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第37回全国高等学校柔道選手権大会・男子団体戦マッチレポート⑥決勝

(2015年4月1日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版4月1日掲載記事より転載・編集しています。
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男子団体戦マッチレポート⑥決勝
第37回全国高等学校柔道選手権大会
■ 決勝
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圧倒的な強さで勝ち上がった国士舘高

国士舘高は2年ぶりの決勝進出。昨夏のインターハイ優勝メンバーから4人が残った大本命チームのこの日の勝ち上がりは1回戦で津幡高(石川)を三人残し、3回戦で比叡山高(滋賀)を五人残し、準々決勝で神戸国際大附高(兵庫)を三人残し、そして準決勝で大牟田高を三人残しという圧倒的なもの。ここまで16勝4分けで失点は僅かに2、それも一本負けはゼロ。一貫して大将に座り続ける山田伊織は未だ1試合も畳に上がっておらず、後衛3枚の決戦兵力ブロックの尖兵飯田健太郎は僅か1試合に登場したのみ。副将以降が畳に上がったことはいまだなく、すべての試合を中堅までで終わらせている。十分にシードの恩恵を受けてこれはという強豪との対戦が神戸国際大附戦のみであったこと、そして準決勝の相手がダークホースの大牟田であったことという組み合わせの利はあったが、それを差し引いても抜群の勝ち上がりの良さ。歴史的な大勝が予想されるという事前評に違わぬ、呆れるほどの強さを発揮しての決勝進出。この試合に勝利して5年ぶりの優勝を狙う。

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強豪との競り合いを制し続け、国士舘への挑戦権を得た大成高

一方の大成高は第2シード。国士舘とは対照的に強豪に噛みつかれ続け、それを実力を以て退け堂々9年ぶりの決勝進出を果たした。唯一国士舘に抗し得る勢力という前評判を、結果を以て証明したここまでの勝ち上がりと言える。その過程は、まず2回戦で東北ブロック王者秋田工高(秋田)を三人残し、3回戦でシード候補と目された埼玉栄高(埼玉)を一人残し、準々決勝では個人無差別王者太田彪雅を擁し前戦で前年度優勝の修徳高(東京)を倒した白鴎大足利高(栃木)を一人残し、そして準決勝では四つ角シードの日体荏原高(東京)を一人残しというもの。上位に名を連ねてしかるべき強豪の挑戦を分厚い戦力と地力の高さ、そして勝負どころを誤らぬ覚悟の高さで次々退け、この決勝で初優勝に挑む。

開示されたオーダー順は下記。

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決勝が開始される

国士舘高 - 大成高
(先)田嶋剛希 - 前濱忠大(先)
(次)河田闘志 - 友田皓太(次)
(中)飯田健太郎 - 並木泰雅(中)
(副)竹村昂大 - 古賀颯人(副)
(大)山田伊織 - 神鳥剛(大)


国士舘はこの大一番の先鋒に田嶋剛希を起用。サイズを背景に「上から」圧を掛けて大外刈や内股で勝負する本格派重量選手がほとんどの今季の国士舘にあって、組み手の状況に関わらず左右への担ぎ技で投げまくり寝勝負も出来る「下から」の型である田嶋は全く質の異なる選手。

田嶋は冬季招待試合と東京都予選の大活躍で周囲からはレギュラー確実、どころかもはや主力の一角とすら目されていたが岩渕公一監督は一貫して米山魁人、河田闘志とともに「横一線(のレギュラー当落線上)」とコメントし続け、本大会の登録メンバー6名からも外していた。田嶋が前日の個人戦90kg級で優勝してその力を内外に示して「しまった」ゆえに秘密兵器感は薄れたが、岩渕監督が田嶋をここ一番のための決戦兵力としてここまで取り置いておいたことは間違いない。優勝確実とされる巨大戦力を抱える国士舘だが、それゆえ相手に徹底対策されることもまた必定。この事情を十分織り込んだ岩渕監督、確実に勝利するためにはいかに保有戦力が高くても、相手の想定を超える要素がひとつ絶対に必要と踏んだはず。飯田健太郎、竹村昂大、山田伊織の後衛3枚はまるで相手に敢えて読ませるかのように動かさず、そして最前線には全く他とは質の異なる、そして実は取り味抜群の駒を1枚入れて来たわけである。さらに前戦で4試合を戦ったインターハイ優勝時の主戦磯村をベンチに下げ、今大会安定して力を発揮している河田を決勝に起用。河田は好調、対照的に本来大駒と機能すべき磯村はまだ調子が上がりきっていない。後ろ3枚のビッグネームは動かさず、前2枚は名ではなく「実」、勝負に必要な機能性を最重視して布陣したという、建前のない超シビアな勝負陣形。

