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第36回全国高等学校柔道選手権大会・男子団体マッチレポート⑥決勝

(2014年4月4日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版4月4日掲載記事より転載・編集しています。
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第36回全国高等学校柔道選手権大会・男子団体マッチレポート
⑥決勝
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強豪との連戦を戦い抜いて決勝進出を果たした白鴎大足利高

■決勝

第36回全国高校柔道選手権大会もいよいよ大詰め。
栄えある決勝の畳に駒を進めたのは白鴎大足利高(栃木)と修徳高(東京)、ともに初優勝を狙う2校。

第3シードの白鴎大足利高は大会最激戦区を勝ち抜いての決勝進出。2回戦では東海大仰星高(大阪)、3回戦は大成高(愛知)、準々決勝で作陽高(岡山)、準決勝は第一シードの国士舘高(東京)と全て決勝で対戦してもおかしくないレベルの強豪を相手に初戦から4試合を戦い抜き、準々決勝までの3試合をいずれも一人残し、準決勝は代表戦での決着と全て大将の一年生エース太田彪雅が一本勝ちを収めるという総力戦で勝ち抜いてついに決勝の畳まで辿り着いた。
13年度世界カデ王者で前日の個人戦無差別でも3位に入賞している天才肌の1年生エース太田彪雅に、前代からチームを牽引するパワーファイター柳原尚弥、170kg級の大型選手山中勇希と100kgオーバーの選手を3人並べ、これに100kg級の業師太田竜聖と73kg級の斬り込み隊長浅野大輔とタイプの違う選手を5人並べた個性派チーム。蓬田正郎監督が拳を握り締める「地方から全国制覇」を合言葉に初優勝を狙う。

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悲願の初優勝を狙う修徳高

一方の修徳高は昨夏のインターハイ3位時のメンバーから4人が残った強豪チーム。Aシード入りこそ逃したが、戦力評価は今大会ナンバーワン。
大将に前日の無差別で優勝したばかりの大物・小川雄勢を据えて、脇を固めるのは体重134kgの重量選手原澤脩司と、これぞ修徳という投技の威力を持つ坂口真人。インターハイのド根性ファイトで全国に名を売った斬り込み隊長役の1年生佐藤竜に、勝負どころを弁えた柔道で本日ここまで3勝3分の好成績を挙げている試合巧者伊藤祐介も加えてこちらも個性派揃いの好チーム。

岩尾敬太と児玉雄一を擁してベスト4入りした第30回大会(2008年)、豊田純を擁して頂点に迫りながら3位に終わった第32回大会(2010年)、長倉友樹を軸に金鷲旗3位入賞を果たしながら大会初日で散った2011年インターハイ、そして優勝候補筆頭の東海大浦安高を下しながら3位に甘んじた昨夏のインターハイと度々好チームを作り上げながらどうしてもいま一歩届かなかった全国制覇の偉業まであと僅か一勝。大森淳司監督のもと、小川という絶対の個の力と修徳最大の武器であるチームのまとまりでこちらも悲願の初優勝を狙う。

両チーム最後の対戦は12月末の水田杯準決勝。この時は双方今回と同じメンバーで対峙し、2-1で白鴎大足利が勝利を収めている。白鴎大足利の勝者は太田彪雅(対原澤脩司・崩上四方固)と山中勇希(対坂口真人・内股巻込「有効」)の2人、修徳の勝者1人は小川雄勢(対太田竜聖・指導4)で、引き分けの2試合は浅野大輔-伊藤祐介戦と柳原尚弥-佐藤竜戦が引き分けであった。この試合から拾い上げていおくべきトピックは小川雄勢と太田彪雅が双方がかち合わない限りは得点ほぼ確実な大駒であること、わけても太田が修徳の2番手原澤から「一本」で勝利していること、不利が予想された山中が攻めさせてもらううちに感触を掴んで修徳のポイントゲッター坂口を巻き込んで一発投げていること、白鴎大足利のポイントゲッター柳原尚弥が佐藤竜の術中に嵌って組み手をやり直すうちに引き分けられてしまっていること、浅野大輔の先手攻撃を伊藤祐介が愚直なまでの打ち返しで無力化してこれもしっかり引き分けていること、など。以上を踏まえて考えられるオーダー順決定の焦点とは双方これまでの勝ち上がりと手段を変えてくるのかどうか、具体的にはリードを先に得たい白鴎大足利がエースの直接対決を避けて得点確実な前に太田彪雅を持ってくるというようなフォーメーションチェンジがあるのかどうか、浅野と柳原が修徳の巧さの前に攻撃力を無力化された前回対戦を踏まえて、ほぼオーダー順を固定で戦ってきた修徳に対して誰をどう手当てして、どう具体的に「取る」手段を確立しているか。

開示されたオーダー順は下記。

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決勝のオーダーが映し出される

白鴎大足利高 - 修徳高
(先)浅野大輔 - 佐藤竜(先)
(次)柳原尚弥 - 坂口真人(次)
(中)山中勇希 - 伊藤祐介(中)
(副)太田竜聖 - 原澤脩司(副)
(大)太田彪雅 - 小川雄勢(大)

白鴎大足利、修徳ともに奇襲はなし。ここまでの勝負どころと同じく、先鋒・副将・大将の3ポジションを動かさず、戦略の調整弁として次鋒と中堅の順番を決めるというポリシーをこの決勝も貫いた。大将に座るのはもちろん太田彪雅と小川雄勢の両エースだ。

太田と小川は前日の個人戦準決勝で対戦しており、小川が「指導2」優勢で勝利している。「待て」の後ながら太田が場外で小川を思い切り放る場面があったこともあり勝負は予断を許さないが、状況がタイでの対戦となれば手堅く試合を運べる小川のシナリオで試合が進むと見るのが妥当だろう。白鴎大足利としては最悪でもタイ、出来得れば1人以上のリードを持って小川を畳に迎え入れたいところ。大将同士の対決を不可避と考え、その前にいかにリードを作り出して複数枚を手当て出来るかどうかが両校に共通したこの試合の焦点。

