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インターハイ柔道競技男子団体戦マッチレポート④決勝

(2014年8月21日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版8月21日掲載記事より転載・編集しています。
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④決勝
インターハイ柔道競技男子団体戦マッチレポート
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高校三冠達成を掛けて畳に上がる修徳高の5人

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国士舘高は3年ぶりの全国制覇を掛ける

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決勝が開始される

決勝はこの試合に今季の「三冠」達成を掛ける修徳高と、3年ぶりの全国制覇に挑む国士舘高による東京勢同士の対決。1週間前の金鷲旗大会決勝と6月のインターハイ東京予選、今季既に二度ビッグゲームでの対戦があるカードだ。

双方ともに組み合わせには比較的恵まれ、修徳は3回戦までを、国士舘は準々決勝の東海大相模戦までを圧勝で勝ち上がっている。

以後修徳は準々決勝での東海大浦安戦を3-2、準決勝での大成戦を1-1の内容差で勝ち上がっての決勝進出。一方の国士舘は準決勝で神戸国際大附と大熱戦、大将戦の終盤は数十秒に渡って相手にリードを許す状況に陥りながら逆転、2-1で競り勝っての決勝だ。

決勝の布陣は下記。

修徳高 - 国士舘高
(先)佐藤竜 - 飯田健太郎
(次)小川雄勢 - 磯村亮太
(中)坂口真人 - 竹村昂大
(副)原澤脩司 - 吉良儀城
(大)伊藤祐介 - 山田伊織

一か月半前の東京都予選決勝リーグでは4-1という大差で国士舘が圧勝、直近の金鷲旗大会では全8試合におよぶ熱戦の末に、大将同士の対決で修徳が勝利している。

この直近の2回の対戦、計13試合の中で直接対決があったカードのうち今回再現されるのは先鋒戦の佐藤-飯田、大将戦の伊藤-山田の2試合のみ。内訳は飯田の「有効」2つによる勝利と、山田の裏投「一本」による勝利、いずれも金鷲旗大会。
飯田が「仕留め損なった」という印象で終始圧倒的だった先鋒戦カードは飯田再度の勝利を想定するのが妥当。一方山田が伊藤を秒殺した大将戦カードをどう見積もるかは非常に難しい。春以降明らかに一段も二段も力を増した山田はもはや隠れた大駒と考えておくべきだが、しかし金鷲旗の対決が伊藤にとってはフルタイム2試合を戦い抜いた後の3連戦目であったことと、この日の準決勝で見せた伊藤の相変わらずの仕事師ぶりとケンカ四つという凌ぐ側にとって戦い易く、かつ伊藤が得意とする組み手の相性を考えると引き分けに終着する可能性も十分あり、どころかもし山田がスクランブルを強いられるような状況であれば隙を突いての逆転あり得る力関係であると見積ることも、これはこれで一つの筋だ。山田有利も状況次第で引き分けの可能性濃厚というのが事前予測としては穏当だろう。

ほか3戦を検討すると、得点確実なのが次鋒戦の修徳・小川雄勢。対戦相手である磯村亮太の力は大駒級だが力関係を覆すような意外性のあるタイプではなく、かつ小川はこの手の重量級オーソドックスファイターを殺すことに非常に長けている。小川は「一本」の奪取、磯村は出来得れば「一本」を回避して少しでも損害少なく畳から戻って来るというのが現実的な目標になるはずだ。

次に得点の可能性が高いのが副将戦。吉良儀城と原澤脩司がマッチアップするこの一戦は実績、実力に鑑みて吉良の勝利を考えるのが妥当と思われる。ただし吉良は前戦の準決勝で同じく巨漢タイプの光明駿を獲り切れず、この試合を観察する限りでは吉良の超重量級相手の具体的攻撃力に不安が残ることと、ベンチから吉良が得意とする脇を差しての接近一発勝負を避けるノーリスク戦術の指示が出ている可能性が感じられる。いずれにしても順行運転だけで成長著しく大局観に優れた原澤を獲り切れるかとなるとさすがにこれは難しい。吉良が勝利濃厚も、粘られる要素多いというのが事前評。

