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平成27年全日本柔道選手権・戦評

(2015年5月4日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版5月4日掲載記事より転載・編集しています。
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戦評
平成27年全日本柔道選手権
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2回戦、原沢久喜が橋本憲宗を内股「一本」

優勝争いに絡むと目されたのは前日の公式記者会見に招かれ、優勝候補の立場を「公認」された形の強豪5名。いずれも順当に、そしてそれぞれ持ち味を発揮してベスト8に進出した。

原沢久喜(日本中央競馬会)は2回戦で橋本憲宗(岩手県警)と対戦、明らかに返し技を狙って待ち構える相手に動ぜず、2分24秒に鮮やかな内股一閃「一本」を奪う好スタート。3回戦はこれも腰を抱き、奥襟を叩いてと返し技の一発を狙う重量選手神谷快(筑波大3年)を相手に丁寧に試合を作り続け「指導4」(4:48)を奪って勝利。丁寧さと技一発の切れ味、二つながらに発揮しての準々決勝進出。

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2回戦、王子谷剛志が岩田勝博から浮落「技有」

昨年度優勝の王子谷剛志(旭化成)は初戦で中量級の相四つ・岩田勝博(兵庫県警)の気風の良い柔道に手を焼いたが、場外の「指導」2つを得た後の3分39秒に「足を当てない支釣込足」(浮落)で「技有」を獲得、そのまま横四方固に抑え込んで合技の一本勝ち(3:55)。3回戦はケンカ四つの井上貴裕を相手に組み手の競り合いに嵌り、「指導3」対「指導1」の反則累積差の辛勝でベスト8入り決定。ハイコンディション時に比べて少々動きが固い印象。

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2回戦、西潟健太が野村光汰から左払腰「有効」

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3回戦、西潟がウルフアロンを「逆の浮腰」で振り回し投げて「一本」

昨年大会3位、今季選抜体重別王者の西潟健太(旭化成)は2回戦で野村光汰(三光不動産)と対戦。両襟、肩口と組み手の形を探ると1分2秒に無造作にスピードアップ、左大外刈で捻じ伏せてまず「有効」。2分59秒には狙い済ました左払腰「有効」から得意の袈裟固で圧殺して一本勝ち(3:17)。3回戦はウルフアロン(東海大2年)の巧みな組み手と足技に粘られたが、4分46秒ついに左釣り手で奥、引き手で脇を差す絶好の形に捕まえる。ここぞとばかりに放った右に腰を切り返しての浮腰(公式記録は浮落)に力自慢のウルフが宙を舞い、豪快な「一本」。これぞ西潟という豪快な一発だった。ガニ股で爪先はほとんど平行に開き、膝は伸びて硬く、足はペタリと踵まで畳に着いたいわゆる「ベタ足」。しかしこの両膝を外側に向けたガニ股が左右への大技という異色の攻撃を可能ならしめ、「これが一番やりすい」とばかりの異形のスタンスが、セオリーなど関係なく規格外の「力」を生む。まさしく獣人柔道の面目躍如、堂々今年もベスト8入り決定。

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2回戦、上川大樹が鈴木誉広から右内股「技有」

膝の負傷が心配された上川大樹(京葉ガス)は大型選手の鈴木誉広(ALSOK)との2回戦を「一本」で滑り出す。右相四つの蹴り崩し合いによる膠着から抜け出した鈴木の右大外刈を右内股に切り返して「技有」。相手の技を自身の大技に変換するいかにも上川らしいこの一撃から横四方固に移行して僅か42秒で勝利決定。しかし3回戦は仇敵百瀬優(旭化成)を相手に組み手争いと足技の蹴り崩しという競り合いに嵌ったまま山場少なく試合を終えてしまい、おそらくは中盤に百瀬を腹這いに崩した出足払一発の差により旗判定3-0で勝利するという辛勝。出来と評価は次戦以降に持ち越しという体で準々決勝進出。