中盤はインターハイ3位の立役者で内股一発の威力抜群の坂口に、試合を作れて攻撃力も高い重量選手の原澤、さらに大きい相手からも「指導」を取ってこれる試合巧者の伊藤と揃えた修徳が戦力の厚みで上を行く。骨の太い試合の出来る柳原、きょう人代わりしたような強気の試合を繰り広げている山中に太田竜聖と揃えた白鴎大足利はどこでどう得点を挙げるか。穏当に考えればもっとも防御壁の薄い中堅の伊藤を狙って的確に錐を入れていくしかない決して楽ではない戦いだ。とはいえこの日の試合を見る限り白鴎大足利は12月の時点に比べて一段肉体的な力が上がり、勢いがつけば試合はどうなるかわからない。白鴎大足利の選手は同じ引き分けの試合でも緻密に膠着をプロデュースするというよりは攻めに攻めて結果オーライという試合が多い、いわば送りバントではなく失敗してもヒットエンドランでランナーを進める型のチーム。この試合は総力戦で臨むはずで、この気合と入れ込みぶりが勝負を揺るがすなによりの要素。

となるとひとつ試合のカギを握るのはまず先鋒戦。白鴎大足利・浅野、修徳・佐藤竜と双方この日は持ち味を発揮しきれていないが、ともに気持ちで戦うタイプの先鋒対決でいずれかに勝ち星がつくようであれば以降の盤面は全く変わる。特に白鴎大足利は地方の一強豪で終わる可能性もあった今代のチームを全国で勝つべく選手を鼓舞し続けてきたリーダーがこの浅野という事情もあり、ここで勝利すればチームが勢いづくことは間違いない。総合戦力に勝る修徳としては例え勝ちが付かなくともまずは佐藤に試合を作ってもらい、白鴎大足利の出鼻を押さえておきたいところ。

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佐藤竜-浅野大輔による先鋒戦

先鋒戦は白鴎大足利・浅野大輔が左、修徳・佐藤竜が右組みのケンカ四つ。
互いに手先を伸ばしては弾け飛ぶ一手目の組み手争い、さらに釣り手一本を持ち合っての引き手争いが続く。
そんな中、50秒過ぎに浅野が佐藤の頭を下げさせ、頭を腹下まで抱き込んで体で押しつぶすシークエンスが現出。一階級下ながら地力は浅野が上の印象。
再び一手目の組み手争いが続き、一貫して浅野が優位を取りかけ、佐藤がその状況を先読みして手早く状況をリセットするという展開が続く。1分25秒佐藤に「取り組まない」判断での「指導」が与えられる。

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佐藤の左小外刈が「有効」

勢いを得た浅野は低い体勢の右片襟背負投、佐藤がやや体勢を崩しながら受け止めると立ち上がってそのまま前に追う。
ここで佐藤はその前進に合わせた前技に入る素振りを見せて、腰を切り返して右小外刈を当てる。浅野が真裏に崩れると飛び込んで被さり、横倒しの浅野をめくり返して固定してフィニッシュ。主審一瞬の間をおいて「有効」を宣告する。経過時間2分36秒、残り時間は1分14秒。抑え込みを狙う佐藤のしつこい寝技を浅野が逃れて「待て」が宣告された時には残り1分4秒まで時計が進む。

しかし「指導1」を既に得ている浅野はビハインドの状況に慌てず冷静に「指導」積み上げへと舵を切る。奥襟を叩いて圧力を掛けると佐藤は頭を下げて抵抗出来ず、浅野はこの形での膠着を嫌って引きずり回した後に左体落を仕掛けてシークエンスを一旦終える好判断。再開後も圧力を掛けて佐藤を引きずり回すと、佐藤崩れて畳に伏せて「待て」。

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後半が浅野が一方的な形を作るが、ブロッキングの判断で「指導」を受けたのは浅野

当然ここは佐藤への「指導」が与えられるべきところだが、驚くべきことに主審は逆に浅野にブロッキングの判断で「指導」を宣告。この反則を回避したいからこそ、攻め返してこない相手に対して100対ゼロの膠着を演出するのではなく敢えて体落を仕掛けて慎重に展開を組み立てていたはずの浅野は一瞬呆然。残り時間は28秒。

以後も浅野は一方的に攻め、体力の切れた佐藤は座り込んでの右背負投で展開を切るのがやっとの状態だが主審は表情を変えずに「指導」を与えることなく黙視。あっという間に残り時間が過ぎ去って試合終了。

攻める浅野、一瞬の隙を突いて得点した佐藤とともに健闘したこの試合、結果は佐藤の「有効」による優勢勝ちに終着。主審の不可解なジャッジで後味の悪さが残るってしまったが、修徳がまず一人差のリードを得る。

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柳原も一方的に佐藤を攻める

続いて白鴎大足利は次鋒の柳原尚弥が畳に登場。
柳原、佐藤ともに右組みの相四つ。体重で30kg上の柳原、引き手でまず襟を確保、次いで釣り手で奥襟を得てから引き手を袖に握りなおす手堅い手順で完璧な組み手を作り出す。このファーストコンタクトで佐藤はいきなり圧に屈して畳に伏せてしまい「待て」。経過時間は16秒。

柳原は再び引き手で襟を握り、右小内刈で相手の足を蹴りながら釣り手を奥襟に叩き込む丁寧な組み立て。佐藤は右小内巻込を狙うが届かず自ら潰れてしまい「待て」。

柳原再び奥襟を得ると佐藤は右背負投のフェイントから低い右小内刈へと連絡。柳原は引き出し潰して被さり抑え込みを狙う。佐藤が足を絡めると主審早々に「待て」で試合を止める。経過時間は56秒。どうやら地力では柳原のほうが上、1試合をこなした佐藤の疲労のゆえか前回対戦よりパワーの差は開いた印象で、試合の焦点は柳原が佐藤を逃がさずどのようにして得点を挙げるか、そして佐藤はどうやってこの圧倒的不利を凌ぎ切るか、であることが最初の1分で明確となった感あり。

