレス(キューバ)〇優勢[指導3]△ノエル・ファンテンド(オランダ)
ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)〇優勢[技有・外巻込]△イリアス・イリアディス(ギリシャ)

【敗者復活戦】

アレクサンドル・イディー(フランス)〇袖釣込腰(3:40)△キリル・ヴォプロソフ(ロシア)
ノエル・ファンテンド(オランダ)〇袖釣込腰(2:13)△イリアス・イリアディス(ギリシャ)

【準決勝】

吉田優也〇内股(3:35)△キリル・デニソフ(ロシア)
ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)〇優勢[有効・隅落]△アスレイ・ゴンザレス(キューバ)

【3位決定戦】

アスレイ・ゴンザレス(キューバ)〇優勢[技有・体落]△アレクサンドル・イディー(フランス)
ノエル・ファンテンド(オランダ)〇合技[背負投・袖釣込腰](3:47)△キリル・デニソフ(ロシア)

【決勝】

ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)〇大腰(2:48)△吉田優也

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:吉田優也(旭化成)
成績:2位

[1回戦]

吉田優也〇内股透(1:43)△イマド・アブデラオウイ(モロッコ)

吉田が右、アブデラオウイが左組みのケンカ四つ。早々に右内股を豪快に決めるも回りすぎて技の評価は「有効」。アブデラアオイ一発を狙って釣り手で背中を抱えてくるが、吉田はあくまで襟を持ち、しっかり釣り手で突いて自分の間合いで対応。最後は相手の左内股を股中で回し捌いて内股透「一本」。

[準々決勝]

吉田優也〇内股透(1:43)△アレクサンドル・イディー(フランス)

右相四つ。相手が奥襟を叩いてきたところに右大内刈を合わせて「一本」。

[準決勝]

吉田優也〇内股(3:35)△キリル・デニソフ(ロシア)

ケンカ四つ。組み際の低い右体落で「有効」。場外の咎で「指導」ひとつを失った後に左小内刈で「技有」を奪われてビハインドとなるが、右内股を豪快に決めて再逆転「一本」。

[決勝]

ベカ・グヴィニアシビリ(ジョージア)〇大腰(2:48)△吉田優也

右相四つ。動きの良い吉田は鋭い出足払に巴投、さらに大内刈から巴投の連携に右大外刈と立て続けに放つ。グヴィニアシビリは間合いを詰めたいところだが、吉田がその意図を読んでここぞというきっかけで過たず技を仕掛け、先手を打ち続けるという構図。しかし2分48秒に近接戦闘に持ち込んだグヴィニアシビリが左の大腰。絶好調吉田を力で捻り潰し豪快な「一本」。

■ 100kg級・ガシモフがクルパレクとの激戦制す
【入賞者】 エントリー16名
1.GASIMOV, Elmar(AZE)
2.KRPALEK, Lukas(CZE)
3.DARWISH, Ramadan(EGY)
3.NIKIFOROV, Toma(BEL)
5.GROL, Henk(NED)
5.PACEK, Martin(SWE)
7.MAMMADOV, Elkhan(AZE)
7.RAKOV, Maxim(KAZ)

第1シードのルーカス・クルパレク(チェコ)と第2シードのエルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)が激戦を勝ち抜いて決勝に進出。

チェリャビンスク世界選手権王者のクルパレクは、以降初試合となるグランプリ・ザグレブでまさかの敗戦(3位)を喫したばかり、今度こそはしくじるまいと気合いを入れて臨んだ今大会の出来は抜群。まず初戦では世界選手権で決勝を争ったホセ・アルメンテロス(キューバ)から横四方固「一本」(1:00)、準々決勝は前戦でツブシンバヤル・ナイダン(モンゴル)を浮落「技有」で破ったエルカン・ママドフ(アゼルバイジャン)に小外刈「技有」でリードされるが、残り1分を切ったところで組み際の左小内刈を決めて「技有」奪取、そのまま横四方固に抑え込むと相手が「参った」を表明してこの試合も一本勝ち。準決勝はここまでシリル・マレ(フランス)とラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)を下して来たダークホースのトマ・ニキフォロフ(ベルギー)から後袈裟固「技有」、谷落「一本」と連取。超激戦ブロックを全試合一本勝ちでクリアして決勝進出決定。