坂口真人と竹村昂大の中堅戦は得点を見積るのが難しい。盤面配置を考えるとおそらくより「無理をしない」状況に置かれるのは竹村であり、上り調子の竹村がその指向性を持ってしまうと「相手が来ていれば取れる」傾向が強い、ノーガードの打ち合いに適性がある現時点の坂口が得点することは難しいはずだ。引き分け評価が妥当。

ということで、修徳は確実な得点ポイントが一つ、一方の国士舘は確実なポイントが一つで、得点濃厚ポジションが3つ。大会前の展望通り、この試合は国士舘が優位だ。

国士舘としては得点ポイントで粛々勝利を上げて盤面からアップセットの要素と可能性を逐次消し去っていくこと、一方の修徳としては節目節目で粘って引き分けを獲得し、得点確実な小川の一点をテコにリードを少しでも長く続けながら勝機を伺う、という戦い方をしていくしかない。特に重要なのは、先鋒戦。

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国士舘・飯田健太郎は1年生ながら上から目線の組み立てでまず「指導2」を確保

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佐藤竜の右小内巻込を潰して乗り込む飯田。身を捻って上になろうとする佐藤を押し戻して横四方固に降りる

その先鋒戦は修徳・佐藤竜、国士舘・飯田健太郎ともに右組みの相四つ。
飯田は開始から上から目線で組み手を進め、24秒には釣り手で背中を掴んでの右小外刈で佐藤を伏せさせる。以後も引き手でまず襟を掴んでくる佐藤に対して奥襟をしっかり握って状況の先送りを許さず、1分0秒佐藤に「取り組まない」判断の「指導1」。
佐藤は引き手で襟を握って高い右一本背負投を試みようとするが飯田はこれをさせずに回転半ばで止め戻す。佐藤はそのまま小内巻込を試みるが、飯田は透かすと上下に激しく佐藤を煽る。佐藤は巴投に逃げて「待て」。

飯田は引き手で右襟、釣り手で奥襟を確保して優位確保。佐藤の出方を伺うようにこの形をジワリと続けると、当然ながら佐藤は嫌い、1分56秒「取り組まない」判断で佐藤に2つ目の「指導」。

勝敗に関わる大きなポイントを積んだ飯田はここから加速、得意技の内股を思い切り放って山場を作ると主審はその攻勢を採って2分7秒佐藤に3つ目の「指導」を宣告。

「始め」の声が掛かると後のなくなった佐藤は右一本背負投フェイントの小内巻込に絡みつく。この技は深く入ったかに思われたが飯田は座り込んだ佐藤の刈り足が畳に着くと反時計回りのハンドル操作を呉れ、右内股よろしく足を高く上げて乗り込んで投げに掛かる。頭からのブリッジで耐えた佐藤は鉄砲返しの要領で飯田の体を先送り、そのまま体勢を上にしようと試みるが飯田は驚異的なバランスの良さでこれを止め、頭を押さえつけて着地。飯田が畳に降りたときには胸が合わさり横四方固が完成する。佐藤必死に動くが飯田巧みに位置関係を調整、中盤以降は佐藤動けず2分48秒飯田の「一本」が確定。

国士舘、シナリオ通りにまず一点を先制。金鷲旗大会では二度佐藤を宙に舞わせながら「一本」を獲り切れず次戦の一本負けに繋がる悪い流れを作ってしまった飯田だが、戦後一週間にしてしっかり課題を修正。まず「指導」で勝利を確定し、次に得意技で勝負に出、焦った相手を潰して確実に勝利と文句なしの一番であった。

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小川雄勢は手立てを変えながら着実に磯村亮太を追い込む

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小川の払巻込が「有効」

次鋒戦は修徳・小川雄勢が左、国士舘の1年生磯村亮太は右組みのケンカ四つ。
小川、釣り手を掴むと鷹揚に前進。引き手を伸ばしては磯村に嫌わせて手をひっこめ、再び袖に手を伸ばすという戦術的動作を連続し、34秒磯村に「取り組まない」判断の「指導」。

