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ワールドマスターズ・ラバト女子レポート①48kg級、52kg級、57kg級、63kg級

(2015年6月17日)

※ eJudoメルマガ版6月17日掲載記事より転載・編集しています。
女子レポート①48kg級、52kg級、57kg級、63kg級
ワールドマスターズ・ラバト
■ 48kg級・ムンクバット順当に優勝、役者少なきトーナメントも日本勢2人は表彰台に上がれず
【入賞者】 エントリー14名
1.MUNKHBAT, Urantsetseg(MGL)
2.PARETO, Paula(ARG)
3.DOLGOVA, Irina(RUS)
3.LOKMANHEKIM, Dilara(TUR)
5.CHERNIAK, Maryna(UKR)
5.RISHONY, Shira(ISR)
7.MESTRE ALVAREZ, Dayaris(CUB)
7.YAMAGISHI, Emi(JPN)

ワールドマスターズ出場枠の「16」を割り込み、参加選手僅か14名のみの小型トーナメント。第1シードにはリオ世界選手権王者ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)、第3シードにチェリャビンスク世界選手権金メダリスト近藤亜美が配置され、ムンクバットの直下に山岸絵美が置かれた。

と世界王者2人にかつて階級を席巻した山岸とビッグネームが名を連ねる一方で、このところのワールドツアーで主役級の活躍を見せるシャーリーン・ファンスニック(ベルギー)とエヴァ・チェルノビスキ(ハンガリー)のパワーファイター2人、そしてロンドン五輪王者のサラ・メネゼス(ブラジル)、世界選手権優勝2回の浅見八瑠奈は不出場。非常にみどころのハッキリしたトーナメントだ。

優勝を浚ったのはムンクバット。勝負どころの初戦(準々決勝)で山岸絵美に「指導2」の優勢で勝利すると後は電車道。準決勝はシラ・シリョニー(イスラエル)を相手に「指導2」対「指導1」でリードした1分30秒過ぎに隅返で「有効」奪取、流れを切らずに「オモプラッタ」からひっくり返して抑え込みながら肘を極め腕挫脚固「一本」。決勝ではチェリャビンスク世界選手権で銀メダルを獲得したベテランのポウラ・パレト(アルゼンチン)を全く相手にせず、パレトの右背負投を潰して得意の寝技に持ち込むと、再び「オモプラッタ」で相手の腕を制する。抵抗するパレトを回し、最後は準決勝と同じく抑え込みながら脚で肘を極めて「一本」。3戦して2つの一本勝ち、一本勝ちは全て関節技というまことに「らしい」内容であっさり優勝を決めた。

ムンクバットの最大の敵と目されていた近藤亜美はなんと初戦敗退。昨年の世界ジュニア選手権決勝で勝利しているディアラ・ロクマンヘキム(トルコ)が試合開始早々に放った右背負投を止められず、膝での着地から押し込まれて「有効」失陥。「指導」2つを追い上げたもののどうしても攻撃ポイントを得ることが出来ず、有効な打開策も見いだせないまま敗戦が決まった。開始早々に斬りつけて以後の試合を優位に運ぶこの王道パターンは、近藤が昨年のグランドスラム東京決勝で浅見八瑠奈を相手に成功し、勝負師と喝采を浴びた試合運びと相似。その高評価が一気にしぼみかねない、一言で言って「まずい勝負」だった。
近藤はこれでグランプリ・デュセルドルフに続き国際大会2大会連続の初戦敗退。もともとここぞという時の爆発力と最高到達点の高さが売りで決して歩留まりの良いタイプではない選手だが、さすがにこれ以上の敗戦は以後の評価に大きく関わりかねない。アスタナ世界選手権はキャリア上の正念場だ。

近藤から金星を挙げたロクマンヘキムは次戦で敗れたが、敗者復活戦を勝ちあがって3位を確保。グランプリ・ザグレブの優勝に続き今月2度目の表彰台に上がることとなった。

山岸絵美は前述の通り準々決勝でムンクバットに敗退。勝負は拮抗していたが片手技で山場を作られ「指導1」失陥。終盤にはどうやら足を負傷し、ケンケンをしながら畳に残り続けたが残り16秒に2つ目の「指導」を失って終戦。敗者復活戦もパフォーマンス上がらずに敗れ、7位に終わった。

