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【eJudo's EYE】世界選手権日本男子代表発表・評

(2013年5月18日)


※eJudo携帯版「e柔道」5月15日掲載記事より転載・編集しています。

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【eJudo's EYE】世界選手権日本男子代表発表・評

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写真:代表発表会見に臨む3人。
左から南條充寿女子監督、斉藤仁強化委員長、
井上康生男子監督
代表選出にまつわる「評」として世の中に出回るものには3つの視点があると思われる。ひとつには選考自体が筋の通ったものであるか、また代表のラインナップから強化陣の考え方を読み取るというような今回の「選考自体」に関する視点、2つ目はそもそもの代表選考のありかたという制度設計の妥当性についての視点、最後はこのメンバーで世界選手権を戦った際のメダル獲得数や大会までの課題といった「戦力評価」。今回の代表選考も既に色々な形での意見、そして批判が出ているようだが、まぜこぜの混乱を避けるため、この「評」もこの3点に沿った形で稿を進めていきたい。

例年通り階級ごとの選考評という手軽な形での論評ももちろん可能ではあるが、女子強化選手の告発に端を発した一連の問題の中で代表選出の透明性に関する議論もかまびすしい昨今の事情に鑑み、すこし字数を費やしてみたいと思う。おそらくこの後柔道世界に巻き起こるであろう来年以降の「代表選考論」の前提条件になってくることでもあると思うので、少々くどいかもしれないがお付き合い願いたい。

【選考】

「世界で戦えるかどうかを基準にする」という井上康生監督の言葉と整合性の取れたラインナップとなった。「整合性」は3つの視点から説明できる。

ひとつは、ここ1年間の国際大会での実績を最重要視したこと。
もうひとつは、余剰の「2枠」の行使が、近年もっとも実績を残している軽中量級の2階級に対して為されたこと。
最後のひとつは、これは逆説的だが、選抜体重別の初戦敗退者が男女それぞれ2人ずつ代表に選考されていることだ。

ひとつ目について。代表発表会見では井上監督が各階級の代表選手、または代表候補とされながら落選した選手に関して国際大会の成績を具体的に挙げて根拠を説明。必要な選手に関しては単に順位だけではなく、勝ち上がりの内容や対戦相手のレベルにまで踏み込んでの説明が為された。

たとえば60kg級の高藤直寿に関してはグランドスラム大会3連勝という抜きん出た成績、73kg級の大野将平に関してはグランドスラム東京での優勝とその圧倒的な内容、そして3位に終わったグランドスラムパリでも、もと世界王者のツァガンバータル・ハッシュバタールに対して好内容の試合を展開していたこと。100kg級の小野卓志に関してもその選出の論拠としてまっさきに挙げられたのは選抜体重別の優勝ではなく、グランプリ・デュッセルドルフでの2位という成績、そして過去2階級で世界大会を経験しているという経験値の高さであった。

講道館杯と選抜体重別の連勝という実績を残した66kg級の福岡政章に対してもその結果と内容の良さへの言及は補完的なもので、最初に論拠として挙げられたのはグランプリ・デュッセルドルフでの2位入賞という事実、敗れた相手が日本人の海老沼であったこと(=海外選手に負けていない)、そして同大会で対戦した選手がことごとく強豪であった内容という「国際大会での戦闘力」だった。

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写真:選抜体重別を井上康生男子監督
は「たくさんある大事な大会のひとつ」と説明
逆に、「選ばれなかった」90kg級の加藤博剛に関しては「世界を戦うには物足りない」という言葉でその実績への評価が為された。グランドスラム東京の2回戦敗退という結果を受けて国際大会での実績不足を補うべくグランドスラムパリ、グランプリデュッセルドルフというハイレベル大会2大会に派遣したこと、パリ大会では3位入賞もその対戦相手に強豪が全くいなかったことと試合内容がギリギリであったこと、そしてデュッセルドルフでは初戦敗退し、その相手が1階級下のエルモントであったこと。比較対象となる西山将士がオリンピックで3位、グランドスラム東京で2位、アジア選手権団体戦で全勝を果たしていることとも合わせて挙げられ、ここでもその基準の第一が「世界で戦えるかどうか」であったということが重ね塗りして説明された。最も揉めたと井上監督自らが認めた81kg級に関しても選考の理由として挙げられたのは長島啓太のグランドスラムパリでの3位入賞とアジア選手権団体戦での内容の良さであった。これだけ国際大会と国内の大会の様相が異なる現在の競技の様相に鑑みれば、世界選手権で戦おうとする場合に直近の国際大会の実績を最重要視するのはひとつ筋の通った考え方であり、今回は徹頭徹尾この基準に貫かれた選考であったと評することが出来る。

2つ目の「2枠」の使い方であるが、前述の通り、この枠は66kg級と73kg級に行使された。この階級は現役選手の中に複数の世界王者が存在する日本の最強階級であり、よって当然ではあるが、各階級の「2人目」の候補を階級の枠を外して国際大会での実績で並べていくと上位にはこれら軽中量級の選手が並ぶことになる。

