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【eJudo's EYE】就任会見から推し量る井上新監督の期待度

(2012年11月8日)


※eJudo携帯版「e柔道」11月7日掲載記事より転載・編集しています。

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【eJudo's EYE】就任会見から推し量る井上新監督の期待度

さて、その井上新監督の記者会見、抑えた言葉ながらも、溢れる意欲は隠しようがないという印象だった。急なオファーという事情もあり、記者の質問に対して例えば「これからじっくり考えていく」という無難な答えを連発したとしても言い訳の利く状況であったし、かつ質問はいずれもそれが許される質のものであったのだが、井上の返答はまことに明確。むしろ饒舌。詳しくは当日幣サイト携帯版に掲載した「井上康生・園田隆二両監督記者会見要旨」を読んで頂くとして、井上監督の発言のサマリーは下記である。

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写真:就任会見で、斉藤仁委員長
園田隆二女子監督と撮影に臨む井上新監督
①強化のテーマ→総合力。心、技、体が揃ってこそ日本人は戦っていける。

②心の強化→日本人はメンタルが弱い、と言われるが本当にそうだとは思わない。ギリギリの状態で結果を出してきた先人も存在する。4年に一度の舞台でしっかり結果が残せるようにという視点に立って考えていきたい。具体的なプランもある。

③技の強化→「一本を獲りにいく柔道」を貫く。「一本」を獲る高い技術とそこに至るプロセスを追求し続けることが日本が勝ち抜く絶対条件。ただし、組み手の進化が激しくかつ、ルールが変わり続ける現状では従来の練習に加えて新しいことを考えていかねばならない。練習方法はかなり変わってくる。

④体の強化→フィジカルの部分でも日本は弱いと言われているが、そこまでの差があるとは思えない。ただし稽古、走り込みと世界一の運動量をこなしてなお勝てない現状を踏まえ、全身運動であるという柔道のフィジカル的な特性を捉えたトレーニング、戦い方を考える必要がある。

⑤組織を整える必要がある。4年に1度のオリンピックで勝つことを第一にしっかりした組織を作りたい。
⑥戦略、戦術が丸裸にされている現状がある。この点こちらもしっかり準備したい。スポーツ科学的、また医科学的分析に基づいて強化を図りたい。

⑦最重量級の強化→重量級と軽量級はもはや別の競技と捉えるべきで、重量級のためだけの違うプランで強化を図る必要がある。細かい部分は既に頭の中にある。

⑧4年後に向けた若手起用は?→スポーツ全体で、競技年齢層が上がる一方、同時に早い段階から一線で活躍する選手も出てきており、選手の競技力が長く続くようになっている。どちらかに偏るのではなく若い選手からベテランまで使いこなしていきたい。

この、非公式施政方針演説とも言える質疑応答の中で、注目すべき点は3点。

まず⑦⑧以外の全てが、実は記者に突っ込まれる、単に質問に答える形でなく、自発的に井上監督の口から語られたという点。前述の通り、無難に会見を終えることだけを志向してひとまず答えを先送りすることも出来た、もしくは批判の受けようのない優等生の答えで済ますことも可能であった場面であったが、そこで敢えて質問を糸口に話を大きく広げて現状の問題点と構想を語るところには、まず代表監督という仕事に対しての非常な意欲、そして選手を引っ張っていけるだけの熱さが十分感じられた。当然と言えば当然だが、井上新監督はやる気十分。

もう1つは、この「自発的に語られた」トピックの、現在強化が抱えているとされる問題点に対するカバー率の高さだ。単に強化現場というところでなく、「組織」、「インテリジェンス」(戦略と戦術)という前体制の弱点とされたところまでこの時点でしっかり言及が為されている。ここで「チェンジ」するしかないジリ貧の日本柔道が、派閥横断的に信望と支持を集めることが可能な井上に期待するのは単に現場の強化に留まらない。「競技の強化」という旗を梃子にした組織体質、ものの考え方の変革であり、これが果たされない限り競技力の強化もまたありえない。例えば保有戦力の資質や金メダルの数など、極端に狭義の「競技力」に限ったコメントを発して会見を終えた場合を考えるとこの点印象的にはかなりの差がある。強化組織の改革も広義には自分の職掌だと宣言したわけである。少なくとも、これらの点に問題意識をハッキリ持っていると表明したわけでこれはこの時点で高く買いだ。

