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【eJudo's EYE】畳上に影響留まらぬ愚行、あの「反則見逃し」を許せない理由を書き連ねる・世界選手権第2日「評」

(2013年8月30日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版8月29日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo's EYE】畳上に影響留まらぬ愚行、あの「反則見逃し」を許せない理由を書き連ねる・世界選手権第2日「評」

「体を本当に捨てたのか(どう見ても「クロ」だと思われるが)を慎重に見極めなければならない」「相手の体が浮いていれば反則適用は為されないからこのケースはグレー」(この基準については伝聞で筆者個人は未確認)という現場の運用論よりももう少し射程が長く、位相の高い問題だと思うのだ。

66kg級決勝、脇固とミックスした投技で体を捨てたムカノフ(カザフスタン)の反則を主審が見逃した事態は、決して許されるべきではない。

あの事態に対して我々が抱く疑念と懸念は以下だ。

(1)新審判制度下、ジュリー制度が機能していなかったのでは?
(2)競技史的にも、厳罰を与えるべきタイミングだったのではないか
(3)IJFは「負傷の危険」というレッドカード基準に鈍感なのではないか?

まず(1)から。

あの事態が起こったときにファンが激怒したのは、踏み込んで分析するならばムカノフが反則を犯したからでも、もっと言ってしまえばあの技が反則だったからでもない。

怒りの理由を言語化した人もそうでない人も無意識的に抱いていたはずの「審判が反則を見る目がないのではないか」「下手をするとこの主審はそもそもこの反則を知らないのではないだろうか」、そして「IJFはこの主審の判断に介入する見識と機能を持ち合わせていないのではないか」という疑念がその怒りの源泉だったのではないだろうか。

伏線は、1分20秒に海老沼に与えられた不可解な「指導1」だ。
直前のシークエンスは互いに技が出ない中で柔道衣をずらしあう主導権争い、海老沼が思い切った大内刈を仕掛けてケンケンで追いかけ、追いきれずに止まったところでムカノフが返しを狙ったという展開で終了している。技を仕掛けたのは海老沼。待って待って、返し技一回だけ仕掛けたのはムカノフ。「指導」を与えるべきは、明らかにムカノフに対してだ。
遡ってその前の1分間を見返してみると、互いに足技を仕掛けあう組み手争いで、有効打はともにゼロ。海老沼は牽制の出足払を数度仕掛け、ムカノフは双方が場外に出るときに一発出足払を放ったのみ。ここは展開に差をつける場面ではなく、「次の展開で優位に立つ側が出たら、その時点で相手に指導を与える」と判断を次のシークエンスに先送りする単元のはずだ。ということはムカノフの側に「指導」を出す理由があっても海老沼に出す根拠は全くない。あの主審は、「指導」を出す側を間違えたのである。

問題は審判一個の能力になく、マットの外に控える該当試合の審判団も、センターテーブルもこれを修正しなかったということ。たかが「指導1」というなかれ、世界選手権決勝の勝敗に直結するポイントである。主審が判断を誤ったとき、どのくらいの程度であれば(たとえば技の評価であれば二段分のズレ)介入するというような内規はあるようだが、より高所から見て、勝者と敗者を取り違えるようなミスジャッジを正せないようなシステムは信頼できない。たとえばあそこに従来どおり副審が2名いれば、スルーしたにしても異見アピールをしたとしても、観客は納得して次の展開を見守ることが出来たのではないか。

そしてこの、主審と審判団への不信という前提があった上での、あの「脇固で体を捨てる」反則の見逃し。

「さっき反則を取り違えたおっさん」が表情を殺してただただ見守る中、海老沼の肘が破壊されていくのを畳の外で見守らればならないあの十数秒の我々の審判団に対する不信と絶望感は凄まじいものがあった。

いかにこれから検証しますと言われたとしても。反則を逆側に与えるような事態を見逃しておいて、そしてそんな審判を畳に残してあれだけの重大な反則をスルーしておいて、後から「いや、ビデオで分析したところあれは厳密には体を捨てていないんです」などと弁明されたとしても「今更そんな言い訳誰が信じられるか」というのがファンの偽らざる心境であろう。

能力のない審判が畳にあがってしまったことはともかくとして、そこで危険に晒された選手を守ることすら出来ないシステムと見識。

ここまで大枠うまく進んでいた新審判システムだが、これは大失態。これなら即座に副審が異見を表明出来、かつその「検証する事態であること」が第三者にわかりやすく伝わる三審制のほうが遥かにマシである。技のポイントの評価の修正に汲々とするよりも、まずは選手の安全を考えろと叫びたくなってしまう。全柔連には、IJFに対する断固たる抗議、IJFには明確な回答と対策をお願いしたい。

次に、2つ目。「競技史的には、厳罰を与えるべきタイミングだったのではないか」という点について。

ロンドン五輪でも同様のシーンがあったのをファンの皆様はご記憶であろうか。
70kg級3回戦、チェン・フェイ(中国)が田知本遥を相手に「有効」2つをリードされた状況で、田知本の肘を極めながら体を捨てた場面である。田知本はこの技で肘を負傷、以降明らかに精彩を欠いて追いつかれ、僅差0-3で敗退を喫した。

