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第37回全国高等学校柔道選手権大会・女子団体戦マッチレポート③決勝

(2015年4月9日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版4月8日掲載記事より転載・編集しています。
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女子団体戦マッチレポート③決勝
第37回全国高等学校柔道選手権大会
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初優勝に挑む大成は緊張の表情

第1シードの大成高は昨年のインターハイに続く決勝進出。インターハイ52kg級王者黒木七都美、昨年の高校選手権63kg級王者鍋倉那美、もと57kg級全日本カデ王者で現在は70kg級まで階級を上げて来た鈴木伊織という豪華陣容で臨んだ今大会、ここまでの勝ち上がりは2回戦で土浦日大高(茨城)を2-0、3回戦で平田高(島根)を3-0、準々決勝で淑徳高(東京)を1-0、準決勝で桐蔭学園高(神奈川)を1-0というもの。比較的組み合わせにも恵まれ、というよりも組み合わせなど関係ないと言わんばかりに当たり前のように無失点試合を続けて、隙のない勝ち上がり。昨年の高校選手権3位、金鷲旗3位、インターハイ2位に続いていよいよ迎えた高校選手権、この決勝の畳で高校カテゴリ初制覇を狙う。

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埼玉栄は笑顔で2年連続優勝を狙う

対する埼玉栄高は第2シード、今大会唯一大成に抗し得ると位置づけられてきた強豪チーム。昨年の優勝メンバーから先鋒の常見海琴と大将冨田若春の主戦2枚が残った強力陣容を擁した今大会の勝ち上がりは2回戦で新田高(愛媛)を1-0、3回戦で熊本西高(熊本)を1-0、準々決勝で長崎明誠高(長崎)を2-0、そして準決勝で東大阪大敬愛高(大阪)を2-1。手堅く戦った序盤戦、前衛2枚が爆発力を見せた後半2戦と、試合を経ることに調子を上げての決勝進出。こちらは昨年の高校選手権、そして金鷲旗大会に続く全国制覇を狙う。

オーダー順は下記。

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決勝が開始される

大成高 - 埼玉栄高
(先)黒木七都美 - 常見海琴
(中)鍋倉那美 - 工藤七海
(大)鈴木伊織 - 冨田若春

盤面をまず「名前」と実績の額面通りに読み解いていくと。

先鋒戦はインターハイ52kg級王者黒木七都美に、インターハイ48kg級2位で今大会は52kg級でも決勝に進出している常見海琴がマッチアップ。実績的には互角、ここは引き分けと読んでおくべき。

中堅戦は63kg級のスター候補鍋倉那美に工藤七海が挑戦。鍋倉は昨年の高校選手権63kg級の覇者で、世界ジュニア選手権、今大会と決勝まで進んでライバル嶺井美穂と激戦を繰り広げた今代きっての実力者。一方の工藤は今大会個人戦63kg級に県代表として出場したものの結果は3回戦敗退で、ここは普通に考えれば鍋倉の勝利、それも「一本」に近いポイントを考えておくべきところ。

大将戦は今大会最大の大駒として機能すべき14年度全日本カデ70kg超級王者・冨田若春に大成・鈴木伊織が挑む。鈴木は重量級相手の粘戦が得手だが、本格派重量選手冨田はこのタイプを潰すことにも長けている。引き分け濃厚な試合ではあるが、双方が力を発揮できる状態であれば分は冨田にあり。

というわけで、並んだ名前通りに考えれば中堅鍋倉という大駒を踏み切り板にして1点奪取確実の大成が優位。しかし、今大会は事前の「読み」の段階で、上記の順行運転の展開に収まらない要素が盤面に溢れている。

先鋒戦においては手堅く試合を作りに行く黒木に対して、常見が大技一発で試合を荒らしながら戦うタイプであること、かつ常見の必殺技である「逆の腰技」が効く相四つの対戦であること、加えて今大会団体戦に集中している黒木が準々決勝以降は2戦連続の引き分けでいまひとつ元気が感じられないこと。

中堅戦では、これまで軽量重量に関わらずその一発の鋭さを発揮してきた鍋倉が昨年の全国大会団体戦上位対戦においては重量選手の圧を食う場面、あるいは「止めに来られる」試合での苦戦が散見されたこと。互いに前に出るしかない個人戦で見せる爆発力の一方、団体戦では相手の防衛戦につきあってしまうこともまた多いここ1年の鍋倉の傾向は、埼玉栄としては十分に研究してきているはず。

