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【eJudo’s EYE】まだまだ幼い新ルール下の寝技 『際』に明確な対策を・チェリャビンスク世界柔道選手権第4日「評」

(2014年9月4日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月4日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo’s EYE】まだまだ幼い新ルール下の寝技 『際』に明確な対策を
チェリャビンスク世界柔道選手権第4日「評」
前項の田代未来選手に関しての評で少しだけ「寝技に関するミス」に触れた。良い契機なので、ここで今大会の「寝技」をめぐる状況について評を試みたい。

「寝技を長く見る」新ルールの特徴に着目した各国が一斉にその技術の取得に舵を切ったのが昨年。ナタリア・クズティナらロシア勢が立ち際の腕挫腕固で取りまくり、腕挫膝固で階級を席巻したムンクバット・ウランツェトセグ(モンゴル)が48kg級決勝で浅見八瑠奈を「巴十字」で沈め、反則技の「裾を使った絞め」を懐に呑んで63kg級の決勝ラウンドに臨んだヤーデン・ゲルビ(イスラエル)が審判の目をすり抜けて阿部香菜とクラリス・アグベニューという格上2人を撃破して優勝を飾って、と昨年大会は「寝技の大会」という趣すらあった。

では今年はどうだろうか。あの熱病のような流行期を経て、寝技勝負はどのような地位を得、どのようなレベルに落ち着いているのか、そこに顕著なトレンドはあるのか、技術の向上はあるのか。

と、もったいぶって書いてはみたが、実は筆者も寝技に対して明確な問題意識を持って試合を見ていたわけではない。正直勝敗を追うのに必死で「寝技のトレンドは何か」などという別立ての統計を取るような余裕があったわけでもない。そんな状態でボンヤリ見ていても「どうにもこんな場面ばっかりじゃないか」と気付いてしまうのが「向いていない場面でも無理に、いきなり腕挫十字固を狙う選手」の多さ。腕挫十字固は全身(背筋)の力を使うので相手を制し易い反面、スタートの状況が悪い場合にいきなり狙うと体を移動させる時間と距離が長く相手に逃げる隙間を与え易いし、体ごと相手と90度でクロスせねば極まらないという要件をゼロスタートからいきなり決めるには結構な技術がいる。相手の体を制してあるべき密着を保ちながら「ここで体を倒せば(回せば)逃さない」というところまで体勢を持ち込まねばいけないはず(もしくは一瞬でその要件を満たす作りを行わければいけない)なのだが、早い話がそんなことをするのであったら腕緘か腕挫手固か、もしくは腕の制圧をテコに相手の頭か肩にアプローチして抑え込んでしまえば済むというような状況でも、みな十字固を狙う。そして逃がす。

もう一つ強く感じたのは寝技の攻防における「防」の技術の拙さだ。みなそこそこの攻撃技術(というよりも単発の「技」)はしっかり搭載して試合に臨み、そしてそれを撃ち込むわけだが、パワフルで自信満々の、それでいて決して技術レベルが高くなく一本道のシナリオしかない、そんな技がかなり決まる。そのくせ本人が受けに回ると決して強くない。巨砲一門を積んだ、しかし装甲はペラペラの艦で撃ち合って、たまたま相手が横腹を見せてくれた時(=寝技のスタートの体勢が良いとき、持っている寝技のシナリオのスタート地点に体勢が噛んだとき)には相手を沈める一撃が決まるという様相。特に、こういう言い方をしてはなんだがワールドツアーで半端に成績を残している中堅選手同士の対戦ではこの手の大味な攻防が非常に目立った。

ここで前段の「向いていないのにあくまで腕挫十字固」に話を戻すと、早い話がそういう選手は、関節技と言えば腕挫十字固しか出来ないのである。欧州で寝技が流行っていると言っても平均的なレベルの選手は「この技が利くようだから」と単発で一つ、二つの攻撃技術を見よう見真似で稽古してある程度使えるところまで仕上げて来たという段階に過ぎない。腕を制することに成功したとして、その着地点は腕緘なのか十字固なのか手固なのか、それとも「柔道の試合で関節技を狙うのは他に選択肢がなく関節技しか狙えない時」という鉄則(ある柔道出身の寝技のオーソリティが語ってくれた”柔道競技の寝技”における基本戦略だ)に従って抑込技を狙うべき状況なのか、あるいはいずれかを晒して最後は絞技で取り切るのか。こういうシナリオ進行の分岐点と選択肢をキッチリ抑える教育をしているのは、国としてはおそらくロシアのみ。一部のトップファイターを除いては皆うわべだけの「攻撃」を磨いているという歴史的段階にあり、攻防のレベルはまだまだ高くない。

