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【eJudo's EYE】 世界選手権第5日・評

2011年8月30日

※eJudo携帯版「e柔道」8月28日掲載記事より転載・編集しています。

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【eJudo's EYE】 世界選手権第5日・評

■100㎏級、100㎏超級
まさに悪夢、重量級代表惨敗に「共通項」はあるか


悔しさと情けなさで眠れぬ夜を過ごした方も多いのではないか。
いや、情報を入手してそもそもテレビ中継など見ずに不貞寝してしまった方も多いのではないか。

速報性とその「お好きさ」加減ぶりで人気の名物ツイート、Fighting Films(社)がtwitter上で「All Japanese heavyweights gone in the early rounds!!」とエクスクラメーションを2つ重ねて呆れ返った日本重量級陣の惨敗。なにしろ100kg級、100kg超級の代表4人で予選ラウンドを通過した選手がゼロ、初戦敗退が2人という稀に見る大惨敗だ。

ともにビハインドを負ってから追いかけ始めるスロースタート、タイムシートと彼我の戦力差だけを見れば「いつか投げれるだろう」という傲慢さがあったのではと思われかねない展開だが、個々にその試合ぶりを考えてみたい。

穴井隆将は90kg級五輪王者のチレギゼに敗退。奥襟を叩きにいったところを明らかに狙われ、腰を抱かれて小外掛2発。
IJFをして「today's biggest upset」(プレスリリース)と驚かせた大波乱だが、そもそも穴井のこの階級における優位は絶対ではない。すべての選手がトップコンディションで臨む世界の舞台で勝利したのは実は昨年の東京世界選手権1回だけで、それも圧勝ではなく、力自慢の選手たちを相手に力、技、組み手とあらゆる引き出しを駆使しての辛勝だった。

ロッテルダムでのアクシデントに近い敗戦を受け、「絶対に負けることが許されない」とあらゆるリスクに細心の注意を払いつつ技を放っていった東京大会に比べて、研究に研究を重ねてきたであろう相手、それも屈指のパワーファイター・チレギゼに対して「持てば投げれる」と言わんばかりの組み手に油断が全くなかったとは言いがたい。09年ロッテルダムで勝利しているとはいえ、昨年の穴井が同じ相手と対した場合、おそらく戦い方は全く異なったものになっただろう。

そして、穴井の鋭い技と前に出る積極的な組み手を支えるのはやはり体の力。
過去1年の大会を見ても穴井が、トップコンディションにあるときには突き抜けて優勝レベルにあり、そうでないときには人材集う100kg級の中では伏兵にも思わぬ敗戦を食らう喫水線下、という「ボーダー上」にある選手であることはほぼ間違いない。
力の上限は突き抜けているが、平均値、もしくはその最低値はいつどの選手にも食われてもおかしくない平面にあるということだ。このあたりは世界選手権に向けた長期調整計画が果たして為されたのか、ということが当然検証されなければならない。冬季ハイレベル大会を4ヶ月で3回こなして選抜体重別と全日本、代表決定後さらにグランドスラムを1回。これは果たして昨季の世界王者にふさわしいスケジュールだったのか。

鈴木桂治も、スロースタートの結果2メートルの巨漢ローダキに「圧力を掛ければいける」との感触を得られてしまった格好で、2分半に渡って圧力を掛けることにのみ専心する相手の突進をまともに受け、まっすぐ下がり続けて「指導3」まで失ってしまった。最後はそのビハインドを追いかけるために無理やり繰り出した大外刈を返されてしまうという最悪のシナリオに嵌ってしまったのは皆さんのご覧になった通りだ。

この試合に関しては油断云々ではなく、相四つの巨漢に対する鈴木の柔道の引き出しの有無ということを考えなければならない。この試合の様相は、昨年相四つ、長身の高橋和彦に奥を持たれ、背中を叩かれ、ひたすら圧を掛けられ続けた展開の再現だったからだ。ケンカ四つには巨漢相手にも一発逆転を狙える鈴木必殺の足車も、相四つで距離が詰まっている状況では回転と相手の崩しに必要な距離が稼げず、仕掛けるリスクが大きすぎる。
この試合に関しては鈴木の戦い方ではなく、準備という部分を考えたほうが良いのかもしれない。超ベテランの域に入ってからも進化を続ける鈴木ならば、まだまだ課題を潰していくことはできるはずだ。

