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【eJudo's EYE】「作る」才能の勝利、そして今後の危うさ・世界選手権60kg級評

(2013年8月27日)

※ eJudo携帯版「e柔道」およびeJudoメルマガ版8月27日掲載記事より転載・編集しています。
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【eJudo's EYE】「作る」才能の勝利、そして今後の危うさ・世界選手権60kg級評
世界選手権では1997年パリ大会以来、五輪まで含めた世界大会では2004年アテネ五輪以来(いずれも野村忠宏)の、日本がどうしても取れなかった最軽量級の世界タイトル。これを初挑戦の天才児・若干20歳の高藤直寿(東海大2年)が見事に獲得した。まずは素直にこの快挙に拍手を送り、快哉を叫びたい。

ロンドン五輪での金メダルゼロという非常事態から強化体制を変え、人心一新で船出した新生日本代表の先鋒役として果たした役割も非常に大きい。66kg級、73kg級と有望階級が続く日本男子としては最高のスタートと評して差し支えない、素晴らしい第1日だった。

ロンドン五輪時にも書かせて頂いた通り、現代の国際柔道は情報の流通と浸透のスパンがかつてでは考えられない程早い。IJFのウェブ中継「ippon.tv」とyoutubeを通じて特にビデオ研究班を持たない国にもその映像はあっという間に広まり、徹底研究にさらされ勝てば勝つほど一度見せた技はなかなか通用しないし、同じ「やり口」で勝ち続けることの難易度は上がる。

その中で高藤は12年5月のグランドスラムモスクワ、12月のグランドスラム東京、さらに新ルール試行後の13年2月グランドスラムパリ、5月のワールドマスターズと最高峰大会に4連勝、その上でこの世界選手権も優勝して見せた。初出場での世界選手権奪取は偉業だが、現代柔道においてはこの「勝ち続けた上でさらに勝つ」ハイレベル大会5連勝ということこそ褒め称えられるべきかもしれない。

注目すべきは、高藤が毎回持ち込む技が確実に増えていること。グランドスラム東京ではかねてから武器にしていた横落を進化させた形で「一本」、ルール変更以後は相手の支釣込足や横落に呼吸を合わせて攻防一致で振り返すオリジナル技「ナオスペシャル」を繰り出して連勝街道をひた走ってきた。

上背が低く、11年のシニアデビュー時のザンタライアとの連戦や山本浩史相手の敗戦で「体格にモノを言わせての上からの圧力と有無を言わさぬ巻き込み」は高藤相手に海外選手が採ってくるはずの共通戦略となっており、11年時の掬投や上記の横落、「スペシャル」はこれに対して高藤が国際舞台に持ち込んだカウンターテクニックであった。

今回高藤が世界選手権の舞台に持ち込んだ答えは組み手と逆方向である右への大腰(移腰)。ワールドマスターズでも1度見せている技だが、準々決勝のスメトフ(カザフスタン)戦、そしてこの日抜群の出来を見せていた準決勝のキム・ウォンジン(韓国)戦、いずれも高藤は勝負すべく一瞬体を寄せてきた相手に脇を差しての右大腰を躊躇なく敢行、「技有」を奪って勝利に繋げている。

昨年12月、所謂「新ルール」の試行が発表されたときに、代表クラスの選手で一番このルールの「割を食う」と目されたのが高藤だった。相手が崩れたところに足を抱える形で「一本」に繋げるテクニックの多さ、ガップリ組み合うことが強要されたときに不利となる上背の低さとカウンター技術である掬投の禁止。

しかしあれから8ヶ月、試行大会のハイライトである世界選手権に、「組み合う」ルールでの有利が囁かれた選手に大会に辿りつくことすら出来なかったものが多く現れる中でもっとも結果を残したのはもっとも不利が囁かれた高藤であった。高藤は、技術を考える、壊して作ることの繰り返しでルール変更の難局を、一度も敗退の憂き目を味あわないまま素早く乗り切ったと評して良いだろう。

ここで思い起こされるのは09年9月、初めて「足取り禁止」が導入された際に高藤が舐めた辛酸だ。初導入となったこ時の全日本ジュニア、相手の技への反応が売りの高藤は木戸慎二を相手に自ら飛び込んだ肩車で「指導」、さらに相手の誘いに乗って掬投を仕掛けて反則負けとなり初戦敗退を喫している。廊下に突っ伏して号泣する高藤と「どんなルールでも勝てなければ世界の頂点にはたどり着けない」と淡々と語り掛ける東海大相模高・高橋洋樹監督の絵は、今となっては感慨深い。

高藤がのしあがってきたのは08年以降、所謂「ビゼール改革」のただ中である。度重なるルールの変更、その度に強いられた自分の柔道を「壊して、作る」創造的破壊の経験が、今回の明らかに自分に不利なルール変更の壁をも乗り越えた、この構図で今回の優勝を捉えたい。圧倒的な身体能力と反射神経が称えられることの多い高藤、その2要素に下支えされる部分が大きいのはもちろんであるが、この「作る」才能と経験が今回の金メダル獲得の最大の要因であると評したい。