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2回戦、七戸龍が海老泰博を右大外刈「技有」

七戸龍は2回戦で81kg級の業師海老泰博(旭化成)と対戦、ケンカ四つの相手にじっくり組み手を進めると、初めて引き手で袖、釣り手で奥襟の完璧な形を作り上げるなり一気にスピードアップ。ファーストアタックの左大外刈で引っ掛け、踏みこみ、そして吹っ飛ばして2分24秒「技有」奪取。そのまま袈裟固に抑え込み合技「一本」の快勝。続く3回戦は大会屈指の粘戦ファイター穴井亮平(東海大熊本星翔高教)に粘られたが、3分4秒に右相四つの相手を引き寄せながら片襟の右大内刈でドスンと叩き落として「有効」を奪いこのポイントを以て勝ち抜け決定。2戦通じて慌てず、勝負どころをしっかり見極める冷静さを見せてベスト8に名乗りを挙げた。

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準々決勝、原沢久喜が高橋和彦を内股「一本」に仕留める

準々決勝のカードは原沢-高橋和彦(新日鐵住金)、王子谷-上田轄麻(明治大4年)、西潟-石井竜太(日本中央競馬会)、そして上川-七戸の4試合。

第1試合は原沢が右、高橋が左組みのケンカ四つ。引き手争いの中54秒双方に「取り組まない」咎で「指導」、3分15秒には積極的戦意の欠如との判断でこれも双方に「指導2」が与えられるが、技、組み手とも状況を作り上げつつあるのは明らかに原沢。3分半過ぎ、原沢は釣り手で奥、そしてここまでなかなか良い形で取れなかった引き手で内中袖を確保する。持つなり引きずり出しながらの右内股一閃、両者がともに宙に浮く勢いで決まった鮮やかな一撃は文句なしの「一本」。試合時間3分41秒、丁寧に状況を作り、行くべき瞬間が訪れるなりトップスピードの一撃で試合を決める。原沢、完璧な試合でベスト4進出決定。

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準々決勝、王子谷剛志は上田轄麻の小内刈を出足払に捉え直し「有効」

混戦ブロックを見事に勝ち上がってきた上田が王子谷に挑戦する第2試合は王子谷が右、上田が左組みのケンカ四つ。23秒上田に押し出しの「指導」、2分19秒は引き手争いを引き取る形で双方に「取り組まない」判断の「指導」、3分18秒には上田に積極的戦意の欠如により3つ目の「指導」が与えられる。後のなくなった上田は4分48秒に引き出しの左小内刈を放つがこれを透かし捌いた王子谷が反応良く出足払を当てて決定的な「有効」を奪取。そのまま試合はスコアの積み上げなく終了し、王子谷が「有効」優勢を以て準決勝進出を決めた。王子谷は、前戦に引き続き勝負どころの詰めが甘く、いまだエンジン掛かり切らぬ印象。

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準々決勝、西潟健太が石井竜太を左払腰で捻じ伏せ「技有」

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西潟健太の支釣込足を石井竜太が捻り返し「技有」を取り返す

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取った石井が浴びせた勢いをそのまま利用し、西潟がめくり返して横四方固

第3試合は「獣人柔道」身長193cm体重130kgの西潟と、こちらも193cm、135kgの巨漢石井竜太の両雄がガップリ組み打つ、胸躍る一番。西潟が左、石井が右組みのケンカ四つ。開始早々に石井がステップを切って思い切り良く右足車、西潟大きく崩れ観客席はドッと沸く。石井はさらに釣り手を下から上に潜らせる完璧な形からケンケンの右大内刈を放ち、あくまで決め切るべく場外まで追い掛ける。どころが西潟は追いこまれながら石井の体を抱きとめて思い切り返して、背中から叩き付ける。これは場外でノーカウントとなったが、まさしく「一本」級の技。巨人2人によるパワフルな撃ち合いに観客のボルテージは最高潮。50秒、釣り手を上から入れた西潟が力任せに左払腰の大砲一発、石井宙を舞って「技有」。
西潟一気に勝負を決めんと直後の1分11秒に思い切り踏み込み支釣込足。石井大きくバランスを崩し勝負あったかに見えたが、石井は落ち際に体を切り返し、ほとんど体を捨てていた西潟はこれを残せず背中から落ちて石井の「技有」。あわや「一本」で試合終了かという強烈な一撃だった。しかし、観客のどよめき収まらぬ中、横四方固に相手を固めたのは投げられたはずの西潟。投げた石井が被さって来たその勢いを殺さず、めくり返して「乗り込み過ぎた」石井の体の上に被った。石井必死にもがくが西潟縋り付いて離さず、1分26秒合技「一本」で西潟の勝利が決まる。これぞ全日本選手権という巨人同士の撃ち合いに日本武道館を埋めた観衆、関係者は大拍手で両者を称える。少年世代に早熟な戦術派が増えることが危惧される現代柔道の中にあって、もっとも注目される全日本選手権という場で現出した、いまや少年柔道ですら稀なノーガードの撃ち合い。投げるという本質的行為の魅力、「闘い」というものの原点を改めてファンに見せつけるような好一番であった。

