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金鷲旗高校柔道大会女子マッチレポート④決勝

(2014年7月31日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版7月31日掲載記事より転載・編集しています。
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④決勝
金鷲旗高校柔道大会女子マッチレポート
■ 決勝
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今季二冠目の全国タイトルを狙う埼玉栄。厳しすぎる組み合わせを乗り越えての決勝進出

埼玉栄高は高校選手権に続く今季二冠、そして昨夏のインターハイから続く全国大会三連勝を狙っての決勝の畳。今大会は桒原佑佳と冨田若春という後衛の超級選手二人を軸に、不安視された前衛三枚が抜いて抜かれての奮闘を見せ、強豪を立て続けに下しての決勝進出。特に五回戦以降は淑徳高(東京)、東大阪大敬愛高(大阪)、さらに大成高(愛知)と名だたる強豪に三連勝、この時点で優勝していないのが不思議なほどの厳しいカードを全て乗り越えていよいよ地元の雄・敬愛高との頂上決戦に挑む。

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三連覇を狙う地元・敬愛。ここまでは圧勝続きの勝ち上がり

一方の地元福岡の雄・敬愛高は三連覇を狙う大会のいよいよこれが最終戦。大型選手を揃え最強と称された前代でレギュラーを務めた山口凌歌、梅津志悠、飯島彩加の3人に今大会でベールを脱いだ新森涼と児玉ひかるというポイントゲッター級の1年生2名を加えてその陣容は充実。こちらは形上ノーシードからのスタートではあったが、埼玉栄と対照的にこの強力陣容には少々物足りないほどの戦い易い山に配置され、迎えた準決勝もインターハイ予選で勝利している沖学園高(福岡)を不戦二人(三人残し)で一蹴。余裕を持って、今大会唯一と言える大山場の埼玉栄戦に臨む。

開示されたオーダー順は下記。

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決勝が開始される

埼玉栄高 - 敬愛高
(先)工藤七海 - 飯島彩加(先)
(次)柴田理帆 - 新森涼(次)
(中)西願寺保乃加 - 梅津志悠(中)
(副)桒原佑佳 - 児玉ひかる(副)
(大)冨田若春 - 山口凌歌

敬愛は1年生の児玉がまだ今大会1試合もしていないが、大暴れしている同僚の新森を破壊力で上回るという一部の関係者評、世界カデ選手権57kg級3位の立川莉奈を押しのけて上位対戦用のメンバー五人に名を連ねていること、そして身長173cm、体重105kgという恵まれた体格を考えるとポイントゲッターの枠で考えるべき存在であり、少なくても弱点となるような選手ではない。となると戦力比べでは、先鋒から大将までズラリと戦闘力のある選手を並べた敬愛の方が上。

事前評の段階で埼玉栄が相手を上回り得るポイントは、大将冨田という大駒1枚の強さに尽きる。埼玉栄が勝利するためには、冨田が大将同士の対決で一学年上の全国中学大会超級王者山口凌歌を直接下す、つまりは個の戦力の最高到達点で相手を凌ぐしかない。冨田は昨冬の若潮杯で山口に「指導2」の優勢で勝利しており、このシナリオは現実的に計算が立つ。決戦兵力である冨田を畳に送り出すまでに前段四人がどれだけ相手の兵力を減殺しておけるか、埼玉栄にとってはこれがこの試合の最大のポイント。

一方の敬愛としては破壊力のある飯島、新森、梅津の前3人で抜けるだけ抜き、1人でも多くの選手を冨田にぶつけることが肝要。出来得れば残りの人数を考えるだけで冨田の気力が萎えるような圧倒的な差を持って後半戦に臨みたい。組み合わせ発表の段から十分予想された通り、冨田はこの日だけで井上舞子(淑徳高)、池絵梨菜(東大阪大敬愛高)、粂田晴乃、鍋倉那美(大成高)と高校柔道を代表する強豪ばかりと4戦を戦った直後で消耗がないはずはなく、複数枚を当てれば攻略は十分可能なはず。副将児玉までで試合を終わらせてしまうのが理想のシナリオだが、大将に座る山口は今大会まだ全く試合をしておらず体力は十分、若潮杯では敗れているとはいえ対戦時に予想される残存体力差を考えれば直接対決では十分勝ちを計算し得る。勝負は双方、前半戦。決戦兵力である冨田と山口の出動前にどれだけのお膳立てが出来るかに掛かる。地力と破壊力に勝る敬愛の前衛に、ここまで苦しい試合を取って取られての乱戦で後ろ2枚に試合を繋いできた埼玉栄の前衛3人の強気がどこまで通じるか。両軍の出場選手の名前が場内にアナウンスされ、いよいよ決戦が開始される。