日本勢はトップクラス2名を注ぎ込みながら、そしてこの役者の薄いトーナメントにあってなんと表彰台すら確保出来ず。第1回ワールドマスターズ(2010年)では出場した4名が表彰台を独占し黄金時代を謳歌した日本の48kg級、ここ数年の苦戦が端的に現れた超低空飛行の大会となってしまった。

【準々決勝】

ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)○優勢[指導2]△山岸絵美
シラ・リショニー(イスラエル)○優勢[有効・袖釣込腰]△イリーナ・ドルゴワ(ロシア)
パウラ・パレト(アルゼンチン)○縦四方固(1:51)△ダヤリス・メストレ アルヴァレス(キューバ)
マリナ・チェルニアク(ウクライナ)○GS有効(GS0:59)△ディアラ・ロクマンヘキム(トルコ)

【敗者復活戦】

イリーナ・ドルゴワ(ロシア)○優勢[指導3]△山岸絵美
ディアラ・ロクマンヘキム(トルコ)○送襟絞(1:35)△ダヤリス・メストレ アルヴァレス(キューバ)

【準決勝】

ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)○腕挫脚固(2:59)△シラ・リショニー(イスラエル)
パウラ・パレト(アルゼンチン)○優勢[有効・背負投]△マリナ・チェルニアク(ウクライナ)

【3位決定戦】

イリーナ・ドルゴワ(ロシア)○小外掛(2:39)△マリナ・チェルニアク(ウクライナ)
ディアラ・ロクマンヘキム(トルコ)○優勢[指導2]△シラ・リショニー(イスラエル)

【決勝】

ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)○腕挫脚固(1:16)△パウラ・パレト(アルゼンチン)

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:近藤亜美(三井住友海上)
成績:1回戦敗退

[2回戦]

近藤亜美△優勢[有効・背負投]○ディアラ・ロクマンヘキム(トルコ)

右相四つ。開始早々近藤が組みついた瞬間にロクマンヘキムが座り込みの右背負投。釣り手側に深く入り込んでしまった近藤、一瞬の拮抗の末抜きあげられて回転。膝から着地したものの押し込まれて「有効」失陥。以後猛攻を見せるが追撃は「指導」2つに留まる。

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:山岸絵美(三井住友海上)
成績:7位

[1回戦]

山岸絵美○合技[背負投・上四方固](0:36)△エドナ・カリーロ(メキシコ)

山岸が左、カリーロは右組みのケンカ四つ。左背負投「技有」、激しく抵抗する相手を上四方固で制して「一本」。

[準々決勝]

山岸絵美△優勢[指導2]△ムンクバット・ウランツェツェグ(モンゴル)

ケンカ四つ。引き手争いから山岸は背負投、ムンクバットはこれを潰しての腕挫十字固と拮抗した攻防が続く。1分過ぎからムンクバットが片手技と巴投で山場を作りに来るが山岸これを止められず「指導」2つを失う。2つ目の「指導」失陥のシークエンスで足を負傷した模様の山岸、畳には立ち続けるが残り時間はほとんど抵抗出来ずに終戦。

[敗者復活戦]

山岸絵美△優勢[指導3]△イリーナ・ドルゴワ(ロシア)

ケンカ四つ。双方に消極的との咎で「指導」、組み手を絞ったまま試合を膠着させたとの判断で山岸に「指導2」、再び双方に消極的との判断による「指導」。累積反則「3」対「2」でドルゴワの勝ち抜け決定。

■ 52kg級・クズティナが日本勢2人立て続けに下して優勝
【入賞者】 エントリー16名
1.KUZIUTINA, Natalia(RUS)
2.HASHIMOTO, Yuki(JPN)
3.EURANIE, Annabelle(FRA)
3.GIUFFRIDA, Odette(ITA)
5.CHITU, Andreea(ROU)
5.NAKAMURA, Misato(JPN)
7.COHEN, Gili(ISR)
7.GNETO, Priscilla(FRA)

階級最強選手マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)という大看板一枚が欠けたものの、アンドレア・キトゥ(ルーマニア)にナタリア・クズティナ(ロシア)と世界選手権で優勝を争うレベルの選手が軒並み顔を揃えた豪華なトーナメント。

そんな中、冬季欧州シリーズで勝ちまくった今大会最大の注目選手マー・インナン(中国)があっさり初戦敗退。アナベール・ウラニー(フランス)の左内股で「有効」を失って優勢負け、メダルクラスの強豪と矛を交えぬまま畳を後にすることとなった。