柳原は引き手で襟、次いで釣り手で奥襟という手堅い手順を継続。右小外刈から右払腰と繋ぐと、佐藤の柔道衣が脱げて「待て」。直後の1分18秒佐藤に「指導1」。

再開直後、佐藤は座り込みの右背負投を放つが柳原崩れずに回し戻して攻撃継続。佐藤は左袖釣込腰を放つが技がスッポ抜けて「待て」。
ここで主審、帯から完全に出た佐藤の上衣を直すように指示。圧を掛けられることを嫌気したか、佐藤は前のみを入れて、試合再開。

柳原が圧をかけると佐藤が右一本背負投。またしても佐藤の柔道衣が脱げてしまい「待て」。経過時間は2分11秒。

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柳原が佐藤の背負投を返そうとするが果たせず

柳原、圧を掛ける度にすり抜けられる展開に業を煮やしてガッチリ両襟を握って圧力。佐藤は組みたがらずに嫌気するが捕まってしまい苦しい体勢。
柳原は引き手を袖に持ち替えて圧倒的優位を得るが、返し技を狙ったかこの大事な場面で攻めきれず、一発大内刈を放ったのみで佐藤をウォッチ。あまりに悪い体勢に、打開を狙った佐藤は少々強引な座り込みの右背負投。待ち構えた柳原は後方に押し込んで返しを狙うが、一旦膝をついたままのけぞった佐藤はなんとか力の圏外に身を捻って逃れ「待て」。

試合再開、柳原が圧を掛けようとするが佐藤の上衣は完全に帯から出た緩い状態でなかなか力が伝わらない。主審はスルーし続けるが見かねた副審が1人、次いで2人が立ち上がり、上衣を入れさせるようにアピール。主審ようやく「待て」を宣告し、佐藤は3たび服装を直す。

試合の流れは完全に柳原。あとはいつ佐藤に「指導」が与えられるのか、柳原がいつ具体的なポイントを挙げることが出来るかのみが以後の焦点と思われたが、ここで大インシデント。

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佐藤の小内巻込が「有効」

柳原が両襟で圧力を掛けて佐藤の頭を下げさせると左小外刈。佐藤が膝をついて潰れたところで柳原一瞬主審に「指導」アピールの視線を送るが、ここで佐藤は立ち上がりながら首を抜き、足を抱えて右小内巻込。柳原肩から後方に転がりこれは「有効」。経過時間は2分56秒、残り時間は1分4秒。

手を足にかけた瞬間、柳原の釣り手は佐藤の頭裏を横断するクロスグリップの形になってはいたがこれは佐藤が自ら首を抜いたため出来上がった形であり「足取り」反則の適用対象外となるかどうかは微妙。当然審判団は合議を持ったが、結果反則は与えられず試合続行。ともあれ、相手が絶対的優位のエアポケットに陥った一瞬に刃を入れた見事な技で佐藤が「有効」1つをリード。柳原は痛恨の失点。

直後、柳原が圧力を掛けると佐藤は左背負投に潰れる。スッポ抜けて自らが崩れ伏せたこの技にエクスキューズはなく、主審は即座に偽装攻撃の「指導2」を宣告。あっという間にポイントはタイになる。残り時間は45秒。

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柳原の内股に佐藤が宙を舞い、手をついて畳に降りたところでタイムアップ

柳原、両襟で圧。佐藤は座り込みの右背負投と右小内刈で流れを切りにかかる。疲労困憊の佐藤の技は雑で、特に足を差し込んで柳原にぶらさがる形となった右小内巻込は返されるシーンが容易に想起されものだったが、当初は「相手を追いつめて苦し紛れの技を返す」この展開を待っていたはずの柳原もギリギリの状況に焦ったか的確な対応ができずに取りそこなって伏せさせてしまい、あっさりこのチャンスを流してしまう。佐藤は苦しい展開に立ち上がりながら大きく声を上げて自らを鼓舞。

柳原が前進、佐藤は防戦一方で下がり続ける綱渡りの展開が続くが主審は「指導」を宣告せずに静観。

残り10秒を切り、奥襟を得た柳原が前進すると佐藤は抵抗できずにあっさり歩いて畳を割る。「待て」の声を聞いた柳原さすがに主審を一目見やるが、ここで佐藤はアフターの右背負投を仕掛けて前段の展開を糊塗。
さすがに「場外」の反則が与えられるかと思われたが主審はこれもスルー。最後は柳原の右内股に佐藤が宙を舞い、膝から着地したところで終了ブザーが鳴り響く。

この試合は佐藤の「有効」と柳原が獲得した「指導2」がかち合い、引き分けに終わった。

第1試合で若干混乱した主審のジャッジはこの試合で迷走極まった感。白鴎大足利サイドが気の毒なことは勿論のこと、勝ちを得た修徳サイドの流れさえその後味の悪さで壊しかねない、残念な試合の仕切りだった。

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山中が思い切った左内股巻込、坂口なんとか防ぐ

修徳の一人差リード継続のまま第3試合がコールされる。畳に上がるのは白鴎大足利が山中勇希、修徳が坂口真人。

山中、坂口ともに左組みの相四つ。

山中は右構えからスタートしてまず引き手を得る慎重なスタート。坂口は組み合うと相手の釣り手を落としてやや横変形に構えながら左小内刈に左大内刈。山中は両襟の左払腰を見せる。

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坂口、思い切り良く左大外刈

42秒、一旦立ち位置を正面に直した山中が思い切り左内股巻込。坂口一旦浮きかかるが、なんとか止めて「待て」。経過時間は42秒。

激しい一手目の組み手争いを経て、山中が両襟を握り坂口が袖と襟を得る形に組み手は終着。いったん身を小さくして袖を確保した坂口は体勢を戻すと釣り手を振りながら左小外刈、左大内刈と繋いで相手を崩し、さらに左大内刈を放つと足を戻さずに軸足を進めて左大外刈の大技に飛び込む。

