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【eJudo’s EYE】ヌンイラ見事銀メダル獲得、その最大の因は「立ち位置の見極め」・チェリャビンスク世界柔道選手権第5日目「評」

(2014年9月5日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月5日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo’s EYE】ヌンイラ見事銀メダル獲得、その最大の因は「立ち位置の見極め」
チェリャビンスク世界柔道選手権第5日目「評」
- ヌンイラ見事銀メダル獲得、その最大の因は「立ち位置の見極め」-


ヌンイラ華蓮の銀メダル獲得はおそらく強化陣にとってもうれしい誤算、この場で「出来過ぎ」と評したとしても決して失礼には当たらないだろう。なにしろ初戦からニアン・アッスマ(モロッコ)の隅返に思い切り捕まって「技有」を食らい、続く3回戦はゾウ・チャオ(中国)を相手に開始16秒の右袖釣込腰に吹っ飛ばされてこれまた「技有」を失っている。アッスマはグランプリ・デュッセルドルフで1位を獲得した経歴こそあるがワールドツアーでは敗者復活戦を勝ったり負けたりが平均値の選手で、ゾウに至ってはワールドツアー参加が3年で3回だけ、うち2回は地元のGP青島というほとんど無名と言って良い選手である。この2人を相手に思い切り投げつけられ、失点以後も正直「一本」取られずに畳から戻ってきたのが不思議なほどの危ういパフォーマンス。それが終わってみればファイナリストの栄光を勝ち得たのだから、勝負というものは面白い。

ヌンイラが決勝までに戦った表彰台レベルの選手は準々決勝のケリタ・ズパンシック(カナダ)唯1人のみ。確かに組み合わせには恵まれていた。

隣のブロックではシード選手2人がともに食われ、準決勝の相手はノーシード選手のバーバラ・マティッツ(クロアチア)。荒れた展開にも助けられた(準決勝もう1試合はキム・ポリングとユリ・アルベールなのだからこの組み合わせの偏りは推して知るべしだ)。

そして唯一戦った強豪のズパンシックはパワーファイター揃うAシード選手の中では比較的立ち向かい易い戦術派、しかも挑む側が試合を組み立て易いケンカ四つ。この日のヌンイラには明らかに風が吹いていた。

しかしそれでも、この「風」を味方にできた理由、混戦を決勝まで上り詰めるに至ったその因は明らかに本人の中にあるはずだ。それはいったい何なのか。

この日のヌンイラは劣勢の中でワンチャンスをモノにし続けた。初戦でニアンに投げられて絶望的な「技有」を失いながらそのまま逆に抑え込み、「解けた」が宣告されると、「待て」と勘違いして力を抜いた相手を後目に抑え込み直して一本勝ち。ゾウ戦は相手の勝負技が両袖の袖釣込腰のみと見極めると両襟で袖釣込腰を封殺、ジリジリ前進してチャンスを待ち、相手が大外刈を半端に仕掛けたただ一度の機会を逃さず大外返で逆転の一本勝ち。準々決勝のズパンシック戦は格上との腰の差しあいという拮抗展開の中我慢に我慢を続け、相手の小外刈の失敗を見逃さずに押し込み返して「技有」奪取で勝利。集中していた、一瞬の隙を逃さなかった、最後まであきらめなかった、と言うのは簡単だがこの日のヌンイラの集中力はそんな言葉で括ってしまうのが勿体ないほど密度も到達点も高かった。

そして良く考えてみて欲しい。初めて出場した世界選手権の場で、畳に上がるなりいきなり「一本」級の投げを、それも二試合連続で食らってしまった選手が萎縮せず、心を折らず、試合を続けられるということがそもそもありえるのだろうか。

これはヌンイラが良くも悪くも、メダル争いのアウトサイダーである自分の立ち位置をきっちり自覚して試合に臨んでいたからだろう。半端な楽観論や根拠のない自信だけで己を奮い立たせていてきたのであれば、序盤戦の段階でヌンイラの心もプライドもポッキリ折れてしまっていたはずだ。
強くない自分が勝つにはワンチャンスを生かすしかないという集中、勝てるチャンスは絶対逃すわけにはいかないという覚悟、一発投げられたからと言って今更驚いちゃいられないという良い意味での諦念。ワールドツアーの中で掴んできたこの「自身の立ち位置の理解」こそが、ヌンイラの今大会における躍進の最大の因ではなかったか。