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先鋒対決、工藤七海が飯島彩加から大外返「有効」

先鋒戦は埼玉栄・工藤七海、敬愛・飯島彩加ともに右組みの相四つ。互いに横変形で相手の釣り手を噛み殺し合う形から足技を放つ膠着展開となるが、1分16秒に工藤が思い切った右大外刈。相手の裏側に抜けるところまで深く進出したこの一撃を見て主審飯島に「指導」を宣告。以後も工藤が大外刈に触りながらペースを変えずに試合を進めるが、片側を握り続けたとの判断か、2分24秒に工藤に「指導」が与えられ試合はタイスコアとなる。工藤後ろ回りの右内股にノーステップの右大外刈と続けて放って優位に試合を進めるが、中途から飯島が再三右大外刈で工藤の裏に進出、2分50秒の組み際には思い切り右大外刈を仕掛けて工藤を伏せさせる。
続く展開、前段の技に手応えを得た飯島が遠間から少々強引な右大外刈。しかし相手の上体を制さず足のみを引っ掛けるこの技を工藤は見逃さず、体を一歩進めて左小外掛を入れながらグルリと振り回し返して押し込む。片足の飯島大きく崩れて倒れ大外返「有効」。

奮起した飯島、真裏を狙った右大外刈を連発して工藤はやや窮地。なんとか押し返して展開を保った直後、残り20秒で「待て」。この際に埼玉栄ベンチから掛かった「次(の展開)が大事!」の声に吸い寄せられるように、飯島は一番取り味がある真裏への大外刈ではなく、体を回して払腰を打ってしまう選択ミスを犯す。これまで大外刈に体を固定され掛かって危ない場面の多かった工藤、飯島が体を回して片足になる時間を利用して立ち位置をずらし、容易に相手の力を逃がして潰す。結果この攻防からの寝技で残り時間が消費し尽くされ、試合は終戦。敬愛優位と思われた前衛、それも大事な第一試合でなんと埼玉栄が先制。

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敬愛・新森涼があっという間の腕挫十字固「一本」

第2試合は畳に残った工藤に敬愛の新森涼が対峙。
新森は組むなり相手を抱きかかえて座り込むように低く右小外刈、工藤が転倒すると一呼吸で腕挫十字固に入り込む。
その気迫と流れるように素早い手順に工藤完全に取り残される。新森、うるさい工藤に一切の駆け引きを許さずに僅か18秒、それも関節技というインパクトある形での「一本」で勝利決定。前段の敗戦で生まれた流れを取り返すにはこれしかないという早く、かつ圧倒的な試合ぶり。勝負を心得た新森の一本勝ちで試合はタイスコア、埼玉栄に傾きかけた盤面の流れもどうやらこれでリセットされる。

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柴田理帆が低い右一本背負投を決めて新森涼から「一本」、埼玉栄は2勝目を挙げて一歩も譲らず

第3試合は次鋒対決、埼玉栄の柴田理帆が畳に残った新森に挑む。
柴田、新森ともに左組みの相四つ。新森先んじて大外巻込で攻めるが潰れてしまい34秒新森に「指導」。

この再開直後、機が訪れたと見た柴田は突如強気の技を選択、新森の接近に合わせて組みつきながらの左大内刈。まともに受けた新森転がって「有効」。この決勝も埼玉栄の前衛を務める工藤と柴田のあたかも匕首で相手を抉るような強気と勝負勘は健在。

新森しかし落ち着いて接近、左内股に引っ掛けるような左小外刈で追い続けて優位を確保すると、やや展開に詰まった柴田は左内巻込で展開を切らざるを得なくなる。新森は所謂腰絞で潰すが取り切れず「待て」。
続く展開、柴田流れを取り戻すべく小外刈を放つが新森は支釣込足をカチ合わせて柴田を転がし崩す。