釣り手の位置を高く、引き手は相手の袖を下から押し持ちあげる形のこの一撃。その強気、連続性、動きの中で仕掛けるセンスといかにも技の切れ味が売りの坂口らしい惚れ惚れするような一撃であったが、山中は体勢を崩されながらも耐える軸足の向きを一瞬で真裏に切り変え、体ごと場外に向かって片足反転。足を掛けられた膝裏を支点に左払腰の形で切り返す。

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山中が坂口の左大外刈を反転しながら返し豪快な「一本」

踏み込みが深い分、体重170kgの山中に膝裏を捕まえられた坂口に逃げ場はなし。典型的な後ろ回り捌きの大外返となったこの一撃に、坂口は畳にバウンドする勢いで叩きつけられる。もちろん判定は文句なしの「一本」。

坂口は倒れたまま悔しさにしばし立ち上がれず。山中は拳を握り締めて開始線へと走り戻る。

この決着の伏線となったのは水田杯での前回対戦。不調の坂口に対してその時点では格下と目された山中が払巻込で「有効」を奪った試合だった。序盤は相手をリスペクトするかのように慎重に技を仕掛けていた山中が、技に入り込めることに序々に手ごたえを得、思い切った一撃を放ってポイントを奪い、そして相手の猛攻を凌ぎ切って勝利したこの試合が、この日の武道館の対戦に与えた影響は大きい。この日の坂口の大外刈は一瞬でも躊躇すれば、一歩でもズリ下がればそのまま決められてしまったはずの強烈なものであったはずだが、一瞬の膠着を経た山中の選択は回避ではなく自身の投技への変換。この決断を支えたのは、一度投げた経験から得た「捕まえればいける」との自信にあることは間違いない。

超巨大選手の山中に対し、それもその体重に巻き込まれて一度投げられたという記憶にも関わらず素晴らしい連携からの大技を見せた坂口の技と勇気はまさしく絶賛に値する。しかし一度の勝利体験と、この試合に賭ける白鴎大足利の気持ちの強さがその坂口の技の上をいったという見ごたえのある攻防だった。

山中の豪快な一本勝ちで白鴎大足利は反撃の狼煙。スコアはタイに戻る。

会場にその一撃の余韻残るなか、畳には修徳の中堅伊藤祐介が登場。

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山中勇希と伊藤祐介の中堅対決

山中は左、伊藤は右組みのケンカ四つ。

山中は釣り手を前襟で確保。
一方の伊藤は釣り手で脇下を外側から握って対峙。ケンカ四つの相手には脇を深く差して背中を持ち、前進運動で間合いを狂わせながら攻防を進めるのが伊藤得意の戦法だがさすがに170kgの山中にはリスクが高いと踏んだ模様。

両襟から引き手を袖に持ち替えた山中は30秒に左払腰。伊藤は捌くと釣り手を突いて前進、足を先に振り上げる右内股を見せて展開を保つ。

1分33秒に山中が左内股。伊藤は前に突き飛ばして防ぎ、山中は腹ばい。

山中、なかなか自分の間合いに身を置けない。当初慎重だった伊藤は脇下を握って前に送り出す当初の形に加え、釣り手で深く背中を抱える得意の形を混ぜ始め、やや攻防に慣れ初めた印象。

2分、山中が右外巻込の奇襲。今大会ほとんど見せていない技だが、これまでの招待試合等で度々見せていたこの逆技を伊藤心得てあっさり潰し「待て」。

山中この展開の後一段ギアを上げ、両襟の左払腰、上下のあおっての左払腰と大技を連発。いずれも間合いが遠く伊藤しっかり捌くが、2分25秒には伊藤に「指導1」が宣告される。

山中は両襟で圧を掛け続けようとするが伊藤は釣り手で脇下を捕らえ、送り出すような体落を相手の股下に落とし続ける。投げるというよりは明らかに崩しを企図したこの技で展開を保つと、残り1分を過ぎたところから強気の右大腰を3度、4度。

守るだけでは試合を終えられない、とばかりに作り上げたこのシークエンス。心憎いまでに展開を心得たこの攻防で試合の趨勢はほぼ確定。山中は両襟で圧を掛けるも仕掛ける技は片手で放った散発の左払腰のみで時間を消費。この試合は伊藤がしっかり役割を果たした形で引き分けに終わった。

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原澤脩司は序盤から積極的に太田竜聖を攻める

第5試合は副将同士がマッチアップ。白鴎大足利・太田竜聖は右、修徳・原澤脩司が左組みのケンカ四つ。

原澤開始早々に太い腰をクルリと回して思い切った左内股を放ちやる気十分。直後も相手の上体を引き出しながら足を高く揚げて左内股、太田を体の線に沿わせて持ち上げると一段力をこめて粘る。太田はこの技を戻せず、原澤が足を上げたまま数秒拮抗状態が続き、のちにブレイク。経過時間は19秒、原澤優勢。

太田は右内股、さらに「韓国背負い」で抵抗を試みるが、原澤崩れず、技を受ける都度かえってその前進意欲を強める印象。40秒からは小内刈、払腰と繋ぐ連続攻撃を二度繰り返す。いずれも腰高の見た目に比して安定感十分、続いて放った左内股を太田がめくり返そうと試みたシークエンスの直後の1分12秒、太田に1つ目の「指導」が宣告される。

互いに組み合ったところから原澤は左大内刈、太田は右背負投と右内股を浅く仕掛けて探りを入れる。ここで原澤が逆技の右外巻込の奇襲、しかしインターハイ等で度々見せていたこの技を太田の方も心得ており、突き飛ばして「待て」。経過時間は2分41秒。