磯村はやや肩を開いてガップリの組み合いを嫌うが、小川は左内股を仕掛けては距離を詰め、もう一度左内股を仕掛けては相手を寄せ、と前段と手立てを変えて磯村に接近、激しくプレッシャーを掛ける。磯村2度目の内股に裏投を合わせて小川を崩し、さらに相手の左内股の戻りに右内股、小川が寄せてくる瞬間に抱き返して密着、とこの時間帯は必死に拮抗を確保。リスクの高すぎる抱き返しにはベンチから「それはやめろ」と声が飛んだが、2分を過ぎるまでは序盤に失った「指導」1つでスコアを保つ。

小川またもや手立てを変えて片手の左小外刈で相手を伏せさせ、さらに腰を切って左体落の形での牽制を繰り返す。目論み通り磯村の技が止まり、2分18秒磯村に2つ目の「指導」。

勝利に必要な「2差」を得た小川はケンケンの左内股で仕上げの攻めを開始。磯村対抗して両襟から右大外刈を2連発するが、小川は逆にこの技をきっかけに十分の組み手を完成。じっくり磯村の動きを見極めると、残り30秒を切ったところでペースアップし左のケンケン内股、左小内刈に続けて左払巻込と三段重ねの連続技。ほとんど大車と言っていいところまで作用足が深く入ったこの一撃はは「有効」となり、小川はそのまま後袈裟固に抑え込んでミッション達成の「一本」。修徳、こちらもプラン通りの1点獲得で試合をタイスコアに押し戻す。

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竹村昂大がケンケン内股で360度回転、次いで左小内刈に繋ぎ激しく坂口真人を追う

中堅戦は修徳・坂口真人と国士舘・竹村昂大ともに左組みの相四つ。

双方横変形で構え、大外刈の仕掛け合い。竹村大外刈を二連発したのちに斜めに巻き潰れるが、国士舘ベンチからは「巻いちゃイカン」と、返し技を危惧した注意喚起が一声。

1分30秒に竹村が坂口の大内刈を鋭く大外刈に切り返す場面、2分過ぎに竹村が大内刈からケンケン内股、さらに左小内刈に繋いで突進する山場を作り出して試合は緩やかに竹村ペース。
しかし坂口はここで劣勢を確定してはならじと果敢に左大内刈、左小内刈と打ち返す。竹村度々思い切り良い支釣込足でこれに応じて優位を確保するが、坂口は自身の攻めを積み重ねては巻き込みで展開を切る堅実な組み立てを続けてなかなか竹村に山場を作らせない。

残り1分となったところで坂口が釣り手で肩越しの形を試みると待ち構えた竹村が腰を抱えて裏投、という山場があったが、坂口回避して組み手を相四つ横変形に戻して大禍なし。主導権は竹村、坂口が良く粘るという様相のまま試合は引き分けに終わり、1-1のタイスコア継続。勝負の襷は副将戦へと引き継がれる。

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吉良儀城が斜めから左大外刈。原澤脩司は一歩移動して返しを試みる

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原澤思い切った左大外巻込、吉良はなんとか耐える

副将戦は修徳・原澤脩司、国士舘・吉良儀城ともに左組みの相四つ。

吉良は横変形に構えてケンケンの左小外刈、さらに左払巻込に潰れて「待て」。
原澤が左大外刈、吉良は躱して左払巻込で展開を切り「待て」。

ガップリ横変形で組み合ったところから原澤が支釣込足で左足を蹴る崩し技を続けると、吉良再び巻き込み潰れて「待て」。国士舘ベンチからは「ちょっと深め!」と、吉良の技の角度に注文が入る。

互いに横変形で組み合ったところから、相手の近い側の足を支釣込足で蹴り崩し合う攻防が続く。そこから原澤が左大外刈、躱した吉良が再び近い足への支釣込足を放つと原澤思い切り左払巻込を放って「待て」。経過時間はこの時点で1分41秒。