ところが、この国士舘の決戦オーダー最大の目玉である「田嶋の先鋒起用」を大成はおそらく完全に読み切った。「とっておき」の田嶋に対して、大成も鏡合わせにこの日序盤戦で起用したきりの「とっておき」、吶喊ファイターの前濵忠大を投入したのだ。

大型選手に対して下から、それも高い打点で左右に担ぎまくるのが田嶋の長所だが、自身より重心が低く且つ体の強さは重量級なみ、そして重たく低い担ぎ技で股中に潜り続ける前濱は田嶋にとっておそらくもっともやりにくい、ひょっとすると唯一無二の苦手なタイプ。少なくとも今シーズン団体、個人を通して田嶋はこの型の相手とのマッチアップが一試合もない。田嶋が苦戦時に繰り出す「片手からの左右問わぬ一発」も前濱は得手。おそらく前濱以外の誰が出ても田嶋の柔道は一方的に噛み合い、力関係に関係なく投げが狙えるはず。むしろ大型選手でしっかり組むタイプの神鳥や並里、軽量長身ゆえに下からの押し込みの圧が効き担ぎ技が狙いやすくなる古賀という大成の主力「三本の矢」のほうが田嶋にとっては的にし易い選手のはず。国士舘が企図する「田嶋が前半戦でエース級を潰し、星勘定的にも精神的にもダメージを与える」策はこのオーダーでは機能しない可能性が非常に高い。

そして次鋒の河田闘志の対面には友田皓太をぶつける。友田は後衛3枚には厳しい力関係のはずだが、抜群のパワーの反面、技と組み立てのオーソドックスな河田相手であれば十分に得点を狙いながら戦える。少なくともこの位置に置く限り友田に失点の可能性は僅少。前衛の目的を「接戦を予想していないはずの国士舘の焦りを誘った上で後ろに勝負を持ち込む」ことに置く大成としてはここしかないという投入位置だ。

さらに国士舘の後衛ブロックの尖兵、飯田健太郎と対峙するであろう「三本の矢」の一の矢としては並木泰雅を前出しして起用。飯田は規格外の技の冴えを見せる一方で、ここ1年半で急激に大きくなった体がまだ大人のそれになりきっておらず、線の細さと腰の高さが否めない。この型の選手がもっとも恐れるのは体が大きく腰が重いタイプの相手と間合いが詰まった際に起こる「事故」。そして大成の中でこのステージに勝負を持ち込める可能性がもっとも高いのは実力的にもサイズ的にも間違いなく並木である。スタミナが弱点の飯田に対して間合いを詰め続けて場を煮えさせ、判断力の鈍った飯田に一撃を呉れる、あるいは前進圧力による「指導」累積で抜き去るというのは十分現実性を持って考えられるシナリオ。あとは順行運転で勝てると踏んでいるはずの国士舘のパニックを誘い、試合が上手く力関係に関係ない一発が期待出来る古賀と地力ナンバーワンでどこからでも試合を動かしに行けるタイプの神鳥の頑張りに勝負を託す。

もともとの戦力差ゆえ後衛対後衛の客観的なビジョンにやや欠けるきらいはあるが、大成としてはこれ以上ないという冴えたオーダー。間違いなく国士舘にとってはもっとも嫌な陣形だ。

前衛2枚に後ろ3枚というブロック分けが読まれるのは織り込み済みの国士舘だが、田嶋起用を読まれたのは痛い。3回戦で田嶋を起用しなければここまでの「横一線」ブラフが効き、個人戦を決勝まで戦いきった田嶋は全戦温存という思い込みを誘えた可能性もあり、ここは国士舘が用兵戦略上隙を見せた部分。ただし、大成としても田嶋以外の大型選手であれば前濵の低い技が効きまくるはずで、ここに泥臭い試合につきあえる田嶋が来たことは攻撃面だけで考えれば決してプラスとはいえない。どちらに良い目が出るかという最後の部分は、試合が始まってみないとわからない空白域と言える。

第37回全国高等学校柔道選手権大会の、いよいよこれが最終戦。大成がドンピシャリで組んだこのオーダー順をテコに優勝候補筆頭の国士舘の堅陣に斬り込んで初優勝を達成するか、国士舘の巨大戦力がこれを弾き返して5年ぶりの優勝を果たすか。満場注視の中、両軍の選手を呼ぶアナウンスが館内に鳴り響き、試合開始が告げられる。