止まっていては不利とばかりに太田は飛び込みの右内股を3度。しかし原澤は崩れず引き手を確保して前進。双方内股で攻めあい、しのぎあった末に膠着に陥り3分5秒、双方に「指導」が与えられる。太田が受けた「指導」は2つ目、原澤はこれが初の「指導」。

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太田竜聖は右の担ぎ技を連発

もはや取り返しにいくしかない太田、ここで右襟を両手で握った右背負投。片膝で放った一撃目に感触を得ると続いて高い打点での右片襟背負投。これは原澤もろとも潰れて「待て」となったが、遂に原澤攻略の糸口を掴んだとばかりに太田の攻撃は加速。残り時間が30秒を切ったこともあり、ここから高い右一本背負投を3連発。

残り15秒、あと一息とばかりに太田が再び右背負投。先に腰を入れて高い打点で相手を引っ掛け、一段さらに力をこめて踏ん張る。この技に対してしかし原澤これまでとリアクションを変え、捌きながら腰を寄せて左内股を引っ掛ける。

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原澤が内股を巻き込んで「有効」獲得

距離が詰まっていた分、また自身が打点の高い担ぎ技を放って体が高い位置で固まってしまっていた分太田はこの技を捌けない。双方重心を高く保ったまま一瞬バランスの取り合いとなり、次いで双方が原澤の企図する時計周りの方向に崩れる。原澤巻き込んで相手との密着を保ち、双方の腰が砕けたこの攻防は最後まで原澤がコントロール。太田は尻餅、次いで側面から畳に落ちてこの技は「有効」。残り時間は12秒。

もはや太田に取り返す時間はなく、この試合はそのまま終了。副将対決は原澤脩司の「有効」優勢による勝利となり、修徳は1人差のリードを持って白鴎大足利の大将太田彪雅を畳に迎え入れることとなった。

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開始18秒、太田彪雅が見事な内股「一本」で原澤脩司を破る

太田は右、原澤は左組みのケンカ四つ。
太田釣り手を確保すると片手の内股、これで原澤を崩すと同時に素早く引き手で袖を得、あっと言う間に完璧な形を作り上げる。

原澤は引き手の肘を上げて切り離しを試みるが太田は前に出てあくまで袖を離さず。膝裏への右小外刈、右小内刈と足技を繋ぐなり鋭い動きで右内股。

足をずらされていた原澤リアクションが遅れ、あっと言う間にその体は中空へ。体の外側で原澤の巨体を回しこんだ太田は自身の両手を畳に押し付けるようにフィニッシュ。130kgオーバーの原澤が人形のように高々と宙を舞う見事な一撃は勿論文句なしの「一本」。

会場割れんばかりの大歓声。太田の見事な一本勝ちでまたもや試合はタイスコア、勝敗の行方は太田彪雅と小川雄勢の両エースが対峙する大将対決へと委ねられることとなった。

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小川雄勢と太田彪雅の大将対決

大将戦は小川が左、太田が右組みのケンカ四つ。

小川、釣り手で奥襟を叩いて脇を締め、圧力をかけて前進。場外際まで太田を追い込むと腰を入れながら時計回りのハンドル操作を2度、3度と仕掛けて太田を揺さぶる。太田腰を入れ替えて対抗するが、小川の前進を止められず双方場外へ。経過時間は15秒。

再開後、小川同様の展開で前進。太田は場外際で背中を掴み、両足を刈る勢いで小川の背中側へ回り込むが双方が場外に向かって崩れ「待て」。経過時間は28秒。

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小川の左内股、太田は大きく崩れる

以後もこの序盤30秒の様相が攻防のベース。小川が圧力を掛けながら前進し腰を回して攻勢を取り、太田が下がりながら小川を引き出しての右内股、あるいは極端に密着しての右小外刈で対抗するというもの。主導権は明らかに小川。

1分15秒、再び場外際に相手を追い詰めた小川が太田の右小外刈に反応し足を高く上げて左内股。太田大きく崩れて伏せる。小川は主審の「待て」の声にいち早く反応し走って開始線に戻り、やる気十分。

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太田が引き出しながらの右内股

打開を狙った太田は、引き手を切って相手の釣り手を両手で確保した「ケンカ四つクロス」からの右内股で攻めの姿勢を見せる。しかし以後も小川の前進を止められず。下がった太田、引き手で袖を持った瞬間場外方向に向かって引き出しの右内股を放つが空転し「待て」。

直後、主審「取り組まない」判断で、少々性急な印象の「指導1」を太田に宣告。経過時間は1分52秒。

小川は前進継続。際の勝負に持ち込みたい太田は脇から背中を掴んでこれに応じる。小川が両襟を掴んでの低い左体落、太田は釣り手側に引き戻して被さり返そうとするが、小川踏みとどまって「待て」。経過時間は2分6秒。

小川が片手のまま左大外刈、左内股と前進し、次いでフェイントを入れた支釣込足。太田クルリと宙に浮き、膝から畳に落ちて「待て」。直後の2分30秒、太田に2つ目の「指導」が与えられる。

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太田が腰を抱くが小川は巻き込んで展開をリセット

まともに対峙して小川の圧を受けていてはチャンスがないと見た太田、自らの際の強さを生かすべく相手の背中側へ回って裏への投げを狙う。察知した小川は太田を背中側に置いたまま巻き込みで展開を切り「待て」。

小川は主導権を離さず前進。小川の支釣込足にタイミングを合わせて太田が前進すると背中を抱いての左払腰に切り返す。残り時間は1分、太田は反撃のきっかけが掴めず、開始線に戻ったその姿には疲労の色が濃い。

太田、引き手を抱きこんで右大内刈、さらに右内股と繋ぐが懐の深い小川に受け止められ技は空転、小川が背中に乗ったまま潰して「待て」。残り時間は38秒、消耗した太田はなかなか立ち上がれない。