優勝は昨年の世界選手権銅メダリスト、第2シード配置のナタリア・クズティナ(ロシア)。初戦はアディヤサンプ・ツォルモン(モンゴル)から左一本背負投「技有」、腕挫十字固「一本」と連取して快勝(3:55)。準々決勝はプリシラ・ネト(フランス)に「指導2」対「指導1」の辛勝だったが、準決勝では中村美里から左背負投「有効」を奪い、流れるような動きでまたもや腕挫十字固に極めて「一本」(1:36)。決勝の橋本優貴戦は右釣り手で橋本の脇下を「絶対離すものか」とばかりに絞りに絞り、狙いすまして左一本背負投一閃「有効」奪取。このポイントで勝利を決めた。

後半2戦はまさに快勝。かつて階級を席巻し、いまだ厄介な存在である日本勢に「クズティナ強し」との印象を植え付けるに十分な地力の高さと仕上がりの良さを見せつけての優勝だった。

橋本は準決勝のキトゥ戦を含む3戦を全て横四方固で一本勝ちするという素晴らしい内容での決勝進出だったが、失点の場面はいただけなかった。明らかに左への担ぎを狙って絞り込み、持ち直し、おそらく一撃しかないチャンスを万が一にも失敗するまいと準備したクズティナの釣り手の作りに危機感を持てずに、通常モードで状況を「流した」結果の失点。クズティナには昨年の世界選手権で組み手とは逆の左技(大腰)で橋本を投げつけたという成功体験があり、さらに橋本は今年のヨーロッパオープン・オーヴァーバルト決勝でマーの背負投に転がって左方向への担ぎが弱点とライバル達に観測されておかしくない場面を演じてしまってもいる。加えて、前戦で中村を左への担ぎで投げているという直前の事実と、逆技の得意なクズティナが、それも一瞬ではなく絞りに絞って状況を作ったという現場の材料まで加えて判断材料は4つ。なんとか反応して欲しかったというのは正直なところ。キトゥの掛け潰れをあっという間の引き込み返しに捉え、手順の早さ自体で相手を置き去りにした準決勝の鮮やかな勝ちっぷりとは好対照。常々メンタルの揺れ幅の大きさが指摘されてきた橋本の「即応力」の不足、やって来たことは出来るが不慮の事態に対応が遅れる融通の利かなさがまたもおやクローズアップされてしまった、残念な一番だった。

中村は準決勝でクズティナ、3位決定戦ではウラニーに敗れて5位という意外な結果。クズティナ戦は相手の袖を織り込んで足を蹴る、つまりは組み勝って足技を仕掛けるというローリスクで自身のみが攻勢を得る中村らしい形を続けていたが、クズティナが左に座り込みの背負投を仕掛けると、持ちこたえられずに逆側に抜け落とされ「有効」失陥、そのまま腕挫十字固を食らって終戦。3位決定戦では相四つ長身のウラニーの釣り手の袖をしっかり殺していたが、いったん切って返す刀で肩越しに背中を叩きながら大内刈というウラニーのシンプルな手立てに侵入を許し、返し損ねて体格差で投げ切られ「技有」失陥。この時点で残り時間は1分40秒近くあったが、以後の前進、組み手、足技という追撃行動は肝心の決定打を欠き、残り9秒で「指導3」を得たところまででタイムアップ。
この2試合には中村らしい試合を繰り広げたにも関わらず、技一撃でそれを白紙に戻されたという共通項がある。
かつ、クズティナ戦では得意のはずの寝技で派手な一本負け。中村は昨年のアジア大会団体戦にグランドスラム東京の橋本戦と立て続けに送襟絞で一本負けを喫し、立ち際寝際の攻防が課題とされていた中で食った一発だった。今回は投げられた後ということでスタート形が悪すぎたが、客観的には「同じ負け方」と評されても仕方のない試合。
そしてウラニー戦、注目すべきは失点の場面ではなく以後の戦い方。格下のはずのウラニーを相手に課された「1分40秒以内に必ず投げねばならない(もしくは「指導4」を得なければならない)」というタイムリミット付きの追撃戦は、中村の組み手の巧さや寝技の強さではなく、有無を言わさず投げつける大技一撃の欠落というその柔道の構造上の弱点を浮き彫りにすることとなった。TV放送を見て「中村に追いかける展開はきつい」と思ったファンの方も多かったのではないだろうか。