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先鋒戦、田嶋剛希の担ぎ技は前濵忠大に間合いが噛み合わない印象

先鋒戦は国士舘・田嶋剛希が右、大成・前濵忠大が左組みのケンカ四つ。田嶋まず左に担ぎを試みるが前濵は重心低く抱いて力を殺し、さらに田嶋が試みた肘抜きの右背負投も反転してしっかり止め、背筋を伸ばして崩れることなし。やはり田嶋の担ぎ技は、低重心の前濵には間合いが噛み合わない感あり。

前濵、次は自分の番だとばかりに座り込みの左背負投を2連発。45秒過ぎから両者引き手争いに入り込んで試合が一旦落着き、52秒双方に片手の咎で「指導1」。

直後前濵が一方的に引き手の袖を確保し、田嶋明らかにやりにくそう。しかし組み負けても取り味のある技が出るのが田嶋の長所、右小内刈で前濵を腹這いに伏せさせて事態を打開し、「国士舘返し」で攻めて陣地回復。

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前濵の左背負投、田嶋は危うく畳に伏せてポイントを回避

しかし続く展開、組んだ直後に前濵の左背負投が炸裂。いち早く引き手で袖を掴み、嫌った田嶋の引き手が逆の片襟を探って中途半端な状態にある間に思い切り飛び込んだこの一撃に田嶋大きく体勢を崩す。一瞬宙に体が浮いた田嶋が左膝から畳に落ち、ついで担いだ前濵が体全体で押し込む。この段階では十分ポイントが想起されたタイミング抜群の一撃だが、田嶋は肩が着地する直前に引き手を引き返し、なんとか腹這いに伏せて「待て」。経過時間は1分45秒。

試合の展開を大きく動かしかねない前濵の一撃だったが、以後は組み手の主導権争いで試合は一旦小康状態。互いに切るのではなく、「持ちに行く」「離さない」ことを主眼に置いた手に汗握る接近戦。中途で前濵が片手の左体落で展開にアクセントを呉れると田嶋も釣り手のみの右背負投を放ってこのシークエンスで展開に差は突かず。

2分52秒、引き手争いから田嶋が鋭くステップを切って左背負投を放つが、やはり間合いが噛み合わず前濵低く構えたまま動ぜず。田嶋すぐさま戻って試合続行。

田嶋が相手の左袖を引き手で掴む右内股の崩し技できっかけを探るが前濵動ぜず。前濵、釣り手を一旦高く抜きあげて左背負投を放つが、田嶋崩れずに捌いて「待て」。

終盤戦は投げに至る形と間合いを整えたい前濵に対し、田嶋は総合戦力に勝る自軍の立場を考えリスクなく試合を終えることを選択肢に入れ始めた感あり。田嶋は右大外刈、右内股と組み手不十分のままにひたすら試合を動かし、前濵に的を絞らせないまま時間を使う。結果、この試合は引き分け。

双方得点を狙った斬り込み隊長役が引き分けた、「痛み分け」とでもいうべき結果。国士舘としては計算外だが最悪の事態は避けたという体、大成としては相性噛み合った試合だけにできれば獲ってしまいたかったところであったが、戦力差を考えた田嶋がリスクを犯さなかった分追い掛け切れなかったという一番であった。

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河田闘志が支釣込足で友田皓太を蹴り崩す

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河田が思い切りよく右大外刈

次鋒戦は国士舘・河田闘志に大成・友田皓太がマッチアップ。
両者右組みの相四つ。河田は身長184cm体重110kg、対する友田は168cm95kgと相当な身長差のある対戦だが、この相性はどちらかというと河田の上背の優位よりは友田の重心の低さによる安定という目に転がった感あり。河田は引き手から、応じた友田は釣り手から持って突きながら対峙し様相は拮抗。

河田は支釣込足の蹴り崩しに大外刈で攻め、友田がいなしながらチャンスを探すという構図で試合は進む。1分過ぎ、横襟を掴んだ河田が腰を切る前技アクションを3度入れると友田の頭が下がり、1分11秒友田に「指導1」。河田一気に攻め込みたいところだったが、直後友田は左一本背負投に小内刈と技を繋げて展開を持ち直す。