この63kg級でのある欧州選手同士の対戦では、明らかに状況として向いていない場面で一方が相手の背中側からめくり返しの腕挫十字固を闇雲に試み(自身の体を捨てる距離が遠すぎてめくった時には腕の拘束が緩く、相手との角度も90度クロスにはほど遠い状況だった)、当然ながら決まるような体勢にはならず、しかし受けた相手にも明確な逃避手段がなく、それでも大して決まりそうにないからもしかしたら逃げることが出来るかもしれないということで片手を挙げて「参った」の準備をしながら仕掛けた側が勝手に失敗するのを待つという「お前らは4月に入ったばかりの高校生か!」と思わず突っ込みを入れたくなってしまう笑えない攻防まで見られた(ちなみにこの技は決まった)。もし昭和の強豪校で、この技術レベルで十字を狙うなんてカッコつけたことをしようものなら「顔がなくなる」お仕置きが待っていること必須である。

という、「攻めだけを磨くうわべだけの寝技」の猖獗の中、ロシアとともに「やはり段が違うね」と言われねばならない日本勢がこの時点で寝技で3敗を喫しているというのはまことに残念である。抑え込むことだけを考えて油断した橋本、うつ伏せ正対いずれを選ぶにしても半端な反応のまま相手に腕を与えて沈んだ松本、既にリードを得ているのに相手にのみ「一か八か」のメリットがある下からのめくり返しを、それも抑えるべきポイントを抑えず手順のみを先行させて試み相手のパスを許した田代、といずれもおのれのミスが原因であった。

ミスはミスとして、何らかの傾向分析、そして対策を導きださねばならない。

今回非常に多く見られたのは、背中に腕が残ってしまう「後ろ手」からの攻防だ。どう考えても攻撃側が圧倒的に有利なこの状況だが、前述の通り皆ここから無理に十字固を狙っては獲り切れないという絵が続いた。(地上波でも放送されたという100kg超級の七戸龍-クラコベツキ戦でこの形があった。これは相手が早々にあきらめたため、七戸の腕挫十字固「一本」に終着している)

「あくまで組ませる新ルールがある中で、“後ろ手”からのスタートが増えるのは当然」と喝破するのは当代きっての寝技のオーソリティ小室宏二氏だ。氏は「無理に十字を狙っても相手の肩が柔らかいと逃がす可能性が高い。手固か腕緘、あるいは逮捕術のように腕を極めながら体に押し付けて抑え込みを狙うのが良いのでは」と続ける。腕の確保という制圧の水源を抑え続けながら状況に向いた河口を探る、寝技の攻防かくあるべきであろう。(ちなみに高校レベルでも団体の強豪校の兵士として鍛えられた選手であれば具体的にこの場面では同じ判断に至るはずと思われるが、いかがであろうか)

小室氏にこの「後ろ手」状態についてさらに問うと、彼は指導の現場で、新ルールで頻出するであろうこの状況に既に「打ち込み」として昇華された反復練習を課しているという。

ここが大事なところで、寝技重視の新ルール下、国際大会で頻出する状況がハッキリしているのであればこの洗い出しと反復練習は代表の義務として当然行われるべきである。

「頻発する状況の選択肢を洗い出して反復し、まずシナリオの準備段階で先を行く」というのは男子の井上康生監督の十八番の指導方法でもあるし、現に投げ技では男女とも、海外選手が得意とする「相手の内股を高く自身の脚を挙げて耐え切り、戻り際に内股透を探る」受けには腰を入れるところまで突進して投げるという対策をハッキリ打ち出して成果を上げて(田代未来がゲルビから取った内股「技有」は事前のシナリオとして持っていなければ出来ない速さと強さであった)いる。たとえば「手が残る」(“後ろ手”もこれに含まれる)場面の頻出は現在のルールから帰結される当然の結果だが、ここにおける明確な場合分けと対応の選択肢を代表全員がスキルとして、あるいは情報として共有できているのかどうか。
得意技術の反復打ち込みと乱取りだけで寝技の稽古時間を終わらせしまうのではなく、国際大会に具体的に頻出する状況を想定した「代表カスタム寝技打ち込み」のメソッドとしての確立を強く押したい。

また、戦略、戦術面での寝技における「代表の教科書」があっても良いのではないか。ガッチリ寝技を積まずともトップに届いてしまうだけの素質と投げの華麗さがあるがゆえにここまで辿り着いたというタイプも多い強化選手には、叩き上げの「兵士」タイプが鉄則として持っている寝技絡みの「あるべき選択」がそもそも染みていないことも多い。箇条書きでも良い。それは代表の戦いにおける「ここまではミス」「この先は不可避の事故」という評価基準を定めることにもなるだろう。横腹を見せあって、しかし砲の口径だけは闇雲に大きいという現在の国際柔道界における寝技の状況で、あるべき選択肢がハッキリ浮かんでは消えるこの「際」を制するかどうかは、そのまま圧勝と惨敗を分ける分岐点になるはずだ。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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