というわけで、日本勢は2人がともに弱点がクローズアップされた形の大会。橋本は自身が抱く試合のシナリオから外れた場合の「即応力」という積年の課題、中村は丁寧に組み手と状況を積み上げて足技で崩すという「北京-ロンドン期型」の柔道における、無理やりにでも相手を投げつける一発(もしくは4分に短縮された試合時間の中でも「指導4」を得られるだけの早い展開力)の欠如。
ルール改正の波に乗ったパワーファイター型が幅を利かす52kg級にあって、かつて王国を築いた日本勢の退潮はここに至り明らか。このやり方で本当に戦っていけるのか。橋本が2位、中村が5位という結果以上に、厳しい内容を突き付けられた大会だった。

【準々決勝】

アンドレア・キトゥ(ルーマニア)○送足払(1:47)△アナベール・ウラニー(フランス)
橋本優貴○横四方固(1:58)△ギリ・コーエン(イスラエル)
ナタリア・クズティナ(ロシア)○優勢[指導2]△プリシラ・ネト(フランス)
中村美里○GS指導1(GS1:04)△オデット・ジュッフリダ(イタリア)

【敗者復活戦】

アナベール・ウラニー(フランス)○後袈裟固(2:41)△ギリ・コーエン(イスラエル)
オデット・ジュッフリダ(イタリア)○優勢[指導2]△プリシラ・ネト(フランス)

【準決勝】

橋本優貴○横四方固(1:44)△アンドレア・キトゥ(ルーマニア)
ナタリア・クズティナ(ロシア)○腕挫十字固(1:56)△中村美里

【3位決定戦】

アナベール・ウラニー(フランス)○優勢[技有・大内刈]△中村美里(日本)
オデット・ジュッフリダ(イタリア)○優勢[有効・内股透]△アンドレア・キトゥ(ルーマニア)

【決勝】

ナタリア・クズティナ(ロシア)○優勢[有効・一本背負投]△橋本優貴

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:中村美里(三井住友海上)
成績:5位

[1回戦]

中村美里○合技[小外刈・小内刈](2:18)△ヤーナ・スンドベルグ(フィンランド)

中村が左、スンドベルグ右組みのケンカ四つ。「指導1」を奪い合うが、中村がここから加速。小外刈「技有」、左小内刈「技有」と立て続けに奪って快勝。

[準々決勝]

中村美里○GS指導1(GS1:04)△オデット・ジュッフリダ(イタリア)

左相四つ。互いに袖を絞り合い、ともに技は仕掛け合うが決定打はなし。GS延長戦でも攻撃を止めない中村の姿勢を主審が評価し、ジュッフリダへの「指導」宣告で決着。

[準決勝]

中村美里△腕挫十字固(1:36)○ナタリア・クズティナ(ロシア)

ケンカ四つ。中村両袖を絞り、相手を動かしながら送足払、小外刈、小内刈と足技を繰り出すが主審はこの絞り込みを防御行動と判断して中村に「指導」を宣告する。中村手立てを変えて奥襟を叩くが、接近戦は望むところのクズティナは叩かせたままにじり寄るように前進。中村は自身の頭を下げ、相手の釣り手を噛み殺すことでリスクコントロールを図るが、主審は即断、双方に消極的との咎で「指導」を宣告する。
クズティナ手立てを変えて右引き手で背中を掴んで一旦振り回し、担ぎ技に打って出る。中村は立ったまま潰し、クズティナも即座に立ちあがり攻防継続。中村はクズティナの左袖を織り込んで左構えを強い、足技の探りを連発。組み勝った形で足技を仕掛ける、紛うことなき中村の形。ところがクズティナが織り込まれた腕をそのままに左背負投を仕掛けると釣り手側に回避した中村は下向きの力に耐えられず、逆側に抜け落とされる形でゴロリと一回転。主審が「有効」を宣告する間にクズティナは腕を抱えて腕挫十字固。流れるような動きで「一本」。

[3位決定戦]

中村美里△優勢[技有・大内刈]○アナベール・ウラニー(フランス)

