PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

【eJudo's EYE】世界柔道選手権73kg級「評」

(2013年9月16日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月14日掲載記事より転載・編集しています。
ドコモ版QRコード
docomo版QRコード
KDDI版QRコード
au版QRコード
【eJudo's EYE】世界柔道選手権73kg級「評」
■ 3連続金メダル、寿ぐべきは三者三様の「ステージ」の違い
日本が66kg級に続いて「2枠」を行使した73kg級は初出場の大野将平(天理大4年)が圧勝V。もと世界王者ワン・キチュン(韓国)をまったく寄せ付けずにあっという間の「指導4」勝ちを果たした初戦を皮切りに、実に6試合をオール一本勝ち(2つの反則勝ちを含む)。圧巻だったのは準々決勝からの3試合で、まずエルモント(オランダ)を「有効」ビハインド状態から残り40秒の大外刈「有効」で追いつくと猛攻、どうしようもなくなった相手がイチかバチかの抱きつき小外刈に来たところを右内股に捕まえて豪快な「一本」。準決勝はファンティシェル(オランダ)をわずか1分2秒、斜めからの右大外刈で捕まえて刈り込んで「一本」、決勝はルグラン(フランス)を1分38秒に右内股「有効」、2分33秒の跳腰(内股)「一本」と、この階級の上位で常に鍔迫り合いを繰り広げてきた欧州勢3人をごぼう抜き。決勝などは仕掛けた技は2回だけ、その2回とも宙を舞わせ、まるで稽古をつけるかのような圧倒的な勝ちっぷりだった。

ファンにとってはかつての強い日本が復活したかのようなあまりに爽快な勝ちぶりの良さ。これで日本は60kg級の高藤直寿、66kg級の海老沼匡に続いて開幕から3日連続の金メダル獲得となった。溜飲が下がるとはこのことである。

寿ぐべきはこの3人が選手として三者三様のステージにあるというその豊かさだ。
第1日、第2日の「評」に書かせて頂いた見立てに沿えば、高藤は多彩な技とパターンを持ち込んで「現時点での最高到達点を競る」というステージで勝利し、海老沼は既に世界一を獲得して最高到達点の高さを証明済みの選手が「万が一の敗戦の可能性を最小限に押し込め、必ず勝つというプランに沿ってミッションを達成する」という強い選手が勝負論を突き詰めて横綱相撲を繰り広げるというより高いステージでの勝利、そして大野は「荒削りなままの地力比べ」というべき正面突破の技と力、第1日評の言葉を借りれば「素材の品評会」というステージのまま勝利を決めたということになる。

そしてこの3人のうち、「品評会」の段階に在りながら圧勝Vを飾った大野は今後の伸びしろという点でもっとも可能性が感じられる。周囲の徹底研究、それに対する技術的、そして戦術論的克服、五輪では仕上げとしてより一段の上積み投入という、3年後までに完璧な王者として仕上がっていけるそのステップが透けて見えるような圧巻の勝ちぶりであった。

帰国直後からの天理大の暴行事件、そして新たに報道された大野の直接関与については完全に稿を分けたい。事件自体、そして隠蔽の事実に関係者のリアクションと残念すぎる事態が続いているがここは畳上の戦評ということでご了承願いたい。

■ ワールドツアー時代をどう生き抜くか、最強選手サインジャルガルの沈没と「持たざる」ファンティシェルのメダル獲得
今大会で優勝候補筆頭と目されたのは第1シードに配されたロンドン五輪銅メダリストのサインジャルガル・ニャムオチイ(モンゴル)。5月のワールドマスターズ優勝、さらに大会直前の7月にはグランプリ・ウランバートル優勝という結果の裏付け、そして結果以上の圧倒的な内容の良さに「爆発的な内容で優勝するのでは」という事前評があったほどだが、結果は失意の5位。準決勝でユーゴ・ルグラン(フランス)の抱きつき小外刈を内股で切り返したところを股中で回され「技有」失陥で本戦から脱落。エルモント(オランダ)との3位決定戦も低調な試合ぶりで、大内刈で「有効」を先行されると、焦って悪い体勢から仕掛けた袖釣込腰を引きずるように返されて「技有」を失い終戦。

低調ぶりは負けのついた2戦に限った話ではなく、初戦(2回戦)は大外刈から連絡した一本背負投で「一本」も完全なアウトサイダーのエマヌエル・ナーティ(ガーナ)を相手に実に4分3秒を消費する低空飛行。3回戦のイティエンヌ・ブリヨン(カナダ)戦も「指導1」の僅少差、4回戦のルウィーリ・サンタナ(ドミニカ)戦も5分すべてを使ってようやくの「指導4」奪取とすべて明らかな格下を相手に苦しい試合を続けていた。

得意の片襟背負投や「やぐら投げ」で相手を持ち上げる場面は各試合何度もあったが、落とす瞬間の決めを欠いてことごとく逃がしてしまい、コンディションの悪さは明らか。これまでの国際大会シリーズとは明らかに異なる出来だった。

原因はおそらくオーバーワークだろう。ロンドン五輪以降休養期間があったとはいえ、今期のサインジャルガルの試合出場はグランプリ・サムスン(2位・トルコ・3月30日)、アジア選手権(2位・バンコク・4月19日)、ワールドマスターズ・チュメン(優勝・5月25日・ロシア)、グランプリ・ウランバートル(優勝・7月13日・モンゴル)に今回のリオ世界選手権と5ヶ月弱でハイレベル大会を実に5回こなし、総移動距離は往復で56000kmにのぼる。グランドスラム・モスクワ(7月22日)こそ欠場したが、世界選手権の直前にはギリギリまで代表選手全員で2週間の厳しい強化合宿もこなしており、今大会にたどり着いた時点で疲労が蓄積しきっていたのではないかと思われる。というより、復帰以降のサインジャルガルのパフォーマンスの良さと今回の出来の悪さを比較するにそれくらいしか理由が考えられない。48kg級のムンクバットは優勝を果たしたが、66kg級のミラグチャ・サンジャスレン(4回戦でウリアルテに抱きつき小外刈を隅返に切り返されて一本負け)や同階級のハッシュバータル・ツァガンバータル(3回戦でルグランにリーチの差を生かされて引きずられ続け、「指導3」で敗退)同様、体の力を生かすファイトスタイルであるがゆえに、ハードスケジュールによる疲労がダイレクトに響いてしまった印象だ。