2分43秒、河田がクロス組み手から払巻込に潰れる。リスクのない角度で仕掛けて安易に潰れるかつての悪い癖が顔を出したのであれば以後の展開大きく相手に傾く可能性あり、と次の手が注目されるところだったが、河田は残り1分を過ぎると持ち直す。まず引き手を確保、次いで釣り手を背中に入れながら取り味のある右大外刈を入れて会場を沸かすと、さらに一旦右一本背負投に入るアクションを入れて友田を崩し、間髪入れずに釣り手を深く背中に入れて一方的に組み手の優位を再獲得。友田は支釣込足でいなして離れて危機を脱したが、試合は河田がやや優勢のまま拮抗状態継続。

残り35秒に河田の前進に合わせて友田が打点の高い右背負投、残り5秒では河田が右払腰を放つがいずれも取りきれず。この試合は引き分けに終わり、勝負は中堅同士による第3試合に引き継がれる。この時点で試合は2戦の連続引き分け、国士舘にとってこの日初めての接戦の気配が漂う。

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飯田健太郎の大内刈、飯田は足技の連続攻撃で攻勢権確保

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友田は後半反撃、右払巻込に食いつく

第3試合は双方ともにエース級が登場、国士舘・飯田健太郎と大成・並木泰雅がマッチアップ。

飯田、並木ともに右組みの相四つ。飯田は釣り手で横襟を得る両襟の組み手、並木は引き手で襟を掴んで突いて対抗。

飯田、「どう取ろうか」とばかりに釣り手を激しく振り立て右小内刈、さらに左出足払、右小内刈と足技を繋ぎ、さらに再度釣り手を振り立てて右大内刈。並木大きく崩れて畳に伏せ、直後の39秒並木に「指導1」。釣り手を動かし、大技の恐怖を晒しながら足技、それも相手に移動を強いながらの足技を出し、かつそれを間断なく繋げてと飯田の攻めは「筋が良い」と評するしかない素晴らしいもの。前戦での並木の好パフォーマンスが観衆の記憶にあるだけに、飯田の強さはさらに際立つ。

スタミナに難があるとされる飯田であるが、もしこの攻めが続くのであればいったいどれだけ強いのだろう、と観衆固唾を飲む中、飯田再度の右小内刈。並木が右大外刈に変換すると飯田は一旦相手を止めておいて、さらに段重ねの思い切った右内股。並木大きく崩れるが引き手が切れてしまいこれは「待て」。

この一撃を決め切れなかった飯田は以降しばらく少々攻撃のペースが落ちる。しかし反撃の間と見た並木の支釣込足を左の出足払に変換して崩し、続く展開では相手に持たせないまま一方的に引き手を確保するなど大枠の優位は動かず。並木は一段力を絞り出して釣り手で片襟に手を掛けると、相手をグイと引き寄せながらの右大外刈でこの状態を脱出、飯田は伏せて「待て」。

並木事態を打開せんとまず釣り手で片襟、引き寄せて引き手で袖という組み立てで間合いを詰めるが飯田すぐさま切り離して形を作り直す。並木は、切り離された釣り手を押し込み流されてクロスの形を強いられてしまい、2分16秒並木に片襟の咎で2つ目の「指導」。

ここで展開の優位を固定してしまいたい飯田は釣り手で背中を掴んで前に引きずり、右内股。しかしその戻りに並木突如復活、持ち替えて腕を抱えた右払腰、さらに回避した飯田を追い掛けて取り味のある右大外刈を仕掛けることに成功。

以後は並木に主導権がジワジワと移る中、並木の大外刈に飯田の大内刈と攻防は一進一退。最終盤は飯田のスタミナが切れて並木の「蹴り崩し」が良く効くが、飯田なんとか踏ん張りきってタイムアップ。この試合は飯田が反則累積差による優勢勝ちで勝利を収める。国士舘、3戦目に至ってついに先制。両軍ともに「想定内」「許容範囲内」であった前2戦からついに戦果がはみ出し、大成にとってはまことに痛いビハインド。

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古賀颯人は左に構えを変え、引き手で脇を突いて距離を取る

第4試合は畳に残った飯田に大成の副将・古賀颯人がマッチアップ。
両者右組みの相四つ。73kg級の古賀は体格に大きく劣るが、対大型選手戦における試合運びの上手さは折り紙つき。左に構えて左手で飯田の右脇を突いて距離を取り、飯田が応じて釣り手で奥襟を掴むと瞬間左腕を曲げ捌きながらその腕を叩いて離れ、左右に回って圧力をずらしつつ「引き手で脇を突く」対相四つ大型選手相手の王道を継続。