スコア上のリードは柴田だが試合の流れは加速しながら新森へ、というこの場面。しかし再開と同時に組み合った柴田、相手が出てくるこの時間帯にはこれしかないとばかりに思い切り右一本背負投。新森まともに食って「一本」、2分52秒。

埼玉栄、決勝でも前衛2枚がここまで2勝の大仕事。抜かれるどころか一人差のリードを保ったまま敬愛の中堅梅津志悠を畳に迎え入れる。

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梅津志悠が再三の右内股で柴田理帆を攻める

柴田は左、梅津は右組みのケンカ四つ。
梅津は右内股で主導権確保。柴田は引き手争いから右一本背負投を仕掛けて展開を留保するが、梅津は組めば取れると力関係を理解したか、引き出しの内股を立て続けに仕掛けて自信満々。1分30秒過ぎには引き手を狙いつつ回旋運動に柴田を誘導、組み合い続けることを嫌った柴田に「取り組まない」判断の「指導」が宣告される。
梅津右内股に組み際の右大内刈と具体的に取りに行く技を連発、柴田は梅津の大内刈を左内股に切り返すなど抵抗して展開を留保するが、この中で放った右一本背負投が偽装攻撃と判断され2分42秒やや厳しい「指導2」。

以後は刃を差し入れる隙を探して攻め込む柴田を梅津が地力で押し返すという構図で時間が経過。このままスコア動かず終了となり、この試合は梅津の「指導2」による優勢で決着。再びスコアはタイに押し戻される。

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梅津志悠が西願寺保乃加を支釣込足で蹴り崩す。「指導2」でこの試合初めての複数枚抜きを達成。

第5試合は中堅対決。埼玉栄・西願寺保乃加が畳に残った梅津に対峙する。
この試合は両者右組みの相四つ。梅津前進して支釣込足の崩しを連発し、1分過ぎに組み際の大内刈、崩れた西願寺を押し込んであわやポイントという場面を現出。ここで西願寺に「指導」が宣告される。

以後も梅津が絡み合わせの右小外刈に腰車と攻め合いの中で緩やかに攻勢を取るが、1分54秒主審やや唐突に西願寺に2つ目の「指導」宣告。西願寺慌てて攻め返すが梅津との攻め合いによる動的膠着に陥り、取り返したポイントは残り12秒に梅津が犯した偽装攻撃の「指導」のみ。この試合も梅津が「指導」2つを持って優勢勝ちを収め、2人抜き達成。敬愛はこの試合初めて一人差のリードを作り出す。

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桒原佑佳が丁寧な攻めで梅津志悠を追い詰める

第6試合は埼玉栄の二枚看板の「一の矢」桒原佑佳が登場。桒原は二本持って組み合う時間を敢えて長く取り、そして精神的にも形的にも相手に圧が掛かったところで右大外刈を一発、という自信溢れる組み立てで、消耗戦に持ち込みたい梅津の意図を完全封殺。このルーティンが繰り返される度に梅津の手が詰まり、27秒偽装攻撃、1分9秒消極、2分6秒偽装攻撃と次々に反則が累積。最後は桒原が梅津を潰さず自身も潰れず、敢えて丁寧なケンケン内股で相手を追いかけることで誰の目にも明らかな攻勢を演出。直後の3分12秒、梅津に4つ目の「指導」が宣告されるに至る。桒原完璧な試合で梅津を退け、再びスコアはタイとなる。抜きつ抜かれつ、試合は乱戦模様。

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児玉ひかるが桒原佑佳を左内股で捻じ伏せ「技有」獲得

第7試合は畳に残った桒原に、今大会初登場となる敬愛の1年生副将児玉ひかるがマッチアップ。
桒原右、児玉が左組みのケンカ四つ。
児玉開始早々左大内刈で押し込んで桒原を崩しやる気十分。
引き手争いが続く中、49秒、児玉強気の両襟組手で桒原を場外際に誘導すると思い切った左内股一撃。
力で力を捻じ伏せる上から目線の豪快な一撃。技の切れというよりもそのパワーと当たりの強さを捌けずまともに食った桒原、勢い良く転がってこれは「技有」。
児玉そのまま抑え込むと桒原動けず「一本」、1分14秒。1年生副将の児玉が埼玉栄のポイントゲッター桒原を捻じ伏せて再び一人差のリードを作り出し、ついに大将冨田を畳に引っ張り出す。

