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【eJudo’s EYE】若さゆえ若さを殺した永瀬、同文脈で一段上にいたチリキシビリ・チェリャビンスク世界柔道選手権81kg級「評」

(2014年9月3日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月3日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo’s EYE】若さゆえ若さを殺した永瀬、同文脈で一段上にいたチリキシビリ
チェリャビンスク世界柔道選手権81kg級「評」
試合後「永瀬選手の良いところってどこなんですか?」と話しかけられた。
問うた人はあるメディアのスポーツ担当者だ。私などは到底及ばないキャリアのあるベテランであり、スポーツ全般、特に格闘技に関しては相当の目利きである。
私は自分なりに説明を試みる。技一発の威力、懐の深さ、思い切りの良さ、苦手のケンカ四つにも明確な対策のないまま投げて勝ち切れるようになってしまう粗削りな魅力、ただ今回は手堅さを求めてそれが出し切れなかったのではないでしょうか、と。

彼は怪訝そうに「わからない」と首を傾げる。「むしろ私が見た永瀬選手の試合は、こういう印象のものばかりです」と。

そうか、と合点がいった。彼は国際大会も含め、今季のビッグゲームほとんどすべてをつぶさに見込んで来ている。ただし彼が濃く柔道を見るようになったのは今年になってからであり、逆に昨年までは柔道に関してはほとんど門外漢と言っていいほどの状態だったのだ。

そして永瀬が上記私が挙げていたような魅力を発揮していたのは昨年まで。具体的には世界選手権出場を具体的にイメージするきっかけとなったグランドスラム東京までである。我々は、それまでの永瀬の戦いぶりのイメージを以て、「本番ではこれを出してくれるだろう」と期待して、今大会を見守っていたわけである。

4月に行われた全日本選抜体重別選手権、初優勝の快挙を成し遂げた永瀬の柔道はスコアの上では低調だった。1回戦では海老泰博に内股透「技有」を奪われながら「指導」4つの反則で勝ち抜け、準決勝は丸山剛毅に「指導2」の優勢、決勝は長島啓太の小外刈を切り返しての浮落「技有」、これに2つの「指導」を上積みして勝ち切った。
返されるリスクのある片足の仕掛けをなるべく減らして両足を地に着ける時間を長く、地力の高さを生かすべく手堅く組み手を進めて地面を踏み固めるように自身の優位を作り出し、結果焦った相手の反抗を狙う。決して永瀬らしい柔道ではなかったが、これに批判は少なかった。なぜか。

この時の戦い方はどう考えても正解であったからだ。今季の国際大会の実績からこの選抜体重別は大きなエラーさえ起こさなければ自身の世界選手権代表選出は確実、これに対して長島、海老、丸山といった失うもののない猛者たちがなんとか一発食らわせて選考を揉めさせてやろうと手ぐすね引いて待ち構える。圧倒的なバックグラウンドを背負って大事なものは内容よりも結果、そして自身がどうやら地力には勝り、一か八かの勝負に出て得をするのは相手のみ、というこの状況でリスクを負う必要は全くない。かくいう筆者自身もレポート記事では永瀬をポジティブに評価、というよりはむしろ激賞している。引用すると「一発の威力が魅力の永瀬だが、徹底マークを受けた今大会は投げ急がず、終始落ち着いた試合運び。相手の頭の中に織り込まれた一発の恐怖をさらしながら、際の強さというもう1つの持ち味を存分に発揮した決勝などは貫禄すら感じられる試合内容だった」。つまりは私も含めたファンはこのスタイルを、永瀬が地力に勝る相手にリスクなく確実に勝利するための、「方便」の獲得と捉えたのである。続く4月末の全日本柔道選手権でもこの傾向は続いたが、こちらは無差別の大会の中で軽い自分がチャンスを探すためという別文脈での「方便」と捉えられた。

この世界選手権も永瀬は慎重であった。ただし格下と戦った3戦は「優位を作ってからしっかり技を仕掛ける」とむしろその慎重さは良い目に出、試合は理想の展開だった。
ボアス・ムンヨンガ(ザンビア)を釣り手のみの右小外刈からいわゆる三角固に抑え込んで「一本」、マシミラーノ・カロッロ(イタリア)をケンケン内股「有効」、大内刈「技有」からの腕挫十字固「一本」、3回戦はシャクゾド・ソビロフ(ウズベキスタン)を内股の跨ぎ合いに誘っておいての体落「一本」でいずれも一蹴。