飯田は前進、古賀をいったん場外際に追い込んで両手の確保を狙うが古賀は止めあって前傾し合うこの手繰り合いに応じ、いったん両袖を得ると釣り手で脇を差しながら飯田の伸びあがりに合わせて右大内刈。この技を受けて思わず飯田が下がると今度は両手を挙げて袖を掴み合う事実上の「手四つ」の形に持ち込んで拮抗を図る。思わず面白い、と唸りたくなるバイタリティ溢れる柔道。飯田がこの拮抗から抜け出すべく釣り手を奥襟に入れると古賀はバーターで飯田の引き手をいったん切り離し、回り込んで奥襟を剥がして再び引き手で脇を突く形に持ち込み、迷いのないリアクションで飯田に形を作らせない。このやり取りのさなか、飯田の前進に古賀が畳を割り「待て」、32秒

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飯田の「やぐら投げ」が豪快に決まって「一本」

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再開。飯田は一呼吸で両襟を捕まえかけるが、古賀は片側を切り離すと再び左に構えて引き手で脇を突く。飯田は釣り手を奥襟に入れて応じ、丁度ケンカ四つで引き手を争う形が現出。組み手の最前線は古賀の右釣り手、飯田の左引き手に移る。

組み手争いを大枠自分のペースで進めることに成功した古賀、一段陣を進めて構えを右にスイッチすると、同時に釣り手を奥襟に入れる強気の奇襲。73kg級の古賀が100kg級の飯田の奥を引っ掴んで頭を下げさせんと図る攻撃態勢だ。

しかし飯田は全く慌てず、今度は自身が左に構える形で長い左手を横から背中に回して古賀の柔道衣を拘束。体重を下に掛けて相手を前に煽りだそうという構えの古賀に対して腹を突き出しにじり寄って距離を詰めると、左脚を股中で高く挙げて「やぐら投げ」の大技。一呼吸で古賀の両脚が浮き、その体は飯田の腹の上。飯田がそのまま左に腰を切って両足ジャンプの勢いで体を捨てると、高く掴んだ自身の釣り手でロックされてしまった古賀の体はあっという間に一回転。

飯田がにじり寄ってから古賀が畳に叩き付けられるまで、まさに一瞬。横襟に高く入った釣り手で首を固定された古賀の体にもはや相手の力を回避する材料は残っておらず、ベシャリと畳に落ちてこれは文句なしの「一本」。

試合時間僅か47秒、飯田が一本勝ちで二人抜き達成。

対相四つ大型選手にどう戦うか、という観点から考えると古賀の戦い方は素晴らしかったが、ここは飯田が一段勝った。相四つ軽量選手に対してその組み手の防御壁を無力化する具体的な一撃を獲得していたこと、それが順方向の技ではなく逆である左への、それも軸足を右に左を跳ね上げるという相四つとしては考えにくい奇襲であったこと。もちろんこれを実現する飯田の身体能力と一撃で決めて見せる勝負カンは見事だが、何よりこの技の保有自体、武器としての「あるなし」が古賀の想定の上を行った、そのこと自体で勝負がついたという体の一撃だった。

ここに至って盤面の行方は国士舘の勝利に向かって完全に固定された感あり。大成は最後の砦である大将・神鳥剛が畳に向かう。

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神鳥剛が飯田健太郎を出足払で大きく崩す。瞬間「一本」すら想起された大技だった。

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飯田が右内股で反撃、しかし軸足が滑ってしまいポイントには至らず

第5試合は国士舘・飯田健太郎が右、大成・神鳥剛が左組みのケンカ四つ。
神鳥「始め」が宣されるなり猛ダッシュ。釣り手を得て前へ前へと体を運ぶと飯田は右内股で一旦展開を切りに掛かるが、神鳥今度は前に飯田を引きずり出して動かしながらの左内股。大成ベンチからは「そうそう、そのリズム!」と一声檄が飛ぶ。

続く展開では飯田が先に釣り手を確保するが、神鳥は肘を上げてこれをズラすなり動き良く鋭い出足払、さらに飯田に移動を強いながら左内股と攻め立てて攻勢。飯田この流れを止められず、引き手を嫌ったとの咎で「取り組まない」咎による「指導1」を受ける。経過時間は1分13秒。