例えば敢えてこの序列を覆して、経験値重視で若手を登用するというやり方も考えられなくはなかった。試すべき位置につけている若手が、起用を決断するに足る内容の柔道を披露できなかったという事情はもちろんあろうが(丸山剛毅に関しては議論があったことを認めた上で、若手の登用に関してという文脈で「五輪までを考えて、鍛えていく場の国際大会は他にしっかり用意していきたい」旨の発言があった)ここは大方針としてメダルの獲得出来る順、メダルの数を増やしかつ金メダル獲得の可能性を上げるという選択が為されたと見て良い。であれば例えばメダルの可能性が低い81kg級の派遣を「0」にして2枠行使の階級を増やすという選択も考えられるが、66kg級と73kg級以外に、今期の国際大会でコンスタントに上位を狙えるレベルの実績を残している二番手選手はいない。1階級への投入最大数が2枠であることを考えると、「7階級全階級出場、2枠を軽中量級に集中」は、世界で勝てる選手を選んだというポリシーに則った選択であるという結論を導くことが出来るはずだ。メダル量産競技としての社会からの信頼性が薄れる中、まずメダルの「数」を確保しようという意図と解釈することも可能で、これはこれで飲み込める選択ではある。

最後に、同じことの上塗りになるかもしれないが、選抜体重別の初戦敗退者が2人代表に含まれていることについてだ。
もし従来通り「過去の実績」「直近の国際大会の成績」「(最終選考会である)選抜体重別での成績」という3要素がフラットに並べられるとしたらこの選考はありえない。当然ながら報道陣からは「選抜体重別は、(唯一無二の最終予選ではなく)ひとつの大会に過ぎないということか」との質問が飛んだが、井上監督は「そう思ってもらって構わない。いくつかある大事な大会の一つであるということ」と明確に答えた。これが非常に大事なところで、今回の選考を「発言と整合性がある」と評することが可能な所以である。

今年も「選抜体重別に勝ったのに選ばれなかったのはおかしい」「もしくは、負けたのに選ぶのはおかしい」というような論調の評が散見される(健康な意見であると思う)が、井上監督は「選抜体重別は唯一の無二の決定大会ではない、ワンオブゼムである」という態度を明確に打ち出している。であれば、世界選手権で「勝てる確率の高い選手を選ぶ」ことをポリシーに掲げた今回、選考を国際大会の成績重視で貫いたこと自体にはすくなくとも矛盾はない。発言、掲げた基準と矛盾がないという点においては今回の選考は妥当である。

代表選考に関するこれまでの議論はその多くが、「世界で勝てる選手を選ぶ」という選ぶ側の主観が色濃く反映される要素と「公平性の担保(国内への説明責任)」という2要素の掛け算で生まれるものであった。
今回は「選抜体重別は数ある大事な大会のうちのひとつでしかない」と明言することで、逆説的ではあるが、公平性を確保する形になったとは言える。最終選考会である選抜体重別に勝利したのになぜ選ばれないのか、という指摘はここでは機能のしようがないからだ。

【代表選考の制度】

しかし選抜体重別が、少なくとも選考上は「たくさんあるいくつかの大会の一つに過ぎない」というのであれば、代表決定に至るプロセスの制度設計は明らかに改めるべきだ。この大会に関していえば、

選抜体重別は体重別日本一を決める権威ある大会と位置づけて続ける一方で最終選考会という場とはハッキリ切り離すか、

それとも最終選考会であるこの選抜体重別の大会形式を全く改めてしまうか、

そのどちらかだ。

最終選考会があるということ自体を否定はしない。たとえば昨年の福見友子と浅見八瑠奈という世界王者2人が鍔迫り合いを演じた48kg級のケースのように、むしろ「直接対決で勝負をつける」しかもはや公正明大な決定の仕方がないという場合もある。日本の強化選手全体のレベルが上がれば上がるほどこういうケースは多くなるはずで、これは状況としては健康だ。

ただし、そこに至るまでの国際大会の実績で代表レースの決着が半ばついているのであれば、最終選考会に「五輪(または世界選手権)に出場出来る可能性の全くない選手」という、夾雑物(選考という立場からすれば)を混ぜることにいったい何の意味があるのかということになる。これらの選手に選考が、誤解を怖れずに言えば、引っ掻き回され、結果代表選考が見た目の公正さを失うというのであれば百害あって一利なしという他はない。前述の「直接対決で勝負をつけるしかない」最終予選の機能が昨年正当に機能したのは中村美里と西田優香という2人の世界王者が雌雄を決した52kg級決勝であり、一方代表選考とは全く関係ない選考上の夾雑物(あくまで代表選考という視点の語彙なので気を悪くしないで頂きたい)である岡本理帆に引っ掻き回され、世界王者同士の直接対決による文句のつけようのない決定というシナリオが全く狂ってしまったのが48kg級の選考だ。

8人の選抜選手によるトーナメント戦で行われることが定着している選抜体重別であるが、長い歴史の中では、極めて少数の選手による一発勝負や総当りのリーグ戦という試合形式が採用されていた時期もある。選手のレベルが高かっただけに、より精度の高い、文句の言えない選考形式が練られていたということだろう。