自身の低い序列をまっすぐ見つめることによる、リアルな自己理解と嘘の無い覚悟。たとえば思考停止して「金メダルしか考えてない」などと去勢を張った末に試合中ポッキリプライドが折れてしまうような戦いぶりとは雲泥の差があるのではないか。

とはいえ、ヌンイラが参加したワールドツアー(IJF主催大会)は実は今年6月のグランプリ・ブダペストのみ。一段落ちるコンチネンタルオープンの参加歴はあるものの、それを合わせてもヌンイラの国際経験はさほど豊かなものではない。
ここには、ヌンイラとスタイルを同じくする日本のパワーファイターがことごとく国際大会で苦戦を続けてきたという事実がもちろん大いに寄与しているだろう。より具体的に言えば、環太平洋大の先輩である大住有加、片桐夏海、同僚である高橋ルイらの国際大会での奮戦と苦戦は、このヌンイラの覚悟の醸成という文脈において決して無駄ではなかったということだ。数年にわたる「ヌンイラ系」の先輩たちの苦戦が生みだした覚悟、そしてそれがポジティブな方向に結実した銀メダルという素晴らしい成果であった。

そしてこのヌンイラ、この成功体験が効いたか最終日に行われた団体戦では明らかにそれまでとは一段違った強さを発揮していた。人は稽古のみにて強くなるにあらず。世界二位という称号を得たヌンイラがどこまで上り詰めるのか、今後が非常に楽しみである。

- 新兵器「小手投げ」持ち込んだイリアディスが3度目V、ベイカーは若手世代躍進の波に飲まれる -


90kg級はイリアス・イリアディス(ギリシャ)が2010年東京大会、2011年パリ大会に続く3度目の優勝。優勝候補筆頭とされたヴァーラム・リパルテリアニ(グルジア)を始め強豪が次々敗退、Aシード選手からベスト4に残ったのは自身1人のみという荒れたトーナメントを悠々制して表彰台の真ん中に登った。

全ての選手に警戒されるイリアディスがその包囲網を突破すべく今回持ち込んだ新技は「小手投げ」。ケンカ四つの相手に敢えて釣り手を深い位置で与えておき、これを抱え込むことで半ば相手の肘を極めながら相手を転がし続けた。釣り手で奥、背中を叩くことで自らのパワーを生かし、腰技で投げ切るイリアディスのスタイルは全ての選手の警戒の的。上から目線の一方的な組み手だけでは技を仕掛けるチャンス僅少とみたイリアディスが、敢えて組ませることで自分の力を生かした、まさしく勝利の所以となった必殺技であった。

日本期待のベイカー茉秋はイリアディス戦に辿り着けず3回戦敗退。2戦しただけではたとえば巷間流布する「腰を引くスタイルが国際向きではない」という評の検証(たしかに敗退の場面にはこの構えが影響した感が否めないが)は難しいし、まだ国際大会3回目の代表最年少選手ベイカーに対して「世界の強豪の中での立ち位置」という文脈での評も少々無理があるように感じられる。ここは、昨年から続く90kg級の若手世代の台頭の波に、その波頭にいたベイカーが飲み込まれた大会と、今大会の敗退の事情を理解しておきたい。


戦前、今大会躍進が期待される若手世代の中でもっとも期待されていたのは昨年12月のグランドスラム東京に優勝した日本のベイカー茉秋と、世界ジュニア選手権に優勝し2月のグランドスラム・パリでベイカーと激戦を繰り広げたベカ・グビニアシビリ(グルジア)であった。