上川大樹は評価不能。もちろん研究はされ尽くされているだろうがこの選手の場合はどうしても自分自身の中に問題があるような気がしてならない。多くの人もそうではないかと思うが、しかしゆえに「覇気がない」「モチベーションがあがらない」「ムラがある」という上川観察の陰に隠れて、「なぜ力が発揮できなかったか」という技術的考察がおろそかになってはいけない。世界選手権での勝利以降、ここまで力を殺される試合が多いのは偶然とは思えないからだ。

いずれ3人(高木海帆については試合を見ていないので評価を差し控えたい)が、先手を許すという「戦術面」で完全に後手を踏んだことは事実である。
戦術、戦略、準備、長期戦略。この現象にはかならず帰納すべき理由がある。検証を曖昧に終わらせてはならない。

■78㎏超級
淡白な試合に終始した杉本、田知本


女子重量級の代表2人、これは選手サイドの責が大きい気がした。

田知本愛は準々決勝でトウブン(中国)に敗退。
中盤、トウブンは巻き込んで止めておいてから強引に回しこむ左払巻込。トウブン得意のこのパターンを十分わかっているはずの田知本はしかし俊敏とは言いがたい動作でこれを受け損なって止まってしまい、ゴロリと巻かれた田知本はそのまま抑え込まれて何もできないまま敗退。奇襲でもない、捌きようがない位置で技を受けてしまったわけでもない、きわめてトウブンがトウブンらしいオーソドックスな攻撃を試みたというだけのこの技にあっさり屈する田知本に、世界ランキング1位のプライドは見えず。見るべき技も全くなかった。トウブン復帰が決まってから3ヶ月、一体何をしていたのかと問われても仕方があるまい。

一方の杉本は、昨年3勝している中国の秦茜と準決勝を戦い、GS延長戦の末横四方固で敗退。秦茜、体は1回り大きくなってきたがその戦法は東アジアもう1枚の「カベ」、キムナヨン(韓国)同様ひたすら組み潰して「指導」を狙うという消極的圧殺スタイルである。
しかし杉本は、これを打開する思い切った技を打たず、互いに消耗したGS延長戦、片手の内股を掛け潰れたところをめくられ、なんと抑え込まれての一本負け。
泰茜のめくりは、伏せた相手の頭側(肩)の一点に体重を掛け、足を持ち上げながら胸を合わせにいくという「小学生返し」。体重の掛けどころも曖昧な、このお世辞にも上手いといえなこの技に、日本の最高峰選手であるはずの皇后盃保持者があっさり抑えこまれる姿には悔しさと屈辱で涙がにじんだ。

負傷明けの杉本など個々の事情はもちろんあろうが、もどかしいのは、敗退という結果以上に、2人の淡白な試合ぶりである。
この階級はあの塚田真希が日本中の涙を誘った「北京の激戦」を演じた階級である。圧倒的な力を持つトウブンに対し、2年以上にわたりコツコツと必要な稽古を積み上げ、練り上げ、ようやく追いついた五輪の大舞台で、勝利まであと10秒と迫ったあの塚田の血が染み込んだ階級である。選手生命絶望と言われた薪谷翠が、05年カイロ世界選手権で涙の優勝を飾った階級である。日本の女子柔道が初めて最重量級で「金」を獲得した04年以来、塚田らが必死で守り、挑んできた階級である。

ゆえに、塚田からエースのバトンを渡されたはずの2人の、試合中に緩慢に敗北を受け入れ始めているかのような淡々とした試合ぶりは本当に残念。そんな試合を見せていい階級でははいはずだ。杉本は、負傷からの復活を掛けた昨年のあのガムシャラな試合振り、素晴らしい試合が頭に焼き付いているだけになおさらもどかしい。両名の今後の奮起、後に続く後輩がその姿を見て奮い立つような、女子超級の伝統に連なる活躍を期待したい。

「ベテランと若手を区別しない」強化は明らかに曲がり角

現在の「ワールドランキング」制度がスタートして2年、重ねた世界選手権も2大会。
五輪まであと1年、ここで得られた結果から当然強化スケジュール、方針の再検討が行われるべきである。