一方のガシモフは1回戦でレイズ・ボウヤコウブ(アルジェリア)から浮技「有効」、隅落「有効」、縦四方固「一本」(3:54)と連取して勝利。勝負どころの準々決勝はマキシム・ラコフ(カザフスタン)を「指導3」の優勢で下し、準決勝はヘンク・グロル(オランダ)を釣込腰「技有」で破り、こちらは恵まれた組み合わせをしっかり生かし、順当に勝利しての決勝進出。

決勝はクルパレクが左、ガシモフが右組みのケンカ四つ。
1分28秒、ガシモフが座り込みの左小外掛、崩れたクルパレクを浮技よろしくめくり返して押し込み「技有」奪取。早くも後のなくなったクルパレクは左内股に左大内刈で激しく追撃するが、ガシモフいずれもまともに食わず寝技を交えながら巧みに試合を流し、ポイント失陥を「指導1」までに抑えたまま残り1分まで時計の針を進めることに成功。ここから一段ギアを上げたクルパレク、背中をガップリ掴んで隅返を放ち4分10秒「有効」を獲得。以後も前へ前へと相手を引きずり出すが、ガシモフは残り時間を計算して完全防御に舵を切り、ひたすらその猛攻に耐える。残り21秒でガシモフに場外の「指導2」、クルパレクは体落、内股、大内刈、払巻込と技を繋いで猛攻を仕掛けるが主審は動かず、残り3秒に宣告された「指導3」までで試合終了。ガシモフ、「技有」優勢で現役世界王者を倒して見事ワールドマスターズ初制覇を成し遂げることとなった。

24歳のガシモフは3月のグランプリ・トビリシ、同じく3月のグランプリ・サムスンに続き今季早くも3度目のワールドツアー優勝。5月はグランドスラム・バクー2位に続く2度目の表彰台獲得ということになり、今季は絶好調。これまでまだ表彰台に登ったことのない世界選手権(※2009年ロッテルダム大会の5位が最高成績)で、キャリア最高とも言える今季の好調は生かされるのか。注目して見守りたい。

そしてこのワールドマスターズを通じて見えた100kg級全体の様相はやはり「混戦」。王者クルパレク、さらにガシモフとママドフのアゼルバイジャン・コンビ、そして誰もが「下から目線」で挑むマキシム・ラコフらの実績ある選手達に加え、超ベテランで一瞬の勝負力の高さは相変わらずのナイダン、アルメンテロスとイワン・レマレンコ(UAE)をはじめとする「一発屋」、ワールドツアーで強さを見せた羽賀龍之介やアドラン・ビルスタノフ(ロシア)らの新勢力、復帰の噂の消えぬロンドン五輪王者タギル・カイブラエフ(ロシア)、史上に残るシルバーコレクターである仕事師グロルなど、どの層、どの角度にも強豪がギッシリだ。アスタナ世界選手権はいかなる様相となるか、今後もワールドツアー全ての大会から目が離せない。

【準々決勝】

ルーカス・クルパレク(チェコ)〇横四方固(4:22)△エルカン・ママドフ(アゼルバイジャン)
トマ・ニキフォロフ(ベルギー)〇優勢[有効・内股]△ラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)
エルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)〇優勢[指導3]△マキシム・ラコフ(カザフスタン)
ヘンク・グロル(オランダ)〇反則[指導4](4:14)△マーティン・パチェック(スウェーデン)

【敗者復活戦】

ラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)〇横四方固(1:15)△エルカン・ママドフ(アゼルバイジャン)
マーティン・パチェック(スウェーデン)〇優勢[技有・大内刈]△マキシム・ラコフ(カザフスタン)