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準々決勝、七戸龍が上川大樹を大内刈「一本」で秒殺

そして準々決勝最終戦では昨年世界選手権代表を務めた七戸と上川がマッチアップ。西潟-石井戦が見せつけたものが「闘い」であればこの試合が示したものは「勝負」。始めの声が掛かるなり七戸が上川の両襟を掻い潜り片襟の右大内刈、まさしく先手必勝のこの一刀を上川かわせず、左後隅に背中から転がり落ちて「一本」。試合時間僅か12秒、七戸会心の一本勝ちで準決勝進出決定。斬られる前に斬る。相手が体勢整う前に、100%の一撃を浴びせた七戸は見事。上川は膝の負傷によるコンディション不良を押して戦っていたと思われるが、そのキャパシティ内に収まる限界水域を七戸の技の威力があっさり乗り越えたという印象の一番だった。

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準決勝、原沢は両足を地に着ける右釣込腰を主戦武器に攻める

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不利を打開せんと王子谷が右大外刈、原沢は大外返で迎え撃つ

準決勝第1試合は同学年で積年のライバルである原沢と王子谷が対戦。
両者右組みの相四つ。原沢、組み手を争わず一呼吸で奥襟を掴んで形を作ると近距離から思い切り右大外刈。これは王子谷が抱いて隅落で返し掛かるが、原沢まさしくやる気十分。原沢は奥襟を掴むと右釣込腰を連発して1分6秒王子谷に「指導1」。原沢さらに釣り手から持って「出し投げ」の形の右内股で王子谷を崩し、両襟の圧力の掛け合いから支釣込足で蹴り崩して相手の膝を畳に着かせるなど手立てを変えながら攻撃継続。大内刈、釣込腰、払巻込と技を繋げた2分18秒には王子谷に「指導2」が与えられる。こうなれば技一撃で逆転するしかない王子谷は3分過ぎに釣り手の肘を上げて思い切り右大外刈に乗り込む。しかし原沢、この王子谷最大の得意技を踏み止まって真っ向から大外返で迎え撃ち、双方たたらを踏んでポイントはなし。息を詰めてこの攻防を見守った観衆、一瞬の間あって大拍手でその撃ち合いを称える。
原沢は以後も足技で崩し、組み手を作り、そして右釣込腰を放ってと試合の主導権を握り続け、残り1分となったところでは完璧な組み手で王子谷を押し込むことに成功。これを受けて5分4秒、王子谷に場外の「指導3」が宣告される。王子谷ここに至ってギアを明らかに一段上げ、ステップを切っての支釣込足で原沢を伏せさせ、5分45秒には再び原沢の体の裏に乗り込んで伝家の宝刀右大外刈。しかし原沢立ったままこの技を耐えきり、王子谷が畳に落ちて「待て」。緊張から解放された観客から一斉にどよめき、そして思わずため息が漏れる。
残り時間がほとんどないところで王子谷が座り込みの左背負投から払巻込。終了ブザーが鳴った後に原沢が転がったがこれは勿論ノーポイント、原沢「指導3」の優勢を以て宿敵王子谷の壁を突破、見事決勝進出を決めた。王子谷は連覇の夢潰える。