繰り返すが、五輪・世界選手権代表の最終選考会という冠を残すのであれば大会形式はハッキリ改めるべきで、「勝ったら出場決定」というステージの選手だけを集めて行うべきだ。状況からこの人以外に代表はいないという1名が既に確定しているのであればその階級は最終決定戦を実施する必要すらない。選手が疲弊するだけだ。

そしてもし現行の「選抜者8名による体重別日本一決定戦」という価値観を存続するというのであれば、「最終選考会」という冠は外すべきである。いかに「この大会はワンオブゼム」と説明したところでこの冠がある以上世間はこの大会の優勝者を選考しないことにも、負けた選手を選ぶことにも決して納得することはないだろう。わざわざ誤解を招く要素を声高に宣伝していることには、選手第一ではない外部の事情をどうしても感ぜざるを得ない。

もしもスポンサーやTV放送の関係上最終選考会の冠は外せないし全階級×定数選手選抜という形式も改められない、というのであれば、それこそが代表決定の「夾雑物」だ。わざわざ余計な要素を持ち込んで社会から見た柔道の公平性を損なうというのは優先順位を履き違えている。

斉藤仁委員長をリーダーとする新強化体制では国内にもランキングポイント制を持ち込んで代表選考のプロセスを透明化しようという動きがあるとのこと。どこまで「夾雑物」を入れず、選手本位、そして社会に対する「柔道」の見せ方本位の制度が出来上がるのか、お手並み拝見である。

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写真:60kg級の高藤直寿。
圧倒的な成績の一方、
選抜体重別で見せた
メンタル面のナイーブさが
気にかかる
【戦力評】

高い確率で金メダル獲得が可能な階級が3、メダル獲得が現実的な階級が2。昨年のロンドン五輪では苦境の中でもほぼランキング通りの成績を残して5階級でメダルを獲得した男子、「必ず勝て」と言われると厳しいが、実力的にはさほど悪くない位置につけている。

[60kg級]高藤直寿(東海大2年)
グランドスラム3大会の圧倒的な成績と内容を見る限り優勝候補の筆頭と考えて間違いない。関係者から「この大会にフォーカスしてきたとは信じられない」との低評価が続出した選抜体重別での動きの悪さと、敗退後に報道陣の前で人目もはばからずに声を上げて大泣きしたメンタルの未成熟さは不安の一言だが、60kg級はソビロフ、平岡、ザンタライアなど有力選手が次々に抜け、世界的にレベルが下がっている階級でもある。今回は大チャンス。

[66kg級]海老沼匡(パーク24)、福岡政章(ALSOK)
五輪ではニューカマーの隅返ファイター・シャバツァシビリ(グルジア)に金メダルを持っていかれた階級だが、海老沼はこの選手にグランプリ・デュッセルドルフで一本勝ち。投げと返しの「際」で競り続けた試合内容を見る限り次回対決は予断を許さないが、少なくとも全く敵わない相手でないことは証明されている。ワンツーフィニッシュすら夢ではないのではないか。

[73kg級]中矢力(ALSOK)、大野将平(天理大4年)
安定感の中矢、爆発力の大野。寝技の中矢、投技の大野。好対象の2人を送り込む日本の最強階級だ。ヨーロッパ勢がダンゴ状態で絶対の強者が存在しないという階級の状況もどうやら追い風、いずれかの金メダルに強く期待したい。

[81kg級]長島啓太(日本中央競馬会)
現時点では入賞が圏内、背伸びした最高到達点がメダル獲得というところ。国内も大混戦のこの階級、長島は初の世界舞台となる今大会が人生の岐路。

[90kg級]西山将士(新日鐵住金)
張り詰め切っていた2011-2012シーズンの出来の印象が強く、ゆえに五輪後の元気のない試合ぶりが気にかかるところではあるが、実力は当然ながらメダル圏内。そのメダルの「色」を上げることが今回の至上命題となる。イリアディスへの刺客として五輪代表に選ばれながら互いの敗退で直接対決がなかったが、今回こそは直接対決に期待。

[100kg級]小野卓志(了徳寺学園職)
100kg級転向1年目でいきなりの代表。若手のホープである高木海帆と羽賀龍之介が不在で展望の持ちにくい階級だったが、一発があって「確変」状態が訪れれば手のつけられない小野が選ばれたことで一気に夢が広がった。
この階級での実績が足りず、事前評では入賞圏内としておくのが穏当であろうが、最高到達点はメダル圏内という補足を入れておきたい。爆発力は随一、「ジックリ見て的確に大技を繰り出す」現在のスタイルが新ルールに適合するかどうかがカギ。

[100kg超級]七戸龍(九州電力)
国際大会での奮闘を見る限り、実力はメダル可能圏内。カギは井上監督が指摘した戦術性、戦略性の獲得と、リネールという明らかに勝てない選手がいる中でのシード順の確保。事前大会の出場計画とその成績が、世界選手権でのメダルの色に大きく関わってくるはずだ。


文責:古田英毅





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