左相四つ。中村は長身のウラニーの袖をしっかり管理して1分10秒「指導」先行。ウラニーのクロス組み手を掻い潜って左小内刈で転がすなど順調に試合を運ぶ。しかし2分過ぎ、釣り手の袖を殺されたウラニーは一旦これを切り離し、返す刀で釣り手を肩越しクロスに叩き入れながら左大内刈を引っ掛ける。中村は背中と首を抱いて左ハンドルに押し返そうとするが身長さゆえか力が伝わり切らず、踏み止まったウラニーにケンケンで押し込まれて体勢を悪くしてしまう。中村背を抱いた右手を離してバランスを取ろうとするが既に体勢が悪すぎ、ジャンプして体を捨てたウラニーの力をまともに受けて「技有」失陥。以後前進、圧力、足技に巴投と仕掛けるが、その追撃は残り9秒で3つ目の「指導」を奪うに留まる。5位という意外な成績で終戦。

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:橋本優貴(コマツ)
成績:2位

[1回戦]

橋本優貴○横四方固(1:50)△アンジェリカ・デルガド(アメリカ)

右相四つ。右小内刈をきっかけに寝技に引き込み、下からめくり返して横四方固。

[準々決勝]

橋本優貴○横四方固(1:57)△ギリ・コーヘン(イスラエル)

右相四つ。組み手争いの中で相手が掛け潰れたところを逃がさず、腕挫十字固を晒して相手に足を与えて絡ませ、引き抜いて横四方固「一本」。

[準決勝]

橋本優貴○横四方固(1:44)△アンドレア・キトゥ(ルーマニア)

右相四つ。相手の右内股がすっぽ抜けて両者が伏せたチャンスを見逃さず、あっという間に引き込み返し。キトゥは手順の早さについていけずもはやほとんど無抵抗。「一本」。

[決勝]

橋本優貴△優勢[有効・一本背負投]○ナタリア・クズティナ(ロシア)

ケンカ四つ。クズティナ、1分30秒過ぎにこれまでと手立てを変えて右釣り手で脇下を強く絞る。握り込み、探ってさらに絞り込みと拘束を一段、まだ一段と強くするが橋本はこれを受け入れ、ゆるやかに左小内刈を探り入れて通常運行。準備を終えたクズティナ狙い通りに左一本背負投、橋本まともに受けて「有効」。以後「指導2」まで追い掛けるが攻撃ポイントの気配なく終戦。

■ 57kg級・松本薫らベテラン次々敗退、ドルジスレン・スミヤが2連覇飾る
【入賞者】 エントリー16名
1.DORJSUREN, Sumiya(MGL)
2.RECEVEAUX, Helene(FRA)
3.CAPRIORIU, Corina(ROU)
3.UDAKA, Nae(JPN)
5.BEAUCHEMIN-PINARD, Catherine(CAN)
5.KARAKAS, Hedvig(HUN)
7.FILZMOSER, Sabrina(AUT)
7.VERHAGEN, Sanne(NED)

ロンドン五輪金メダリスト松本薫にチェリャビンスク世界選手権王者の宇高菜絵が顔を揃え、周囲をワールドランキング1位のテルマ・モンテイロを始めとしたワールドツアーの上位常連が固める。ラファエラ・シウバ(ブラジル)とオトーヌ・パヴィア(フランス)が欠けたが、準世界選手権と呼んで差し支えない陣容のトーナメント。強豪の数が多く毎大会それなりの陣容が揃う57kg級だが、宇高と松本の同時参加で一気に豪華さが増した感あり。

しかし1回戦でモンテイロと松本があっさり敗戦。モンテイロはオランダの新鋭サンナ・フェルハーヘンに試合終了間際に内股「有効」を食ってトーナメントから脱落。松本はベテランのサブリナ・フィルツモザー(オーストリア)と対戦、中盤に右、左と立て続けに牽制の足技を入れたところに右大内刈を合され意外なほどにあっさり転がり「有効」失陥。必死の追撃も「指導2」を得るに留まり、1試合をこなしたのみでワールドツアーの畳から去ることとなってしまった。

相手に悟られていても絶対に取れる一撃や特異なフィニッシュホールドといった尖った特徴がない松本の武器は、総合力と勝負力。得難い武器であることは間違いないが、この手の強さは言語化や数値化の難しい、現在位置の測りにくい性質の武器でもある。そして「それしか武器のない」松本の戦いにおいて、その特質は、特に不調時にあっては明確な得点の手立ての不足として立ち現れることとなる。追いかける展開で「ここにさえ嵌れば取れる」という、頼るべきものの少なさを見せてしまった今回の敗戦は、まさしくその「裏面」が露見したものと評して良いのではないだろうか。