【準決勝】

ルーカス・クルパレク(チェコ)〇谷落(3:13)△トマ・ニキフォロフ(ベルギー)
エルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)〇優勢[技有・袖釣込腰]△ヘンク・グロル(オランダ)

【3位決定戦】

ラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)〇内股(1:14)△ヘンク・グロル(オランダ)
トマ・ニキフォロフ(ベルギー)〇裏投(4:37)△マーティン・パチェック(スウェーデン)

【決勝】

エルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)〇優勢[技有・小外刈]△ルーカス・クルパレク(チェコ)

■ 100kg超級・七戸龍を得意の大外刈で一蹴、リネール余裕の全試合「一本」
【入賞者】 エントリー16名
1.RINER, Teddy(FRA)
2.BOR, Barna(HUN)
3.MEYER, Roy(NED)
3.SHICHINOHE, Ryu(JPN)
5.MATIASHVILI, Levani(GEO)
5.SAIDOV, Renat(RUS)
7.JABALLAH, Faicel(TUN)
7.NATEA, Daniel(ROU)

世界選手権100kg超級6連覇中のテディ・リネール(フランス)が悠々優勝。1回戦はケンカ四つのヴラダト・シミオネスク(ルーマニア)と対戦、試合が始まるなり右払腰から右大内刈に繋いで豪快な「一本」(0:19)。準々決勝は右相四つのレヴァニ・マティアシビリ(ジョージア)と双方取り組まず「指導2」ずつを失うが、終盤に右払腰「有効」を奪うとそのまま崩上四方固で一本勝ち(3:49)。

そして迎えた七戸龍との準決勝は、引き手に拘る手順を読み切られて七戸に右大外刈と右大内刈の有効打を許し、ならばと圧殺に出た1分2秒にはブロッキングの咎で「指導」を受けるという少々意外な展開。2分10秒には釣り手をクロスに入れた右大外刈を透かされて押し込まれるピンチもあったが、この場面は地力のみで踏ん張り逆に七戸を腹這いに叩き落としてあっさり収拾。直後、組み手のやり取りの中で生命線の引き手で袖を得ると、釣り手を奥に叩き込みながら右大外刈一閃。体を捨てつつ頭の上まで刈り上げて豪快な「一本」。

決勝はバルナ・ボール(ハンガリー)と対戦。ケンカ四つのパワーファイターで受けが強いというリネールがもっとも嫌うタイプの選手だが、リネールは組み手の優位確保に徹してまず手堅く「指導1」をリード。ボールが消耗して掛け潰れが増えた4分8秒、4分23秒にそれぞれ「指導」を追加すると、実質勝負が終わった残り20秒を過ぎてからにわかにペースアップ。ボールの釣り手の袖を殺す防御行動の組み手からいったん両袖、さらに右を切り離して釣り手で奥襟とステップを進め、最終的には左引き手で袖、右釣り手で奥という完璧な形を作り出す。さらにリネールは引き手で得た袖を相手の腹側に押し込んで相手に右構えを強い、そして嫌がったボルが体を開いて体勢を戻す瞬間、まさしく教科書通りのタイミングで右大外刈を閃かせ鮮やか「一本」。もともとの地力の違いに加え、ボルは逆構えを強いられた「最も弱い形」、一方のリネールは引き手で袖を織り込み、かつ釣り手は奥襟から首を抜かせて片襟という「最も強い形」という組み手の形勢差までを足し算したこの構図の攻防では、さすがに受けの強いボルも為す術がなかった。リネール、悠々全試合一本勝ちで優勝達成。

ボールとの決勝はリネールという選手を考える上で、非常に示唆に富む一番だった。苦手の左組みに対してはまず相手の良さを消すところから組み手をスタート、地力で勝っているので相手にやりたいことをやらせなければ結果として形は自身優位に収まり、結果圧殺でリスクなく「指導」を奪取し続けることが可能。勝利がほぼ確定し、組み負けた相手が消耗、かつモチベーションが低くなったところで決定的な一撃を食らわせて強さを印象づけて試合を終える。しかもその勝負に出た一発すら、自身が絶対に負けるわけがない、自分だけが持って相手は手ぶらの「100-0」、絶対に返されないノーリスクの組み手の完成を待ってからのアクションだった。