神鳥は一貫して飯田を動かし続ける非常に良い柔道。続くシークエンスでは飯田を前に煽りだすと迫力十分の左内股を2連発。飯田は見極めて返し掛けるがこの攻撃で神鳥の攻勢はさらに加速、再開直後の1分50秒には飯田を前に呼び込みながらタイミングピタリの左出足払一閃、飯田の体は渦に引きずり込まれるように大きく崩れる。瞬間「一本」が想起される技だったが勢いが付き過ぎて神鳥の両手が離れ、飯田はなんとか伏せて「待て」。ここに至って神鳥の攻勢は完全に確定した感あり。

しかし飯田の気力は衰えず。疲労明らかながら直後の2分から始まった20秒余のシークエンスで迫力ある右内股を2度繰り出し、なんとか試合を持ち直すことに成功。神鳥は直後に素晴らしいタイミングで引き出しの左小内刈を見せるが、いまにも2つ目の「指導」が宣せられるのではという勝負どころを飯田の頑張りで逃してしまった感あり。

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神鳥が引出しの左払腰、飯田為す術なく宙を舞うがこれは場外

以後はさらに加速する神鳥の攻撃に対し、陥落寸前の飯田がそれでも時折見せる「取りに行く技」でなんとか拮抗の形を保ち続けるという構図。神鳥攻勢の極め付きは3分4秒、飯田を前に引きずり出すとその重心移動に合わせた左払腰、さらに上下のあおりを入れて重心移動の振幅を一段高め、引き出しの左払腰という二段攻撃を見せたシーン。剛体となった飯田は為すすべなく投げ込みのように一回転、あわや「一本」というところだったが、二段目の攻撃に移るあおりの段階で両者は既に畳を割っており、神鳥の投げは椅子を持って場所を空けた副審が「場外」ゼスチャーを出した後。合議の結果これはノーカウントとなった。

あと1つの「指導」を得れば勝利に辿り着く神鳥の波状攻撃は止むところを知らない勢いで続くが、残り25秒で痛恨のミス。場外際に足を置き続け、主審のジャッジの焦点が場外の有無に移ったタイミングで足技を狙って横にスライド。自ら畳を割る形を作ってしまい場外による「指導」を受けてしまう。これで反則累積差はゼロ、勝利に必要な「指導」はあと「1」から「2」に戻ってしまう。

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終了ブザーが鳴り響く

神鳥必死に攻め、残り7秒には飯田に2つ目の「指導」が宣告されるが、神鳥に残された時間はあまりに少ない。疲労困憊の飯田は立ち続けたままついにゴール、この試合は引き分けとなり国士舘の二人残しによる勝利が決定。国士舘、5年ぶりの高校選手権制覇を成し遂げた。

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優勝を決めた国士舘高。この試合も二人残しの圧勝だった。

国士舘高○二人残し△大成高
(先)田嶋剛希×引分×前濵忠大(先)
(次)河田闘志×引分×友田皓太(次)
(中)飯田健太郎○優勢[僅差]△並木泰雅(中)
(中)飯田健太郎○大腰(0:47)△古賀颯人(副)
(中)飯田健太郎×引分×神鳥剛(大)
(副)竹村昂大
(大)山田伊織

国士舘の圧勝。この決勝も副将の竹村昂大と大将の山田伊織という主力級2枚が出動することなく、二人残しという大差で勝利を決めてみせた。冒頭書いた通り大成のオーダー順はこれしかないというくらいに冴えたものであったが、国士舘がそのディスアドバンテージを力で弾き返したという一番だった。

決勝は飯田が演じた3試合がそのまま最大の勝因。古賀を投げつけた「やぐら」は見事の一言、まさに相手の予想の上を行く大技であったが、前述の通りこれはその保有自体が勝負を分けたエクストラポイント。相手の想定を超える武器を呑んで試合に臨んだという万端の準備があったわけだが、国士舘の勝ちの本質はむしろ残りの2戦、サイズがあって誰が出張っても苦戦必至の並木を競り合いで下した第1試合と体力を失って攻め込まれながらも手数ではなく「投げに行く」こと自体で拮抗を保った最終戦にこそ見出すことが出来る。今季の国士舘がただ強い駒を並べただけのスターチームではない、チームとしての闘いが畳に立つものに染みているということが良くわかる2試合であった。