この試合は原沢の覚悟と戦略が勝った。片足技を抱いて釣り手側に返す「隅落」の得意な王子谷に対して、原沢は敢えて両足を地に着ける釣込腰を主戦武器に選択しこの手を打たせなかった。開始早々に大外刈を打って王子谷が隅落の形で返しかかる場面があったが、このことで王子谷は「来たら隅落」というイメージを頭に残してしまい、原沢の連続攻撃を許してしまった感あり。そして原沢、両足を着けて仕掛けるという精神的な立脚点は作ったものの、王子谷の前で反転して自らの背中をさらすリスクのある前技をこれだけ仕掛けるという覚悟は並々なものではない。大戦略を遂行するだけの実力、そして何より懐に呑んだ覚悟の高さが勝因という一番だった。
敗れた王子谷は、序盤からエンジンかからぬ様子でどうやら不調であったが最後までそれを修正することが出来なかった。不調なりに、原沢戦の最終盤で見せたようながむしゃらな連続攻撃、あるいは3度見せた乗り込みの右大外刈を仕掛け続けることでチャンスを掴むというシナリオもあったのではないかと思うが、原沢の張った足技の弾幕の鋭さに度々大きく崩され、その都度形と気持ちを作り直すことを与儀なくされてしまいそのきっかけを失ってしまった。原沢の足技が柔道の王道セオリーである「足から入る」という試合構築上の機能を良く果たしたとも言えるし、王子谷の不調は実はその生命線である受けの強さまで蝕み、結果持ち味の思い切りの良さや徹底前進運動を不可能にさせたと評することも出来る。
いずれ、同学年のライバル同士が晴れの舞台で堂々撃ち合った、素晴らしい一番であった。

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七戸龍が西潟健太を小外刈「一本」に仕留める

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七戸の小外刈(別角度)

準決勝第2試合は西潟健太と七戸龍がマッチアップ。現在西潟が5連勝中と圧倒的な相性の良さを見せるカードだ。
西潟左、七戸は右組みのケンカ四つ。七戸、釣り手を下から持って出足払、40秒には内股フェイントの右小外刈、右大内刈と先んじて攻める。
七戸の厳しい組み手管理を見てとった西潟、敢えて七戸に奥襟を先に持たせて組み合いに巻き込み、ガップリ両襟を持つ。七戸頭が下がるがジリジリと持ち直し、フェイントの右小外掛に打って出る。しかしここまでの過程に主審が断を下し、直後の1分6秒七戸に積極的戦意に欠けるとの咎で「指導1」。
西潟上から釣り手を入れるが、七戸下から回した釣り手の手首をそれ以上に高く挙げて強気に迎え撃ち、右大外刈で西潟を崩す。ここで西潟は一計を案じ、得意の逆方向(右)の払巻込に打って出る。しかし七戸の高い釣り手に阻まれる形で自ら崩れて潰れ「待て」。
西潟、両襟を掴むが七戸あくまで釣り手の「高さ」で対抗。相手に持たせたまま自身は横襟付近をしっかり掴んで乾坤一擲の一発を狙う。そして西潟の手がやや詰まった3分1秒、七戸が前技フェイントを入れた右小外刈一閃。刈り足を絡みつかせ、体を投げ出すように決めたこの一撃に西潟の巨体は剛体となって左後隅に落ち、主審は迷わず「一本」を宣告。

七戸、天敵の西潟を「一本」で下して難関突破。見事決勝進出を決めた。

七戸はこれまでさほどの使用歴がない右小外刈を明らかに意図してこの大舞台に持ち込んだが、その磨かれた技や「新しいものを持ち込んだ」という戦略自体よりは覚悟の強さと、あくまで自分が攻めて勝つという強気が勝利を呼び込んだという感あり。端的にそれが現れたのが、圧殺固定を狙う西潟の両襟組み手に抗した釣り手の高さだ。防御だけを考えるのであれば切り離しに絞り落とし、肘を載せての拮抗圧力と選択肢は他にあったかと思われるが、相手に持たせたままでも自分がより高い位置を得ようという攻撃型の選択が流れを呼び込んだ。西潟が「逆の巻き込み」を試みた場面にこれは端的。西潟はこの釣り手の高さに回転が阻まれて自ら崩れ、必殺のはずの奇襲を手応えないまま終えてしまっている。自在に左右を使い分ける西潟に対して七戸が「右は大丈夫」と感触を得た、この攻防が直後の思い切った右小外刈の伏線となったのではないだろうか。そして勝負を決めた右小外刈も、高い右釣り手による頭の拘束あればこその「一本」であった。
「獣人柔道」西潟は初優勝ならず。「あまりプレッシャーを感じる方ではない」と自ら語る自然体ぶりが躍進の一因であったが、どうしても全日本選手権を欲しいと幾度も跳ね返され、這い上がった「選士」達の覚悟と執念が、その「自然体」の地力を上回ったと評したい。
しかしその異形の立ち姿とスタイル、自らの膂力を信じ切った一発を恃む戦いぶりの良さはまさしく今大会の花形であった。