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冨田若春が児玉ひかるの攻撃を潰し続ける

第8試合は埼玉栄のエース冨田若春に、畳に残った児玉が挑む。
この試合は冨田が右、児玉が左組みのケンカ四つ。児玉は左内股を連発、いずれも冨田あるいは振って、あるいは突いて潰して全く崩れないものの、児玉に手数による展開留保を許している形でやや不安な立ち上がり。

しかし1分5秒に二段の右体落で児玉を伏せさせたところから冨田がペースを獲りに出る。二段の体落を再び仕掛け、反抗を試みた児玉の内股は腹を突きだして受けて揺るがず。児玉左内股を連発して展開を保とうとするが、2分8秒に自ら引き手を切ってしまう形で潰れると、早くも疲労で立ち上がれず。場内ややどよめく中、児玉に「指導」宣告。

児玉の消耗を目の当たりにした冨田、続く展開は細かく足技を入れて相手を牽制。苦しくなった児玉が左内股を入れようとすると右体落を仕掛けて追い詰める。児玉、3分4秒に再び内股を掛け潰れると、息を荒げて立てない事態が再び現出。柔道衣を直す体で時間を使って呼吸を整えようとするが、同様の展開が2度続いた3分16秒主審はついに2つ目の「指導」を宣告するに至る。

それでも行くしかない児玉は手数志向の内股を仕掛け続けるが冨田の小外刈で細かく崩され極めて苦しい試合。残り12秒に偽装攻撃で3つ目の「指導」が宣告されてそのまま試合は終了。この試合は冨田が「指導」3つによる優勢で勝利。いよいよ決勝の勝敗は大将同士の対決に委ねられることとなった。

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冨田と山口凌歌の大将対決、山口は袖釣込腰と、引き出しながらの右小内刈を勝負技に選択

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冨田若春が片襟の大内刈で攻める

大将対決となった第9試合は冨田、この試合が今大会初試合となる山口凌歌ともに右組みの相四つ。
冨田は小外刈に大内刈、山口は両袖を握った右大内刈で攻め合う。
釣り手から握った冨田が両襟に組み手を直したところで山口が右大内刈で展開を切る。と、主審弾かれたように冨田に「指導」を宣告。やや性急、というより「九州押し」と評されても仕方のない少々不可解な反則裁定。

山口は冨田の釣り手を絞りに掛かるが、冨田絞らせておいてグイと釣り手を挙げて右大外刈。山口伏せて「待て」。

引き手から持った冨田、釣り手を大きく上げて見せて相手を誘うが、山口は応じずなかなか組まない。山口右小内刈に潰れて展開を切り「待て」。経過時間は1分15秒。

冨田が右大内刈、山口は袖釣込腰に切り返して流し「待て」。
冨田引き手を掴むが山口切り離す。冨田今度は釣り手から持つが山口またしても組まず。経過時間は2分29秒、残り時間は1分31秒。

冨田、引き手で袖を確保すると相手の腹側に織り込むように押し込んで前進。山口なぜかほとんど逆らわずあっさり場外へと後退し、さすがに主審は場外の「指導」を宣告。経過時間は2分51秒。

冨田が両襟で大内刈を仕掛けると外から両袖を握った山口大内刈で自ら潰れて「待て」。残り時間は53秒。

冨田が釣り手で突いて前に出ると、山口片襟の右背負投に座り潰れて「待て」。すわ偽装攻撃かと場内色めき立つが主審はスルー。

もう一度山口が潰れれば「指導」かというところだったが、続く担ぎ技には冨田上体を崩してついていってしまい、これは技が効いたという判断でスルー。このまま試合は終了となり、大将対決は引き分け。勝敗の行方は金鷲旗独自の「大将同士による延長戦」に持ちこされることとなる。

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冨田若春の右体落。「有効」宣告で冨田はこぶしを握り締めるが副審2人のアピールで取り消し

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延長戦になると、この試合が本日6試合目のはずの冨田が抜け出し始め、ここまでなんとか併走していた山口は一挙に脱落。冨田片襟の大内刈に両襟の大外刈と疲労困憊の体に鞭打って迫力の攻め、一方の山口は両襟を掴んだ冨田の袖を外から掴んで右小内刈を狙い続けるが一発奇襲の散発技の範疇を出ず、攻撃が繋がらない。