ところが蓋を開けてみればベイカーもグビニアシビリも早期敗退(グビニアシビリは初戦でキリル・ヴォプロソフに一本負け)、大ブレイクを果たしたのはこの2人に続く3番手と目されていた21歳のクリスティアン・トート(ハンガリー)であった。トートは第1シードのリパルテリアニを破り決勝まで勝ち抜く大活躍で、90kg級次代の旗手の座を完全にベイカーから奪い取った。
実はベイカーを「上から目線」の豪快な大外刈一発で屠り去り、次戦のイリアディス戦でも堂々たる戦いを繰り広げて「どこにこんな強者が潜んでいたのか」と関係者を驚かせたセリオ・ディアス(ポルトガル)も21歳。この人は昨年の欧州ジュニア選手権5位、トート同様今年に入ってから伸びた期待の若手である。
この世界には良い選手が出現する時期、世代には周囲にもまた強者が集中して現れるという法則がある。長年同じメンバーによって競われてきた90kg級には世代交代の波が押し寄せつつあり、その中心となるのは昨年のU-20世代。まだ絶対の強者こそ現れないが、この世代には「強者集中の黄金世代」の匂いが漂いつつある。

短い期間での成長と勢力図の変遷を繰り返す伸び盛りのこの世代の中でいち早く「頭を出した」ベイカーやグビニアシビリが潰されたというのが今大会の若手世代を巡る様相。
ジュニア世代の強者が「初物」であること自体を利してシニアの名のある選手を食うという番狂わせを順繰りに繰り返してきたこの1年を経て、この世代から抜け出すのは誰か。ベイカーの勝負は、この後だ。

- スター競演の中佐藤瑠香はアウトサイダー、参加の意義探すのが難しいローパフォーマンス-


贅沢なトーナメントであった。ケイラ・ハリソン(アメリカ)、オドレイ・チュメオ(フランス)、ソル・キョン(北朝鮮)、マイラ・アギアール(ブラジル)、アナマリ・ヴェレンチェク(スロベニア)らスター選手が順調に勝ち上がり、かつ準々決勝以降のこれら強豪同士の対戦は「一本」の応酬。互いが軽重量級の選手にはありえない鋭さで仕掛け、切り返し合ったハリソンとアギアールによる準決勝はここ数年の78kg級ベストバウトと呼んでもいいのではないだろうか。北京-ロンドン期に緒方亜香里と覇を競い続けたこれら強豪が競演した決勝ラウンドの激戦は結果アギアールの勝利に終着。ベスト4進出の4人のうち唯一まだ世界タイトルがなかったこの実力者の初戴冠という、ファンにとっても本人にとっても幸せな結果に終わった。

その激戦の影で、2010年の国際大会デビュー時に「実力世界一では」と騒がれたこともあった佐藤瑠香はひっそりと敗退。無名選手からの2勝を経た3戦目でこれもノーシード選手のヤレニス・カスティーヨ(キューバ)に「指導3」対「指導1」の反則累積差で敗れ、敗者復活戦に進むことすら叶わなかった。追撃態勢が整い、最後のスクランブル攻撃を行うべくここでだけは失点しないでおきたいという残り25秒を切ったところで場外の位置の取り合いにあろうことか根負けし、決定的な3つ目の「指導」失陥。常々インサイドワークに難ありとされてきた佐藤だが、その極めつけのような試合であった。

そして得点経過を追うだけでは実相を誤る気がするので敢えて主観が絡む語彙を使わせて頂くが、勝利した2戦も含めて、その「覇気のなさ」は歴代代表史上でも屈指であった。勝ちも負けも超えてあまりに熱量の低いパフォーマンス。精一杯好意的に書いたとして、何がしたかったのか、どこを目標に戦っていたのか、試合内容から読み解くのが非常に難しい3試合だったと評しておくしかない。

佐藤の世界選手権出場は10年東京大会(無差別)、13年リオ大会(ソルキョンとチュメオの強豪2人に敗れて7位)に続く3度目。メンタルで壊れたというようなナイーブな理由でその低パフォーマンスを説明できるようなキャリアではない。コメントを求められて十数秒に渡って無言で応えた試合後の会見も含め、代表としての自覚と責任感はあったのかと強く問われて然るべきであろう。選手の健闘続く今大会にあって、数少ない「任命責任」という言葉がちらつく階級であった。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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