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【eJudo's EYE】 世界選手権第3日・評

2011年8月28日

※eJudo携帯版「e柔道」8月26日掲載記事より転載・編集しています。

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【eJudo's EYE】 世界選手権第3日・評

■63㎏級
上野敗退が孕む構造的矛盾


「V逸」「王者陥落」「3連覇逃す」という文脈で捉えられている上野順恵の結果(銀メダル)だが、試合内容を見る限りむしろ上野は良くやったと言って間違いない。

ファンエムデン(オランダ)にGS延長2分を過ぎてから左体落「有効」を奪って勝利した準々決勝、ゾルニール(スロベニア)を同じくGS延長戦の末に上四方固「一本」に仕留めた準決勝とも、内容自体は負け試合。ファンエムデン戦は「指導1」をリードされたまま3分以上ビハインドが続く状況だったし、ゾルニール戦も組み手の戦略的構造で後手をふみ、偽装攻撃の「指導」が上野に与えられても全く文句の言えない技が幾度もあった。

しかし結果として勝利の果実を得たのは上野。ファンエムデン戦は延長1分18秒、疲労したファンエムデンンがスローな右大腰を仕掛けたところに左体落を合わせ、場外際で伏せたところに左脚を差し入れて内股の形でめくり「有効」。ゾルニール戦は押し込まれながらも掛け数を稼ぐうちに延長51秒にゾルニールに「指導1」。直後、左一本背負投に潰れた展開から疲労したゾルニールを抑え込み、上四方固「一本」。
苦しい時でも凌ぎながら体勢を立て直し逆襲の一発を狙う、と言ってしまえば簡単だが、普通の選手が同じ状況に置かれたらまず勝利することは難しいだろう。精神力の強さという言葉だけでは語りきれない柔道家・上野の力、上野をチャンピオンたらしめているものが何かということがハッキリわかる抜群のメンタルタフネスだった。

しかし決勝は厳しかった。徹底して上野の釣り手を絞ってくる元70kg級世界王者のエマヌに対し、全く組み手の形が作れない。
両袖からでも攻撃できるエマヌと釣り手で襟を得ないとなかなか技を出せない上野という具合に試合を切ることは簡単だし、アウェーであったこと、実力が拮抗していたことに救いを求めることも出来るだろう。
試合自体の評としてはそれはまことに正当だが、しかし見つめなければならないのは、それ以上に、エマヌほどの実力者、エマヌほどのパワーファイターに、上野を「格上」と規定されて対策を練られて試合をされると厳しいという事実だ。
技を仕掛ける前の状況の作り方において後手を踏んだこの試合は、戦略性という意味ではジリ貧、上野だからなんとか時間一杯持ちこたえたという試合だったという事実から目を背けてはいけない。

1年に1回世界選手権があり、かつ「ワールドツアー」で年数回の国際大会に出場しライバルたちにその試合ぶりをさらす現在の制度の中、いったん王者になり「ターゲット」にされた選手が勝つのは容易ではない。52kg級の中村美里が優勝を決めた後、園田隆二監督が「昨年から上積みがない」旨指摘したとのことだが、まさに、時代は、たとえチャンピオンであっても明確な「上積み」がないと勝てないステージに突入しているということだろう。もはや、毎大会きちんとピークを持ってくるという「調整」だけでは、いかにそれがきちんと為されたとしても続けて勝つことは難しいのだ。

しかし、試合が乱立する現行制度の中では、この「上積み」を得る時間、柔道家として新たな技を練るだけの時間を確保することは難しい。試合への調整に1ヶ月半から2ヶ月を擁すると考えると、3ヶ月に1回真剣勝負があると仮定した場合、いったい「上積みを得る」ための修行期間はどれくらい確保できるというのだろうか。

上野が大外刈という新技を得てピークを迎えたのは09年ロッテルダム世界選手権。あれから背負投、内股と色々模索した上野だが、ケンカ四つで組み負けた際の状況を打破する一発がないのはこの日の試合で見せたとおり。上野は、構造的に「勝てない」スケジュールの中、個人の力でここまでなんとか勝ち続けてきたのである。

ここで考えたいのは、では、現行制度の中でも世界の中で続けて勝っている選手、彼らに何があるか、だ。

突出した部分を持ちながら毎大会確実に進化している60kg級のソビロフ(ウズベキスタン・ソビロフは歴史的な選手になる可能性が出てきた)は既に連覇を達成したが、この後の大会日程で注目すべきは100kg超級のリネール(フランス)と90kg級のイリアディス(ギリシャ)だろう。2人に共通するのは明らかに、何年という長いスパンの中で、出場する試合を明らかに絞っていること。この2人がこれまで同様の柔道で勝利するのか、はたまた敗退するのか、それとも何か明らかな上積みがあるのか。いずれの結果になるにせよそのパフォーマンスの程は注目だ。

五輪のシード権を得ることと、大会に出続けて自らの柔道を敵に晒し続けてデーターを与えてしまうこと。この2つのメリットとデメリットを見極めなければならないこの先1年の選手プロデュースにおいて、この2人の戦いぶりは大いに参考になるに違いない。