そして大将戦においては、冨田若春が今冬の長い負傷離脱明けで明らかなコンディション不良にあること。対する鈴木伊織は前日の個人無差別で2位に入っており、かつ先手の手数攻撃に効く一発を混ぜ込むような粘戦が得意、これに鈴木が担ぎ技ファイターであること自体の本格派に対する相性の良さと冨田の状態を考え合わせると、鈴木の早い段階での「指導」奪取を予期しておくのが現実的な線。

以上の上積み要素を考え合わせると、中堅戦と大将戦の試合の行方は意外にナイーブ。その時点で抱えるバックグランドによって試合の様相が全く異ってくるはずだ。先鋒戦の重要性がいや増す盤面と言っていい。

大成としては、とにかく中堅戦の勝利が必須。出来得れば前衛の2連勝で勝負を決め、鈴木には試合を纏める殿戦を演じてもらうというのがもっとも理想的な勝利のシナリオ。最悪でも先鋒戦を引き分けで終えた上で中堅鍋倉に一本勝ちを期待、そして鈴木には組み手と担ぎ技で粘らせて1-0、あるいは内容差で勝利を得たいというところ。

一方の埼玉栄は逆に中堅戦を引き分けで終えることが勝利への最大の近道。とはいえここでの失点を織り込んでおかずば大戦略は成り立たず、となれば先鋒戦、あるいは大将戦でギャンブルに出てでも1点を得ることが絶対に必要。出来れば先鋒戦を獲って、相手に圧が掛かる状況を作り出した上で防衛ポイントである中堅戦に臨みたいところ。

ついに初優勝に手が掛かるところまで登りつめ、大石公平監督をはじめ全員がキリリと巻き上がった表情で畳を見つめ覚悟溢れる様子の大成高。本松好正監督が何事か声を掛けると全員破顔して、笑顔を崩さず試合開始のアナウンスを待つ埼玉栄高。両軍が対照的な表情を見せる中、第37回全国高等学校柔道選手権女子団体の最終戦、大成高と埼玉栄高による頂点対決がいよいよ開始された。

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先鋒戦、常見海琴得意の左大腰を黒木七都美が右払腰に切り返す

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常見は釣り手を黒木の右から左肩裏に回し、右大外刈

先鋒戦は大成・黒木七都美、埼玉栄・常見海琴ともに右組みの相四つ。常見が引き手で袖を得ると黒木即座に切ってリセットするが、常見引かずに前に出て釣り手で奥襟を掴むなり左大腰、黒木は右払腰に切り返して「待て」。ここまでで最初のシークエンスは終了、経過時間は21秒。

以後、黒木は引き手で襟を突いて距離を取りながら奥襟を狙い、一方の常見も釣り手で奥さえ取れればと粗削りながら迫力十分の前進を続けるという構図が続く。互いが狙う本命の技は黒木が右払腰に右内股、常見は相手の首を釣り手で殺しておいての「逆の大腰」。

40秒、引き手で襟を突いた黒木が釣り手を奥襟に入れながら出足払。タイミングの良い巧みな技だったが食らったはずの常見は前進を止めず、一方仕掛けたはずの黒木は押されて自身が崩れる。常見の異常な攻撃志向が端的に表れた攻防。

常見はジャンプして奥襟を叩きながら右大外刈を見せ、黒木は片襟の右背負投を放つが双方ともにこれは良く見て潰しポイントには至らず。

1分30秒、黒木が奥襟を叩くと常見狙い済まして得意の左大腰。十分警戒していた黒木は外側に逃れて捌く。

続く展開、引き手を得た常見は釣り手を右から黒木の頭超しに入れ、左肩裏を掴んで強引に優位を確保、右大外刈に打って出る。黒木は大外返から右払腰に繋いで難を逃れるが、常見がディディールの隅々にまで染みた強気で徐々に流れを得つつある印象。