敗れた大成からすれば、前濵の背負投があともう少し深ければ、友田が引き分けを受け入れずあくまで獲りに行っていれば、並木が釣り手を流されたときに早いリアクションが出来ていれば、神鳥が終盤に見せた猛攻を序盤から休まずに仕掛けていれば、と個々の試合に惜しい「たられば」は数多くあった。それぞれの試合は最終スコアほどの差はない接戦であった。が、国士舘がこれらの分水嶺をことごとくモノにしたことには、圧倒的な戦力を誇る国士舘が、その勝利のテコとして戦力そのものではなく「戦い方」を追求し続けたことが背景にあると考える。天才肌の飯田に、それも後に大駒2枚が控える状況でこれだけの粘戦をさせる覚悟の作らせようは尋常ではない。挑む立場の大成としては、圧倒的戦力を誇る国士舘の「隙」を突くことが必要だったが、そこで国士舘にここまでしぶとい試合をされてしまっては苦しい。結果的に国士舘が見せた「隙」は、3回戦で田嶋剛希を畳に送り出したことで決勝での再起用を予期させてしまった(ここで我慢すれば、周囲は個人戦で6試合を戦っている田嶋の団体戦での起用はないと勝手に思いこむ可能性がある)というオーダー立案上のものだけ。戦力の充実にあぐらをかかず、国士舘らしい勝利への覚悟を全員に染みさせていたことこそが、この圧勝の最大の因だろう。

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強さ明らかな大成、決勝は惜しくも届かず

試合終了の瞬間、大成・石田輝也監督は椅子に座ったまま突っ伏してしばし動かず、その悔しさを露わにした。眼前で頭を抱えて悔しがる神鳥と相似のその形に、今大会の大成チームの一体感と本気度の高さが伺われた。まことに良いチームであった。厳し過ぎる組み合わせを地力の高さと勝負強さで次々制し、そして決勝でピタリと嵌めてみせたオーダー順。勝利の条件整ったかに見えたが、国士舘の壁はあまりに厚かった。

決勝、敢えて、強いてその敗因を探るのであれば、前衛2枚がもっとアグレッシブな試合、後のない試合を志向して試合に入るべきだったとは言えるかもしれない。後ろに勝負を持ち込む粘戦をもって国士舘の焦りを誘い、決戦兵力同士が雌雄を決する状況を作り出そうというその作戦はまことに妥当なものであったが、この「試合を作りに掛かった」部分が大成らしい攻撃柔道の良さを減殺した面もまたあり。前戦まで大成が強豪各校の挑戦を退けつづけたのは存分にその攻撃力を引き出す「殴り合い」の結果であったが、その最大のストロングポイントである攻撃性、自身の最高到達点をぶつけるような試合になりきらなかったのは少々残念。常の相手であれば大成の策は十分嵌ったはずだが、国士舘の強さと仕上げの良さはその想定を大きく上回っていた。勝負どころを限定して試合を作りにいくのか、想定を超える「殴り」を入れ続けて後戻りのない乱戦に引きずり込むか。全くの結果論、試合が終わってから出す後だしの評ではあるが、ここまで完成度高く仕上がって来た国士舘に勝つには大敗のリスクもあるが乱戦に引きずり込んで場を煮え立たせることが可能な後者の選択しか、実はなかったのかもしれない。それほど国士舘の壁は厚かった。攻撃型の大成に、「後ろに持ち込む試合」を志向させたときに既にペースは国士舘にあったとすら言えるかもしれない。

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国士舘から1年生2人が優秀選手に選ばれた。最優秀選手は飯田健太郎。

優勝した国士舘は18勝2敗7分け、一本負けはゼロ。副将と大将は最後まで出番なし。しかも大会通じて抜き役を務めて優勝の中心核を担ったのは飯田、河田、磯村の1年生3人であり、「1年生のみで優勝した」と言って差し支えない5試合。まさしく史上に残る圧勝劇であった。

大成、日体荏原らライバル校には、常の年であれば十分全国制覇を狙える戦力が揃っている。しかし今年の国士舘を倒さんとするのであれば、必要とされる到達点の高さは例年の比ではない。日本一を目指して稽古を続けた結果いつの間にか国士舘を上回る地力が身に着くというような「常の稽古の延長線」の先に国士舘攻略はありえない。稽古の量、質、戦略、戦術全てにおいて常識を超えるアプローチが必要なはずだ。

