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【eJudo's EYE】 世界選手権第2日・評

2011年8月27日

※eJudo携帯版「e柔道」8月25日掲載記事より転載・編集しています。

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【eJudo's EYE】 世界選手権第2日・評

■73㎏級
異次元の成長プロセス、中矢力の世界一がもたらすもの


73kg級では上り調子の中矢が見事優勝。09年世界ジュニア選手権に惨敗し、シニアレベルで活躍することは難しいと目された時期もあったことを思い返すに、その成長振りには関係者の感慨もひとしおだろう。
中矢の優勝は、通常の選手とは明らかに異なる成長プロセスを踏んできたという点で非常に面白く、また意義深いと見る。

柔道人の間には、柔道の強化プロセスはまず投技(立ち技)、然るのちに固技(寝技)という暗黙の了解がある。
ロジックゲームの要素が強い寝技はある程度「つぶしが利く」ものであり、一方、天分やセンスの成熟も含め高いレベルでの成立に時間が掛かる投技(立技)を後からつけ足すという考え方は、基本的には、ない。そして投技は少年期にその天分を磨くものであり、これを養い損なった場合に高いレベルで通用する技を見につけるのは難しい、いうこともまたほぼ共通の認識である。

ゆえに寝技に頼りすぎる傾向があった中矢が大学3年生にして「これからは投技もやっていく」と発言した際、当然のように「ナショナルレベルで活躍するのは難しいのではないか」「中矢は伸びないのではないか」という意見もあったわけだが、中矢はその後着実に技を見につけ、ついにまさにその投技の天才性で出世してきた秋本啓之という大物を世界の大舞台で投げ飛ばすに至った。

中矢が積み上げた「投技」は決して天才性を伴うものではない。ただし中矢には、寝技の強者が共通して持つ体幹の強さがあった。この日見せた大外刈もそうだが、中矢の技は逃げ場のない深み、ここに入られたらどうしようもないという位置に歩いて「踏み込んでしまう」ことで体幹の強さを生かすというものばかり。
そして寝技への自信が、縺れる展開への思い切りの良さも生んでいる。闇雲に頑張るのではなく、自身の持つ材料、現時点でできることをしっかり考えて努力した成果だろう。この日の決勝で見せた控えめなガッツポーズには「今出来ることを材料にすれば、こういう勝ち方になるのだな」とでも確認しているのではないかという冷静ささえ感じられた。

そして、あくまで頂点を目指す意識の高さ。とにかく寝技が得意な選手が競技成績的な壁にぶつかると、「投げ技がダメなら寝技」と寝技研究に偏向し、結果玄人好みの選手というステージにスライド、選手の王道から横滑りしていく傾向にある(個人的にはそういう選手も好みであるが)が、中矢は違った。得意のステージに逃げ込む、ストロングポイントを伸ばすだけでなく、例えそれが柔道界の常識から外れていても「トップに立つために足りないものを補う」という意識の高さがあったということだろう。
寝技が強い、体幹が強いと喧伝される中矢だが、実はこの「高い次元から自己を見つめる目」「自分の現在の実力を正当に評価して、現実的な策を考える頭脳」が最も大きな武器かもしれない。

何より、この「努力型」の中矢が世界の頂点にたどり着いたという事実は全国の柔道少年に大いに夢と希望を与えたのではないか。中矢は、才能が自身を世界の頂点までひきずっていく、才能に自身の運命がひきずられていくというタイプの競技者ではない。もし中矢が「自分は世界一になる」と信じ込めていなければこの日の戴冠はなかったはずだ。

そして、筆者自身も、あの世界ジュニア選手権奪取失敗後「中矢は伸びないのではないか」「いまから投技を伸ばすのは難しいのではないか」と危惧した一人である。不明を率直に詫びたい。

秋本の不調に危惧される「未知の領域」

不安視されていた秋本啓之は5位。
昨年の世界選手権後、特に今春の全日本選抜体重別で見せていた、まるで減量に苦しんでいるかのような「線の細さ」から今大会は難しいのではないかという観測があったが、それが不幸にも的中した形だ。

秋本は業師だがやはりその技を支えるベースは体幹の強さ。組み手で押し込んでおいてこそその技の切れが生きるはずなのだが、若手を相手にしのぎながら、いなしながら一発を狙うという4月の戦いぶりは有体に言って「疲れている」ように見受けられた。

まさか66kg級から上げたばかりの秋本が減量に苦しんでいるというわけではないだろうが、ひとつ可能性があるのは、2年間一線で戦ってきた選手たちを「勤続疲労」が襲いつつあるのではないかということだ。ワールドランキング制度、ワールドツアーシリーズが始まって2年が経ち、制度開設時から一線に経ち続けている選手は史上検証されたことない、未知のステージにいると言って良い。最悪の場合、ロンドンまでの一年間で国内のトップ選手がガラリと入れ替わるという事態すらありうるのではないか。「途中参戦」の中矢力の元気の良い試合ぶりと相まって、これは大会終了までに見極めなければならない大きなテーマだろう。