面倒なのはこの後、「ケンカ四つクロスの一方的な形から肘を極めながら投げを放つ偽装攻撃」が一部でトレンド化したことである。相手の片腕を両腕で取って一方的に腕を極めて相手を跳ね上げれば、返されるリスクはなく、かつ逆らえない相手が一回浮くため、攻勢を偽装することが非常に容易なのだ。

「組み合う」新ルール以後鳴りを潜めていたが、この技の扱いは競技全体の仕切りに関わる重大事項だと考える。IJFはその姿勢を明確にして、改めてこの行為に対する厳罰を宣言すべきである。この技の横行は断じて許してはならない。

ひとつは、つまらないから。
そして、もうひとつは何と言っても、危険過ぎるからである。

「ケンカ四つクロス」による脚の跳ね上げ技、相手との対話を拒否したこの一方的な攻撃偽装は新ルールによりNGを突きつけられた格好となったが、「腕を極めながら投げを偽装する」は相手が逆らいがたいという点において、このケンカ四つクロスの偽装技の優位性をさらに一段上塗りするものである。「互いが投げを狙いあうこと」で競技のダイナミズムを上げようとしているIJFの方針と、これは激しく矛盾する。絶対に返されないが、相手を投げることも出来ない、それでいて負傷の危険が高い技。こんな技の仕掛けあいを誰が見たがるものか。

そして何より、この技は危険だ。弾みがつくだけで、体重を預けるだけで簡単に選手生命に関わる大怪我を負ってしまう。「格闘技なんだからなんでもありだ」「どんな事態にも対応しなければいけない」というような理念や心構えを個々の競技者が抱くこととは全く別の位相で、競技団体の仕切りとして「関節を極めたまま体を捨てる」ことを容認するのはイコール負傷の容認に他ならない。これだけの過密日程でワールドサーキットを「興行」しているIJFにとって負傷者続出で競技レベルを下げることや、危険な競技と認識されることがメリットがあるとはとても思えない。

そしてこの、競技の仕切り自体を侵食しかねない危険な技がトレンドになりかかっている(実は日本の学生柔道でも、女子選手でこれを使う選手が現れ始めている)というバックグラウンドを踏まえると。

ルールの厳密適用は大原則であるが、それ以上にこの状況に鑑みれば今回のケースは「疑わしきは罰する」という厳罰を持って臨み、「IJFは危険な行為を許さない」という姿勢を示してこのトレンドを封殺すべきタイミングであったのではないかろうか。ここまで露骨な反則が見逃されたときに、選手に発するメッセージは、つまりはこの技術の消極的容認だ。「多少相手にとって危険でも、相手に攻めさせず自分だけが攻めることを偽装できる便利な技」と認識する「弱者」は必ず一定の確率で現れる。

あり、なしを超えてまずいのは「やっていいのか悪いのか曖昧なままであること」、その技術がグレーゾーンにあることだ。海老沼に準備がなかった、という指摘はある意味正しいが、ある意味では間違いだ。脇固から体を捨てることが容認される可能性があるという認識があれば海老沼の心構えも技術も全く変わってきたはずだ。

最後に3つ目、「IJFは「負傷の危険」というレット゛カート゛基準に鈍感なのではないか?」という点だ。実際にどうかはともかく、その疑念を持たれるということ自体が非常に宜しくない。

今大会はまだそこまで露骨なケースはないが、国際大会における「頭突っ込み」の反則適用に対する基準の甘さは、国内大会を見慣れた方々にとってはかねて気になっていたホ゜イントであろう。

そして現在のIJFルールの「一発反則負け」に対する他競技と異なる歪な基準がこれにクロスする。他競技において以後の競技の参加資格を失う「失格」という厳罰は、負傷の危険がある行為というのが一つの基準になっているが、IJFルールはここに「足取り」という競技に対する規範を持ち込んでいる。通常であればこれはいかにこのホ゜リシーを重視しているか、という捉えられ方をされるべきであるが、今回のような事態が起こってしまい、かつ「相手が浮けば攻撃行動とみなされるから反則ではない」というような内規の存在が噂(重ねて言うが筆者はこの内規の裏づけはとっていない)されるに至っては、「IJFはそもそも負傷の危険性をルールで排除するということに鈍感なのではないか」「格闘技がはらむ危険性に対して無防備でありすぎるのではないか」という印象を与えることになりかねない。

以上長々書き連ねてきたが、つまりはあの反則を見逃してこのまま何の見解も示さず放置するのは、競技団体として「お話にならない」事態なのである。

重ねて、IJFには今回の件に対する見解と、以後の厳罰の明確化という形でのメッセーシ゛を望みたい。世界選手権開催期間中に公式解答が得られるような、迅速な動きを期待する。

文責:古田英毅


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