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ついに万全に釣り手を得た常見が左大腰

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振り回すように決めた一撃は「有効」となる

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常見は釣り手の拘束を解かずに袈裟固「一本」奪取

2分50秒、黒木が鋭く右小内刈、しかし常見は体勢を崩しながらも前に踏みだして釣り手でガッチリ奥襟を確保。自身の技が効く技であったことから一瞬対処が遅れた黒木はこの奥襟獲得を許してしまい、かつ一瞬「待ち」のエアポケットを作ってしまう。引き手で襟、釣り手で奥とついに形を得た常見は思い切り「逆の大腰」、黒木外側に回避するが首を固められた分逃げ切れず、ほとんど腰が引っかからない浮腰の形のまま吹っ飛びこれは「有効」。

常見は釣り手による首の拘束を解かず、絡まれた脚を抜いて袈裟固に移行。黒木逃れられず3分22秒「一本」が宣せられる。

状況が悪くても、崩されてもあくまで一発を狙い続けた常見の凄まじい執念に凱歌。まことに大きい、この1点のみで試合が決定づけられると言っても過言ではない価値ある「一本」で埼玉栄が先制。

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中堅戦、鍋倉那美が右内股、工藤七海は腹這いに落ちる

中堅戦は大成が鍋倉那美、埼玉栄は工藤七海が畳に上がる。こうなれば鍋倉としては「一本」、一方の工藤は例え敗れたとしてもその被害を優勢負けまでで留めることがそれぞれ必須のミッション。

鍋倉、工藤ともに右組みの相四つ。工藤は始まるなり右釣り手で奥襟を確保して内股を放ち、やる気十分。

鍋倉はその釣り手を切り離し、袖を殺して右内股。さらに再度引き手から得て得意の両手で袖を押さえた右内股に打って出る。十分予期していたはずの工藤だがこの二段目の内股には崩れて腹這いに落ち、鍋倉はめくり返して抑え込み掛かる。工藤必死に身を切って、相手の間に足を入れて正対を作り出し「待て」。経過時間は45秒。

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工藤が横三角で攻め、展開を譲らず

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鍋倉の右内股は間合いが合わず、軸足の膝が畳について崩れる

ここまでは鍋倉が優位だが、以後はその一手目の引き手確保に拘る「手順」を工藤に読み切られ、組み手の取り引きに嵌ってなかなか自分の形が作れない。工藤が機を見て自身が奥襟を叩く攻撃組み手を繰り出すため客観的には展開に差がつかず、なんとしても「一本」が欲しい大成サイドとしてはなんとももどかしい攻防が続く。鍋倉が腰を切る前技動作、さらに右大外刈で相手を崩した直後に工藤に1つ目の「指導」が宣告されるがこの時点で経過時間は既に1分54秒。工藤はこの攻防の際も、崩れた後自らが上になって元気一杯に横三角を仕掛けており、試合の流れが鍋倉に傾いたとは評しがたい展開。

2分35秒、引き手で袖、釣り手で横襟を得た鍋倉が釣り手の肘を挙げながら右内股。すわポイントかと場内大いに沸くが、相手が良く見えている工藤は釣り手側に体をずらして回避、バランスを崩した鍋倉は投げの姿勢のまま軸足で膝を着いてしまい、ポイントを奪うところまで相手を回せない。

鍋倉あくまで引き手から求めるが工藤は両袖の手繰り合いに誘い、さらに右内股で一旦絞り合いを外して右一本背負投に飛び込んでと、状況を心得た攻防の出し入れを駆使して鍋倉にチャンスを与えない。

残り34秒、鍋倉が右背負投を試みて両者が崩れる。この「待て」の直後、工藤がこの試合初めて明らかに疲労した様子を見せる。

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鍋倉最後の攻撃は惜しくもノーポイント、この試合は引き分けに終わる

どうやらここが最後の勝負どころ。もし鍋倉が疲労した工藤の組み手の防御壁を突破出来れば、一発で試合を決める可能性は十分のはず。しかし工藤はここで一段ギアを上げ、まず釣り手から奥襟を確保、相手を煽って頭を下げさせると釣り手で帯を握るところまで一方的に組み手を進める。この「先に自分が組む」工藤の度胸に先手を打たれた鍋倉は一旦展開を切るしかなく、続いて繰り出された上下のあおりに応じてみずから膝を屈してしまう。工藤は寝技に持ち込んで時計の針を進め「待て」が宣告された時には残り時間は僅か15秒。