吉良、じっくり呼吸を整えての左払巻込で原澤を浮かせて伏せさせ「待て」。国士舘ベンチからは「いいよ!」と声が掛かる。

吉良が一歩前進したところに原澤が鋭い左大外刈、あわやポイントかという勢いと角度だったが主審は流し「待て」。

と双方の攻撃が散発交互に続き、残り1分半となったこの時点でも試合は拮抗。大方の戦前予想に反してどうやらこの試合も引き分けが濃厚という空気が醸成され、ここに至って国士舘優位で進行して来た盤面の行く末にハッキリ暗雲が漂う。言うまでもなく、それは国士舘にとってもしこのままタイスコアで全5試合が終了すれば小川雄勢を相手に勝ち目の極めて薄い代表戦を戦わねばならぬという危惧であり、ゴールとしてそこが見えてしまえば修徳の大将伊藤佑介が粘りに粘るその仕事師ぶりを存分に発揮して小川登場まで盤面を引きずって行ってしまうのではという恐怖である。増して国士舘の大将山田伊織は準々決勝で左肩を痛めている。吉良としてはこのまま引き分けを受け入れるわけには行かない状況。

しかし終盤まで試合を持ちこんだ原澤、過程を飛ばして釣り手を上から背中に叩き入れながらの左大外刈を放ってやる気十分。吉良は明らかに具体的なポイントをイメージした鋭い左大内刈を打ち込むが、原澤あくまで下がらず、逆に左大外刈で吉良を大きく崩す場面を作ったまま試合終了の声を聞く。

この試合は引き分けで終了。スコア1-1のまま勝負はついに大将戦へと持ち込まれることとなった。

今季の高校柔道を総括する一番と言える最終試合は修徳・伊藤祐介が右、国士舘・山田伊織が左組みのケンカ四つ。力は山田が上と見積もることが出来るが、前述の通り修徳はこの試合を引き分けさえすれば代表戦に小川雄勢を送り込むことが可能となりほぼその時点で勝利は確定。かつ伊藤は強豪各チームのエース級を止め、あるいは逆に勝利して今季の二冠獲得を支えた今代修徳チームの影の主役であり、扱いにくさは当代随一だ。

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山田伊織が腰を抱いて裏投。伊藤が被り返すと釣り手を離して回避してブレイク

地鳴りのような大歓声の中、「始め」の声が掛かる。
開始早々、伊藤予想通りに釣り手で背中を深く握り、出し投げ風の右大腰。今季の伊藤の善戦を一貫して支え続けた得意技だが、山田は果敢に迎え撃ち、逆にさらに深く腰を抱いて裏投。しかし伊藤あくまで退かずに釣り手を上から背中に叩き込んで右釣込腰で迎え撃ち、間合いを探る。山田構わず持ち上げて裏に放るが伊藤のこの動作により隙間が出来てしまい、伊藤は持ち上げられながら引き手をこじり上げつつ被り返して両者ブレイク、「待て」。経過時間は23秒。

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山田の左内股。乗り越え、ステップを切って引き離し、と完璧な一撃

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続く展開。山田が引き手で袖、釣り手で奥襟を叩くと伊藤またしても横から釣り手を背中に深く回す。山田は応じて、上から釣り手を深く背中に回して伊藤の釣り手をロック。背中を握った釣り手を一段、さらに一段と深く握り込む。

伊藤、相手の股下に右足を落とし大内刈と内股の中間の形で腰の差し合いに山田を誘う。山田応じて一枚、伊藤がさらに一枚と腰を差しあい、乗り越えあう攻防。
この中で山田大きく相手を乗り越えて一歩先んじると、右足を相手の左足の延長線上まで進め、一瞬振り向いて正対を作り出す。瞬間伊藤は棒立ち。そこに山田は腰を戻して左内股。