そして準々決勝はワールドランキング1位の優勝候補筆頭アヴダンティル・チリキシビリ(グルジア)という同階級の格上との対戦。いよいよ永瀬が手堅さによる地力発揮というリミッターを外して、向こう見ずな思い切りと奔放な投げ、粗削りな攻めという本来の魅力を発揮してくれる場と思われたが、様相は全く違った。両組みのチリキシビリは自身の地力を生かすべく左、右と組み方を変えながら徹底したスコアゲームで「指導」を積み重ねる。序盤永瀬が勇を鼓して放った右大内刈を受けるとますますこの戦い方は加速、一方の永瀬はこれに付き合って、というよりも手堅く自身優位の組み手を作るまでは技を出してはならぬとばかりに試合を壊しに行けず、リスクを冒せず、そして今年の永瀬を救ってきた「相手が深く入るのを待って自分の際の強さを生かす」一撃を放とうにも、その事情を良く知るチリキシビリは決して間合いに入らず遠い間合いから投げる気のない技を積むことだけで永瀬を引き離した。完敗であった。

永瀬はモードを切り替えられなかった。もっとも自分の良さが生きるはずの格上との対戦で、世界選手権代表権獲得のために選んだ「方便」に縛られてしまっていた。永瀬は期間限定スタイルであるべきであったこの戦術に自分本来の柔道を侵食されて、規格外の最高到達点を持つというファンがもっとも期待する己の長所を、「グランドスラム東京で勝って、パリでも3位に入った実力者」という成績相応の、国際規格で測れる強者という位置までスケールダウンさせてしまっていた。永瀬に強者としての戦い方を教え込むのは間違いではなかったが、今回は「依るべき」戦術性の獲得が、明日がないかのような永瀬の思い切りという角を矯めたという結果となってしまったことは否めない。アウトサイダーのナーシフ・エリアス(レバノン)から「指導3」優勢で勝利した敗者復活戦、そして昨年王者ピエトリに対して探りの内股を潰れようとしたところを内股返でめくられて「技有」失陥で敗退した3位決定戦と、以後の永瀬らしくない試合ぶりはこの同文脈に連なる。
永瀬の最大の長所は若さそれ自体ともいうべき粗削りな一発であるが、永瀬は若さゆえに己の最大のストロングポイントをまっすぐに見つめることが出来ず、獲得した「方便」に振り回された。

一方のチリキシビリは、地力ナンバーワンと評されながら昨年優勝を逃している苦労人である。こちらはかつての自分のような粗削りな技一発の力をもつ永瀬は徹底的なスコアゲームで潰し、逆に地力は一段落ちるが戦術派で面倒くささ最大値のアントワーヌ・ヴァロワフォルティエ(カナダ)にはパワーゲームを挑んで一発放るという、こちらは自身の「若さ」を俯瞰して統御するだけの老熟さを持っていた(まだ23歳だが)と言えるだろう。最高到達点の高さでは誰にも負けない永瀬が次に目指すべきは戦術性の上に思い切りを盛ったこの境地、まずは自身最大の魅力である思い切り良い戦いを思い出すべきだ。

という提言を結句としてこの稿は終えるはずであったが、最終日の団体戦で永瀬-チリキシビリが再度実現した以上、これに触れないわけにはいくまい。好ましいことに、この一番はまったく様相が違った。永瀬は掴めるところを掴めばいい、とばかりに形に拘らず大技で攻めまくり(左引手で左裾を持ちながら右大外刈を仕掛ける場面まであったのではないか)、あたかも「送りバントは下手だけど強振してエンドランを掛けたらランナーも自分も生きた」というようなこの強気な仕掛けの連発にチリキシビリが疲労困憊。GS延長戦の末に永瀬が根負けしたチリキシビリをふん捕まえて内股「技有」で勝利するに至った。永瀬が次に国際舞台に立てるのは早くても4か月後、チリキシビリとの再戦あるかとなると1年越しになりかねなかったこの「宿題」にその場で解決がついたことはまことに大きい。苦戦の続く日本の81kg級、一段成長した永瀬がこの畳に戻ってきて次は何を起こしてくれるのか。大いに期待したい。


文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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