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【eJudo's EYE】近藤の「振り上げ払腰」から見出す国際舞台への適性・世界選手権48kg級「評」

(2014年8月26日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版8月26日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo's EYE】近藤の「振り上げ払腰」から見出す国際舞台への適性
世界柔道選手権48kg級「評」
19歳の新鋭・近藤亜美が世界選手権初出場、そして初優勝。昨年金メダル「ゼロ」という苦戦を味わった日本女子を勇気づける、そしてファンの溜飲を大いに下げる価値ある勝利であった。

五輪王者サラ・メネゼスの沈没に思うこの競技におけるコンディション調整の重要度の高さ、近藤と同じ19歳のアマンディーヌ・ブシャー(フランス)の活躍から見出す軽量級の「新顔」躍進率の高さの理由と勝ち続けることの難しさ、はたまたGPブダペストで圧勝したばかりのエヴァ・クセルノビスキが演じた自身の長所を「信じられない」試合ぶりから導き出すメンタルコントロールの難しさ、近藤がムンクバット戦で見せた迷いのない戦いぶりから感じられる現在の日本女子強化スタッフのスカウティング能力と戦術考案能力の高さ、など語るべきトピックは数多くあるが、本稿では近藤を世界王者ならしめた技一発、得意の右払腰について考えてみたい。

ここで話題にするのは、近藤が、特に相四つ相手に繰り出す「いったん作用足(右足)を振り上げる」入りを経ての右払腰(足車)である。昨年グランドスラム東京で優勝して以来既にメジャー国際大会に3度参加、いずれも表彰台に上っている近藤の勝負技が払腰であること、もっと言ってしまえば「結局は払腰しかない」ことはライバル達にとっては明白であったはずだ。しかるに、なぜ、近藤の払腰は掛かるのか。近藤がしばしば「強引に投げ切った」と表現される、あの相手が体を伸ばして耐えたまま転がる姿勢にそれを読み解くヒントがある。

一旦足を振り上げてから内股、払腰に飛び込む技法は、男子の古風な「業師」タイプに術者が多く見られる伝統的な掛け方である。
相四つの相手がこの「いったん足を振り上げる」動作に対して想起するのは大外刈。当然相手は一瞬右足を一歩後ろに下げ、刈り足の襲来に備えて構える。
この瞬間に引き手を引き出して払腰に飛び込むと、相手は右足を一歩下げたまま右手を大きく前に引っ張られた形になり、当然体は伸び切り、剛体となる。この状態では耐えようがなく、踏ん張ったそのままの形で宙を舞うことになるわけである。

この技が効く所以はその理合の確かさはもちろん、術者に女子がまだ絶対的に少ないことと、なんといっても欧州勢にこの手の技を駆使する選手がおらず海外の女子全体として耐性がほとんどないからではないだろうか。

「この手の技」という曖昧な言葉をもう少し踏み込んで書くと、意図的に一瞬相手の反応や重心移動を呼び起こして、そのアクションを利用して投げるデリケートな作りの投技、ということになる。日本においても例えば内股ひとつをとってもその種類は多種多様、筆者は時折「尊敬されるタイプの技」という表現(競技者であればああ、と飲み込んでくれるであろう)を用いるが、つまりは、「そっち側」の技のことである。

これはもともと日本男子の独壇場、かつては「この手の技」の術者でなければ日本代表として認められないという空気すらあったわけだが、この話は始めると長くなるので置く。重要なのは近藤の得意技である、古風な「振り上げる入りの払腰」は女子柔道の主要戦線である欧州にその使い手がほとんどおらず、トップファイター達に耐性がなかった。ゆえに、「わかっていても対応しきれなかった」のではないのかという仮説が導き出せるということにある。ムンクバットが自信タップリに組み合ったところから、しかも「必ず来る」とわかっているはずの払腰で転がってしまったあの一撃は単なる足技のフェイントと説明するよりは、対応できない技術であったと考えるほうがむしろ妥当ではないだろうか。

山岸絵美が海外の大会で極めて強く、そして尊敬される選手であり続けたことには同じ背景があったのではないだろうか。山岸が得意とする回転式の、もしくはスライド式の足車は相手の瞬間的な反応や重心移動を強いてそれを利用する、そして日本のセンス系男子に術者はいるが女子の使い手が少ないというこの文脈にガッチリ当てはまる。

欧州のトップファイターに内股、払腰の使い手は数多い。が、ほとんど全ての選手の技が「相手の頭を押さえつけて無理やりに固定し、腰に引っ掛けて無理やり投げる」という、この手のセンスを必要としない一方通行の技だ。"腰股"とでもいうべきこの種の技は現代柔道の代表的な技法のひとつでもあり、さほどのセンスや方法論を必要としないため人口に膾炙しやすい。一定の威力があって覚えやすく、人種的な長所であるパワーも生かしやすい。当然流行する、よって海外選手にはこういう技に対する耐性がある。

日本女子の軽重量級における、国内を席巻するパワーファイターが国際大会では極端に振るわないという事象は単に「パワー負け」ということに留まらず、「頭を押さえつけて固定して腰に引っ掛けて無理やり投げる」という技の方法論と対策に各国の選手、特にパワーファイトに慣れている欧州勢が習熟しているということに他ならない。

そもそも習得が難しいから術者が少ないのでは、という突っ込みは勿論あるだろうが、近藤の「振り上げる払腰」の他にも、男子の業師タイプに術者が多く、かつ女子に使い手が少ない技という技はまだあるのではないだろうか。これは日本にのみ存在する貴重な鉱脈だ。

女子のみならず、「組み合う」ことが極端に推奨される現行ルール下、日本がパワーファイトで世界と戦っていくのは言うまでもなく厳しい。全柔連のある関係者から「伝説的な柔道家の技術バンクを作りたい」という構想について相談を受けたことがあるが、この構想は競技力向上という文脈にも現実的問題として噛む、ということを改めて考えさせられた一日であった。

新ルール試行時、「日本には"技"がある」「"技"が生きる」との論調も多く聞かれた。
その「技」の存在を改めて思い起こさせる近藤の「わかっていても投げられてしまう」払腰一撃であった。同日出場の高藤が自身の技をコピーされジリジリライバルに迫られるという状況下、少なくともこの日は、高藤が求める「わかっていても投げられる技」の境地は近藤にあった。単なる勝ち負けに留まらず、日本柔道にとって収穫多き一日であった。

文責:古田英毅
text by Hideki Furuta

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