そして、北京-ロンドン期にあっては勝ち続けることで周囲にその強さを印象づけ、それをテコにさらに以後の試合を優位に運ぶという好循環にあった松本が、今回のような負け方を晒してしまったことは痛い。「強さが次なる強さを呼ぶ」松本の戦い方が貫けなくなって来ているのだ。
また、組むだけで相手が下がる圧倒的な地力の高さと、相手の弱点と見れば自らの形を崩してでも殺しに掛かる意外性という、ロンドンまでの松本の柔道を支えていた二大要素が「若さ」をテコにしたものであり、ここ2年間鳴りを潜めつつあるのも非常に気に掛かる。この2つと引き換えに獲得すべきものは年齢と経験に応じた総合力の高さということになるはずだが、現在の松本の売りであるこの総合力は、果たして失いつつある長所2つに見合うだけのものなのかどうか。
とはいえ、松本のここ一番での瞬発力と57kg級のライバル達のレベルが決して高くないこととを考えれば、おそらく来年にあっても「勝負できる」力関係の留保までは可能なはず。4分制施行以降2年が経ち、「試合を流す技術」「決定的な場面を先送りしながら優位を確保する戦術」のレベルが確実に上がっている中で、松本は五輪をどう勝ち抜いていくべきなのか。アスタナ世界選手権ではこのビジョンをしっかり見つけることが、勝敗を越えた最大の課題だ。

第2シードのマーティ・マロイ(アメリカ)も初戦でエレン・ルスヴォ(フランス)に「指導1」の優勢で敗れ、荒れるトーナメントを勝ち上がって優勝を果たしたのは前回大会(2013年)を制しているドルジスレン・スミヤ(モンゴル)。1回戦はネコダ・スミスデヴィス(イギリス)から右腰車と左袖釣込腰で2つの「有効」を奪って勝利、準々決勝は強敵ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)から場外の「指導」1つを奪って辛勝、そして宇高菜絵との準決勝は互いに「指導2」を失って迎えたGS延長戦29秒に左袖釣込腰「技有」を奪って競り勝ち、決勝のエレン・ルスヴォ(フランス)戦は左袖釣込腰と左一本背負投で良く攻め、一時は「抑え込み」の宣告を受けるなど攻勢。結局終盤に奪った「指導1」によって優勢勝ちを果たし、ワールドマスターズ2連覇を決めた。アジア選手権で玉置桃に敗れて表彰台を逃したばかりのドルジスレンであったが、改めてここ一番の力の高さを見せつけた形の優勝。57kg級はこれぞという強豪が数多くひしめく大混戦のさなかにあるが、ツアーの頂点に立つだけの爆発力を持つ役者となると、実は決して多くない。その中で、このところ勝ち切れなかったドルジスレンが世界の頂点を争う力のあるアクターであることが再確認出来た大会であったと言える。

宇高は前述の通り準決勝で敗れたが3位決定戦は若手世代の旗手キャサリン・ブーシュミン ピナード(カナダ)を破って表彰台は確保。4試合中、得意の右大外刈を狙い易い相四つの相手が1試合であったこともあり、いずれの試合も辛勝。勝利した3試合のうち2試合が「指導」累積による優勢勝ちという今大会の内容を、苦しいながらも表彰台を確保したと見るか、宇高らしい爆発力に欠けたと観察するかの判断は非常に難しいところ。ただし、30歳となった宇高が一線で戦い続けるには常に力を証明する必要があるという観点からすれば、少々食い足りない大会であったのは間違いない。ひとまず次のチャンスを得る権利は確保した、といったところ。

【準々決勝】

宇高菜絵〇優勢[指導3]△サンナ・フェルハーヘン(オランダ)
ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇優勢[指導1]△ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)
エレン・ルスヴォ(フランス)〇優勢[有効・隅落]△キャサリン・ブーシュミン ピナード(カナダ)
コリナ・カプリオリウ(ルーマニア)〇優勢[有効・大腰]△ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)

【準決勝】

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇GS技有・袖釣込腰(GS0:29)△宇高菜絵

エレン・ルスヴォ(フランス)〇合技[大内刈・横四方固](4:00)△コリナ・カプリオリウ(ルーマニア)