■57㎏級
銅メダルから金メダルへ、佐藤愛子が上積みしたもの


57kg級、佐藤愛子の戴冠にはひたすら拍手を送りたい。
かつて銅メダルがまさに「目一杯」だった観のある佐藤が何を上積みして頂点に立つに至ったか。この日の試合を見る限り技術的に爆発的な上積みがあったわけではなく、間違いなくこの勝利を支えていたのは精神面での成長である。

かつての佐藤は威力のある担ぎ技を持つ一方、手詰まりになると弱気になり、掛け潰れが増えて自滅するという、ある意味典型的な「女子選手」でもあった。それがこの日はとにかく落ち着いていた。彼我の戦力差、体格的特徴と試合の状況、組み手の手順と有効な技、と淡々と試合の推移を見つめて的確に技を繰り出し続けた印象。潰れること自体が目的の掛けつぶれなど一つもなかったのではないか。

その精神面の成長を促したのは、間違いなく2年に渡って佐藤を表舞台から消し去ることになった右膝前十字靭帯断裂の大怪我だろう。順風満帆に競技成績を残し続けたものだけが強いわけではない、選手は試合だけで成長するわけではない、畳の上だけで成長するわけではない。帰ってきた佐藤の、まるで畳の外から自分の試合を見つめるような落ち着きぶりには強くこれを感じざるを得ない。あまりにも見事な復活劇だった。

そして、佐藤が出現した07年リオ世界選手権時、日本の57kg級は弱かった。
このレベルを一気に押し上げたのは松本薫(フォーリーフジャパン)の出現であることは論を待たないし、復帰するためには松本に勝たねばならないとの思いが佐藤を「金」のレベルまで引き上げたであろうこともまた想像に難くない。世界王者の誇りを持って、松本の奮起に期待したい。

■52㎏級
中村美里が見せた凄み。引き出しの多さ、幅の広さ


52kg級、西田優香(コマツ)と中村美里(三井住友海上)の試合も非常に見ごたえのある試合だった。

序盤戦は西田が中村の釣り手を絞って攻撃を封殺、両袖の組み手から背負投を仕掛け続けて「指導1」を奪取。
昨年、形としては勝ったことでやや忘れられている感があるが、昨年の対戦でも組み手は中村にイニシアチブがあり、先んじて座り込みの背負投を仕掛ける西田は実は受け身、不利に回っていた。それが中村を押し込めるだけの地力がついたということであり、ここまでの展開は「西田が強くなった」と言えるものだった。

ところがここから中村が実力を発揮。明らかに組み手の手順を変えて西田を翻弄した。
中村の凄みは、単に手順を「変える」のではなくバリエーションを駆使したところ。もし単に「やり方を変える」だけであれば西田も対処のしようがあったであろうが「引き手側の袖から得て肘を織り込む」「奥襟を叩く」「釣り手から持って振る」といくつかのパターンを繰り出して西田に的を絞らせなかった。そしてこの組み手が単に「持つため」ではなくそこから自身有利の展開、具体的な技につながるところがまた中村らしい。一手目を許すことがイコール技を受けることになった西田はプラン崩壊。以降攻めっぱなしの「指導2」奪取劇はまさに中村の真骨頂だ。

そして今回の中村の勝ちあがりで特筆すべきは前技での勝利が増えたこと。得意の小外刈の威力が知れ渡り、足技が警戒される中でこれをうまくブラフに使って勝利したということであり、間違いなく柔道に幅が出てきている。まだまだ切れ味鋭い、とまではいかないようだが、準決勝、中村の足技に反応、これを切り返そうとカラスコサ(スペイン)が片足を上げたところを体落に仕留めて見せたあたりはまさに意図通りというところだろう。

掛け数に逃げる相手に、「誰から見てもわかる形」で勝利をあげること、足技を警戒する相手にも取りこぼしをなくすこと。中村はキッチリ宿題を果たして優勝、ロンドン五輪に向けまことに大きな1日だった。

最後に、地元フランス勢について。
「日本がアウェーでここまでやれるとは」という嬉しい誤算以上に、気になるのは柔道王国・地元フランスの不振ぶり。男女とも軽量級は人材不足とはいえ、代表2人を送り込める世界選手権において6階級終了時点で銅メダル1個という事態には敵ながら「こんなに勝てなくて大丈夫なの?」と思わず心配になってしまう。3日目以降、特に女子に人材が揃うフランス勢の躍進にもまた期待したい。

文責:古田英毅(eJudo)


※eJudo携帯版「e柔道」8月25日掲載記事より転載・編集しています。

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