宿敵撃破に思わず拳を握りしめた七戸、見事全日本柔道選手権決勝の畳に、初進出決定。

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決勝、七戸龍が右大内刈

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原沢はその大内刈を止め、小外刈に捉え返して「有効」

ともに初優勝を狙う両雄による決勝は原沢、七戸ともに右組みの相四つ。

原沢は前戦に引き続きほとんど組み手を争わず一呼吸で奥襟確保。七戸すかさず切り離してリセットし、間合いを詰めたい原沢と、距離を置いて得意の遠間からの一撃を狙いたい七戸というこの試合の構図は早くも明らか。原沢の接近行動により大枠組み合いの様相となる中、七戸が首抜きの反則を犯し1分6秒七戸に「指導1」。
七戸、珍しい「巴十字」を試みて流れを変えようと試みるも不発。しかし1分30秒過ぎから釣り手で奥襟を確保、両襟で原沢を押さえつける。頭の下がった原沢は手を放してやり過ごそうとするが七戸あくまで圧殺を止めず、結果試合は膠着。主審この行為を七戸のブロッキングと判断し、1分40秒七戸に対して2つ目の「指導」を宣告する。序盤にして、早くも試合を決定づけるだけの反則差が累積するという少々意外な展開。
原沢は眼光鋭く前進、片襟の大内刈を交えながらアプローチを続け、七戸に反抗のきっかけをなかなか与えない。七戸組みつきながらの右大外刈と右大内刈を立て続けに放って活路を見出しかけるが、3分27秒には奥襟を得た原沢が思い切った右内股。七戸はこれをまたぐ形で大きく崩れ、これまで積み上げた七戸の緩やかな攻勢は展開上リセット。
七戸が無理やりにでも試合を動かさずばこのまま試合終了の可能性高し、と場が煮詰まって来た4分過ぎ、原沢が「出し投げ」の形で右に大きく七戸を崩す。しかし崩れた七戸、低くなった体勢を利して逆に立ちあがりながら釣り手をクロスに入れ、抱き込みの右大内刈の大技。満場あっと息を呑むが、原沢あくまで崩れずまず止め、次いで相手の体に低く抱き着きながら左小外刈。七戸は体を捻りながら畳に落ち、大歓声の中で主審は原沢の「有効」を宣告。
明確なリードを得た原沢、以後は繰り出す手立ての幅を広げて七戸に攻める隙を与えない。引き手で襟を突いて間を取り、二本持てば一気に間を詰めて大外刈を放ち、次いで手順を変えて釣り手から「ケンカ四つクロス」の形の右内股で崩し、とあっという間に残り1分まで時計の針を進める。以後は七戸の前進運動を引き手で脇を突いて止め、奥襟を叩いて頭を下げさせてとペースを渡さず戦いきり、ついに待望の終了ブザーが鳴り響く。

原沢、「有効」の優勢を以て勝利。22歳にして悲願の全日本選手権初制覇を成し遂げた。

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決勝終了直後、閉会式に臨む両雄

決勝は、「間を詰める」原沢の志向が嵌り、一貫したこの行動が攻撃の橋頭堡として機能したこと、そして一方の七戸がまず原沢の攻撃を「封じる」ことから試合に入ったこと、しかもそれがブロッキングという直接的な罰を受けることとなったことが、純戦術的には勝敗を分けた。序盤に出来たこの反則累積差により無理をせざるを得なくなった七戸が強引に勝負に出、上から目線で待ち構えることが出来た原沢がそのチャンスを過たず生かしたという構図は衆目の一致するところであろう。
つまりは勝負を分けたのは序盤の入り方ということになるが、これは全日本選手権の決勝という場で弾き返された経験のある原沢と初挑戦の七戸の、経験値の差と評して良いかと思われる。準決勝を冷静に戦い終えて来る大一番に備えた原沢と、大きな山場を越えて拳を握りしめて「しまった」七戸の差という見立ても可能かもしれない。そして、よりマクロには、原沢の「全日本」に賭ける思いが七戸のそれを上回ったという評を提示したい。全日本の神は、全日本を唯一無二の大会として規定する選手の思い自体に微笑む。全日本という場を特別なものと体に叩き込んでいるがゆえに却って己を自縄自縛に追い込んでしまうような、その思い入れの強さに対して、最後は、優しい。なんのかんのでこれまで全日本選手権を獲った選手たちは、全日本選手権を「特別なもの」と捉えている選手ばかりだ。「世界選手権があるから全日本も頑張りたい」という、他の権威をハシゴに全日本の価値を規定する選手はどうしても届かないのが、全日本を貫く歴史だ。かつて「世界に出るために全日本を戦う」との発言が多かった七戸の今年の事前会見の覚悟溢れるコメントはその潮目の変化を感じさせるもので、この「思い」の強さが七戸を初の決勝まで押し上げたと考えるが、原沢の全日本に賭ける覚悟は七戸のそれを上回っていたとも評したい。