【3位決定戦】

コリナ・カプリオリウ(ルーマニア)〇GS指導1(GS3:16)△ヘドウィグ・カラカス(ハンガリー)
宇高菜絵〇優勢[指導2]△キャサリン・ブーシュミン ピナード(カナダ)

【決勝】

ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)〇優勢[指導1]△エレン・ルスヴォ(フランス)

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:松本薫(ベネシード)
成績:1回戦敗退

[1回戦]

松本薫△優勢[有効・大内刈]〇ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)

右相四つ。2分過ぎに左出足払を右大内刈に切り返され「有効」失陥。足技、寝技で追撃するが「指導2」を奪ったのみで試合終了。

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:宇高菜絵(コマツ)
成績:3位

[1回戦]

宇高菜絵○優勢[技有・大内刈]△レティシア・ブロ(フランス)

宇高右、ブロは左組みのケンカ四つ。両者に「取り組まない」咎による「指導」が与えられた後、宇高が得意の右大外刈で「技有」を奪う。終了間際にブロに「極端な防御姿勢」による「指導2」が与えられ、タイムアップ。

[準々決勝]

宇高菜絵○優勢[指導3]△サンナ・フェルハーヘン(オランダ)

ケンカ四つ。フェルハーヘンに「取り組まない」咎の「指導」、袖を絞り込む膠着創出で「指導2」と立て続けに反則が与えられる。以後、宇高に消極の「指導」、双方に「取り組まない」ことによる「指導」宣告。累積「3」対「2」で決着。

[準決勝]

宇高菜絵△GS技有・袖釣込腰(GS0:29)△ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)

ケンカ四つ。「取り組まない」咎で双方に2つの「指導」。互いに攻め切れないままGS延長戦に突入、29秒左袖釣込腰に捕まり「技有」失陥で敗戦。

[3位決定戦]

宇高菜絵〇優勢[指導2]△キャサリン・ブーシュミン ピナード(カナダ)

右相四つ。大外刈を晒すフェイントに相手が委縮し、36秒「指導」奪取。直後ブューシュミンピナードが両袖を掴んで放った左袖釣込腰を宇高が思い切った右大外刈に吸収すると、以後ブーシュミンピナードは掛け潰れが増え試合は宇高ペース。宇高が大外刈を狙って組みに行くと相手が嫌がり、1分49秒「取り組まない」咎で2つ目の「指導」。以後展開が動くことはなく、ポイントの積み上げもなく試合終了。

■ 63kg級・田代未来が全試合「一本」で最高権威大会を制覇
【入賞者】 エントリー15名
1.TASHIRO, Miku(JPN)
2.UNTERWURZACHER, Kathrin(AUT)
3.BELLARD, Anne-Laure(FRA)
3.TRAJDOS, Martyna(GER)
5.GERBI, Yarden(ISR)
5.GWEND, Edwige(ITA)
7.LABAZINA, Marta(RUS)
7.YANG, Junxia(CHN)

田代未来が全4試合を一本勝ち(1つの「指導4」勝ちを含む)という素晴らしい内容で、日本勢女子唯一の優勝を飾った。1回戦はハンナ・マーティン(アメリカ)に左小外刈と左大外刈でプレッシャーを掛け、4つの「指導」を奪って勝利。準々決勝はもっか好調のエドウィッジ・グウェン(イタリア)の右内股を返してまず「有効」、終盤に左小外刈で「有効」を追加するとそのまま崩袈裟固に抑え込んで一本勝ち。そして本日第1シードの13年リオ世界選手権王者ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)を畳に迎えた注目対決では開始早々に左内股、ゲルビがまたいで凌ごうとしたところをケンケンで追い込み、踏ん張る足を払い上げて左払腰「一本」。僅か19秒、ゲルビが寝転がったまま畳を叩き、顔を覆って悔しさを露わにする鮮やかな秒殺劇で決勝進出決定。

大一番を乗り越えてあとは結果を残すのみとなった田代、迎える決勝の相手はカトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)。田代は30秒過ぎに強烈な左大内刈で「有効」を奪うと以降も自信溢れる動きで自在に試合を展開。残り1分過ぎに両袖の左小外刈を抜きあげて相手を崩すと早い動きの「腰絞め」から寝技の攻防をスタートし、長い攻防の末に残り12秒で横四方固に抑え込む。ここまでの攻防で既に心を折られていたウンターヴルツァハーは早々に「参った」を表明、田代の優勝が決まった。