連戦に次ぐ連戦、その合間を縫っての猛稽古という「篠原方式」で昨年金メダル4つと成果を挙げた日本男子。今大会は金メダルは2つにとどまった。

情報の行き渡った現在のトップレベル大会では、前回大会を上回る明確な上積みがないと勝てない、コンディション調整の良し悪しは決定的要素で周辺の国際大会での成績は参考になりがたい、などいくつかハッキリしてきたことはあるが、ロッテルダムでの金メダルゼロというどん底の事態からすれば2大会で6つの金メダル獲得という結果は一応前向きと呼ぶことが出来るだろう。

だが、2名代表を送り込める世界選手権でのこの結果の評価を誤ると、代表1名を全てを賭けざるを得ない本番の五輪ではとんでもない大惨敗を喫する可能性もある。検証はどんなにしてもし過ぎるということはない。

ここではその金メダルの数ではなくその「質」に触れたい。
なぜかと言うと、それはここまで2回の大会で獲得した金メダル6つのうち、10年森下純平(66kg級)、10年上川大樹(無差別)、11年海老沼匡(66kg級)、11年中矢力(73kg級)と実に4つ、11年大会では2つのうち2つともが「若手の2番手代表」が獲得したものであるからだ。

これにはまず一つ、この強化スケジュールが伸び盛りの若手にはマッチしているという見方がなりたつ。
情報戦全盛の趨勢にあって、日本国内で培養されてきた有望な若手が国際大会の連戦で経験値と地力をジャンプアップさせ、その「情報のなさ」を生かして世界の舞台で勝ちまくるというシナリオだ。この4人の面子を見るとこの2つの要素の両方、少なくとも片方が嵌ることが良くわかってもらえると思う。メダルには絡んでいないが、かつて国際大会で「出れば負け」だった81kg級の中井貴裕が連戦に連戦を重ねるうちにコンスタントに4回戦まで勝ち上がるようになってきているのは、負傷による長期離脱という負の側面はあったものの、この猛稽古×連戦という篠原イズムの効果の一つだろう。

もう一つの見方は、これは既に世界の頂点に経った、あるいは近いところまで到達したベテランには非常に厳しいスケジュールであるというものだ。
連戦と猛稽古で疲労に疲労、自身の柔道は連戦で研究され丸裸、加齢によりベースの力は漸進的に落ち続け、かといってジックリ新しい技に取り組むだけの修行の時間は確保できず、結果調整レベルの稽古で本番に臨んだところが、そのやり口はすっかりバレていて苦戦を余儀なくされる、というこちらは「負」のシナリオだ。昨年4人の王者を出しながら連覇者がゼロという事実の前では「そんなに大袈裟に悪い筋書きを考えなくても」とこれを笑い飛ばせる人はいないはずだ。

どんな結果を出してもそこにゴールも休養もなく「勝てなかったら使わない」の叱咤のもと新たな試合と合宿に送り込まれる状況では、選手のモチベーションの減殺も危惧される。「勝負の世界はそんなに甘くない」と切ってしまうことは簡単だが、それは選手の側が持つべき心得。第3日評の内容の繰り返しになるが、プレーヤーと同じ台詞を、立場と職掌が違うプロデュサーが吐いては話は全く進まない。

明確な上積みがないと、勝てない。長期間集中する稽古をしなくては、勝てない。
勤続疲労を起こしていては、勝てない。柔道がバレてしまっては、勝てない。
おそらく首脳陣はそんなことは百も承知のはずである。
今まではこれに、大会に出ないと五輪に「出れない」が優先していた日本男子であるが、五輪までいよいよあと一年。
いよいよ「次につながる結果、内容」ではなく、シビアに結果のみが問われる一発本番である。なりふり構わず、何をやっても良い本番である。

昨年一定の評価があがった篠原式強化計画はこの成績で曲がり角。
五輪までいったい何をやってくれるのか。選手はもちろん死に物狂いになるだろうこの1年、注目すべきは選手よりもむしろ強化陣、プロデュースする側が何を仕掛けてくれるかだ。

文責:古田英毅(eJudo)


※eJudo携帯版「e柔道」8月28日掲載記事より転載・編集しています。

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