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日大勢の優勝は金野潤以来

日大勢の全日本選手権制覇は平成9年の金野潤以来。いうまでもなく、金野は原沢の直接の師である。高校選手権90kg級で1回戦敗退の原沢に「目が鋭い、という理由で」声を掛け、在学中の一昨年に全日本選手権決勝の畳という最高峰の場にまで導いたまさしく恩師である。原沢の開花はまだ先と、まさしく全日本選手権の系譜に連なるスケールの大きな柔道を保たせたまま、ウエイトトレーニングすら封印して王道を歩ませた、道標である。そして金野は全日本選手権を唯一無二のものとして規定するメンタリティの、この世代の代表格でもある。全日本選手権プログラムに掲載された定例「予想座談会」で金野は、教え子の原沢を推した。謙虚な人柄の金野が言いにくいはずの教え子を敢えて推したこの挙は、世間体など関係なく、原沢に対してその力を信じているとのメッセージに他ならない。この思いを受けた原沢が発奮しないはずがなく、そしてここまで思いを賭ける師弟が優勝へのシナリオを練りに練ってこなかったはずがない。金野の思いが乗り移ったかのような、鬼気迫る原沢の戦いぶりはまさしく全日本選手権者にふさわしいものであった。

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優勝旗を受け取る原沢。平成27年大会は史上に残る好大会であった

総括として、平成27年全日本選手権は、史上に残る素晴らしい大会であったと断じたい。重量級の本格派に小兵の曲者と役者が揃い、そして役者が役者としてあるべき仕事を成し遂げ、持ち味を発揮した上で優勝者を決する。準々決勝以降は畳が正視できないほど、その作り上げた空間は切なく、濃密だった。少なくとも2000年代では一、二を争う「良い全日本」だったのではないだろうか。井上康生と鈴木桂治と篠原信一、そして泉浩らが持ち味を発揮して覇を競った平成15年(2003年)大会に迫る、素晴らしい大会であった。

最後にひとつ、この好大会を演出した要素として観客について書きたい。当世風の「行けよー」の大合唱も勿論応援合戦的な熱狂を生み出してはいたが、今回際立ったのは観客席と試合場の、一種古風な一体感。熱戦にひきずられるかのようにその攻防自体に息を飲み、期せずして拍手が生まれ、自然発生的に声を合わせて巻き起こるどよめきは一段も二段も試合の良さを引き立て、選手のポテンシャルを普段以上に引き出していた。選手の「全日本モード」の素晴らしい戦いにはこの観客の好リアクションが十全に寄与していたと評したい。
全日本の観客は生きていた。あの、シンと静まり返った場内、観客の目が畳上の2人に熱く幾重にも絡み合って注がれ、その攻防自体に「オッ」と小さく、しかし同時発生的にどよめきが湧き起り、そして好試合には手が痛くなるほどの拍手を惜しまないあの「昭和の全日本」の見上手たちは、観客減が嘆かれていた全日本選手権の客席に、きちんと生き残っていたのである。今大会は優勝候補と目されていた超級の猛者たちが期待を裏切らずことごとく上位に勝ち上がり、そして激戦を演じた。つまりは井上康生体制における重量級再建に向けた不断の努力により「役者」たちが育ち始め、その役者たちが、まだ生き残っていた「見上手」たちの本性を呼び覚ました。そしてその観客のリアクションが選手の能力をさらに一段引き出す好スパイラルを生んだと評することが可能だ。その意味では全日本選手権再生、そのきっかけにすらなる大会だったのではないか。

良い、全日本だった。選手と観衆が揃い、今度はあるべきルールやバックグランドを整理する段だと論を進めるべきタイミングではあろうが、その意見が野暮に思えてしまうほど、面白く、熱い平成27年全日本選手権であった。

文責:古田英毅

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