果たして各校の監督、そして何より選手に、それだけの覚悟があるか。「今年を降りる」ことなく国士舘に挑む覚悟とビジョン、熱量があるのか。

そして勝利した国士舘。隙の見えない戦いであったが、あまりの圧勝振りと戦力の充実に、抜き勝負レギュレーションで行われる高校選手権もうひとつの側面である、「スーパーな『個』を育成する場」をひとつ失ってしまったという面もある。例えば、自分が勝ちまくる以外にチームを救う方法がない状況で畳に立ち続けた太田彪雅(白鴎大足利)と今大会1試合も畳に立たずに終わったライバル山田伊織が今大会で得た経験値には明確な差があるはずだ。あまりに贅沢な話であるが、夏に向けては今回クリアした抜け目のない試合、チームに染みた緊張感の継続といった試合力の練磨以上にこの「個」を高めることが再度他校の挑戦を弾き返す上での最大の課題になるはずだ。この時点で試合力に特化して仕上げを図ることはチーム全体のスケールダウンを招きかねない。どこまで地力を伸ばし、どの時点で再度の仕上げに掛かるのか。岩渕監督の手腕と、選手個々のプライドに期待したい。

今年の高校柔道界を貫くテーマは戦前と変わりなし。巨大戦力を誇る王者・国士舘によく挑み得るのはどこか、その牙城を崩すチームは現れるのか。夏に向けてその構図がさらに明確となった高校選手権であった。

文責:古田英毅

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優勝の国士舘高

【入賞者】
優 勝:国士舘高(東京)
準優勝:大成高(愛知)
第三位:日体荏原高(東京)、大牟田高(福岡)
敢闘賞:神戸国際大附高(兵庫)、新田高(愛媛)、白鴎大足利高(栃木)、天理高(奈良)

最優秀選手賞:飯田健太郎(国士舘高)
優秀選手賞:磯村亮太(国士舘高)、古賀颯人(大成高)、藤原崇太郎(日体荏原高)、浜野大生(大牟田高)

岩渕公一・国士舘高監督のコメント
「とにかく、ホッとしました。初戦の出来がいま一つでしたが、終わってみれば2人残し、3人残しと意外に差がついた。総合力でしっかり勝てました。今年は生徒に『斉藤仁の魂を受け継げ』と重たいものを課してやってきました。2月からの稽古はいままでにないくらいの練習量だったと思います。稽古のとき、そして今朝、生徒に斉藤仁の写真を見せました。優勝した全日本選手権の決勝、あと30秒というところで開始線に戻るときの写真です。まさに鬼神の表情。斉藤仁がついているんじゃない、自分が斉藤仁になるんだ、この顔で戦うんだと言い聞かせました。最初の試合で力を出し切れなかった磯村も準決勝では守らず、どんどん前にいってへべれけ、へとへとになりながらも最後に抑えた。決勝は替えられて泣いていましたが、こういう試合をしてくれたことが優勝に繋がったと思います。決勝は大成と読んでいましたが、こちらのオーダーも完全に読まれた。その中で飯田が頑張りました。もっと攻め抜かなければいけないんですが、スタミナがない中で『指導』をとってそれでも勝ってきたのは非常に大きい。チーム全体で今後の課題は一杯、まずは体力です。鈴木桂治が1年生のときや、かつての世田谷学園のエース級は準決勝で5人抜いて決勝で先鋒に出て来て、周囲もそうするものだと思っていた。ああいう風にならないといけない。今のご時世だからこそ厳しく鍛えたい。辛抱強く、逃げず、くさらず生きていける人間を作らないといけない。チーム内での競争が激しいので競技力は上がってくる良い環境にありますが、だからこそ尚更こういうところをしっかりやっていきたいですね。とにかく、斉藤仁に、勝ちを報告出来てホッとしました」

石田輝也・大成高監督のコメント
「決勝は前で押さえて後ろで勝負というつもりでした。残念です。決勝までにかなりの山があるとは覚悟していましたが、ここまで接戦が続くとは予想以上でした。抜き勝負は、やっぱり過酷です。今日は並木の調子がいまひとつで、その分神鳥と古賀が頑張ってくれた日。競った時にしっかりやってくれたと思います。しかし、夏に向けての課題もまさにその部分。競った時、疲れたところからの勝負の厳しさを稽古の中でわからせるようにしていきたい。頑張ります」

【準々決勝】

国士舘高(東京)○三人残し△神戸国際大附高(兵庫)
大牟田高(福岡)○代表戦△新田高(愛媛)
大成高(愛知)○一人残し△白鴎大足利高(栃木)
日体荏原高(東京)○一人残し△天理高(奈良)

【準決勝】

国士舘高○三人残し△大牟田高
大成高○一人残し△日体荏原

【決勝】

国士舘高○二人残し△大成高

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版4月1日掲載記事より転載・編集しています。
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