「与えられた日程の中で進化しなければならない」これは選手の側の心得としてはまことに正当だが、プレーヤーと同じ台詞を立場が違うプロデュサーが吐いてはいけない。プロデューサーの義務とは、まず、プレーヤーが最大限に力を発揮できる環境を考えることであるはずだ。その上での猛稽古であれば選手も絶対にこれを厭うことはないであろう。

■81㎏級
81kg級に光明はあるか


苦戦必至の81kg級、今大会の結果にポジティブなコメントを残すのは難しい。
実はこの階級、日本の高校世代では競技人口が最も多い階級でもあり、本来選手層は厚くなければならない。しかし日本人の競技人口が多い階級ということは、当然世界の舞台でもその傾向は一緒ということ。ただでさえ体格とスピード、パワー、が高い位置で並存できる中量級はレベルが高い。日本人選手の苦戦は当然である。

現状では、続けて試合に出ている中井貴裕(流通経済大3年)が、継続して4回戦レベルに進出するだけの地力をつけてきたことをまず良しとするほかはない。中井は強くなっている。世界選手権代表枠が「2」あることを幸い、今は国内トップランナーの中井の地力を上げつつ、次の世代の台頭をプロデュースしていくしか手はない。

90kg級から転向した春山友紀(国士舘大)が結局代表に手が届かなかったことでもわかるように、海外選手のレベルが高いこの階級に即刻結果を出すカンフル剤を打つことは難しい。川上智弘(國學院大)というホープや、中井とはまた毛色の違う変則ファイター北野裕一(同)らの若手有力選手はいるが、個人への集中投資だけではなく、身体的特徴、「体格」という殻に詰め込める要素に人種的ディスアドバンテージの濃いこの階級には長い目での強化が必要である。昨年、高校選手権個人戦5階級編成の際に敢えて全体のバランスを崩してこの階級を選んだのは高体連の81kg級に対する強化意図があったと伝え聞く。強化陣には人材台頭に頼る「待ち」の姿勢ではない、このような具体的な強化プロデュースを期待したい。

試合のほうは、キム・ジェブン(韓国)が2連覇。混戦が続いていた階級だが、五輪と3度の世界選手権で全てメダル獲得、後半2つを優勝したキムはどうやら明らかに一歩抜け出したようだ。この階級で続けて勝つのは容易ではなく、実力は本物。五輪の軸はまちがいなくこのキムになるだろう。

世界で一番損をする「日本の柔道愛好家」

今大会、世界中の柔道関係者で最も損をしているのは日本の「柔道大好き人間」たちである。柔道がもっとも市民権を持っている国のひとつである宗主国・日本の、それもコアなファン層が試合を全く見れていないのだ。

なにしろ放映権を持っている日本のTV局が確保した放映時間はこの日僅か55分。海外勢同士の決勝を放映しない、日本人選手の試合しか放映しないというここ数年来の姿勢はともかく、そもそもその日本人の試合すらまともに放映していないという、まことに悲しむべき事態となっている。73kg級世界王者の秋本啓之に新鋭の中矢力が挑んだ、しかも中矢が勝利したという注目の日本人対決ですらダイジェスト放送という姿勢にはテレビの前でズッコけたファンも多いのではないか。

競技人口と人気が右肩下がりのジリ貧にある今の状況では放送時間の短縮はいたしかたない(受け入れたくはないが)が、問題はそこではない。
放映権を売却している地域ということで、IJF(国際柔道連盟)が用意しているインターネットライブ中継、名物サイト「JudoTV」の日本からの視聴がブロックされていることだ。

普段、「グランプリ」「ワールドカップ」といったマイナーな国際大会でも必ず生中継を行ってくれるこのサイトはコアなファンにとって必要不可欠。冬季欧州国際大会などのハイシーズンには眠い目を擦ってPCの前に腰を据え、選手に声援を送るファンも多い。彼らが「なんで肝心の世界選手権で試合が一個も見れないの?」と憤るのも当然だ。見たいのは日本人選手の試合だけではない。放映されないことが問題なのではなく、付随して、本来用意されていたはずの「見る手段」を削ったことが問題なのだ。

アグベニューとファンエムデンの試合はいったいどうだったのか!? ワンキチュンの出来は、動きは、いったいどうだったのか!? ファンが言いたいことは一つ。「どうせ放映しないんだったら見せろ」という台詞に尽きる。
せめて放映カットが必須な予選ラウンドくらいはIPブロックを解除して本来の中継を見せてもらいたいものだ。

IJFの姿勢なのか、放映局の都合か、はたまた配信元のカナルプリュスの事情なのか、そんなことはファンにとってはどうでもいい。世界の中でも一番柔道がみたいはずの層である日本の愛好家に、試合を見る手段を与えないというこの姿勢は「柔道」というジャンル自体が提供するサービスとしていかがなものかということだ。コアなファンに優しくないジャンルには畢竟、マスな層もついてはこない。

「たいがいにしろよ!」と声があがるのも当然である。なぜか幣サイトにも抗議のメールが何本か来ています。そうなんです。私もそう思うんです。本当に困りましたね。

ジャンルとして提供する「サービス」のあり方。
是非関係各位に一考を促したいところである。

文責:古田英毅(eJudo)


※eJudo携帯版「e柔道」8月26日掲載記事より転載・編集しています。

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