山田の乗り越えからここまではまさしく一瞬。3ステップの内股、と形容すべき一連の動作は流れるように決まり、足を高く、頭を低く決めに掛かった山田の体と一つになって伊藤の体は宙を舞い、山田の縦回転とともに激しく畳に落ちる。

歓声と悲鳴交錯する中見事決まったこの豪快な一撃はもちろん「一本」。相手の意図より深く接近することでインパクトを殺す伊藤の独特の受けを、さらに接近して動きを殺し、そして体捌きで引き離し、剛体となった伊藤を自身の動きに招き入れて投げ一発。熱戦を締めるにふさわしい文句なしの素晴らしい技で試合は終了。国士舘が2-1でこの試合を制し、実に3年ぶりのインターハイ制覇を成し遂げることとなった。

国士舘高 2-1 修徳高
(先)飯田健太郎○横四方固(2:48)△佐藤竜
(次)磯村亮太△後袈裟固(4:00)○小川雄勢
(中)竹村昂大×引分×坂口真人
(副)吉良儀城×引分×原澤脩司
(大)山田伊織○内股(0:37)△伊藤祐介

この試合の殊勲者はそのまま得点者2名、飯田と山田だ。

前戦の金鷲旗でのもたつきを見事に修正して「一本」獲得の飯田はその素質と技の威力だけでなく課題をしっかり消化するクレバーさと状況対処能力、そして大一番にブレない心の強さを示したと評すべき。

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久々の全国制覇にOBも含めた国士舘サイドは大喜び

山田は相手が作り出した「腰の差し合い、乗り越え合い」という戦術構図を完璧に崩した。この戦いで山田が示した解決策は強気と、技術の高さという質の異なる二種。体格があるわけではない伊藤がケンカ四つの相手に対して一見強気に横から背中を握るのは得意の「出し投げ崩し」への布石であるとともに、伊藤の体格を舐めた相手の一発技のインパクトを逆に一段距離を詰めることで殺す伊藤独特の受けと返しの準備であり、そして腰の差し合いという泥沼構図への誘いでもある。年中こういう試合を積んでいる伊藤にとっては腰を差し合う展開は得手で、優位確保の手段も豊富。この差し合いに単に速さとパワーで片を付けようとする敵は伊藤にとっては逆に「おいしい」相手であり、伊藤はこの試合も当然ながらこの戦術を選択して山田に対峙した。
しかし山田が選択したのは、腰を引くのではなく、単に前技で片を付けようとするのでもなく、さらに深く握り込んで相手を固定する強気。そして裏投という選択。
まず、深く握ることで相手の動作選択の主導権を握っていた伊藤の組み手を殺す。そしてここで多くの選手が選択する前技は一見強気の選択ではあるが、前技に入るために片足を上げる行動は伊藤に対処のための移動時間を献上することに他ならず、これは伊藤の術中。そんな中、あくまで固定、そして両足をつけての裏投というパワー差がダイレクトに出る選択に出た山田の行動に伊藤は相当な圧を感じていたはずだ。この、投げが決まる前段の攻防が非常に効いた。

そして技術。前述の通り腰を差し合った位置からの単純な「一枚乗り越えての前技」は伊藤の術中に嵌るだけであるが、山田は相手の遠い足の延長線上まで軸足を進めるケンカ四つ用の固定内股を、腰を乗り越える第一ステップに引き続いて連続して行うことで一瞬正対、伊藤の相手と横一線に並ぶ横変形の状況を無力化しさらに「戻す」動作が生み出す力も得て、剛体となった伊藤を思い切り跳ね上げるに至った。腰の差し合いという位相での勝ち負けではなくそこから一歩抜け出す発想と技術、そして効く技が仕掛けられる正対状況が出来上がったときには、前段の強気で作り出した釣り手の固定がガッチリ効いており相手に逃げる隙間は無し。短い攻防であったが、強気と技術の高さが連携したまさしく完璧な一撃であった。