左組みのボールが、投げられた場面では右構えを強いられていたという点にも注目したい。稽古でも頻発する場面であるが、リネールが左組みの手ごわい相手に対して大外刈を決める際には、位置関係をリセット出来る組み際の一発が多い。ケンカ四つ本来の位置関係である斜めからの技や入り方をしっかり開発するというよりは、ケンカ四つにあっては優位確保の「崩し技」に徹し、最終的には無理やり自分の得意な右相四つの位置関係に持ち込んで、相四つ用の技で投げている。つまりはこの決勝は「過剰なまでの慎重さ×ケンカ四つが苦手」というリネールの特性がさらに一段明確になった一番だったわけだが、残念ながら日本の代表選手候補にケンカ四つ(左組み)は僅少。日本勢はこれをヒントに、別角度からのリネール対策を生み出さねばならない。

七戸-リネール戦に関して。試合経過の詳細は後述の「日本選手勝ち上がり」に譲るが、昨年の世界選手権決勝で演じた大接戦を補助線として考えた場合、その「接近ベクトル」を保ちたい七戸にとって、一本負けという今回の結果は非常に厳しいものだった。まず大外刈を印象づけた上で遠間から組み際の右大内刈を狙い続け、リネール必殺の大外刈は回り込んで透かしながら押し込み自身の攻撃に変換、と攻撃反撃の手立ての弾丸数が揃って「やれている」時間帯は比較的長かったが、いずれもポイントには至らず。「面倒だから投げてしまおう」とばかりにアクションを起こしたリネールに食った大外刈一発で前回の対戦をベースにしたこれらの実直な試みは粉砕、今回再び接戦を演じて「リネールのライバル」の位置を確定させたかった七戸だが、「なんとか崩してポイントを奪ってやろう」「弱点を探してやろう」という意図ごと、遠くに走り抜けるリレールにあっさり置き去りにされてしまった印象。率直に言って、対戦を重ねて互いの「やり口」を知れば知るほど結果に差がついてしまう力関係、対戦せずに本番一発勝負まで手合せを控えたほうが良いやりにくい相性に見えたが、しかし七戸本人、そして井上康生代表監督はこの試合からかなりの手応えを得たとのこと。
慎重なリネールが投げずば逆に面倒とばかりに刀を抜くに至ったそれまでの攻防に、何か攻略の糸口が見えたのか。七戸の、そしてスタッフの一層の研究に期待したい。

というわけで、2位にボール、3位には七戸とロイ・メイヤー(オランダ)というワールドツアーで元気のある勢力が順当に入賞。レナト・サイドフ(ロシア)やファイセル・ヤバラー(チュニジア)、アダム・オクリアシビリ(ジョージア)ら「ロンドン-リオ期」前半に力を見せた選手たちは退潮気配で、リネール以外は今季ここまでのツアーの流れがほぼそのまま反映されたという様相のワールドマスターズだった。


【準々決勝】

テディ・リネール(フランス)〇崩上四方固(3:49)△レヴァニ・マティアシビリ(ジョージア)
七戸龍〇GS指導3(GS0:30)△ファイセル・ヤバラー(チュニジア)
バルナ・ボール(ハンガリー)合技[隅落・横四方固]△ダニエル・ナテア(ルーマニア)
ロイ・メイヤー(オランダ)〇優勢[技有・内巻込]△レナト・サイドフ(ロシア)

【敗者復活戦】

レヴァニ・マティアシビリ(ジョージア)〇背負投(0:36)△ファイセル・ヤバラー(チュニジア)
レナト・サイドフ(ロシア)〇反則[指導4](2:41)△ダニエル・ナテア(ルーマニア)

【準決勝】

テディ・リネール(フランス)〇大外刈(2:45)△七戸龍
バルナ・ボール(ハンガリー)〇優勢[有効・肩車]△ロイ・メイヤー(オランダ)