冨田優位が加速する中、1分過ぎに冨田が組み際の右体落。山口大きく浮いて体側から畳に落下、主審は「有効」を宣告する。しかし副審2人は視野角と落下体勢が噛みあわず、迷いなく「取り消し」をアピール、このポイントはあっという間にキャンセルされる。

冨田めげずに相手を振り回し、山口が大内刈に掛け潰れると主審は消極の「指導」を宣告。
さらに続く展開、山口がガッチリ釣り手を絞って形を作ろうとするところに、冨田は絞らせておいての右大外刈。山口潰れて、2つ目の「指導」。経過時間は1分48秒、残り時間は2分12秒。

冨田さらに攻め込むが、右体落を仕掛けた際に両の手が離れてしまい、山口もろともに潰れる。ここで主審は消極のゼスチャーを呉れて冨田の側に「指導」を宣告。冨田は攻めに攻めており、敢えて言えばここでの反則宣告のゼスチャーは「偽装攻撃」であるべきだが、主審は乱戦と自らのジャッジの荒れにもはや度を失っている感あり。

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延長最終盤、山口あくまで組み手に拘る

この反則宣告でやや息を吹き返した山口は再び両袖の小内刈で反抗を試みるが、冨田追い込んで右体落を放つとまたしても山口あっさり畳を割り「場外」の「指導3」が宣告される。

山口は思い切った勝負に出るほか逆転の道はないが、以後も片襟、あるいは両袖の右小内刈を連発とこれまでに作った対戦構図から抜け出すことが出来ず、試合を壊しにいく意図は見えない。

大枠これまでの展開に延長線を引く形でこのまま試合は推移。山口はここに至ってもまず切り、そして絞るという組み手の管理をスキップせず、スクランブルを掛けない。最後の攻防、山口は片襟を握って大外刈崩れの右背負投とようやく相手の体を固定する技を見せるが間合いが遠すぎてあっさり潰れてしまう。

ここで終了ブザーが鳴り響く。冨田、「指導3」による優勢でこの延長戦を制し、埼玉栄高が5年ぶり4度目の優勝を達成した。

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優勝を決めた埼玉栄高

埼玉栄高○大将同士・延長△敬愛高
(先)工藤七海○優勢[有効・大外返]△飯島彩加(先)
(先)工藤七海△腕挫十字固○新森涼(次)
(次)柴田理帆○一本背負投△新森涼(次)
(次)柴田理帆△優勢[指導2]○梅津志悠(中)
(中)西願寺保乃加△優勢[指導2]○梅津志悠(中)
(副)桒原佑佳○反則[指導4]△梅津志悠(中)
(副)桒原佑佳△内股○児玉ひかる(副)
(大)冨田若春○優勢[指導3]△児玉ひかる(副)
(大)冨田若春×引分×山口凌歌(大)
(延)冨田若春○優勢[指導3]△山口凌歌(延)

埼玉栄の勝因の一は、これまで「勝っては負け」を繰り返して叱咤されながらもめげずにこの決勝でまたもや勝ちに行った前衛3枚の頑張り。そしてもう一つは、大将冨田若春の気力と腹の括りっぷりである。いずれも「どうやっても桒原と冨田に負担が掛かるよ」「それを減らすんだ」と役割を徹底して刷り込んだチームプロデュースの結果と評して叱るべきであろう。
負傷明けの桒原も状態は良く、冨田とともに新ルールに対応すべく「持って追い詰める」ことを突き詰めてきたことが見える試合運びもなるほどと思わせるものがあった。相手が取りに来るであろう前衛にはその間隙を突いて逆に一発取る手立てを練らせ、相手が凌ぎに来るであろう後衛にはそれを許さぬ上から目線の組み立てを具体的に与える。試合中の指示の一声も自軍の選手のみならず相手の戦い方までを定義づけてしまうような「楔」が仕込まれており、つまりはチーム作り、コンディショニング、オーダー順、役割づけにそれに即した具体的戦術、さらにはこの戦術戦略に沿った的確な現場指示、と勝負の綾を飲み込み切った「本松マジック」が今回も見事に決まったと評すべき優勝だ。新聞等で報じられている通り今大会を「35人抜けばいいだけ」と定義づけて「あと何人だ」と数値目標を示しながら戦ったということだが、これとて、残り人数から帰納して考えさせることで、逆に優勝というゴールがすでに決まっているかのような暗示に選手を嵌める効果があったのではないか。大将戦前に冨田に掛けた「35人が、あと1人になったじゃないか」という言葉の効きっぷりも含め、マリンメッセ福岡はもはや「本松劇場」。「予想以上に選手が頑張った。驚いた」と選手を持ち上げた本松監督だが、選手の予想を超えるその好パフォーマンスを導き出したのは間違いなく、采配であった。組み合わせの厳しさは前衛3枚が決勝に向けて自分たちなりの戦いかたである乱戦スタイルに「慣れた」という目に転がった感があるが、これは選手自身のタフさはもちろん、ブロックとして果たすべき役割が前衛の選手に染みていたからであろう。見事な戦いぶりであった。