残り30秒、小川は圧力を掛けて腰を切り、ハンドル操作で前進。両足を畳につけたままリスクを冒さずに腰を据えて太田を崩し続ける。

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小川が「指導2」で勝利、修徳は初優勝を決める

太田最後の攻撃は残り10秒で放った両襟の右内股。悲鳴と歓声渦巻く中、小川が畳に伏せて「待て」。

この時点で残り時間は8秒。「始め」の声が掛かるも小川は距離を取って相手に近づかず、太田が数歩歩み寄ったところで終了ブザーが鳴り響く。

小川は自軍の応援団が控える2階スタンドに向かって拳を突き上げてガッツポーズ。大将同士の対決は小川の「指導2」優勢による勝利で終了、修徳が一人残しでこの試合を制して、ついに悲願の全国制覇を成し遂げた。

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優勝インタビューに臨む修徳高の面々

修徳高○一人残△白鴎大足利高
(先)佐藤竜○優勢[有効]△浅野大輔(先)
(先)佐藤竜×引分×柳原尚弥(次)
(次)坂口真人△大外返(1:13)○山中勇希(中)
(中)伊藤祐介×引分×山中勇希(中)
(副)原澤脩司○優勢[有効]△太田竜聖(副)
(副)原澤脩司△内股(0:18)○太田彪雅(大)
(大)小川雄勢○優勢[指導2]△太田彪雅(大)

個性派選手がそれぞれ持ち味を発揮、取って取られての激戦を繰り広げた前段4枚の戦い、そして終着点として最後に控えたエース対決とこの上なくエキサイティングな決勝戦であった。終着した結果はおおむね順当。決勝の試合自体は、小川という高い競技レベルで強さと手堅さを備えたエース1枚を押し立てた修徳が、エースの個の高さと総合力のいずれもで白鴎大足利を凌いだ、と総括すべきであろう。

これまで幾度も魅力的なチームを作り上げながら、国士舘や東海大相模といった強豪に頭を抑えられてなかなか頂点に手が届かなかった修徳。その最大の特徴は、小中通じて全国大会に出場した選手がほとんどいないという無印チームを全国制覇にまで導いたその育成力にある。今大会の優勝は全国制覇に必要な要件がなにか、組み合わせるべきピースが何かを見極め、それを高い育成力で実現したということに他ならない。修徳はいかなるポリシーを持ち、どのようなチームを作り上げてきたのだろうか。

ついに果たした全国制覇の因としてまず挙げられるのは小川雄勢という、抜群の膂力を持ち、かつそれを手堅さに昇華して戦える団体戦向けの大駒を得たことであろう。
小川は自身認める通り技の切れるタイプではなく、小学生時代から大物感こそあったが仕掛けが遅く、相手との力関係が上であると判断できない限りなかなか攻めに出れない、攻撃のトリガーのハードルが異常に高い選手であった。この素材を「足腰を安定させることで自信を持たせる」との方針で徹底して足腰を鍛えあげ、技は切れないが試合を見る目があり膂力は抜群という個性に即して作り上げられたのが現在の小川の「圧殺による展開の限定と、その出口に仕掛ける罠」という手堅い戦いを高い平面で実現するというスタイルだ。大森監督が小川の今後の課題として挙げることごとくが投技の具体的技術であることから現在の戦い方は小川の成長の通過点であることは容易に推察されるが、とまれ、小川という大物の個性に合わせたスタイルの確立、小川の個性を伸ばす育成がそのまま団体戦に噛み合ったこと、団体戦の勝利に必須の「負けずに勝つ」というピースを個人戦無差別日本一を達成するという高いレベルでチームが獲得したことが今回の勝利の第一要因であることは間違いない。強豪校の試合技術に頭を抑えられてきた修徳が、それ以上の圧倒的な力を持って、その力をまさしく試合技術の獲得に注ぎ込んだ、その具現化が今代のエース小川であった。

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チームを支えた主将仲島がエース小川と優勝を喜ぶ

もう1つは、これだけの個性派と高い戦力を獲得しながら、歴代修徳の旗印であった仲の良さ、全員で戦うまとまりを失わなかったこと。個性派を揃えた今代はチームワークに問題のあった時期もあると伝え聞く。修徳はようやく全国優勝に手が届く戦力を保有した今年、その最大のストロングポイントであるまとまりを失うというピンチにあり、東京予選決勝(国士舘に敗退)の淡白な戦いぶりはその端的な表れの一つであった。この危機にチームをまとめたのが主将の仲島拓志であった。これは単なる美談やサイドストーリーではなく、勝つために必要な駒を作り上げた育成力という小川と同様の文脈で語られるべきものである。全国大会本番は6番手に甘んじた仲島だが、手堅い大駒小川に重量級のバイプレイヤー原澤、業師坂口に突貫タイプの佐藤、試合巧者伊藤と並べて団体戦勝利に必要な性格俳優をズラリと並べた今代の修徳、その勝つための「役者の揃いっぷり」は率直な言葉でチームをまとめられる6番手仲島までを含めたものだと評しておきたい。全国優勝する力を持つ個性派チームをチームの中からまとめられる存在、それが選手の中から出てきた、それも最も言葉が響くはずのレギュラーの当落線上にある選手から出てきたことはまことに大きい。修徳は競技力だけでなく、全国優勝にふさわしいチーム力の高さを作り出すだけの役者を育成してきたということだろう。

そして何より。優勝最大の因は坂口真人の攻撃柔道を生み出した育成のポリシーにこそあると評したい。修徳が全国で「ノシ上がった」象徴的な代は岩尾敬太という粗削りながら抜群の攻撃力を持ったエースを押し立ててベスト4入りを果たした2008年度チームであった。タイプこそ違えど、192cm、170kgの巨漢山中に対して臆せず大内刈から大外刈という王道の組み立てで一発取りに行った坂口の柔道はまさしくこの系譜に連なるものであった。インターハイ準々決勝で王者・東海大浦安の息の根を止めたあの豪快な内股以降、徹底警戒に晒されて「二本持ちさえすれば誰でも放る」坂口の良さはなかなか発揮されずにいるが、全国大会決勝の大舞台で、大会きっての巨漢を相手に、しかも一度投げられた記憶を持ちながらあの強気の投技で勝負に出た坂口の柔道は感動モノであった。要領良く勝とうとするチームに勝利の女神は微笑まない。あの大舞台で、あの技で一本を取りに行くファイター坂口を作り上げる育成方針があったからこそ、最後の1ピースとして獲得した「試合を誤らない大駒」小川の存在が生きたのではないだろうか。