鍋倉、最後の力を振り絞って奥襟を掴み、乾坤一擲の右内股。縦回転に自分ごと体を捨てたこの一撃に工藤はもろともまわり掛けるが、まず頭が着地、ついで腹が畳に落ち、辛くもポイントは回避。ここで試合終了のブザーが鳴り響く。

双方が抱えたミッションの成否はまさしく明暗。鍋倉は取れず、一方の工藤は引き分けという満点の成果を以て帰陣。試合は1-0で埼玉栄リードのまま大将同士の対決へと引き継がれる。

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鈴木伊織が再三右袖釣込腰を見せるが、冨田若春はことごとく立って捌いて崩れず

大将対決は大成・鈴木伊織、埼玉栄・冨田若春ともに右組みの相四つ。鈴木は前日の個人戦無差別で2位、冨田は3位とともに上位に勝ち上がっているが、鈴木は担ぎ技を中心に自身を相対的に小型と規定して戦うタイプの選手で、一方の冨田は大外刈や大内刈を中心に試合を組み立てる典型的本格派重量級選手。そして鈴木に課されるのは一本勝ちのみ、かたや冨田は最悪でも優勢負けまでであればチームの勝利を決め得る状況と、そのタイプ、ミッションともにまことに対照的な一番。

冨田開始するなり両袖を確保し、振り払うように流して鈴木を畳に落とす。再開されると左構えの相手に対しまず釣り手から持って相手を突いて、距離を確保して対峙。鈴木は勝負技である低い右袖釣込腰を放つが、冨田は釣り手を突きながら一歩移動して回避し、崩れず。経過時間は20秒。

再開後、鈴木は同じく右への袖釣込腰を2連発するが、冨田は背筋を伸ばしてまたもや全く崩れず。高い位置に冨田の頭が残って鈴木の頭だけが畳すれすれの低い位置に降りるというこの形では攻撃が効いたと見なされるはずはなく、鈴木にとっては手数による攻勢権の確保すら難しい状況。

51秒、左構えのまま片手でチャンスを伺う鈴木に「取り組まない」判断の「指導1」。鈴木は右への担ぎを狙い続けるが、冨田は引き出しの右大内刈で展開を止めると再び釣り手をしっかり突いて距離を保つ。この釣り手を突破できない鈴木はそれでもこれしかないとばかりに座り込みの右袖釣込腰を放つが、これが偽装攻撃と判断されて2分20秒2つ目の「指導」宣告となる。

それでも勝負技の右袖釣込腰を仕掛けるしかない鈴木、あくまで引き手側から持つことに拘って担ぎ技を狙い続けるが、この手順は釣り手で距離を取りたい冨田の好餌。冨田の釣り手のコントロールの前に試合は荒れることなく、鈴木が肩を押すようにして仕掛けた右背負投を冨田が立ったまま潰した直後の2分39秒、双方に「指導」。これで反則の累積は鈴木が「3」、冨田が「1」。

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残り時間僅か、冨田は鈴木をあおり崩して最後のまとめ

遮二無二攻める鈴木だが、冨田は変わらず釣り手の出し入れで相手との距離を的確にコントロール、残り29秒で2つ目の「指導」を受けるものの大過なく時計の針を進め、最後は鈴木をあおり崩して畳に落としたところでタイムアップのブザーを聞く。

この試合は引き分け。結果、1-0で埼玉栄高が勝利を決め、2年連続5度目の優勝を飾ることとなった。

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優勝を決めた埼玉栄。これしかないという完璧な試合だった。

埼玉栄高 1-0 大成高
(先)常見海琴○袈裟固(3:22)△黒木七都美
(中)工藤七海×引分×鍋倉那美
(大)冨田若春×引分×鈴木伊織

出だしから完成まで、そしてあらすじからディティールに至るまで、全てが埼玉栄の目論み通りに進んだ試合。手堅く試合を進めるタイプの黒木を乱戦型の常見の大技の砲列で突き破り、焦る鍋倉を組み手の取り引きで「乱取り状態」に嵌めて引き分ける。この時点で試合は実質終了、不調の冨田であっても引き分ければ良い展開であれば好不調に関係ないキャパシティの芯の部分だけで十分に対応出来る。完璧過ぎる試合だった。