【3位決定戦】

レヴァニ・マティアシビリ(ジョージア)〇優勢[指導2]△ロイ・メイヤー(オランダ)
七戸龍〇反則[指導4](4:28)△レナト・サイドフ(ロシア)

【決勝】

テディ・リネール(フランス)〇大外刈(4:53)△バルナ・ボール(ハンガリー)

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:七戸龍(九州電力)
成績:3位

[1回戦]

七戸龍〇合技[内股・大外刈](0:59)△ウルジバヤール・デューレンバヤル(モンゴル)

七戸右、デューレンバヤルは左組みのケンカ四つ。奥襟を叩くなり右内股「技有」、続いて右大外刈を引っ掛けて2つ目の「技有」。世界ジュニア王者デューレンバヤルを問題にせず。

[準々決勝]

七戸龍〇GS指導3(GS0:30)△ファイセル・ヤバラー(チュニジア)

右相四つ。引き手で突っ張ってくるヤバラーの組み手をやや攻めあぐね、「指導2」のタイスコアのまま本戦終了。GS30秒、ヤバラーが場外に出る反則を犯し3つ目の「指導」で決着。

[準決勝]

七戸龍△大外刈(2:45)〇テディ・リネール(フランス)

右相四つ。開始早々に七戸が遠間から右大外刈を引っ掛けてケンケンで前進。リネールは場外まで出て反転、体を捨てた七戸を押し飛ばす。
引き手が命のリネール、まず襟、次いで袖に持ち替えて七戸の釣り手を殺す。七戸が両袖で対抗するとリネール一旦釣り手を自ら切り、素早く七戸の奥襟に叩き込み右払腰。七戸は膝を着いて耐える。
続く攻防、七戸は遠い間合いから組み際の右大内刈。捌いたリネールは釣り手で奥襟を叩く完璧な形で七戸を圧殺するが、主審はこの行為をブロッキングと判断し、1分2秒リネールに「指導」。
リネールが引き手で襟を掴むと七戸はまたもや遠間から片襟の右大内刈、潰したリネール「腰絞め」を試みる。入りが深いように思われたが七戸意外にあっさりと逃れ「待て」。
リネール釣り手を奥襟に入れながらの右払腰、七戸は片襟の右大内刈で対抗。2分10秒過ぎ、自ら切った釣り手をクロスに叩き込んだリネールが刈り足を小さく振り上げて鋭い右大外刈。しかし心得た七戸は瞬間時計回りに位置を変えながら右足を捌いてこの技を透かし、同時に左でリネールの背中を抱いて突進。確信的な行動だったが膝を着きかけたリネールはなんと中途で踏みとどまり、逆に体を入れ換えて七戸を畳に落とす。経過時間は2分22秒。
リネール、引き手でまず襟を掴むと七戸が釣り手を奥襟に入れる瞬間に合わせて袖に持ち直す。釣り手で奥襟を狙う牽制攻防から一段ギアを上げると、組みつきながら踏み込んで思い切り右大外刈。体を捨てた自身の頭上を越えて高く刈り上げた必殺の一撃に、七戸たまらず吹っ飛び「一本」。

[3位決定戦]

七戸龍〇反則[指導4](4:28)△レナト・サイドフ(ロシア)

七戸は両襟の右大外刈に組み際の右大内刈で攻めるが、サイドフ切っては組み手優位を作り出しなかなか差がつかず。双方「指導」2つずつを失った2分57秒、巴投を偽装攻撃と取られたサイドフにのみ「指導3」。残り1分を過ぎたところで引き手で襟を掴んだサイドフが内股を放つが、七戸はすぐに右大内刈で対応。詰められない差に気持ちが切れたかこのあたりからサイドフの組み手が雑になり、残り35秒で七戸が釣り手を奥襟に入れるとサイドフ「首抜き」の反則を犯す。4つ目の「指導」が宣告されて試合終了。

※ eJudoメルマガ版6月18日掲載記事より転載・編集しています。

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