と、称えたところで、表題に掲げた懸念もひとつ表明しておきたい。

今回の60kg級は、おそらく過去数年でもっともレベルが高くない。北京-ロンドン期を牽引した絶対王者ソビロフ(ウズベキスタン)、09年王者ザンタライア(ウクライナ)、平岡拓晃の3人が一気に抜け、五輪王者ガルスチャン(ロシア)も不出場。高藤優勝の価値はいささかもその輝きを失うものではないが、今回の世界選手権の60kg級のテーマはリオ五輪に向けた勢力図の再編であり、「現時点での実力比べ」と「4年後に向けた潜在能力と伸びしろの品評会」という2つの視点で測られるべきものであることは間違いない。

その中で高藤が見せた柔道は、身体能力の高さ、そしてそれに下支えされた引き出しの多さで相手を引き離し、そして勝ち抜くというものであった。

ここには危うさがある。
たとえば脇を差し合う攻防の多さ。今回高藤は優勝候補の一番手であり、パワーを自身の売りと考える海外勢はイチかバチか、リスクも大きいがチャンスもあるというこの形を勝負どころで過たず繰り出してきた。高藤は投げられるリスクより攻撃のチャンスを採ってこれを受け入れ、そして勝利したのだがこれは技術はもちろん、明らかにその身体能力と反射神経に多くを負っている。現在は若く、競技人生的にも上り調子の高藤であるが、これから徹底研究にさらされる3年間を経て、絶対に負けられないという未曾有のプレッシャーに襲われるはずのリオ五輪までこのリスキーな選択が続けられるかとなると、不確定要素があまりに多いのではないだろうか。

もう1つは、二本持っての攻防の少なさ。今回は高藤を強者と規定して「持たせない」戦略を採ってきた相手が多かったという事情もあるが、高藤が「ガップリ」の展開よりは組み手のプロセスの中での引き出しの多さに頼り、その中で技を繰り出すことを志向したことは間違いない。勿論二本持って柔道衣をずらし小内刈で崩し続けたゲデス(ベネズエラ)戦などもあったが、たとえば決勝のダシュダバーはこれまでの袖を殺してきた相手と違い比較的一手目の釣り手を持たせてくれる選手であったにも関わらず、高藤が採った選択は突如手立てを変えてのケンカ四つクロス、そしてそこからの横落であった。

ここで指摘したいのは「二本持つのが正しい」云々の理念論ではない。1つは釣り手で相手をコントロールすることによるリスク回避の側面である。差しあい、殺しあうプロセスや「際」の中で相手を仕留める技の多彩さで勝ち抜く高藤の柔道だが、前述の通り、チャンスの反面リスクが大きいことと、数年スパンの研究にさらされて「手立て」が丸裸にされた場合を掛け算するとここに頼り続けるのは非常に厳しい。守りと攻撃を同じ形からスタートできる「強者相手にも袖と襟の二本持つ展開」を少なくともリード時のオプションとして持つことは必須であろう。ここをクリアしない限り、つまりは強者と二本持ち合って戦う地力を錬成しない限り、チャンピオンとして狙われ続ける五輪までの3年間はまさしく茨の道となるはずだ。アップセットを狙い続ける弱者にとって、力一発の逆転が起こりうる形を受け入れてくれる高藤は、チャンピオンとしてはむしろ「おいしい」ターゲットだ。

くしくもこの日、高藤を除いて、ひときわ光を放っていたのは3位に入賞したサファロフ(アゼルバイジャン)とキム・ウォンジン(韓国)という地力を前面に押し立ててくる選手であった。サファロフは初戦でムドラノフ(ロシア)を背負投「一本」で一蹴、ムーレン(オランダ)も投げつけて3位決定戦では第1シードのパピナシビリ(グルジア)に「指導」3つを失いながらも深く体を入れての力勝負に持ち込み、自らいったん巻き込み掛けた引き手を逆方向に持ち上げての大内刈「一本」で勝利し、キムもキタダイを相手に両襟で組み勝ち続け、窮した相手の右袖釣込腰を返しての「技有」でアップセットを演じている。この2人に共通するのはその「地力の強さ」をベースにした一種粗削りな戦いぶりで、この点高藤とは好対照であった。
この項目の冒頭に掲げた「テーマ」に沿えば、現時点での到達点の高さを示した展覧会に勝利したのが引き出しの多さと反射神経の高さで表彰台のてっぺんに上った高藤、伸びしろを含めた品評会でその潜在能力を見せ付けたのがサファロフとキムということになる。

技術で先を走る高藤、追いかけるサファロフやキムというこの先の構図が確定した今大会。高藤を待つ道は険しい。壊し、そして作る「創造的破壊」が売りの天才・高藤。世界選手権で勝ち続けることを求めるよりも、五輪で勝利して歴史的選手となるために。次は、もう一段高い高所からの「破壊と創造」を望みたい。

文責:古田英毅



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