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【eJudo’s EYE】「投げる」競技の本質にまっすぐ立ち向かったオルティスが連覇、クルブス戦を軸に日本勢との差を考える・チェリャビンスク世界柔道選手権78kg超級「評」

(2014年9月7日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月7日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo’s EYE】「投げる」競技の本質にまっすぐ立ち向かったオルティスが連覇、クルブス戦を軸に日本勢との差を考える
チェリャビンスク世界柔道選手権78kg超級「評」
まず素直に謝りたい。展望記事では「”柔道が強い”日本勢2人と”試合力が高い”オルティス、アルセマム」という見立てを提示したわけだが、まったく失礼なことをした。

決勝を争ったイダリス・オルティス(キューバ)とマリア・スエレン・アルセマム(ブラジル)がこの日繰り広げた柔道は素晴らしかった。

試合ごとに出来不出来の差が激しいオルティスだが、今回の仕上がりは完璧。準々決勝は業界きっての巨躯を誇るヤスミン・クルブス(ドイツ)を相手に臆せず左一本背負投で相手の腹の下に潜り込みあっという間の一本勝ち。準決勝では今季の欧州選手権王者エミリー・アンドル(フランス)を相手にGS延長戦まで持ち込まれたが相手の掛け潰れを見逃さず崩上四方固で一本勝ち。

アルセマムも「一本」連発で勝ち上がり、準決勝では田知本愛との攻め合いから一歩も降りず、掛け潰れることすらなく畳に立ち続け「指導1」の優勢で勝利して決勝に進出。

そして昨年と同じカードとなった決勝は、戦術派として名を売ったはずの2人が「投げずば勝利なし」とばかりに殴り合う好試合。掛け潰れてお茶を濁す先手攻撃などハナから眼中にないかのごとく、ケンカ四つの腰の差しあいから直線的行動で投げを撃ち合うガチンコ勝負となった。最後はアルセマンが放った左内股をオルティスが抱きかかえて応じ、投げの打ち合いの末にオルティスの裏投「一本」で決着。

こう言うと当たり前に聞こえるかもしれないが、2人は明らかに強くなっていた。体が一段強くなったオルティスはこれまで物足りなかった投げの切れ味と持ち味の集中力の高さを上積み、アルセマンは運動能力を保ったままの体格大型化に成功。技術のレベルはともかく、かつて手数合戦の泥沼試合が定番であった2人が「投げる」というこの競技の本質的行為にまっすぐ向き合って戦いあった決勝の様相は感動すら覚えるほどであった。

比するに日本勢の2人はまさしくこの「本質的行動」に欠けたと評したい。評価の指標になるのは欧州きっての大型選手ヤスミン・クルブス(ドイツ)とオルティス、山部、田知本が戦った3試合だ。

体が大きく力も強いが懐に入る勇気さえ持てば実はその守備はグズグズ、というのがクルブスのパーソナリティ。ファンの記憶に新しい典型的試合としては小兵のルチア・ポラウデル(スロベニア)に一本背負投で思い切り放られた昨年のグランプリ・リエカ決勝、アルセマンに左大外刈を仕掛けられるなり地すべりのように崩落し「一本」で敗れた今年のグランドスラム・チュメン3位決定戦などが挙げられる。
この「装甲は厚いが中身はスポンジケーキ」とでも言うべきクルブスに対し、オルティスは1分28秒に左一本背負投「一本」で勝利、山部は最後まで相手を怖がって仕掛けず、たまに仕掛ける技は早々に自分の頭を下げる「目を瞑って刀を振り回す」体の技で結果「指導1」での敗戦、田知本は「指導1」差を持ったまま逃げ切ろうとしたが追いつかれ、結果相手の技により強制的に距離が詰まって出来上がった「懐に入った状態」を利しての払腰での一本勝ち。早々に投げに出たオルティス、行けなかった山部、外的要因にお膳立てしてもらうまで行けなかった田知本。何が表彰台の高さを分けたかは明らかだ。
山部と田知本、実はこのクルブスに過去負けていない。山部に至っては、実は昨年のグランドスラムモスクワにおいて開始早々の払腰で一本勝ちしたという履歴すらある。クルブスは今春確かに強くなって掛け潰れ率も段違いに減りはしたが、ワールドツアーにおける「行けば飛ぶ」選手としてのニッチはそのままで、掛ける度胸があるかどうかを測る肝試しの対象となっている感すらある。そのクルブスに対しなぜ行けないのか。
表彰台を狙おうというレベルの選手がクルブスに負けてしまう(あるいは仕掛けられずに遠巻きにその周囲をウロチョロする)のは、率直に言って、おそらく、ちょっと恥ずかしい。ワールドツアー常連の選手間ではこの試合がどういう評価になっているのか、聞いてみたい気すらする。

田知本と山部は投げる技術、そしてその前段の投げに至るテクニックにおいてオルティスやアルセマムより遥かに上。日本という土壌にあってしか獲得し得ない精妙な技術を持っている。一方オルティスとアルセマムにはそんなものはない。しかし「投げる」という本質的行動に直であったのは「持たざる」オルティスとアルセマムの方であり、田知本と山部は練りに練ってきたはずの投げという行動を自ら起こせないまま沈んだ。では田知本と山部の長年に渡る、「投げる」修行とはいったい何だったのか。ここ一番繰り出せない「投げ」に修行の意味はあったのか。
展望記事の「柔道が強い日本勢2人」という見出しを撤回せざるを得ない理由はまさしくここにある。

おそらく関係者はこの消極性を勝負論の視点で説明するであろう。「大きい選手は優しいから」「闘争心に欠けるから」「だから勝負どころで弱気が出た」「プレッシャーで潰れた」。

もどかしい。我々ファンは何年同じ構造を見せ続けられなければならないのか。塚田真希と薪谷翠が強さ以上にこの闘争心という一点においていかに得難い人材であったかを、年を経るごと、大会が終わるごとに改めて思い知らされる。

78kg超級が陥った弱気の連鎖はいつまで続くのか、同じことが3年、4年と起こり続けている以上、これはもはや選手ではなく強化のプロデュースに帰されるべき問題でもある。どうやら普通のやり方では覆そうにないこの膠着にブレイクスルーを起こすには何が必要なのか、やっぱり勝てなかった、どころか差を広げられてしまった今大会で日本に突き付けられたものは大きい。

そして、修行とは何か、稽古とは何なのか、勝負とはいかにあるべきなのか。柔道論と勝負論。この階級の結果と内容も「勝つ」という一点を巡ってまことに示唆に富んだものであった。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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