それでもポテンシャルの高さを見せたのは準々決勝の中矢力戦。片襟の右大外刈から左小外刈に繋ぎ、中矢の両足を刈り込んで頭から叩き落す強烈な一撃を見せた。大外刈から刈り足を踏み込んで逆足の小外刈に繋ぐというのはポピュラーな追い込み方だが、この技術は釣り手で相手を抱えて「もたれかかる」から自身のバランスが取れる技で、片襟で右肩を出して身を切った位置から、別の生き物のように左脚を伸ばしてしかも両足まで刈り込むサインジャルガルの身体能力と股関節の柔らかさは尋常ではない。中矢は頭を強打してしまったが、あれを予想しろというのは酷な話だ。グランドスラムパリではツァガンバータルが大野に勝ち、サインジャルガルが直近2戦でそのツァガンバータルを寄せ付けずに連勝している力関係とこの異次元の技を見る限りこの人は間違いなく優勝に値するクオリティの選手であった。

逆に言えば、サインジャルガルがその本領を発揮したのは最大の難敵である中矢戦だけで、この選手は残り少ない力の最後の一滴をこの試合で使い果たした感もある。ロンドンオリンピックで日本が嵌りこんだハードワークの罠にモンゴルのエースが踏み込み、そして敗れた世界選手権、ワールドツアー時代に「フォーカスして勝つ」ことの難しさを改めて知らしめたサインジャルガルの陥落であった。

逆に、自ら企画したハードワークをテコに銅メダルを獲したのが29歳のベテラン、ディルク・ファンティシェル(ベルギー)。世界選手権上位レベルの選手がほぼ大会調整を終える5月のワールドマスターズまでの彼の成績はグランドスラム東京5位、グランドスラムパリ5位、グランプリデュッセルドルフ2回戦敗退、欧州選手権5位、ワールドマスターズ7位。この間日本の西山雄希に「指導2」勝ちの星は残しているものの上位候補にはことごとく勝てず、今期の73kg級シーンの中心にあったモンゴル勢にももちろん連敗。その線の細い戦いぶりからは正直ファンティシェルの「旬」は終わったと思わざるを得ない状況だった。

ところがここからファンティシェルは調整練習に舵を切るのではなく、逆に連続しての試合出場を企図。グランプリ・マイアミ(6月15日)優勝、さらに「ドサまわり」というレベルのパンアメリカンオープンサルバドールに参加して優勝(6月22日)、さらに超直前のグランドスラム・モスクワ(7月20日)優勝。そして強豪選手が軒並み出場を忌避するこの期間、ファンティシェルは上位候補と呼べるレベルの選手と全く試合をしていない。グランドスラムモスクワなどは決勝の相手は国内での実績しかない若手のナショナル王者ヤルツェフ(もちろん強い選手ではあったが)であり、辛うじて難敵と呼べる同大会のレクリアシビリ(グルジア)戦を除けば全試合が格下相手の試合であった。ファンティシェルが何を考えてこのプログラムを組んだかは明らか。本番の世界選手権で確実にメダルを取るために、シード権を取ることに集中する策を採ったと考えられる。(この間地元モンゴルの強豪が大挙して出場したウランバートル大会にだけは出ていないというのがまた興味深い)

この3ヶ月だけで900ポイントを荒稼ぎしたファンティシェルは目論見通り第3シードを獲得。ヴァンドケー(ドイツ・一本背負投「有効」)、イバネス(エクアドル・「指導4」)、ラマンシク(ベラルーシ・一本背負投で2回投げて合技「一本」)、ドラクシッチ(スロベニア・「指導4」)と格上と対戦しないまま悠々ベスト4進出。準決勝では大野にあっさり敗れたが3位決定戦ではまたしても格下、グランドスラムモスクワで「技有」「一本」と圧勝しているダスタン・イキバエフ(カザフスタン)と戦い、「指導2」を奪った末相手が焦って仕掛けた背負投を切り返して「技有」を奪取。念願のメダルを手に入れた。

勝利したファンティシェルは拳を握り締めて大喜び。その喜びが単にこの1試合ではなく、数ヶ月にわたるプランの達成にあったことは間違いないだろう。ドラクシッチにはデュッセルドルフで敗れた経緯もあるが、彼はこの3ヶ月間を戦った貯金を持って好組み合わせを勝ち取り、結果今大会は準々決勝のドラクシッチ戦と3位決定戦のイキバエフ戦の「2戦集中」で銅メダルをものにしたといっていい。

試合巧者の形容として「時間一杯を使って勝つタイプ」という表現があるが、いわばファンティシェルは「シーズン一杯を使って、結果を出した」と言って良いだろう。

優勝レベルの力がありながら5位に沈んだサインジャルガル、力が落ちてきた自身を意識して長期プランを組み、目論見通りにメダルを獲得したファンティシェル。ワールドツアー時代を生きる2人が見せた好対照のプロセスと結果であった。


※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版9月14日掲載記事より転載・編集しています。
ドコモ版QRコード
docomo版QRコード
KDDI版QRコード
au版QRコード

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る



supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.