今大会修徳には風が吹いていた。ライバル達に比して恵まれた組み合わせ、序盤に戦うと目された中堅強豪校の相次ぐ敗退、宿敵崇徳の対戦直前での戦力1枚喪失、強豪校との連戦に次ぐ連戦による白鴎大足利の疲労、そして決勝の主審の判定の揺れ。これまで幾度も挑んでは跳ね返されてきた修徳に遂に「順番」がめぐってきた見ることも出来るが、ここは幾度も跳ね返され、その壁を乗り越えるために勝負に徹した手堅さや戦略戦術を獲得しつつも自軍本来の姿である、技による攻撃志向という困難な選手育成を止めなかった修徳、要領良く勝ち抜けるだけでなくその本来性を捨てずに超攻撃型の坂口を畳に送り出した修徳に、ついに勝利の女神が微笑んだという気がしてならない。

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畳を去る白鴎大足利。敗れたりとはいえ主役級の活躍だった

そして、敗れたとはいえ白鴎大足利は今大会のまさしく主役であった。この2ヶ月で劇的進化を果たし今大会でカテゴリきっての大駒の座を不動のものとした太田彪雅を軸に、昭和の団体戦副将格の香り漂う巨漢山中、斬り込み隊長の浅野に上から目線の番長柔道で戦う柳原、そして業師太田竜聖といかにも地方の強豪らしい個性派を揃え、かつ初戦からあらゆるタイプの強豪を下し続けて決勝に進出したその戦いぶりは観客に大きなインパクトを残したはず。強豪中央一極集中のさ中に中学時代を過ごした、地元栃木県出身の選手だけでチームを固めた白鴎大足利。優勝こそ修徳に譲ったが、多くの観衆が今大会を「足利の大会」と記憶するであろう、魅力あふれるチームであった。

白鴎大足利はまだ全国で頂点を狙う戦いに絡んだことのなかったチーム。夏の金鷲旗で骨太の戦いを見せたメンバーから多くが残り前評判こそ高かったが、新人戦開始の時点では一気に全国の頂点を極めることも可能なポテンシャルを秘める一方で、地方から上位を伺うベスト8クラスの「群雄」のままに留まってもおかしくない、どちらに転ぶかわからないチームであった。
最大の課題と思われたのは、選手の意識。11月に行われた朱雀杯では優勝したものの準決勝の桐蔭学園戦では代表戦に出場した柳原(この時点では代表戦を戦ったのが太田ではなく柳原であったことにも今年のチームが経てきた道のりの長さと激しさを感じて欲しい)の僅差3-0による勝利で冷や汗をかく場面があり、黒潮旗大会でも勝負どころでの強引さに欠けて準々決勝敗退、全国上位の強豪が相手になると柳原や山中らがその実力に比して相手をどこかリスペクトして戦ってしまう、良くも悪くも地方らしいチームであった。

全国で勝ち抜くには強豪相手の上から目線、自分達が勝って当然という良い意味での「勘違い」が必要だが、この強気をチームに与えたのは当初レギュラーの当落線上にあったチーム最軽量選手の浅野であった。12月の松尾杯準決勝の国士舘戦で見せた大腰「一本」以降チームは明らかに変わった。それまでも「上から目線」の重要性を説き続けていた蓬田監督だが、「全国で勝つには上から目線の強気が必要だ」という言葉と「お前たちも浅野のように戦える」という台詞では選手への響き方が全く違う。レギュラーの当落線上からスタートし、招待試合連戦期終盤の蓬田監督に「勝っても負けても浅野を使うことがこのチームに必要ということが良くわかった」と言わしめた浅野の戦いぶりこそ、どちらに転ぶかわからないポテンシャルのみのチームだった白鴎大足利をここまで押し上げた最大の要因であった。

今大会、膝の故障を抱えた浅野のパフォーマンスは正直良くなかった。少なくともチームを戦いぶり自体で牽引した冬季招待試合期の力を発揮することは出来なかった。しかし1勝2分3敗の浅野を全国の強豪に一歩も退かない強気の柔道で決勝まで連れて行ったのは浅野に勇気付けられて全国と戦うメンタリティを獲得したチームメイトたちだった。浅野は力を出せなかったが、もっともチームが苦しかった時期に孤軍奮闘した浅野が植えつけた度胸と「上から目線」は確実にチームに残っていた、それを証明するような決勝進出劇であった。

そして、魅力タップリの駒を揃える面白いチームだが強豪チームの試合力の前に頭を抑えられて頂点には届かなかった、というこの白鴎大足利の結果は、まさしく数年前の修徳が通った道だ。魅力的な駒を揃えて頂点にあと一歩と迫った白鴎大足利が、勝利に向けて今度は何を積み上げてくるのか、大いに期待して夏を待ちたい。

決勝の評として最後にもう一つ。主審の判定の不安定さは双方の勝ち負けに直結しかねないもので、まことに残念であった。「指導」裁定が極端に遅かった前半2試合と、早い段階で「指導」を出して試合を動かしにかかった最終戦の主審は同一であり、個々の指導の是非はともかくせめて反則裁定の基準は一貫性あってしかるべきではないだろうか。前日の個人戦決勝でも目に余った反則裁定基準の一貫性のなさであるが、この決勝、具体的な点の獲得、失陥、損得を超えて双方のチームに与えた悪影響は大であった。大会通じて決勝に至るまでの判定にここまでの不可解さは見受けられず、経験豊富なはずの審判団が大舞台に度を失ったと評されても仕方のないものであった。新ルール、旧ルール混在の中で同一基準を持って試合を裁かねばならない審判の苦労は想像するに余りあるが、観衆、関係者に巻き起こった不信の声に耳を傾け、新ルールを採用して行われるインターハイへの糧としてもらいたい。