最後は、②③④⑦の強化項目のうち全てに具体的なプランがあること、そしてその存在をこの時点で明かしていること。井上はなし崩しに要請を受諾したのではない。強化かくあるべきの思いを抱き、描いて強化コーチの3年間を勤め上げ、次体制において少なくともそれを具体的な形で提案できるレベルにまで練り上げてきているということだ。

あまりにも鮮烈な一発に印象が塗りつぶされがちであるが、選手としての井上は、外国人の防御技術を巧みに利用した内股のパターンを駆使するなど、頭脳派、技術派のファイターでもあった。また現場での種々の発言から推し量るに科学的な視点、論理的根拠を大事にする指導者でもある。当然ながらその施策に対する評価は実際に現場をどう動かすかが明らかになってから公平に為されるべきであるが、少なくとも現時点での期待値はかなり高く持って良いのではないだろうか。武道家の心に科学的視点を盛った井上新監督がどのようなプランを繰り出してくるか、どんな具体的な技術を伝えていくのか、非常に楽しみである。

勿論34歳という若さで、しかも急にオファーを受けたという事情が明らかにされているバックグラウンドの中、井上自身が「自分には準備が出来ている」ことをアピールしたかったという意地の悪い見方をすることももちろん可能である。しかし現場に漂っていたのは、そのような邪推を許さない井上の熱さ、どうにも黙っていられない柔道への思いが醸し出すオーラであった。この点はどう語っても主観を排除できないところがあるが、いち参加者の意見として、会見の雰囲気を推し量る参考にしてもらえればと思う。

というわけで。

監督・井上康生の最初の会見は、急な決定にも関わらず「意欲」「熱さ」「問題意識」「解決の方策の存在」を示したというところで、まことに僭越ながら、十分以上の「合格点」と評したい。失敗したら後がない、日本柔道が何十年というスパンでの分岐点にある現在、自身が歴史的に果たすべき使命への自覚と覚悟も十分と見た。

ただし勿論気になる点もある。例えば、提示された数々のポリシーの共有と実現にはおそらく代表「チーム」としての連帯行動が不可欠である。だが、代表合宿の拘束時間の長さと所属での錬成時間の少なさ、長期スパンでの鍛錬期の組みにくさは前政権でもっとも問題になっていた点の一つであり、井上自身もそれを強く認識しているはずである。所属とのコミュニケーションの大切さを常々語る井上新監督がこのロジック的な矛盾をどう解決し、どう折り合いをつけていくのか。

理想が具体的なプランとして落とし込まれ、それが誰の眼にも端的に明らかになるのは「スケジュール」である。この先まず注目すべきはどの時点で、中長期の具体的な国際大会参加戦略、そしてそこから帰納される各大会の位置づけが提示されるかだ。

選手は毎日、いまこの瞬間もおそらくは稽古を続けている。無目的にこれを続けることは難しい。リオ五輪を狙う選手、わけてもベテラン選手、特に必ず幾人かは現れるであろう「井上体制であれば現役続行」という選手にとって、リオ五輪へのロードマップ提示、各年の国際大会と世界選手権の位置づけの明示は選手生活の死命を刺す問題である。具体的には、リオを目指すなら来年の世界選手権を必ず目指すべきなのか、毎年マックスの競技成績で存在感を示し続けなければならないのか。より切羽詰ったところでは、現時点ですぐにでもグランドスラム東京に始まる冬季国際大会シリーズにフォーカスした調整をすべきなのか、どうなのか。

前強化体制時の9月の時点で、ナショナル強化選手には「(金メダルを獲得した)松本薫以外は全員講道館杯に参加せよ」とのレターが送られている。強化方針を明示しない時点でのまことに理不尽な指令であり、さらにあれから2ヶ月経って強化体制がまだ決定していない現在の状況は、つまりはカレンダーの速さに強化のプランが追いついていない状態と位置づけられる。このねじれの状態をどの時点から修正し、どの時点からスタートを切ることが出来るのか。

優先されるべきは、まずは選手である。
出来ればメディアにも、そして何よりも一刻も早い、選手とその所属に対する「施政方針演説」が待たれる。おそらくはコーチ決定後、講道館杯後に為されるであろうその方針発表がまことに楽しみだ。

文責:古田英毅


※eJudo携帯版「e柔道」11月7日掲載記事より転載・編集しています。

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