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敗れた敬愛高。頂点に立つに十分な戦力だった

一方敗れた敬愛であるが、戦力は今年もナンバーワンクラスであった。大物1年生2人を加えて出来上がった重厚な布陣はいかにも敬愛らしく迫力十分であった。

このチームの評は大将対決に出陣した山口のパフォーマンスに対するそれを持って代えたい。
山口にとってこの試合は汚名挽回の大チャンスであった。昨年最強の名を欲しいままにし、仕上げとなるはずのインターハイで"高校三冠"に挑んだ敬愛の歯車を狂わせたのはレギュラーに抜擢されたもと全中王者の2年生山口の意外なほどの覇気のないパフォーマンスであり、あの試合が高校選手権への出場権を獲り逃がすという以後の長期に渡る敬愛の苦戦傾向の端緒であったのは衆目の一致するところである。今大会決勝の大将対決は山口にとってもチームにとってもここ一年来の苦しみを払拭し得る大一番であった。冨田には一度敗れており実力の差はあるかもしれないが、ここで思い切った勝負をすれば、勝ち負けを超えて一週間後に控えたインターハイに向けてチームに勢いをつけることが出来るかもしれない。いずれ、引き分けで終えるというシナリオありえずどちらか必ず勝たねば出口はないこの「地獄の金鷲旗」の延長戦というギリギリの大舞台において、選手に要求されるのは何より絶対に勝つという覚悟と、気力である。

残念ながら、山口の試合にそれだけの覚悟は見られなかった。袖を流しながら足技を狙うという手立ては新ルール下で流行しつつある両襟という新トレンドへの対抗手段として今後の標準技術化があり得るというくらいに戦術的には正しかろうし、地力に勝る冨田に対して手数を積み重ねることで優位を取ろうという考えも、この勝負を単なる強豪相手の一試合と考えて勝利しようとする観点からは否定は出来ない。しかし、そういう要領の良い勝ちを「拾おう」という順行運転、破綻の無さすぎる試合ぶりは日本一のタイトルを手中に収めんとする試合の戦い方にふさわしいものであろうか、日本一のチームを決める畳上で、力関係が上の選手を破ることが出来ると考えられるだけのものだろうか。5試合を戦ってなお、そして勝利を決めるはずの「有効」を取り消されてなお、前に出続けた冨田が見せた渇望感を、一学年上の全中超級王者であるはずの山口がなぜ見せることが出来なかったのか。もはや投げて勝つしかなくなったはずの延長戦後半、なぜ試合を壊しにいかずに順行運転の戦術を続け、まず投げられないためにと相手の手を切り離して袖を絞りに行く防御行動を採ったのか。昨年のインターハイの敗戦から得たものは、この一戦にフィードバックすることは出来ていたのであろうか。

昨年来チームが抱える体を蝕むかのような苦戦ムードの払拭、インターハイに向けた勢いと流れの構築、腹を括らないと届かないことを先輩が見せつけて来たはずの日本一タイトルの奪還。柔道の強さ云々ではなく、山口は戦前そもそもここに思い至ることがなかったのではないか、それをエースに思わせるような意識づけやチームの雰囲気の醸成が為されてなかったのではないか。
と思わず考え込んでしまう、意外なまでにあっさりと負けを受け入れた、山口の延長戦のパフォーマンスであった。昨年意外な敗退を喫したインターハイで、この充実戦力を得た敬愛がそのトラウマをどう払拭してどのような戦いを見せるか、大いに期待して本番を待ちたい。