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敗れた大成、惜しくも高校カテゴリ初制覇に手は届かず

鍋倉と鈴木は、「引き手側の一手目」という相四つ攻撃型の王道手順にこだわり過ぎた感あり。鍋倉を徹底研究している工藤はそこを起点としたリアクションの手立てを磨き抜いて来ており、鍋倉がこの手順にこだわる限りは、切り、左右の腕を取り引きし、あるいは機を見て強気の攻撃に打って出てと決定的な場面を「先送り」にするカードを次々切り続けることが出来た。工藤が準備した手立てが一つであれば鍋倉も試合中に考え、乗り越えるだけの方法論の手持ちがあったのではと思われるが、工藤は寝勝負も含めた質の異なるカードを、それも攻撃姿勢を維持したまま時間一杯、テーブル一杯に広げて見せた。世代きっての業師鍋倉にして、その厚さを打開するだけの戦術、あるいは跳ね返すだけの圧倒的な地力を見せることまでは出来なかったと評するしかない。

組み手手順の硬直化は鈴木-冨田戦にあっても同様。バックグランドの不利は勿論であるが、鈴木の地力が足りなかったというよりも、起点から技の仕掛けに至るまで冨田の視野の範囲内で「やらされている」かのようなその試合構図を変える手立てに欠けたことこそ、この試合の敗因(引き分けではあるが)という印象だった。

圧倒的な攻撃力を有するとされ「相手の戦術に関係なく自分の柔道を貫いて一本を取りに行く」(大石公平監督)ことを標榜してきた大成が、力の差のない強豪に「狙われた」時、相手がその光を消しに来た時にいかにしてそれを乗り越えるのか。この試合ではっきり顕在化したこの問題は、今代の大成チームの一年間を貫く大きな課題であると言える。

そして団体戦において昨年から大成が抱え続ける一番の問題はおそらく、誰とやっても勝ってくるという圧倒的な個一枚の不在。「ポイントゲッターをポイントゲッターで退ける」スーパーエースの有無は、女子のレギュレーションにあっては最後の競り合いの命運を決定的に分ける。
そして、かつてまさに圧倒的な個の集合として中学の全国大会を席巻した大成は、今大会3階級で2位という個人戦の結果が示す通り、現在は「選手全員の平均値が極めて高い、穴のないチーム」というカラーに変貌しつつある感あり。一番を生み出せるかどうか、もっとも強い「個」を生み出せるかどうか、中学柔道を席巻し、高校世代でもがく大成に必要とされる最後のピースは間違いなくこの部分だ。立ちはだかる課題は厳しく、重いが、これも「一本」に拘る柔道を掲げて名実ともに名門の道を歩みつつある大成ならばこそ。これを乗り越えて、選手が、チームが、その育成スタイルが一皮むけることが出来るかどうか。今後の精進に大いに期待したい。

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「本松マジック」は今大会も健在、3人がそれぞれの役割をしっかり果たしての優勝だった

勝った埼玉栄に話を移したい。優勝決定の瞬間常見は立ち上がって笑顔、工藤は顔を覆って喜びをあらわにして順に本松好正監督と握手。そして畳から戻る冨田にハイタッチ、さらに抱きついて大喜び。埼玉栄の勝因としてはその戦術の巧みさと選手の頑張りは勿論のこと、この場面、そして決勝開始直前の選手の笑顔に象徴的なチームプロデュースの上手さに触れなければなるまい。

本松監督は戦前選手に「10センチくらいの差なら、高校生ならひっくり返せる。それが面白いからこの仕事をやっているんだ」と繰り返し語っていたとのことだが、今大会の大成と埼玉栄の力関係を客観的に考えて、そこまで完全に大成のほうが「上」であったとはなかなか思えない。本松監督はこの台詞一つに限らず、そして言葉という方法に限らず、ありとあらゆる手立てを使って「強い大成に挑戦して試合をひっくり返す埼玉栄」という自己像を選手に植え付け続けて来たのではないだろうか。昨年度優勝チームから2人が残ったこの大会にあって当たり前のように選手に染みた「上に噛みつく」試合姿勢はなかなか身に着くものではない。冨田の長期に渡る負傷離脱と不調という大ピンチすら、本松監督は「挑む姿勢を徹底させる」材料としてポジティブファクターに転化させた感がある。