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胴上げで宙を舞う大森淳司監督

今大会は準々決勝以上の全試合が大将対決に縺れ込んだという大接戦。史上最大の混戦と評される中、決勝進出の両校だけでなく、全日本選手権出場者香川大吾を擁しながら主力のアクシデントに泣いた崇徳、持ち前の育成力の高さを見せて古田伸吾を絶対のエースとして研ぎ澄まして来た天理、本来性である粘りと団結を再獲得して頂点に迫った国士舘、今年も「全員柔道」と言うべきギラギラした戦いを披露した作陽、昇り竜の勢いの神戸国際大附、復権に賭けて攻撃型選手を並べた大成、一点突破に賭けて策を巡らせた桐蔭学園と役者を揃えた有力校それぞれが頂点取りを現実的な目標におき、各校の野心が畳上に溢れかえる、稀に見る面白い大会であった。

高校選手権にハズレなし。今年もこの言葉を噛み締めながら男子団体戦レポートを締めたい。近年稀に見る白熱した選手権であった。

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優勝の修徳高

【入賞者】
優勝:修徳高(東京)
準優勝:白鴎大足利高(栃木)
第三位:国士舘高(東京)、崇徳高(広島)
第五位:神戸国際大付高(兵庫)、作陽高(岡山)、大牟田高(福岡)、天理高(奈良)

最優秀選手:小川雄勢(修徳高)
優秀選手:原澤脩司(修徳高)、太田彪雅(白鴎大足利高)、吉良儀城(国士舘高)、一面護(崇徳高)

【準々決勝】

国士舘高○一人残△神戸国際大付高
白鴎大足利高○一人残△作陽高
崇徳高○一人残△大牟田高
修徳高○一人残△天理高

【準決勝】

白鴎大足利高○代表戦△国士舘高

修徳高○一人残△崇徳高


【決勝】

修徳高○一人残△白鴎大足利高


修徳高・大森淳司監督のコメント
「うちは毎年強いチームではないし、中学までに全国大会を経験した選手は1人だけ。よく頑張ってついてきてくれた。選手も、そうでない子も一生懸命頑張った。これに尽きます。主将の仲島が自分を捨ててチームのために徹してくれたことが最も大きかった。技術的な要因ですか?いえ、選手全員の心の成長という他はありません。学校のクラブですから、部は教育の場です。相手どうのこうのよりも自分達の持っている心の問題。試合直前でも自分達の使っていた場所を掃除したり片付けたりしている姿を見て、これは勝てるかもしれないな、と初めて思いました。去年はこの大会に出れず、同じ会場で会場係をやっていました。係員の辛さや先生方の大変さをわかった、その経験が生きたかなと思います。今年のチームは難しいチーム。エースの小川は私自身を映す鏡であり、彼の甘さや弱さは自分のそれだと思って接してきました。小川にはもう1回気持ちを高める意味で『昨日の優勝は忘れろ』と言葉を掛けたところ『わかりました、団体戦に賭けます』と言ってくれた。体中張っていましたから相当な疲労があったと思いますが、責任感を持ってやってくれました。応援してくれた皆さん、係員をやってくだった他の高校の生徒さんたち、みんなに、感謝の気持ちしかありません」

白鴎大足利高・蓬田正郎監督のコメント
「俺がメソメソしても仕方ないですよ(笑)。あいつらはまだまだやりきれていない、でも、やれば出来る奴らだということがわかりましたから十分収穫はありました。1試合1試合本当に苦しくて、楽い試合は一つもなかった。そんな中でよく期待に応えてくれました。ただ、取って取られての試合は出来ましたが、本当に強いチームは取られないし、取るべきところを確実に取る。まだまだ甘さがありました。ケガをしていた山中や浅野があそこまで出来たんだから、ケガをせずにずっと稽古している選手はもっと出来るはずです。日本武道館で決勝に進む力があることはわかりましたし、課題もはっきりしました。今日も前がとって太田彪雅が出る前のお膳立てが出来なきゃいけなかったし、点取りの試合では太田彪雅以外がもう1つ、きれいごとでなく点を取って来れるようにならないといけない。2位が丁度いいとは言いませんが、『勝っておごらず、負けて腐らず』、いい経験が出来たと思います。夏に向けてまた頑張ります」

国士舘高・岩渕公一監督のコメント
「相四つの稽古をかなり積んで来たのですが、全体としてケンカ四つの組み手をしっかりやり直さなければいけないなと感じました。勝つチャンスがいくつもありましたが、一つはリードして吉良に渡すべきであったことと、一つは吉良がケンカ四つの太田戦で、組み手で我を忘れて抱き合いに応じてしまったことですね。わかっているけど、まだ体に染みていない。私が至りませんでした。1年生にエース級が入ってきますので、レギュラー2、3人はどうなるかわからない。また競り合いからです。その中でもう一段の厳しさ、もう一山の成長があれば十分手が届きます。頑張りますよ」

崇徳高・加美富章監督のコメント
「思ったよりは生徒たちが頑張ってくれた、という大会でした。厳しい試合もありましたが選手が助け合いながら取ったり、取り返したりして準決勝を迎えることが出来ました。決勝を考えずに最後だと思って戦え、と話して臨みました。小川君に貫目、香川の2人を当てたいという目論見だったのですが、逆に抜かれてしまいましたね。山本の怪我がやはり痛かったです。インターハイは抜き試合と違ってどんなに強い選手でもマックス1点しか取れない。しっかり選手を作って、頑張ります」

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版4月4日掲載記事より転載・編集しています。
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