田代は内容、結果ともに満点に近い出来。昨年の世界選手権で田代を逆転で破り「ここが違うよ」とばかりに自身の頭を指さして見せたゲルビに対して決めた「倍返し」ともいうべき強烈な「一本」は日本のファンの溜飲を下げるに十分なものであった。

ゲルビは世界選手権で2大会連続決勝に進出、いずれも決勝を戦ったクラリス・アグベニュー(フランス)とともに実績的には「二強時代」を築きつつあるが、勝ち上がりの内容は競り合いが多く、アグベニューほどの圧倒的な強さはなかった。今年のワールドツアーでも集中力を欠いて意外な負けを喫する場面が増えており、その意味では、田代がゲルビの先行する「名前」のメッキを大舞台で剥がした、今後の世界の63kg級戦線に大きな影響を与える一番であったと言える。

田代個人としても大きなタイトルだが、日本代表にとってもこの優勝は朗報。なんのかんので北京-ロンドン期と代表の名前と戦い方の構図がさほど変わらない階級が多く、力の最高到達点をリオまで「持たせる」ことが代表全体の大枠の様相となっているこの状況にあって、この先数年の上向きベクトルが期待できる、かつ既に表彰台に手を掛けるレベルにある田代の存在は心強い。まことに価値ある、21歳田代の快勝劇であった。

ほか、今季無敵のティナ・トレステニャク(スロベニア)に唯一土をつけているアリス・シュレシンジャー(イギリス)は初戦でマルチナ・トラジドス(ドイツ)に左内股「有効」、片手絞「一本」と失って完敗。トラジドスは次戦でアンロール・ベラル(フランス)に「有効」対「技有」で敗れたが、3位決定戦で傷心のゲルビに一本勝ちを果たして表彰台を確保した。

【準々決勝】

ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)〇優勢[指導3]△ヤン・ジュインシア(中国)
田代未来〇崩袈裟固(4:00)△エドヴィッジ・グヴェン(イタリア)
カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)〇GS指導1(GS0:59)△マルタ・ラバジナ(ロシア)
アンロール・ベラル(フランス)〇優勢[技有・内股]△マルティナ・トラジドス(ドイツ)

【準決勝】

田代未来〇内股(0:19)△ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)
カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)〇優勢[有効・小外掛]△アンロール・ベラル(フランス)


【3位決定戦】

アンロール・ベラル(フランス)〇優勢[指導2]△エドヴィッジ・グヴェン(イタリア)
マルティナ・トラジドス(ドイツ)〇合技[内股・袈裟固]△ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)


【決勝】

田代未来〇横四方固(3:52)△カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)

【日本選手勝ち上がり】

日本代表選手:田代未来(コマツ)
成績:優勝

[1回戦]

田代未来〇反則[指導4](2:12)△ハンナ・マーティン(アメリカ)

左相四つ。組み勝って左小外刈、左大外刈でプレッシャーを掛け「指導」を連続奪取。

[準々決勝]

田代未来〇崩袈裟固(4:00)△エドヴィッジ・グヴェン(イタリア)

ケンカ四つ。開始早々相手の右内股を隅落で返して「有効」。終盤左小外刈で2つ目の「有効」を奪い、そのまま崩袈裟固に抑え込んで一本勝ち。

[準決勝]

田代未来〇払腰(0:19)△ヤーデン・ゲルビ(イスラエル)

ケンカ四つ。開始早々に左内股、ゲルビはまたぐが田代は乗り越えたゲルビを払腰の形で投げ切り「一本」。

[決勝]

田代未来〇横四方固(3:52)△カトリン・ウンターヴルツァハー(オーストリア)

左相四つ。30秒過ぎ、ウンターヴルツァハーが奥襟を狙って釣り手を叩き入れようとした刹那、田代は先に仕掛けて左大内刈。ケンケンで投げ切って「有効」。「技有」あるいは「一本」でおかしくない強烈な一撃。
立ち振る舞いに自信溢れる田代は以後も自在に試合を展開。終盤に両袖の駆け引きから左小外刈で相手の足を抜きあげて崩すと、すかさず「腰絞め」から寝技の攻防をスタート。長い攻防の末に残り12秒で横四方固に抑え込む。「抑え込み」宣告から4秒立ったところでウンターヴルツァハー「参った」。

※ eJudoメルマガ版6月17日掲載記事より転載・編集しています。

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