最後に、大会評として一つ。組み合わせについてだ。
組み合わせの権利は主催者に帰するもので、そこに異を唱えるつもりは一切ない。インターハイの抽選制度による理不尽な組み合わせと、金鷲旗の「九州押し」の組み合わせ(と審判の拙さ)はもはや高校柔道の夏の風物詩であり、むしろこれがなくば高校柔道じゃない、とすら思える名物である。アウェーチームを迎え撃つ九州勢の戦いを上位対戦で楽しみ、大歓声をバックに大会を盛り上げるためには恣意的な組み合わせはむしろ歓迎したいところですらある。
ただ、去年、今年と女子に関してはいささかこの傾向が過剰すぎたのではないだろうか。まさしく最強であった敬愛がこれぞ対抗馬というチームと全く戦うことなく決勝まで勝ち進んだ昨年大会、これぞというチームが全て逆の山に詰め込まれ、準決勝で九州勢2校に潰し合わせることを飲んでまでベスト4に地元福岡勢を残そうという意図が明確な今年の組み合わせは、もはや全国の役者打ち揃った大会の魅力を潰す域に近づいているというのは行き過ぎた観察であろうか。

他大会とまったくレギュレーション異なる今大会であるが、組み合わせ配置を見ると、他大会の成績は良いがレギュレーションが噛みあっていないチーム、強豪高として名高いが今代は例年ほどの戦力が揃っていないチームなど、その実力観察は実に正確、玄人の仕事であることが明確にわかるものとなっている。これほどの玄人で
あれば、「これぞ日本一を決めるにふさわしい組み合わせ」「もっとも大会が盛り上がる組み合わせ」を組むことは十分可能であろう。現在の九州押しはそもそもこの「もっとも盛り上がる組み合わせ」を作ろうという観点のものであったはずである。100%肯定する。しかるに、現状の組み合わせはこの本来の目的を離れるほどに、異なる意図に浸食され過ぎているのではないだろうか。柔道王国・九州の「見上手」たちは、地元勢が単に成績を残す様を見たいわけではないのではないだろうか。戦評として、目利きを揃えた主催者たちによる組み合わせバランスの再考を提案して、この稿を終えることとする。

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優勝の埼玉栄高

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本松好正監督が宙に舞う

【入賞校】

優 勝:埼玉栄高(埼玉)
準優勝:敬愛高(福岡)
第三位:大成高(愛知)、沖学園高(福岡)
ベスト8:東大阪大敬愛高(大阪)、帝京高(東京)、桐蔭学園高(神奈川)、紀央館高(和歌山)

【優秀選手】

冨田若春、桒原佑佳(埼玉栄高)
梅津志悠、新森涼(敬愛高)
中江美裕(大成高)、宮宇地朱菜(沖学園高)
米沢夏帆(東大阪大敬愛高)、荒谷莉佳子(帝京高)
嶺井美穂(桐蔭学園高)、岡本希望(紀央館高)

埼玉栄・本松好正監督のコメント
「私はきついかな、と思っていましたが子供たちがやる気になっていましたから。2008年、2009年の優勝の時は5人メンバーがしっかり揃っていましたが、今年はその時と比べると厳しい。その中で前3人が良く頑張ってくれました。特に3人に絞って強化したわけではなく、『桒原と冨田がやりやすいように』と登録7人は選手たちにヒアリングして決めました。大会にあたっては7試合、35人を抜けばいいという話をして、試合が終わる度にあと何人、あと何人と話しながら戦いました。選手が私の予想以上に頑張ったと思います。インターハイに向けて仕上がりは60%くらい。もっと思い切り行けるように一週間頑張ります。冨田は、出し切りました。後のない試合を4試合、5試合と戦うのはメンタル的にも本当にきついので、冨田はしばらく休ませて、インターハイに備えます。」

【準々決勝】

埼玉栄高○大将同士△東大阪大敬愛高
大成高○不戦二人△帝京高
敬愛高○不戦一人△桐蔭学園高
沖学園高○不戦一人△紀央館高

【準決勝】

埼玉栄高○大将同士△大成高
敬愛高○不戦二人△沖学園高

【決勝】

埼玉栄高○大将同士・延長△敬愛高


文責:古田英毅
text by Hideki Furuta

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