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試合終了、一礼してインターハイの畳を去る国士舘の面々

そして見応えがあったのは両監督の采配。現場指揮も興味深かったが、それ以上に面白かったのは事前戦略だ。

接戦を演出したのは大森敦司監督のオーダー戦略にあることは間違いない。前述した通り、この1か月半で13試合を戦った両軍だが、直接対決カードは僅か2つ。早い話が修徳は、大敗した東京予選との布陣とは「真逆」と言って良いオーダー順を組んでいるのである。前に原澤と坂口、真ん中に伊藤、副将が小川でまとめの大将が佐藤竜という今大会とは対極のオーダーを組み、山田稔喜に勝利した小川まで含めた5人全員が相性の悪い相手と対峙したこの東京予選は以後の2大会が終わってから振り返れば「三味線を弾いていた」と評されてもおかしくないくらいのもの。相手のエースポジションである中堅から小川をずらして一点獲得、エース級には相手が嫌がる殴り合いが出来る坂口を置き、まとめ役には伊藤を置くというジェネラルな発想も今大会では非常に効いたが、小川の相手として、他選手なら失点の可能性が高くかつ小川がもっとも相性が良いと思われる磯村を選ぶことで「得点ポジションをこちらの得点で潰す」ダメージ最大の(この場合相手の損耗は得点「2」差となる)シナリオを現出し、強いが攻撃に軽さがあってミスを起こしがちの吉良にはサイズのある原澤を当てて慎重な試合を強い、まとめにケンカ四つが得意な伊藤を配して引き分けを狙わせる、と国士舘のオーダーに対して選手の適性が噛み合ったこの決勝の対戦順は圧巻ですらあった。決勝で対戦するなら国士舘、そして今季の国士舘のオーダー順が比較的読みやすいという二点に鑑みて真摯に準備した、「二冠」達成の所以が透けて見える好戦略であった。

つまりは戦略、戦術の2つをフルに駆使して粘った修徳をその戦力の高さで国士舘が退けたというのがこの決勝の様相であるが、国士舘としては金鷲旗から吉良と山田の後衛2枚を入れ替えたオーダー順が非常に効いた。代表戦の吉良出撃を想定してのものだったかもしれないが、正面突破で無理やり追いかける試合も泥沼の殿戦も出来る山田が大将に座っていたことが準決勝でも決勝でも国士舘の命を救った形となったのは衆目の一致するところ。全ての技が奇襲とでもいうべき「地力レベルの極めて高い戦術派」吉良ではなく、王道タイプで地力が高い山田が大将に座っているこの布陣は、「山田で小川をへばらせたかった」(岩渕公一監督)と採った副将山田、大将吉良の金鷲旗の布陣よりも他校にとってはよほど迫力があるものだったのではないだろうか。
正面勝負が出来る山田が春に一皮剥けたこと、そしてこの大駒をまとめの大将に配したこと、そしてこれだけの駒を最後衛に置けるだけの戦力を保有したこと。今大会の国士舘の勝利は必然であった。

昨年のインターハイ覇者・崇徳高の加美富章監督は金鷲旗開幕前のインタビューで「うねるように」と、新チーム結成時から続いた高校柔道界の勢力図変化の激しさを表現していた。

インターハイ王者崇徳にエース2枚が残る中、秋冬の対外試合に出続けて力を示すことで北関東から白鴎大足利が名乗りを上げ、黒潮旗では大成がそのポテンシャルの高さを示し、地力ナンバーワン評価の修徳が順調に力を発揮する一方、年末の若潮杯では近畿から神戸国際大附という新星が湧き起り準優勝、そして迎えた高校選手権では修徳が優勝。ここから選手権3位の国士舘が1年生の大駒2枚を迎え入れて明らかに一歩抜け出す中、天理が大幅に地力を増し、エース川田の大学への出稽古とサイズアップで急成長した大成が存在感上昇、作陽、東海大浦安も集中強化で追いすがり、選手権以後不調にあえいだ修徳が残り1か月で立て直して金鷲旗で二冠達成、インターハイでは得意の点取り試合で神戸国際大附が大活躍。今年はまさに大混戦という表現だけでは形容し切れない、トップランナーが入れ替わり続ける大接戦であった。