事前準備として叩き込んだ「挑む立場」というベースに加えて、本松監督の持ち味である現場指揮は今大会も冴えわたっていた。試合後、戦前本松監督が大きな課題に挙げていた「前日の個人戦の結果(常見は2位、冨田は3位で日本一には届かず)を受けたチームの盛り上げ方」について問うと「それは二人ともへこんでいましたが、そこを立て直すのが監督の仕事ですから。うまいこと言ったり、怒ったりね」と答え、さらに深く問うと「冨田が3(位)、常見が2(位)であとは1しかないだろう、と繰り返し話しましたよ。向こう(大成)は『2、2、2』ですから
、じゃあ次に1を獲るのはどっちなんだ、と」と笑顔で明かしてくれた。決勝の前に何事か話しかけたときのあの選手の笑顔も「3、2、あとは?」と声を掛けると選手が声を揃えて「1!」と答えた、その瞬間のものだとのことだった。

「途中で守ったらダメなチーム」と監督自ら語る今代チームに、あらゆる手立てで植え付けた「挑む」という立場と気持ち、そしてノビノビそのミッションに挑ませる雰囲気づくり。今大会も「本松マジック」は全開だったと評して然るべきだろう。

2013年夏から全国大会5大会中4大会を制することとなった埼玉栄、そして頂点獲りに挑む最強世代がいよいよ最後の夏に臨む大成。今大会で決勝を争った2チームを軸に、今季も高校柔道界は熱い戦いが続く。5人制無差別抜き試合の金鷲旗、そして3人制無差別点取り制のインターハイ。全く戦い方の異なる残り「2冠」を制するのはどこか、夏を楽しみに待ちたい。

文責:古田英毅

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優勝の埼玉栄高

【入賞者】

優 勝:埼玉栄高(埼玉)
準優勝:大成高(愛知)
第三位:桐蔭学園高(神奈川)、東大阪大敬愛高(大阪)
敢闘賞:淑徳高(東京)、紀央館高(和歌山)、長崎明誠高(長崎)、敬愛高(福岡)

最優秀選手賞:常見海琴(埼玉栄高)
優秀選手賞:工藤七海(埼玉栄高)、鍋倉那美(大成高)、嶺井美穂(桐蔭学園高)、出村花恋(東大阪大敬愛高)

埼玉栄高・本松好正監督のコメント
「良い勝ちっぷりだったんじゃないですか(笑)。プラン通り、繋ぐ試合が徹底出来ました。(個人戦の結果を受けてどう言葉を掛けたのですか?)それは常見も冨田もへこんでいましたけど、それを立て直すのがこちらの仕事ですから。うまいことを言ったり、怒ったりですね。それで冨田が『3』、常見が『2』だから、うちに残っているのは『1』だけだぞと話しましたよ(笑)。準々決勝からあとの試合ではもうそればっかり言っていました。決勝は途中で守ったらいけない試合ですので、負けたら俺の責任、勝ったらお前たちの頑張りだから思い切り行って来い、全員が勝負だぞと。常見には失敗してもいいから取りに行けと言いましたし、工藤には、『指導』を貰ったところで『いかないと負けるよ』と声を掛けたら、最後までやりきってくれました。『有効』までなら良いというような星勘定じゃなく、攻める試合が出来るか、繋ぐ姿勢があるかどうかが何より大事ですから。(試合開始直前、監督が何か声を掛けたら選手が笑っていましたが?)もちろん、『3』、『2』、次は?と聞いたんですよ。声を揃えて『1!』と言ってくれました(笑)。本当にノビノビやってくれました。勝ったんだから、これはもう、全て選手の頑張りのおかげですよ」

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【準々決勝】

大成高(愛知) 1-0 淑徳高(東京)
桐蔭学園高(神奈川) ①-1 紀央館高(和歌山)
埼玉栄高(埼玉) 2-0 長崎明誠高(長崎)
東大阪大敬愛高(大阪) 2-0 敬愛高(福岡)

【準決勝】

大成高 1-0 桐蔭学園高
埼玉栄高 2-1 東大阪大敬愛高

【決勝】

埼玉栄高 1-0 大成高

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