上昇するチーム、沈むチーム、そして再浮上するチームと1年間に渡って激しく勢力図が入れ替わり続けた今年度は、長期戦略による大駒の育成、異なるタイプを育てることでの多様性の確保や全体戦力の底上げ、対外試合や出稽古利用のバランス、練磨期と試合期の使い分け、メンタリティの錬成、新戦力上積みの有無とその利用の可否、追い込み期のジャンプアップを可能ならしめる育成能力、夏期の大会過密期とのつきあい方、仕上げのコンディショニングに選手の一体感醸成、と勝利に何が必要か、指導者が、そして選手が考えるべき要素が何かがその接戦ゆえ客観的に見えやすかった年でもある。

プロデューサーとして、現場指揮官として、長い目での目利きの効く育成者として、具体的な指導の出来る技術者として、そして教育者として。あらためてこのジャンルで監督を張るということに要求される要素の多さが浮彫りになった一年間でもあり、各監督それぞれの得手とする要素、個性が存分に発揮された一年間でもあった。各チーム、選手は入れ替われど、おそらく今季活躍した強豪校は同一ポリシーに則ってまた面白いチームを作って来てくれるだろう。わけても今季彗星のように現れた長澤伸昭監督率いる神戸国際大附は、特に注目である。

そして来期以降の高校柔道界の中心は間違いなく国士舘。山田伊織と磯村亮太、飯田健太郎と揃った戦力の骨太さはもちろんだが、特に1年生の大物・飯田の活躍と成長はファンにとっては今後2年の観戦の軸になる、高校柔道界の目玉ではないだろうか。

今年も、インターハイは素晴らしかった。勝ったチームにも、志破れて今季の混戦から零れ落ちてしまったチームにもその熱戦と奮闘に拍手を送って、この稿を終えたい。

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優勝の国士舘高

【入賞校】
優 勝:国士舘高(東京)
準優勝:修徳高(東京)
第三位:大成高(愛知)、神戸国際大附高(兵庫)
敢闘賞:福井工大福井高(福井)、東海大浦安高(千葉)、東海大相模高(神奈川)、大垣日大高(岐阜)

国士舘高・岩渕高一監督のコメント
「『国士舘は負けちゃいけない、毎年優勝を狙う』とプレッシャーを掛けて、でもここ3年勝てていない。3年生のプレッシャーは相当なものだったと思います。こいつ(主将の釘丸将太)が一番きつかったと思いますし、吉良なんかはここ3日くらいまともに寝れなかったんじゃないかと。でもこれを乗り越えるのが、将来のためになるんです。だから、毎年敢えて課すんです。今回の勝因は、1年生2人が選手に入る中で、試合に出る者も出ない者も、選手が試合をしやすい環境を作ろうと一丸になってくれたこと。特に三年生が大人でした。それにしても修徳さんは強かった。東京予選では圧倒的に勝ったのに、金鷲旗でやられてしまった。それもエースではなく、残り4人の活躍でやられた。普通なら考えられないチームのまとめ方です、こちらも考えさせられましたし、本当に勉強させてもらいました。選手にも『お前ら、修徳は凄いだろ、お前らにだってあれは出来るんだぞ」と言い聞かせて、かつての世田谷学園の存在を思い出しました。それにしてもこんなに『頑張れ』がきつい年もなかった(苦笑)。なかなか勝てなかったし、去年は圧倒的と言われた世代を勝たせてあげることが出来ず、チームの作り方、指導の仕方をを考え直しました。うれしいですし、とにかくホッとしました。」


【準々決勝】

大成高(愛知) 5-0 福井工大福井高(福井)
修徳高(東京) 3-2 東海大浦安高(千葉)
国士舘高(東京) 4-0 東海大相模高(神奈川)
神戸国際大附高(兵庫) 3-2 大垣日大高(岐阜)

【準決勝】

修徳高 ①-1 大成高
国士舘高 2-1 神戸国際大附高

【決勝】

国士舘高 2-1 修徳高

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